最大の女の武器
・遊森 謡子様の武器っちょ企画参加作品第二段です。
・無駄にテンション高め、そして正直戦ってる気がしない(笑)
・武器っちょ企画とは、ファンタジーであること、短編であること、マニアックな武器&武器の使い方をしていることです
・………っていうか武器と言えるのだろうか、これ。
ヴィーツァ王国。
大陸一の大きさと歴史を誇る、巨大にして強大な王国である。
「………はあ」
ミリアム・ポルソンは廊下で一つ溜め息をついた。
正直に言って、気が進まない。
ただの下働きであったミリアムだが、今日この日をもって、王太子妃候補の、というより婚約者候補付きの侍女として働くことになったのだ。
大出世、ではあるのだが。
この候補様、よくわからない人である。
普段共に過ごす人々は王子の側近たちであり、本人が社交の場に出ることが少ないため、直接会うことがない限り、情報が入ってこないのだ。
どうやら美人らしい、ということだけは分かっているのだが。
まぁ、選ばれてしまったからには仕方がない。
ミリアムはもう一つ溜め息をつき、背を伸ばした。
何はともあれ、次期国王である王太子に選ばれたのである。
しっかりと働かねばならない。
王太子の部屋の前に立つ側近の一人がこくりと頷いた。
ノックと共に誰何の声がかかる。
「ミリアム・ポルソンでございます」
重厚なドアが開くと―――何やら、大事になっていた。
「エルドーっ!まずこれが脱税の書類だから!」
「ナ、ナギサ様!なぜそんなものを!?」
「あのヒゲが立派な侯爵が持ってたの!ほら、頭っていうか髪の毛がものすごい残念な感じになってる伯爵と一緒だったのよねー」
「髪の毛が残念って………ああ、ナグゼル伯爵か。ということは、一緒にいたのはヘンレイ侯爵かな」
「多分そう。風でカツラが飛んで、ついでに書類も飛んで、私が拾ってエルドに届けに来た感じ」
「………それは気の毒ですね………」
「あと、こっちが人身売買の証拠書類ねー」
「どちらで見つけたのですかっ」
「なんだっけ、あの無人廊下?にある、悪魔像の下。ちょっと転んだら目に入って、気になったから見てみたんだ」
「………レイ、確認と共に立ち入り調査を」
「はっ」
「あとねー、うっかり庭園で転んだ時に見つけたんだけど、これって毒草だよね?」
「ナギサ様、素手で持たないでください、お願いですからこちらに渡してくださいっ!!」
「………はぁ。ナギサ、今日も何だか活躍したみたいだね」
「まぁねぇ」
ミリアムは呆然と目の前に広がる光景を見た。
王太子の部屋の中に、側近や宰相と共に一人の美少女がいた。
いた、のだが、彼女の話す内容が何やら物騒なものにしか聞こえない。
しかも、先ほどから聞こえてくる内容が、どう考えても、一介の侍女が聞いてはいけないものばかりである気がしてならない。
と、宰相と目が合った。
「………王太子殿下、ナギサ様、ナギサ様付きの侍女が来ておりました」
「おや」
「え、嘘」
一斉に視線を向けられ、ミリアムは体を一瞬震わせ………
「あ、あの、ナグゼル伯のカツラは、その、特注品だと聞いたことがあります。
本物にしか見えないもので、それを買うために、脱税をしているともっぱらの噂でしたが」
つい、言ってしまった。
数秒の沈黙。
ミリアムは我に返り、内心で悲鳴を上げる。
(や、やっちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
そんなミリアムの手を、何やら物騒なことを言っていた美少女ががっと掴む。
「初めまして、私が婚約者候補に何故かされちゃったナギサ・ミモリです!!
