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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」9 ハーリの立体模型

新参訓練生は午後の実習で、サージ・ウォールのデータを持ち帰ったナノマシンと悪戦苦闘していた。それは五の月の上旬まで続く予定だった。
シャルの愚痴の対象はレポートからこの作業へと移っていた。
「これは女子の仕事だよ。ああ、もう、チマチマやってられねぇ」
T班のハーリ・ソルゼニンが声をかけた。
「がんばれ、唯美主義者」
最近は班を越えた共同作業が当たり前になっていた。
ハーリが虹色に輝くナノマシンの詰まった容器を作業台に並べ、細い管で繋いでいった。シャルはうめいた。
「ハーリ、お前がうらやましい。俺はルーチンワークに向いてないんだ」
「そう決めつけるのは早いよ。僕はこのデータ収集はルーチンワークと思ってないから」
カレナードは記録用紙を整えながら、ハーリの言い分を聞いていた。
「このデータは興味深いよ。サージ・ウォールの傍まで飛行艇で飛べるかもしれない」
甲板材料部の多々ある作業室はどれも広く機能的だった。その一画でハーリはあるものを作っていた。それは甲板材料部から資材の切れ端を貰って組み上げた立体模型で、実習で拾ったデータを元にサージ・ウォールとその周辺の気流を再現していた。50000分の1のスケールで再現された上昇気流は塊りごとに色分けしてあり、ところどころにデータを書き込んであった。
ハーリは言った。
「僕は不思議だったんだ。なぜ誰もこういうものを作らないのか。これまでのデータはみんな平面的な解析に終始しているのか。シャル、サージ・ウォールは美しいと思わないかい」
「…さすがにあれはなァ…。人を寄せ付けない怖さはあるけどさ、美しさは…どうかねぇ」
カレナードはハーリの気持ちが少し分かるような気がした。
彼の育ったオスティアの海岸には遥か洋上のサージ・ウォールから常に荒波が押し寄せるのだ。彼は自分を取り巻く環境の不思議に耳を傾けてきたのだ。
ハーリは解析作業の用意が整うと、容器のコックを捻り、繋いだ管の中へナノマシンを流した。
流れ出た分だけのナノマシンに復元コードを唱えてから、次の記録用容器に流し込むとそれらはかつてサージ・ウォールの周りを飛んだコースを再現した。
V班とT班は大急ぎで正確にコースを読んで、記録用紙にデータを取らねばならなかった。
キリアンが目をしばたかせて、頼んだ。
「ハーリ、再現速度をもう少し遅く出来ないかな。軌跡が多すぎて大変だ」
「やってみるよ」
ハーリはコードを唱えるのが新参の中では一番巧みだった。声質が豊かでどんなに小さな声で唱えてもはっきりと通るため、コードの効力は外れがない。本人も将来はコード開発技術部に入るのだと早くも決めているようだった。
春らしくなった四の月、毎日午後の2時間はこの作業に当てられ、そのあとで船のメンテナンスや射撃や様々な訓練が待っていた。ある日、その合間に珍事があった。
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