第2話「出動! 電脳@探偵団」 @1
「ちょっとまってよ! それ、どういう事!?」
私は驚いて声をあげた。
「だから言った通りだよ。お前はたった今から"電脳@探偵団"の新団長さ」
「だからその"電脳'探偵団"とかの意味が分からないんだってば!」
大体いきなり『お前が団長だ』なんて言われたって困るっての!
「だからそれはだな――」
ラビーがそう言いかけた時、いきなりその間に電子ウインドウが出現した。電子ウィンドウ――つまり、空間に液晶粒子を放出し、それを一定サイズの空間に固定して即席の画面を作りだす、平たくいえば液晶モニターの画面だけが出現した状態である。
電子ウインドウには誰かの上半身らしき映像が写しだされている。
誰かの、とは画像があまりにも不鮮明――、というよりは正体を隠すために故意に画像処理されているようだからだ。
「どうやら、無事新たな団長が誕生したようだね」
モニターの向こうの人物はいきなりそう言った。やはり正体を隠しているらしく、変声器を使ったようなちょっと変な声だった。
すると、それまでなんとなくえらそうだったラビーの態度が一変した。
「はっ! 団長証を手にしたのはこれが女子、名は相沢ナオコであります」
なんだか軍隊みたいな口ぶりだ――。っていうか、私名乗ったっけ?
私が言葉を失って立ちつくしていると、モニターの向こうの人物は、今度はこちらに向かって言葉を発した。
「おや? お前は団員では無いようだな。一番乗りが非団員とは珍しいな――」
だからその"団"ってなんなんだって――。
モニターの人物は「ま、いいか」と言って話しを続けた。
「先に自己紹介しておこう――。私の名はライア。"電脳@探偵団"の顧問だ」
顧問――って、クラブ活動の顧問みたいなものだろうか?
って、そんなことよりも――。
「さっきから言ってる"電脳@探偵団"って、一体何なんですか?」
私の問いに、ライアと名乗った謎の人物は答えた。
それは私の思いもよらない内容だった。
「"電脳@探偵団"はこの学校を本部に秘密裏に活動する、数人の子供達で構成される秘密組織だ。主な任務はエリア――つまり"電脳次元"を含むこの町で起こった怪現象の調査と解決。毎年メンバー交替を繰り返しながら、三十年続いている伝統ある組織だ」
怪現象の調査と解決って――、大昔の映画じゃあるまいし。
ライアはそんな私の考えている事を見透かしたのか、続けてこんな事を言った。
「この街が"電脳次元 実験指定都市"になっている事は知っているな?」
私はうなずいた。
「この街では"電脳次元"の研究のために、様々な実験がおこなわれている。その影響か、時々"電脳次元"にバグが発生し、現実世界にも影響を及ぼしてしまう事があるのだ。放っておくと重大な影響が出てしまう場合もあるので、速やかに原因を究明し解決しなくてはならない。――が、残念な事に大人達はそれぞれの仕事があるために、全ての事象に対応する事ができない。そこで、三十年前当時この学校で教師をしていた一人の人間が数人の生徒達を集めて、バグを解決するための組織を結成した。それが"電脳@探偵団"だ」
「じゃあ、あなたがその教師?」
と、私は言ったが、ライアは首を横に振った。
「その人物は既に引退していて、私は二代目だよ。――さて、話を元に戻すと、君はそのバッジ――団長証を手にしたことで、めでたく"電脳@探偵団"の新団長に任命された。――ところで」
いや、『任命された』と言われても困るんだけど――。って、『ところで』って――?
「正直あのパスワードは少し難しすぎるかと思ったのだが、よく解けたものだな。何故"白い箱"だと思ったのだね?」
え――。
まさかそこに突っ込まれるとは思わなかった。何故っていわれてもな――。
ま、いいか。別に団長とか興味はないし。
「――実はいくら考えても正解は分かりませんでした」
と、私は言った。
「ただ、相手が箱だったからパスワードも"箱"なんじゃないかと思って――」
これで団長就任とやらも白紙撤回かな――。
しかし、ライアは何を思ったか突然派手に笑いだした。
そのまましばらく笑い続け、ようやく笑いを止めると咳払いをして言った。
「失礼――。あまりにも堂々としていたものでついね。その立派な態度も団長の資質のひとつだよ。君なら素晴らしい団長になってくれそうだ――」
――あれ? これってひょっとして逆効果?
