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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」33 以前と違う日常に戻る

その夜のうちにカレナードは新参訓練生棟へ戻った。点呼をとうに過ぎていたが、V班は彼を抱擁して迎えた。
一切を喋らないという誓いはほんの少し破られた。
「玄街間諜容疑はなくなったんだ。ただ…」
皆は「ただ、何だい。」と聞き返した。
「僕の母は玄街ヴィザーツだったかもしれない…」
ミシコは「ショックだったのか」と訊いた。カレナードは小さく頷いた。
V班の部屋にいると、女王の身代わりでいた時のように常に頭を上げている必要はなかった。ここでは本来のカレナードでいられるのだと思うと、素直に頷けた。
キリアンが出生の秘密を持つ者同士の目をして言った。
「ヴィザーツに生まれたからヴィザーツになるんじゃない。ヴィザーツとして生きようとするからヴィザーツになるんだ。
少なくとも僕は今はそう思っている」
「うはっ!言うねえ、キリアン・レー!」
「ふふん。シャル、君はどうなんだい」
キリアンが鼻高々に言い返し、カレナードは笑った。それから、もう寝ようと言って、解除コードで一気に実習服を脱いだ。レースの付いた下着が現れて皆が驚いたが、彼らは何も問わずそれぞれの寝床に戻った。
カレナードはうっかり着て帰ったそれをトランクにしまい込んで二度と袖を通さなかった。
彼はマリラに扮した4日間もどこかにしまい込みたかった。最後にあのようなマリラに会わなければ、気分はいくらか楽だったのだが、それはかなわないことだった。
彼は石像のような冷たさが女王に戻って来たことを思うと、心が痛んだ。
それは生き脱ぎで消え去ったと思われたが、再びあの冷酷なまなざしを向けられるのが辛いのだった。そして、彼はマリラ本人もそれに苦しんでいる事を知らないでいた。
レポートの締切りはすぐに来た。
代筆の分も書きあげて、カレナードはコードの補習に取り組んだ。
新参訓練生は彼が情報部区画から無事に戻ってはきたものの、細く剃られた眉について、なにか拷問のたぐいを受けたに違いないと噂した。
数日後、マイヨールがレポートの件でミシコとカレナードを呼び出した。
マイヨールのサロンはシェナンディ家の図書室と同じ匂いがした。カレナードは懐かしいフロリヤを思い出した。
「お互いに書けない内容のものを書く課題でしたが、あなた達は今回も打ち合わせをしましたか」
ミシコは特に繕うこともなく言った。
「そのことですが、先生。
僕達は同じテーマを違う立場から検討し、同じ結論のものを提出したようです。
ここに来る途中、カレナードと話していて初めて分かったのです」
歴史教師はバツの悪そうな2人の様子をよく見てから微笑んだ。それは歴史学者というより母親を思わせた。
「こんなおもしろい偶然はめったにないわよ。
オルシニバレ市の助産所の成立過程と誕生呪が起動コードであることをヴィザーツとアナザーアメリカンの両側から論じたレポートを同室の友人同士が書くなんて。
帰っていいわ。
そこのところを確かめたかっただけですから」
拍子抜けしたミシコだが、すぐに喜色満面で席を立った。カレナードは改めて質問したいことがあると言って残った。
ミシコがサロンを出ると、一息おいてから歴史教師に問いかけた。
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