あなたとは仲良く出来そうだわ、というか仲良くさせて欲しいわ!!よろしくお願いします!!」
「……ミ、ミリアム・ポルソン、です。よろしく、お願いします」
勢いに飲み込まれそうになったのは、仕方がないと思う。
目を白黒させながら、ミリアムは頭の片隅でふとそんなことを考えた。
数週間後。
ナギサに付いて王太子の部屋に来たところ、王太子―――エーベルハルド・エク・ベーヴェルシュタインが、その輝かんばかりの美貌に笑顔を乗せて言った。
「そろそろ、大掃除でも始めようか」
ああ、城内の、いや、正しくは人事関係の大掃除と言った方がいいのかな。
エーベルハルドの妙に爽やかな笑顔に、宰相及び側近たちが気を引き締めたように背筋を伸ばす。
その傍らで、ナギサが楽しげに、美しく微笑んだ。
「それでは私は、城内を楽しくお散歩でもさせていただきますわ。
もちろん、換の腕輪の方は取り外しておきますわね」
この世界、魔術が存在するのだが、その使い方がいささか変わっている。
自分の体質や特徴を魔力に変換し、それで魔術を使うのだ。
例えば有り余る体力を変換したり、全てを完璧に覚えられる記憶力を変換したり。
魔力に変換している間は、変換する器によって、その体質や特徴が最低でも半減、最高だと十分の一にまで抑えられることも少々変わっている。
その魔力に変換できるものが大きければ大きいほど―――ある意味、変わり者であればあるほど―――偉大な魔術師となる。
現在で言えば、王太子であるエーベルハルドがそうだ。
彼は輝かんばかりの美貌と魅力を魔力に変換しているため、相当な魔力を有しており、歴史に残る魔術師になるだろうと言われている。
そして、もう一人。
唐突に現れた、彼の婚約者候補、ナギサ。
彼女はとある厄介な体質を、換の腕輪と呼ばれる金細工の美しい腕輪で魔力に変換しているのだが、その魔力を抑えるためにも、また換の腕輪を外した場合でもその体質が抑えられるように、もう一つ、封の腕輪と呼ばれる銀細工の美しい腕輪を身に付けている。
ミリアムが側付きの侍女になってからの数週間も………正直に言おう、色々とすごかった。
初日からすごかったが、本当に、色々と、すごかった。
現に、ナギサの台詞を聞いた護衛二人が疲れた顔をしている。
「………外すんですか、外しちゃうんですか」
「ここは大人しく、庭の散歩をするとか茶会をするとか図書館に行って本を読むとかだな」
「庭の散歩をしたら禁止植物見つけるし、茶会をしたら毒物混入発見するし、図書館で本を読めば密約とか人には言えない密書とか見つけるけど?」
ナギサの答えにああ、と遠い目になる二人。
そう、ナギサは、とんでもないトラブル体質なのである。
本人曰くの「巻き込み・巻き込まれ体質」は、換と封、両方の、それも王族が使うレベルのすさまじい代物である腕輪を付けてなお、発揮されている。
これで抑えられていると言うのだから、彼女の日常はどのようなものであったのか想像もつかない。
エーベルハルドはふう、と小さく息を吐いた。
「………まぁ、君に手伝ってもらえるとありがたいんだよね。やっぱり」
「使えるものは使いなさいよ、エルド。素敵な仲間も増えたことだし!」
ね、と笑顔で振り返るナギサに、ミリアムは頭を下げる。
「不肖ミリアム、どこまでもナギサ様にお供しますわ!」
「ありがとう!」
ミリアム・ポルソン。
貴賎に関係なく友人・知人の多い彼女は―――大の噂好きで、情報好きだった。
「まずは小手調べとして、王太子殿下の婚約者候補様方から始められたらいかがでしょうか」
「あ、それいいかも!」
「逆ハーレムを築いていらっしゃる方、怪しげな薬に手を出し始めた方、国庫を逼迫させようと目論んでいる方、他の候補様を陥れるために犯罪組織と手を組んでいらっしゃる方など選り取りみどりですわ!」
「……え、えげつない………」
側近の一人が引きつった顔で言う。
ナギサとミリアムは揃って彼を見。
「何言ってるのー、特攻してこないだけマシでしょー」
「そうですわ、媚薬と自らの体を駆使して既成事実を作ろうと突撃なさる方も国王陛下を傀儡術で意のままに操る方も近隣国にはいらっしゃったのですから、大人しくしている辺りはずっと良いと思いますわ」
あっさりと言ってのけた。
そうして二人仲良く顔を見合わせて笑う。
「それじゃ、行ってこようかしら?」
「それでは、折角ですから多くの方々に巻き込まれていただきましょうか」
「そうねぇ、女官とか衛兵とかに連絡しちゃって!」
「畏まりました。ですが、今からお出かけなさりたいのであれば構いませんわ」
「うん、行こ!それではエルド、結果を楽しみにお待ちくださいませ!」
女二人とナギサの護衛が揃って退室をした。
それを見送った王太子たちは、ぽつりと呟く。
「………女って、怖いね」
「強か、ですよね」
「というか、ある意味たくましいですよね」
ミリアムから告げられた噂と言う名の情報もなかなか恐ろしいものであったが。
それを利用して、さらに大事にしようと企む彼女たちの方が、よっぽど恐ろしい気がする。
あの二人は、怒らせてはダメだ―――そんな暗黙の了解が男たちの間でできた、大掃除初日のことだった。
………企画に違反しているようでしたら、企画参加タグは撤去します。
ちなみに武器は、ナギサの体質とミリアムの集めた噂のたぐいです。
ついでに簡単な紹介でも。
ミリアム・ポルソン
・噂大好き、情報通。ナギサとタッグを組めば最強&最凶コンビ(笑)。
相言葉は「秘密を大公開したいですか?」
ナギサ
・本名:深森 渚。日本人。体質のおかげで異世界召喚に巻き込まれた。
でも換と封の腕輪によって、日本にいた時よりは体質は改善されてる、というか抑えられている。
エーベルハルド・エク・ベーヴェルシュタイン
・ヴィーツァ王国麗しの王太子。ナギサとはどこかイタズラ友達みたいな感覚がなきにしもあらず。本人は正妃として迎え入れたがっているけど。
彼らの物語も、いつか書いてみたいですねぇ。
それでは、お粗末様でした。
すみません、ちょっと内容増やしました。