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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第4章「春の嵐」

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第4章「春の嵐」1 マイヨール教授

センキッタ南方洋上に出ていた浮き船は、再び陸地を目指した。
冬の間をほとんどアナザーアメリカ東部巡航に費やしたガーランドの進路は、ミセンキッタの西、乾燥した平原と台地に向かっていた。目的地は強風で名高い内陸のブルネスカ領国首都、ポルトバスク市だった。調停完了祭を行うのだ。
新参訓練生の慣らし期間は終わっていた。
先日の艦砲射撃のあとで再開した講義は格段にレベルアップを始めた。ここで付いていく気がない生徒はやがて十ヶ月訓練生と共に秋に船を降りるか、留年することになる。
それに関する教官達からの警告は簡潔だった。ヴィザーツ歴史学担当のマイヨール・ポナ女史は「大切なことですから、2回言いましたよ」と、涼しい顔でそれを終わらせた。彼女の授業は、ヴィザーツ屋敷のスコラで幅広い思考力を身につけていると前提して行われた。小試験を抜き打ちで行い、普段は歴史的考察とそれに関する討論という形の講義をした。
「だからさ、なんで出身領国の歴史上の事件をレポート用紙10枚に書く必要があるわけ」
シャルの愚痴に付き合っていると時間の余裕がなくなるのを分かっていたので、V班のメンバーは誰も彼の相手にならなかった。
「俺の故郷なんて平穏無事な歴史しかないマラバルなんだぞ。おまけに俺が住んだヴィザーツ屋敷はくそ田舎ばかりなんだ。ヴィザーツ転勤族の身にもなってくれ。シャドルーにハッシーにノインラウだ。どうしてくれるんだ」
アレクが振り返った。
「シャル、お前の得意な唯美主義とやらでマラバル領国の暗黒美術史でも語ってみろよ。アレ自体が歴史的事件だぞ。背景になった社会情勢とかいろいろあるだろ。いきなりあんな潮流が出てくるわけないからさ」
「お…おおお!そうか、なるほど、俺はそっちの方まで頭が回らなかったぜ。ありがとさん、アレク。で、そういうお前は何を書いてるんだ」
「ブルネスカ領国竜巻被害史」
アレクはそれきり黙ってレポートに集中した。
ヤルヴィは北メイス領国成立物語を懸命に書いていた。
キリアンは机に山のように本を積み上げ、バリケードを築いていた。
ミシコは図書館へ行くため、上着を着た。カレナードも調べたいことがあると言って、一緒に出かけた。
「カレナードは何を書いてるんだ」
「オルシニバレ市の領国首都選定事件だ」
「なんだぁ、僕もだよ」
カレナードは歴史学教師のすっきりした顔立ちを思い出して言った。
「マイヨール先生が君と僕のレポートを比較討論のまな板にのせるかな」
「多分な。対策を考えておこう。視点の違いをはっきりさせておくんだ。カレナードが経済的な背景を書くなら、僕は西方とマルバラ緩衝地帯とのパワーバランスを重点にするよ」
「あ、その両方を盛り込もうと考えてたんだ。」
「やられたな。じゃ、その2点はそっちに譲るとして、僕はメイス諸領国の勃興と東オルシニバレ山脈横断道路の地勢的影響を詳しくやるからさ。少し時代をずらしておこうぜ」
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