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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」22 青い夜明けに

ミンシャはマルゴに毅然と言った。
「彼女を悲しませないで下さい」
情報部の女は彼女の言葉に目もくれなかった。そして、自分に出来る事は何もないと言った。少年と少女達はそれ以上そこにいても無駄と知って、席を立った。
訓練生棟への帰り道、マルゴの態度にミンシャはぷりぷりと怒り、ハーリはマルゴの弁護役に回っていた。
「姉さんは悪気はないんだ、いつも誰に対してもああなのさ。僕はヴィザーツ屋敷をたらい回しにされて育ったんだ。親なしっ子だったからね。
マルゴ姉さんだけは良くしてくれたんだ。僕が十ヶ月訓練生じゃなくて、新参でガーランドに乗れるよう励ましてくれた。
本当に悪い人じゃないんだから」
マヤルカは軽くからかうつもりだった。
「なるほどね。ハーリにとっては『年上の人』ってわけね」
ハーリの顔に急に男らしくも青臭いはにかみが浮かんだ。ミンシャはその反応を見て「藪蛇」と独り言を言い、肩をすくめた。
調停開始式の3日目が来た。
夜明けの青い暗がりの中でカレナードは目覚めた。彼はトペンプーラに連行されてきた部屋で寝起きしていて、小さな窓から夜明け前の空気を吸った。川の匂いがした。
「パレードで撃たれるかな。玄街が僕を狙ってくれた方が捕まえやすいだろうけど…。大丈夫、情報部が命を守ってくれる」
彼は昨日見たマジックミラーの向こうのマリラを真似た。
「避けては通れぬ道ならば、行くまでのこと」
明けていく光が空の高い所にある雲を照らし始めた。カレナードはマリラの言葉を繰り返すうちに、彼女のイメージに自分を明け渡していた。
それを別の場所からもう1人のカレナードが見ているのが分かった。その彼は細いが強力な手綱で、マリラのイメージを演じる自分を律していた。
彼は唐突に気づいた。アナザーアメリカンと多くのヴィザーツはガーランドの女王としてだけのマリラを求めているのだ。
カレナード自身も、ガーランドに乗るまではそうだった。だが、彼女が彼に見せた姿はいずれも求められる女王から遠く離れたものだった。その距離が彼を苦しめていたことを、ようやく認めた。
平原の彼方から日が昇り始めた。彼は光を浴びた。マリラが着るはずだった寝間着とガウンに身を包まれていることに不思議な安らぎを感じた。
大きく伸びをして、姿見の前に立った。女官達に細く整えられた眉がいつもより高い所にあり、顎を上げてこちらを見ている女はカレナードの形をしていても、すぐマリラの表情になれるのだ。
ただ、その女王を演じても、彼女の私人の部分がすっぽり抜け落ちていることに、彼はまだ気づいていなかった。
艦長と参謀室長と情報部長が企み、女官長が賛同した作戦は半ばにさしかかっていた。
この日、マリラは朝の謁見とコード解析部門のヴィザーツと研修会をこなした後は、半日の休養に当てていた。
ジーナ女官長はマリラから目を離さずに重要な1日を過ごす覚悟だった。
予定はマリラの知らない所で順調に進んでいた。
正午にアライアとベルが付き添って、偽の女王がガーランドを出発する手配が出来ていた。艦長の計らいで第1甲板に特別に用意された大型飛行艇が発進した。
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