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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」11 すべて忘れて踊りたい

ミシコとキリアンは高官の迫力に圧倒されまいと、カレナードの両脇で敬礼を返した。ヤルヴィが後ろの方からおずおずと顔を出した。
「あれ、コブシとコブシで分かり合うって仲なの。すごかったな」
キリアンは「大人の世界はいろいろ大変なのさ」と言った。
カレナードはトペンプーラの投げキッスに厭らしさを微塵もないのが嬉しかったが、艦長がかまいたくなるような部分が自分のどこにあるのだろうと思った。ただでさえ、週末ごとのリリィ・ティンの診察にはひどく落ち込んでいた。彼女は全力で彼の背中の傷を治したが、互いに心を開いているわけではなかった。
気の重い週末が目の前に来ていたが、それを忘れることにした。
診察が終われば、その夜は訓練生だけのダンス・パーティがあるのだ。新参訓練生達は、舎監と教官の目を逃れられる時間を楽しみにしていた。ミシコは早々とミンシャを誘っていたし、アレクもオーレリを追いかけて射撃練習場から出て行った。
カレナードはトペンプーラとワイズ・フールの方を振り返った。
「何かあるんだ」
彼は連れだって教官控室に入った2人の姿に暗いものを感じた。
次の日の夕刻、ブルネスカ領国は目の前だった。西から嵐が近づいていた。
夜のダンス・パーティで、カレナードは全てを忘れようと踊った。自分の体のこともリリィの辛い診察も大人達の隠された事情も、それから全く音沙汰のなくなったマリラのことも、彼は全てを忘れたかった。
マヤルカとは5曲、ララとルルと2曲ずつ、アラートと、それから初めて言葉を交わした数人の十ヶ月訓練生と。さらに大人びた三年訓練生と。幸いなことに男子訓練生から誘われることはなかった。
服は兵站部で定期的に行われるフリーマーケットで手に入れた。レポート10枚を代筆する条件で、十ヶ月訓練生の1人からオーソドックスな上着を譲ってもらった。
ヤルヴィがフィドルを手にバンドに加わっていた。
「僕は10歳になったら、誘いもするし誘われもするから!」
最年少の彼は年上ばかりのダンス・パーティに彼なりの方法で参加し「最後まで弾き抜いて、それまでバカにした奴らの鼻をあかしてやるんだ」と息巻いた。
その隣でハーリが大型チェンバロを受け持っていた。
午後の11時過ぎ、ミシコがミンシャを演奏ボックス脇に連れて来て座らせた。彼はミンシャの靴を脱がせようと身をかがめた。その時、バンドの中にハーリの親戚だというあの女を見つけた。ヤルヴィの隣で物憂げにフィドルを弾いていた。
ヤルヴィは次の曲は手が開いているらしく、ボックス脇へ休憩に来た。ミシコは素早く聞いた。
「隣のお姉さんは誰なんだい。ほら、あの濃い茶色の髪の」
「マルゴさんだよ、マルゴ・アングレー。ハーリの親戚だって。彼のお母さんの従姉の旦那さんの妹の娘」
「なんてまた遠い親戚だ。彼女は訓練生にしては歳くってないかい」
「マルゴさんは情報部勤務だよ。今晩はバンドの助っ人なんだ」
そこへカレナードが倒れるように転がり込んだ。
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