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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」24 狙撃者

それはパレードが始まって80分後だった。観覧席の一画でちょっとした騒ぎがあった。偽マリラはさっと視線を走らせた。斜め向かい側の観覧席で、ガーランド警備隊の制服が素早い動きをしたかと思うと、1人の女を取り押さえて囲み、すぐに消えた。ちょうど山車の上では賑やかなお囃子が始まって、山車の端に並んだ踊り子たちが愛嬌たっぷりに大きな扇子を回した。観衆は寸劇のような捕りものを忘れた。
カレナードは臨席の市長に扇子の踊りを褒め称えた。さり気なく向かいの観覧席を見ると、いつの間に行ったのかトペンプーラがこちらを見ていた。そして右手を頬に当て、左手で右の肘を支えていた。
「危険は去った」という合図だ。
あっ気なく玄街の狙撃者は捕まった。
パレードは続き、女王は最後の山車まで見届けて大観衆にこの日の労をねぎらった。市民の拍手と共に退席し、飛行艇が離陸した時は午後4時を回っていた。
アライアは「お見事です、いい話がたくさん聞けましたわ」と言い、防弾マントの留め金を外した。ベルがマントを受け取ると、足元でカチリと音がした。銃弾が二つ転がり落ちた。ベルは急いでハンカチを出し、それらを包むように拾った。
「口径の小さな…短銃用の弾丸です。マントを調べますわ」
果たしてマントの正面左脚のあたりに小さな窪みが見つかった。カレナードは汗が胸の谷間をドッと流れていくのを感じた。
「僕は…撃たれていたのですね…」
ベルが小声で叱った。
「まだ女王のままでいてください。ガーランドに戻っても、トペンプーラがいいと言うまで役目を果たすのです」
カレナードは女王区画の小部屋に戻るまで汗まみれで、マリラでい続けた。そのあともカツラを取ることは許されなかった。
アライアが化粧を直し、部屋着のドレスに衣装替えをしながら、観覧席での話で得た情報をカレナードに確認し、ベルが隣で書きつけた。
「トペンプーラの報告はまだかしら。そろそろマリラさまの休息時間が終わる頃だわ」
ベルは完全に軍人の顔になっていた。
カレナードは緊張が一気に解けないように、注意深く椅子にもたれた。
「捕まった玄街ヴィザーツのことは僕にも教えてください」
アライアはその可能性は低いと答えた。
「情報部は余計なことは漏らさないわ。今回の作戦だって極秘なのよ。あなたは一切喋らないって宣誓したでしょう、トペンプーラに」
「落ち着かないのです、アライアさん」
「知らない方が好いことだってあるのよ、紋章人さん」
「僕はガーランドに来てから、いろいろと知ってしまいましたよ」
ベルが口を挟んだ。
「カレナード、『毒を食らわば皿までも』を簡単に考えないで。半人前のヴィザーツには危険なことだわ。これを飲んで大人しくしていて」
彼女はお茶とベーコンとソバ粉のクレープが載った盆を少年の前にガチャリと置いた。ちょうどガーランドがポルトバスク市を出航する時刻になり、盆の上の茶碗に微かな波紋が揺れた。カレナードは疲れを感じ、盆に載せられたものを全部平らげるといつの間にか眠った。
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