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第7章 狙われたハチ
『ハイホーっ…ハイホーっ…しぃ〜ごぉぉっとが嫌いぃ〜っ…』
 暗闇の中から歌が聞こえる。
「鏡よ…鏡…」
 歌に紛れて美しく響く、一つの女の声。
「この世で一番、美しいのは…だあれっ…?」

――パアアアアアーーッ!

 暗闇の中で光を放つのは、楕円形の美しい装飾の施された掛け鏡。
<それは貴女様です…白雪様…>
「ウフフっ…」
 鏡の答えに、女が微笑む。
「知ってるわっ…」
『ハイホーっ…ハイホーっ…声ぇぇ〜を合っわせずぅ〜っ…』
 暗闇の中から歌が聞こえる。






 とある街。とある午後。
「グアアアアアッ!!」
『きゃああああっ!!』
『うわあああああっ!!』
 突如、現れた緑の鬼・鬼人に、街の人々が逃げ惑う。
「グヘへっ!!逃げろ逃げろぉっ!!脆弱な人間どもめぇっ!!」
 必死に逃げる街人たちを見て、鬼人はどこか愉快げに笑う。
「グヘヘヘっ!!んんっ?」
 逃げる街人を追いかけまわしていた鬼人が、目の前に立ち塞がるようにして立つ人影に、表情を曇らせる。
「何だぁ〜っ?逃げろというのが聞こえなかったのかっ?」
「いえっ、聞こえましたよ?バカでかい知性の欠片もなさそうな声が」
「何っ…!?」
 目の前に立った人間の言葉に、鬼人が顔をしかめる。
「けどっ…逃げる必要もないかと思いましてっ」
 笑顔で顔を上げたのは、竹取輝矢であった。
「貴様っ…!」
 輝矢の笑顔に怒りを見せた鬼人が、拳を強く握り締める。
「余程死にたいようだなぁーっ!!」
「……。」
 爪を振り上げ、飛びかかってくる鬼人を見ながら、冷静な表情で右耳のピアスへと手を伸ばす輝矢。
「死にたいのは…アナタの方でしょう…?」
 輝矢がピアスを弾き飛ばす。
「“月器・三日月”っ」
「何っ!?」
 三日月を目覚めさせた輝矢が、大きく爪を振り上げた鬼人の懐へと素早く飛び込む。
「……っ!」
「うぐぅっ!ぎゃああああっ!!」
 輝矢が三日月を振り切ると、胴体を見事に横一線に切り裂かれた鬼人が、激しい断末魔を残し、あっという間に砂となって消えていった。

「おおぉ〜っ!早っ!」
「今日も出番なかったねぇ〜」
「まっ、緑鬼一匹じゃ張り合いねぇーだろっ」
 圧倒的な強さで鬼人を粉砕した輝矢を、後方からのんびりと見つめているのはイヌ、サル、キジの三人衆。
「ふぅ〜っ、ハチっ、ご褒美のチュ〜をっ」
「しねぇーよっ!!」
 三日月をピアスへと戻し、一息ついて戻ってくる輝矢に、ハチが怒鳴りあげる。
『助けていただいてありがとうございましたぁっ!!』
『へっ?』
 輝矢たちの周りへと集まってくる多くの人々。
「退治屋の竹取輝矢様ご一行さんですよねぇっ!?」
「噂通りの強さだわっ!さすがオトポリも認めるほどの退治屋っ!!」
「是非お礼をさせて下さいっ!!」
『へっ?へっ?へっ?へぇ〜っ?』
 次々と押し寄せる人々の波に、輝矢たちは困惑の声をあげた。




