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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」10 男の果し合い

エンゾ・ボンゾ教官の体術訓練が終わる頃、訓練生には見慣れない武官が現れた。ジルー・トペンプーラである。制服の階級章から正確に彼が何者か知る訓練生は少なかった。ただ、相当の高官であるという見当だけが飛び交った。
エンゾは猫をかぶって、ジルーに丁寧なお辞儀を返した。訓練生に向かい「各自解散」と叫んだ。それからジルーに向き直った。
「御用向きを聞きましょうか、女王陛下の腰ぎんちゃく殿」
「はなからケンカ腰ですねェ、ボンゾ教官」
「もとを正せば、小生が命を受けるのは女王さまだけからという取り決めですよ。 なのに情報部のあなたがおでましとは、随分ではありませんか」
「ワイズなあなたなら、ワタクシが伝えに来た意味はおわかりでしょう」
「それを言うなよ、ワイズとか何とか。このカマ野郎、殴るぞ」
「どうしても、あなたの協力が必要なのですよ。エンゾ・ボンゾ。でも、話の前に一戦交えたいようですネ」
そのやり取りを漏れ聞いた訓練生達は、危険から逃げる者と興味津津で残る者に分かれた。女子Y班ではミンシャとマヤルカとオーレリが残っていた。彼女達はトペンプーラの外見に似合わぬ豪胆さを感じ取った。それで残っているのだ。
トペンプーラは仕方ないといった様子でもなく上着を脱ぎ、男子V班の方へ投げた。
「君達、ちょっとの間、預かっててネ」
トペンプーラは呼吸を整えると、膝を緩めて立ち、背筋を伸ばした。エンゾはいったん顎を上げてから、ゆっくりと引いた。ほんの少し腰を落とした。立ち姿だけで、両者が格闘術の達人だと分かった。
カレナードはトペンプーラの上着を折りたたもうとしていたが、間合いを計る2人の動きから目を離せなかった。女王の道化であるエンゾは本当のところ、何者なのか。1ヶ月前に見せたエンゾの恐ろしい目を、彼は忘れていなかった。
エンゾが先制攻撃をかけた。
トペンプーラは猫のような足取りでそれをかわし、エンゾの腰めがけて蹴りを繰り出した。彼の上体は全くぶれずに、いくらでも体勢を立て直すことが出来た。
エンゾも同様で、2人の実力は伯仲していた。
彼らが場所を変えるたびに訓練生の輪が大急ぎで移動した。
「相変わらず、やるではありませんか。ゆで卵のくせに」
「それはこちらのセリフですよ、ワイズ・エンゾ」
トペンプーラの細い目が嘲笑っているように見えて、エンゾは途端に息が乱れた。
「余裕かましやがって。情報部め」
「熱くなっちゃ駄目でしょ」
トペンプーラの鋭い速攻がまともにエンゾの首筋に入った。小柄な教官はげほっと咳き込んで、降参の合図を出した。トペンプーラは訓練生の手前、それ以上エンゾに恥をかかせるようなことをせず、「ワタクシからのお願い、きいてくださいネ」といつもの口調に戻って言った。
「はい、訓練生は解散!ここから先は大人の時間ですよぉ。ああ、君、ありがとさん」
トペンプーラはカレナードの腕から上着を取ったが、少年の左手の刺青に気付いた。
「あはーん、艦長が言っていたのは君か。なるほど、かまいたくなるわネ」
彼は投げキスを寄こし、エンゾと話すために踵を返した。
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