とある師走のその夜に
「ただいまー。眞琴ー、いま帰ったぞー」
「(パタパタパタッ)おかえりなさーい、翔兄ぃ! いつもお仕事お疲れさま。ご飯出来てるよ。今日はね、自然薯混ぜ込んだ、眞琴ちゃん特製スタミナハンバーグだよ!」
「自然薯入りハンバーグって、そりゃまた聞くだけでスタミナ付きそうだ……な」
「あれ? どうしたの、そんなとこで突っ立っちゃって。何か、ボクの顔に付いてる?」
「いや、その、あれだ。眞琴、そのいかれた格好は一体全体どーいうわけだ?」
「え? これ? 見てのとおりトナカイのコスプレだけど?」
「トナカイ?」
「うん。実はこれね、自動車部の忘年会で余興に着ることになったんだよ。で、翔兄ぃにぜひ感想聞いてみたくなって、こそっと試着してみたんだ。一応レンタルなんだけどさ、意外と可愛いデザインでしょ? ほら、ちゃあんと角だって生えてるし、ちっちゃい尻尾もお尻にあるし。どこからどう見ても、これ、立派なトナカイに見えるよね。トナーッ!」
「……トナー?」
「えッ? ひょっとして翔兄ぃ知らないの? 『トナーッ!』って、トナカイの鳴き声だよ」
「……」
「???」
「……眞琴」
「なぁに?」
「象はなんて鳴く?」
「パオーン!」
「じゃあ、馬は?」
「ヒヒーン!」
「猿は?」
「ウキキーッ!」
「トナカイは?」
「トナーッ!」
「何かおかしいとは思わんのか?」
「別に? どうして?」
「……」
「???」
「……わかった。もう何も言うな。明日な。動物園に連れてってやる。時間空けとけ」
「えッ? 動物園? やったァ! 動物園でデートって初めてだよね! うッれしーッ!! ボク、お弁当作るね! わー、晴れたらいいなァ うふふふ」
翌日、動物園にいたトナカイは、眞琴の前でひと声大きく鳴きました。
「ボェェーッ!」