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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」18 女王修業

カレナードはその日からマリラの衣装を着た。靴や装身具はおろか、下着さえも女王のものを身につけた。衣装係筆頭のアライアは見事な刺繍で飾ったペチコートを差し出しながら、言った。
「安心して。ここにあるのは使ってないものばかりよ。たぶん100年ほど前のものね」
それらは、かつてフロリヤが着せたドレスよりはるかに手触りの良い布と上等のレースだった。
アライアはパレード臨席用のドレスをカレナードにはおらせて、直す部分にピンを打った。
「よかった。あなた、マリラさまより細いわね。直すのは袖丈くらいよ。胸には防弾を兼ねて詰め物を入れるわ」
「アライアさん、僕の目の色はどう隠すのです。こればかりは…」
「考えてありますよ。あなたの命を守るための仕掛けもね」
女官長控室と隠し通路を通って、マリラの執務室を覗ける小窓があった。マジックミラーだった。彼はそこからマリラの姿を見て学ぶことになった。
ベル・チャンダルが「音を立てないでね」と注意した。
カレナードは懸命に女王の動きを追い、時には静かに再現してみた。ジーナとベルとアライアはかわるがわるマリラの仕草を細かく教え、女官長控室の大鏡の前で繰り返し練習させた。
調停開始式の1日目は何事もなく、マリラはガーランドを降りて無事に行事をこなしていた。その隙にトペンプーラが訓練の進み具合をこっそり見に来た。
カレナードはカツラを付けて、さらに大きなヘッドドレスを被っていた。ヘッドドレスから彼の目と同じ色の紗のリボンが顔の上半分に垂れて、マリラと同じ灰色の目に見えた。リボンには硬質化コードを施されていて、防弾仕様になっていた。
「なかなか好い感じデスね。お目にかかり、光栄でございます。女王陛下」
ところが、カレナードはそれが自分にかけられた言葉だと気づくのに間がありすぎた。彼は慌てて背筋を伸ばし、トペンプーラに向かって頷いてみせた。
ジーナが「遅い!」と叱った。ジーナは腕組みをし、情報部の男に険しい視線を送った。
「ご覧のとおり、見た目はどうにかなっていますわ。パレードの貴賓席に座っていれば、遠目にはマリラさまだと大勢が騙されるでしょう。
でも、騙されない人もいますわ。この子に女王のオーラを醸せと注文して出せるものならいいのですが、副長殿」
トペンプーラはしげしげと女王の代役を眺めた。
「カレナード・レブラント、君は今、誰なのですか」
「わ…わたくしは、女王マリラ…です」
「あのネ、女王はそんな弱腰ではないのですよ。女官長殿が心配するわけが分かりました。
レブラント君、いや、レブラント嬢。あなたは女王を演じるのです。ただ衣装を着て仕草を似せているだけでは、確実にバレます。そうなったら、ポルトバスク市とブルネスカ領国民はガーランドに不信感を抱くでしょう。
君は女王になりきらねばなりません。己をお捨てなさい。身も心もマリラになるのです。君が抱いている女王のイメージを演じなさい」
カレナードは探るようにトペンプーラの言葉を繰り返した。
「マリラさまを演じる…のですか」
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