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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」25 テネ城市上空

艦長の指示した時間が迫っていた。
見るからに年季が入った古参訓練生と分かる強面が教官代わりに最後の注意をしていた。
「よく聞け!加速が始まったら腹に力入れとけ。踏ん張ってないと後ろの壁まで転がるぞ。
トイレに行きたい奴は3分で行っとけ。ションベンちびった奴はあとで晒し者だ!」
アレクがぼそっと突っ込んだ。
「あいつ、オムツしてんじゃないのか」
キリアンは必死で笑いをこらえた。
5分後、全員が床に取り付けられた補助ベルトを確認したとたんに艦長の合図があった。訓練開始の時が来た。ガーランドは生き脱ぎの夜以上に揺れた。
先に出航したトール・スピリッツと飛行艇のパイロット達は壮観な眺めを見ることが出来た。。
ピード・パスリはトール・スピリッツのローズ・ワンから、分離形態に移るガーランドをチェックしていた。
「第3層、各艦エンジン臨界まで1分…第1層はまだだ。
司令管制室、北から寒冷前線が降りてくるぞ。約15分で到達の見込みだ。
女王区画はここからは見えない。後方の飛行艇ナンバー・四八に聞いてくれ。トールのローズ・スリー、左舷前方はどうだ」
彼は連絡を取りながら、巨大な浮き船の繋ぎ目から微弱電流が放出されるさまを誇らしく思った。
母艦となる第2層は先にエンジン臨界に達し、最大戦速へと加速を始めた
新参訓練生達は各自の背嚢をクッション代わりに床に押し付け、補助ベルトに助けられて増えていく重力に耐えていた。退避室からは外の様子がほとんど分からなかった。音と加速度で母艦の状況を把握しなくてはならなかった。やがて順調なエンジンの振動に誰もがホッとした。
強面の古参訓練生は全然平気な様子で、どうだと言わんばかりの先輩面になっていた。
加速が緩やかになる頃、キリアンは背後のカレナードを気遣った。
「気分はどうだい」
「最高だな」
ミシコがやや青い顔でぼやいた。
「少しは加速酔いの辛さを分かれよ、最強コンビめ」
ミンシャが近くにいるのでそれ以上弱みを見せない彼の恋心を知ってか知らずか、最強コンビは彼を見て、ニヤッと笑った。
訓練は予定より10分遅れて進んでいった。
母艦はトール・スピリッツ5機を先頭に正午にテネ城市上空を通過した。
高度は下がって500mの低空飛行だったので、テネの人々は非常に驚いた。
窓ガラスはビリビリ震え、今にも割れるかと思われた。空をつんざく轟音は人々の腹の底まで届いた。心臓や神経が弱っている者は苦痛を感じるほどだった。
ガーランドのこのような行動は人々にとって、玄街への警戒を喚起するものだった。
ミセンキッタの首都が春先に受け取ったメッセージは、危険な季節の到来を意味していた。領国主のララークノ家は当主を亡くし、お家騒動のただなかにあった。政府と家臣達がうまくこの危機を納めなければ、玄街に付け入られる可能性があるのだぞ、と女王は示したのだった。
ガーランドはアナザーアメリカを統治する権限を持たなかったが、玄街に関してだけは特別だった。もっとも、警告以上の干渉はしないのが、ガーランドと各領国の不文律だった。
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