そしてライアはパスワードの正解を丁寧に説明してくれた。
「実は"仲間外れ"というのは、パスワードそのものではなくて文章の頭の数字の事だったのだよ。十個の数字のうち、4・6・8・10は"2で割り切れる数"、6・9は"3で割り切れる数"、そして2・3・5・7は"素数"といって"1とその数字でしか割り切れない数"、十の数字はこの三つのグループに分類する事ができる。そして、十の数字のうち1だけは他のどの数でも割り切れず、素数の条件も満たしていない"仲間外れ"なのだ。よって正解は"1"の文章中の言葉、"白い箱"だったというわけだ」
なるほど――。文章の方ばかりとらわれていては解けないわけだ。
だけど、言われてみると確かに納得できた。
「さて、それでは改めて、君を"電脳@探偵団"の新団長に任命する。頑張って任務に励んでくれたまえ」
ライアがそう言ったので、私は慌てて呼びとめようとしたが、
「メンバー構成や詳しい活動内容については彼女から聞くといい」
と言って電子モニターは消滅してしまった。
その途端廊下の向こうから声が聞こえてきた。
「あーーっ! 先越されちゃったあ!」
見ると、向こうから見覚えのある少女がこちらへ向かって駆けてきたところだった。
確か同じクラスの子で、佐藤ナツキという名前だったはずだ。
「ウッソー! 絶対アタシが一番だと思ったのに!」
ナツキはそう言いながら私の目の前まで駆けてきた。
そして私の姿を認めると、驚いたような声をあげた。
「あれっ? あんた確か転校生の――」
「相沢ナオ、だけど――」
私が言うと、ナツキは額を手で押さえてその場にうずくまってしまった。
「あっちゃー……、まさか転校生に持ってかれるとは――」
――えーっと……。
私が言葉に困っていると、ナツキは少し落ち着いたのだろうか、立ち上がると私に向かって言った。
「ま、いいわ――。決まっちゃったものはしょうがないし――。アタシ、"電脳@探偵団"団員の佐藤ナツキ。よろしくね、新団長さん」
そう言った所でさらに廊下の向こうから新しい顔がやってきた。今度は見覚えのない少女だった。
「あれ? ひょっとして私遅かった?」
少女は首をかしげてそう言った。
ナツキはその少女に向かって声をかける。
「ちょっぴりね――」
そしてこちらを振り返って、その女の子を紹介してくれた。
「彼女はアタシと同じ団員の田守ナナコよ。それと多分あと一人――」
そう言った時、その当人が廊下の向こうから現れた。
それはなんと、隣の席のアイツ――ミキヒサだった。
「アイツは――もう知ってるわよね。なんせ隣の席だしね」
ナツキに言われて、私はうなずいた。
「アタシ達三人が一応五年生団員。あと四年が一人と三年が一人いるんだけど――、いずれ総会で会う事になるからその時に紹介するわ。――ってわけで、とりあえずよろしく」
ナツキがそう言っている間にミキヒサが私達の元にやってくる。
「あれ? お前となりの席の相田じゃん」
「"相沢"よ!」
私はムッとして言った。
こいつ、わざと間違えてないか?
「どういうこと? ひょっとしてこいつが――?」
「そうよ。彼女が新しい団長」
と、ナツキが言った。
その途端ミキヒサは血相を変えてナツキにつっかかった。
「どういうことだよ、それ!? なんで今日転校してきたばっかのやつが団長なわけ?」
「しょうがないでしょ! 彼女が一番最初にクリアしちゃったんだから」
「かーっ、情けねえ! お前いったい何やってたんだよ!」
「一番遅かったアンタに言われたかないわよ!」
なんだか大ゲンカに発展してしまいそうだったので、私はとにかく仲裁する事にした。
「ちょ、ちょっと二人ともケンカはやめてよ! あたし別にその"電脳@探偵団"ってのに入るって決めたわけじゃないし――。それなら三人の中の誰かが団長になればいいじゃない」
すると、ミキヒサにつかみかからんとしていたナツキはその手を止め、いきなりこちらを振り向いて私に向かって人差し指を立て、そして言った。
「"電脳@探偵団"ガイドライン(団則)第九条――、"探偵団長の資格は、いかなる場合に置いても認定試験を最初にクリアした者のみが有するものとする。例外は一切認めず、また特にやむをえない事情がない限り辞退を認めない"――」
ガイドライン――、つまり探偵団の決まり事のようなものか――。
「だ、だったらもう一度テストやりなおせば――」
私がそう言うと、今度はミキヒサがこっちを見て言った。
「ガイドライン第十条――、"探偵団長の任期は一年とし、認定試験は各年度につき一回のみ行うものとする。不正等の特殊な事情がない限り、試験のやり直しは行わない"」
つまり、少なくとも一年は私に団長をやれと、そういうことか――。
なんだか大変な事にまき込まれてしまったような予感がする。
「ま、とにかく決まっちゃったものはしょうがないわ。分からないとこはアタシ達がサポートするから頑張ってね。――あ、総会は毎日放課後におこなわれるから。――ま、部活みたいなものね。明日は"引き継ぎ式"もあるから、前団長を含む六年の団員も来るわ。詳しい話はその時にね」
ナツキはそう言って片手をあげた。
「ま、しょうがねえな――。よろしく頼むわ」
「じゃ、また明日ね」
ミキヒサとナナコがそれに続く。
私は慌てて三人を呼びとめようとしたが、三人はあっという間にログアウトしてしまったのだった。
私は呆然とその場に立ちつくしていた。
私が団長――?
――マジで? |