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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」3 図書館のミーナ・クミホ

マヤルカは姉が送ってくれた手作りの飴を取り出した。
「これ、皆さんでどうぞ。姉の得意な花梨とレモンの飴よ」
シャルがついでに頼みがあるんだけど、と切り出した。
「マヤルカお得意の基礎病理学、レポート助けてよ。お願い、お姉さま!」
「いいけど。服を着てからにしてくれないかしら」
シャルはパンツ一枚履いたところだった。
フロリヤはカレナードに宛てて、アナザーアメリカンが力になれることがあればいつでも頼って欲しい、と書いてよこした。
たとえヴィザーツになってもシェナンディ家との縁は切れないわよ、ということだった。
彼は嬉しかった。
そういえば、フロリヤが渡してくれた父の手帳は鍵の錆を落とす暇もなく、しまい込んでいるのを思い出した。清拭コードを使いながら錆を取り除きたかったが、今は暇がなかった。
「どこかで時間を作らなきゃ。ああ、フロリヤさんに返事も書かなきゃ」
彼は紙挟みから1枚引き抜いて、風呂の後で手紙が書けるよう用意した。
それから、さっさと髪をほどいて洗えるようにした。
「切ってしまいたいけど、ジーナさんはそのままにしておけって…これも紋章人の務めなのかな。とっくの昔にカツラになってたはずなのにな」
髪は肩甲骨の下まで伸びていた。
夕食前にアレクと図書館まで散歩に行った。ガーランドの天蓋の向こう、大陸の空に遠い稲妻が見えた。アレクが懐かしさの混じった口調で言った。
「このへんは春先から夏までよく嵐に悩まされるんだ。海から入り込む湿った風と北からの冷たい空気のおかげだ。でも麦は強い。芋も強い」
「君はブルネスカのどこで育ったんだい」
「ポルトバスクの北の方だ。ニオララの町だ。あのへんに行くと、十数kmも町がないのが当たり前で、助産所はいつも出産前の女たちでいっぱいだし、緊急で誕生呪を授けに行くために飛行艇は24時間待機している。さえぎるもののない地平線…よく飛んだよ」
「飛行艇演習で酔ってなかったかい、アレク」
「ここの飛び方はまるで曲芸だ。もう慣れたけどな」
麦は強い。芋も強い。そして、人も強い、とカレナードは思った。
図書館は遅くまで開いていた。
館長は先日急病で不在になり、2人の司書がなんとか切り盛りしていた。今はミーナ・クミホが1人で痛んだ本の修復をしながら、業務をこなしている。アレクはミーナが1冊の本に固定コードをかけ、修復室から出てくるまで待った。それから次の本を借りる手続きをした。
ミーナは淡々と応じていた。黒髪を顎の線にあわせてばっさり切り、細面の中に黒い眉と瞳が静かに漂っているような彼女は、軍人に見えない。
ミーナはついでに伝言を頼んだ。
「キリアン・レーに早く返却するよう伝えてください。12冊が延滞中です」
カレナードはミーナの眼の奥から射るような何かを感じ、彼女を見返した。
「あの、何か。ミーナさん」
ミーナはあいかわらず淡々と答えた。
「知っている人にあなたが似てたものですから、つい…。気に障りましたか」
懐かしがっているようでもなかった。不思議な感じだった。
「いえ。僕に似ている人って、誰です」
「ずっと前に、私にコードを教えてくれた女性。悪いわね、女の人に似てるなんて言って」
カレナードは軽く会釈して、アレクと出口へ向かった。その後ろ姿をミーナはまだ見ていた。
「あの子、カレワランにそっくり…」
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