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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」20 轟く波動の夜

甲板や滑走路の表面からも古いナノスキンが浮き上がった。
船体は轟音を絶え間なく発していた。男子新参達が苦労して船内から掻き出した残滓が排出管に向かう音が重なった。それは万華鏡の中の紙や金属片が揺すられる音に似ていた。
突然カレナードが苦しみ始めた。
「胸が…痛い!」
マハは急いで彼の乱れた脈拍を計り、近くに医師がいないか呼びかけた。
「私に任せてもらおう」
髪をまとめて白い紗の帽子にヴェールをつけた女が進み出た。薄水色の長いドレスを纏った彼女を見て、カレナードの周囲にいた者達はハッとした。傍目には施療棟の看護師に見えるその女はマリラだった。照明は薄くなっていたが、厳しい美貌は間違いなく女王のそれだった。訓練生達は黙って成り行きを見守った。
マリラはカレナードを自分の体で覆うように静かにマットに屈んだ。
「ウーヴァの波動がそなたの心臓を捕らえているのだ。儀式部屋であれに会ったであろう、ゆえにそなたはあれの干渉を受けるようになった。先に生き脱ぎを終えた私がそなたの盾となろう」
マリラはカレナードの胸に手を入れた。間もなく蒼白だった彼の顔に血の気が戻ってきた。マハが脈は落ち着いてきたと言った。
船体が一段と激しい轟音に包まれた。
「ま、まるで大地震だわ」
マヤルカとアラートが床に突っ伏したまま叫び、マリラは彼女らに語りかけた。
「シェナンディ嬢、そしてヴィザーツの若者達よ、案ずるな。これはウーヴァのエネルギーのほんの一部の露われに過ぎぬ。確かに驚異であろう。しかし恐れる必要はないのだよ。
もうすぐガーランドの各層の繋ぎ目が割れる。そこから古い外装が剥がれ落ちて、代わりに新しく強い装甲が生まれてくるはずだ。
目には見えずとも、感じることは出来る。恐れを遠ざけ、五感に身を委ねてご覧」
キリアンは点滴立てを押さえたまま、女王を見ていた。間近でみる彼女から強いオーラを感じた。やはりカレナードは紋章人の役割を担い、彼女のために大怪我を負ったのを確信した。
キリアンは友人と女王の不思議な縁を思った。女王と女王の介抱を受けている彼は、まるで姉と弟、あるいは母と息子、また女と女の体を持った男、そして女王と女王に捧げられた者、さらに人と人でありながら異形と異形であるように見えた。
大きな衝撃があった。マハが引っ込めていた頭を上げた。
「マリラさま、今のは…第1甲板と第2甲板でしょうか」
「そうだな。次は上層天蓋のすぐ上が開く。ウーヴァめ、派手にやるものだ」
カレナードはやっと目を開けた。彼はマリラに半身を懐かれたままだった。彼女の腕が左脇から胸へ回され、彼女の乳房は彼の背中に押し付けられていた。温かかった。
「まだじっとしていなさい、カレナード。ウーヴァの技はこれからが佳境だ。
そなたと契約した覚えがないことへの罪滅ぼしになるとも思えぬが、せめてウーヴァの干渉からは守らねば。そなたは長く生きられまい」
大きな振動が数回続き、雷鳴がガーランドに響いた。その度にカレナードは背中の傷が痛むのに耐えていた。マリラはもう少しの辛抱だと言い聞かせ、ガーランドが脱皮を終えるまで彼を懐き続けた。
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