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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」19 浮き船も生き脱ぎをする

ミシコはこれ幸いと敬礼を返すや、皆の所まで走った。
「何だい、あれが大人の世界ってやつか、いや、違うな」
恋人同士にしては、そうそう甘いムードでもなかった。危険な男女だと若者のアンテナが鋭く警告を発していた。ミンシャも同様だったと見えて「彼女は曲者ね」と言った。オーレリが突っ込んだ。
「ボンゾ教官はきっと彼女以上にすごいかもよぉ…」
アラートもひと言付け加えた。
「堅気って感じがしないわ。教室以外ではお会いしたくない男よね」
女達のカンはきっと正しいのだろうとミシコは感心した。ミンシャが彼を見てニッと笑った。
「格闘術の授業で、あンたはカレナードをかばってボンゾに投げられたよね。さすがカレント家の男。班長を見習ったV班もさすがだわ」
「当然さ。守るべきは守らなくちゃな」
「ふうん、彼を男扱いしてるンじゃなかったの」
キリアンが横から言った。
「彼の体は気力だけではどうにもならないハンデを背負ってる。それは助けたいだろ。ヤルヴィと僕達の年の差みたいにさ」
引き合いに出されたヤルヴィはおちょぼ口をますます突き出してキリアンを睨んだ。ミンシャが笑いかけるとそっぽをむいてしまった。ララとルルが最年少の訓練生のプライドを撫でるために、彼の十八番を問いに行った。間もなくヤルヴィが得意のフィドルを近いうちに演奏して聴かせる約束が出来た。
約束の週末の夜、船体の全表面がナノマシン滓を排出することになった。それは春分行事の延長上にあり、ウーヴァの力によって浮き船そのものが生き脱ぎをするのだ。非番の乗組員と訓練生は大宮殿とその周辺に退避した。夕食を終えたミシコ達は施療棟へ寄ってカレナードを担架に乗せ、そのまま大宮殿へと向かった。
夜半には船は落ち着くだろうと艦長が訓示を垂れ、宮殿は寝袋や簡易ベッドでうもれた。ヤルヴィはV班のとなりに陣取ったY班の班長に申し出た。
「フィドルを弾いてもいいかな、ミンシャさん」
「照明が落ちるまでならいいンじゃない。ね、ミシコ」
ヤルヴィのフィドルは穏やかで安らぎをもたらす曲を周りに響かせた。訓練生達はその中で寝支度をした。
カレナードは右腕をなるべく使わないよう三角帯で右腕を吊っていた。キリアンはカレナードのために厚手のマットを持参して、マハと一緒に彼を横たえた。
マハが「これで最後になるといいわね」と点滴容器を新しくした。
「そろそろ始まるかしら。ガーランドが結構揺れるのよ。キリアンさん、船体が唸り始めたら、点滴立てを押さえて」
「了解です。カレナード、目眩はしてないか」
「うん…ヤルヴィは上手いなぁ。ずっと聴いていたいよ…」
怪我は薄皮を剥ぐようにほんの少しずつ良くなっていったが、カレナードはほとんど食事が喉を通らなくなっていた。マヤルカが来てブラシでカレナードの髪を梳かした。彼女は毎晩施療棟で彼の世話をしていた。マハが助かるわと言った。
大宮殿の照明が点滅した。誰かが始まるぞと叫んだ。キリアンはマハに頼まれた仕事に取り掛かった。奇妙な音が船体を走り始めた。ヤルヴィはフィドルを抱えて床に座り込んだ。
「ゆ、揺れる。船が震えている」
ララとルルがヤルヴィに抱きついて、きゃあと声を上げた。天井から下がった照明がカチンカチンと冷たい音を鳴らし、真下にいるヴィザーツの顔をこわばらせた。
船体の外装のあらゆる隙間が振動し、古びた表皮を外へ押し出そうとしていた。
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