今作は、ある程度、新撰組に詳しくないと面白くないと思います。
また、新撰組のコアなファンは怒るかもしれません。
じゃあ、この小説のターゲットって誰なんでしょうね。
「なあ、歳ー歳ーげふぅっ!」
呼びかけてきた近藤に、土方は蹴りを入れました。
「な、なんで蹴るのん?」
「なれなれしく呼ぶなっつってんだろ。土方さま、もしくは歳三さま、と呼べ」
「いや、だって俺、局長……」
「ああ?」
「ひぇっ、ごめん。でも『さま』付けはあんまりじゃないかな。せめて副長、で勘弁してよ」
「仕方ねぇな。で、なんだよ」
「あ、あのさ」
近藤は手の指をもじもじさせながら、
「俺って、何か地味じゃない?」
「…………」
「歳、じゃなくて副長や総司の方が人気あるしさ。下手すると斉藤や永倉にも負けそうだし」
「そんなことねぇよプフー」
「わ、笑ってるじゃん!」
「今のは屁だ」
「にやにやしながら言っても、説得力ないよ!」
近藤は目に涙を浮かべて、うつむきます。
「副長にも総司にもかっこいいエピソードがあるしさ。俺なんかゲンコツが口に入るとか、そんなんばっかだよ」
「そんなことないだろ。ほら、あれがある。銃で撃たれた後、平然と動き回ってた、とか」
「あ、そうか!」
「まあ、あれで鳥羽・伏見には出られなかったんだけどな」
「オチをつけるなよぅ!」
近藤、ごろんとふて寝です。
「あーあー、いいよいいよ。どうせ俺は日陰者ですよ。てゆーか、副長がやればいいじゃん、局長」
(うるさいなぁ)
しばらく近藤はぶつぶつと不平をたれます。
土方は無視して、書き物をしていました。不平を言うのにも飽きたのか、近藤は土方のやっていることに興味を持ったようです。
「なにやってるの?」
「隊士募集の文面を考えてるんだよ」
「へー」
と、近藤は土方の手元をのぞきこみます。
「どれどれ、って時給一〇〇〇両? 局長の俺より全然もらってんじゃん!」
「今はこれぐらいしないと、人が集まらないんだよ」
「そ、そういうもんなのかな」
「さて、と」
「ん、次はどうするの」
「隊の主だった奴らを紹介するのさ。こういう人がいますよ、って書いておけば、職場のイメージがつかみやすいだろ」
「へー、言われてみるとそうだね」
土方は、さらさらと筆を走らせます。
「あれ?」
「どうした」
「俺の名前がないんだけど」
「よく見ろよ」
「んー」
「ほら、最後のとこ」
「小っさ! つか曲調近藤勇、って。どんな曲を奏でるつもりなの?」
「その下に、おおまかな特徴が書かれてる」
「足臭い、て書いてあるよ? おまけに童貞て。俺、奥さんと妾もいるのに!」
「多少の脚色は必要だろ」
「マイナス方向に脚色してどうするの!」
「じゃ、これで」
土方が、また筆を走らせました。
「地味、て! やっぱりそう思ってたんじゃん!」
「うるさいなぁ。大体だな、そんなに地味なのが嫌なら努力して派手なことをやればいいだろ。芹沢みたいに、町中ででっかい焚き火をするとかさぁ」
「えー、だってそんなことしたら、町の人に迷惑だし……」
「あー、もう。煮えきらん奴だな。分かった、俺がプロデュースしてやる」
「え、まじ? 副長やさしー」
土方は腕を組み、
「まずは名前を変えよう。いさみ、ってなんだか女みたいだしな。そうだな……大久保大和なんてどうだ」
「わー、男らしー。副長、ありがとー」
「あとは、誰も考えないようなことをして、世間をアッと言わせるんだ」
「誰も考えないようなことかー、うーん……」
「官軍に出頭とか」
「そりゃ、たしかに誰も考えないけどさぁ!」
「まあまあ、落ち着け」
土方は近藤をなだめ、
「偽名を使うんだから、ばれるわけないだろ」
「あ、そっかー」
「内部に潜り込んだら、そこでひと暴れして逃げてこい」
「うーん、でもやっぱり一人じゃ心細いな……」
「じゃあ、合言葉を決めておこう。ヤバくなったら『楽しかったな』って言え。助けに行ってやるから」
「ほんと? じゃあ、行ってみる!」
「気をつけてなー」
「あ、この人、近藤勇です」
「なんだと!」
「あ、あれ?」
「近藤勇を捕らえました」
「よし、斬首だ」
「楽しかったな! 楽しかったなぁ!!」
ざしゅ
土方は空に向けてつぶやきます。
「良かったなぁ、これで一つエピソードが増えたじゃないか」
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