 数時間後。
「ぐっ…ぐぷっ…さすがにもう食えへんわっ…」
 大きく膨れた腹を摩りながら、どこか苦しげに呟くモンキ。
「お前もちったぁ持てよぉっ!」
 そんなモンキの後方から、大荷物を抱えたハチが文句を言う。
『また来てくださいねぇ〜っ!!』
『うううっ…』
 鬼人を退治した輝矢一行は、街人から豪勢な料理を振る舞われた上、食料やら何やらお礼の品を多く貰い、街の出口まで手厚く見送られて旅立ったのであった。腹に入りすぎたご馳走と、持つには重過ぎるお礼の品の数々に、手厚く持て成されたわりに苦しげな表情を見せている一行。
「日が暮れるまでに次の街へ行けるといいですねぇ〜」
「いやっ、無理だろっ…」
「無理やわっ…」
 特に荷物を持つことなく、手ぶらで先頭を歩く輝矢の後方で、ハチとモンキが苦しげに呟く。
「でもさぁ〜ちょっとおかしくないっ?」
『えっ?』
 両羽根に荷物を持ち、苦しげに飛んでいるユキジの言葉に、ハチとモンキが振り返る。
「何かっ…最近妙に歓迎されるってゆーかっ…名が知れてるってゆーかっ…」
「確かにそうだよなぁ〜。前は行くトコ行くトコで“怪しい”だの“鬼人じゃないか”だの言われてたのに」
「そんだけ俺らも有名になったっちゅ〜こっちゃろぉ〜」
「そんな有名になることしたかぁ〜?」
「あっ」
『……っ?』
 あれやこれやと意見を交わしていた三人が、輝矢の声に前を見る。
「どうした?輝矢」
「これを」
『……?』
 道の途中で立ち止まった輝矢が指差しているのは、道の脇に立っている看板。三人がその看板を覗き込む。
「何々っ?“か弱い市民の味方、御伽界のニューヒーロー、退治屋・竹取輝矢一行っっ!!”」
「“桃タローの弟子である彼女は、師から受け継いだ力でお供とともに次々と鬼人を粉砕っっ!!”」
「“あのオトポリも認定済みっっ!!鬼人が出たら輝矢を呼ぶべしっ!”」
 ハチ、モンキ、ユキジが一行ずつ看板に書かれている言葉を読んでいく。
「って、何だっ!!こりゃあああああっ!!」
 読んでから思わず大声を出すハチ。
「これのせいだったんだねぇ〜最近の熱血歓迎っぷりはぁ〜」
「オトポリに認定なんてもろとったかぁ〜?」
「別にか弱い市民の味方をしてやる気なんてありませんけどねぇ」
 看板の内容に、皆が表情を曇らせる。
「一体誰がこんな看板っ…って…」
 道の先を見たハチがさらに目を大きく開く。
「この看板、五メートルごとに立ってんぞぉっ!!」
 驚きの表情で叫ぶハチ。確かに道の遥か遠方、見えなくなる辺りまでビッシリと五メートル感覚で同じ看板が、並んで立てられている。
「うぅわぁ〜ホントだぁ〜」
「こんなぎょーさん、よう作るわぁ〜」
 ある意味、感心といった様子で見つめるモンキとユキジ。
「とにかく看板の続いている方を行ってみますか。誰が立てたのかわかるかも知れませんし」
「あっああっ」
 ということで、看板の立ち並ぶ道を進んでいく輝矢たち。

「んっ…?」
 しばらく歩いた道の先で、ハチが何かを見つける。
「よっこらしょっ!トントントォーンっとっ!」
 道の先にいるのは、大量に看板の載った黒のオープンカーから看板を一つ運び、道の脇へと立てている羊スケ。
「お前かぁぁっ!!」
「ぎゃあああっ!!」
 看板を立てていた羊スケに、ハチの飛び蹴りが炸裂する。
「痛てててっ…いきなり何すっ…って、あっれぇ〜?ハチくんじゃないっスかぁ〜っ」
「じゃないっスかぁ〜じゃねぇーよっ!何だよっ!この看板はっ!!」
 暢気に顔を上げた羊スケに、ハチが強く怒鳴りつける。
「看板っ?ああっ、見てくれたんスねぇ〜っ!どうっスぅ〜?気にいったっスかぁ〜っ?」
「気にいるわけねぇーだろーがっ!!」
「へっ?」
 思い切り怒鳴りあげるハチに、目を丸くする羊スケ。
「何でっスか?」
「何でじゃねぇーよっ!!この看板のせいで異常に歓迎されまくって大変なことになってんだからなっ!」
「おぉ〜そんな盛況なんスかぁ〜」
「喜んでんじゃねぇーっ!!」
 満足そうに笑う羊スケに、またもやハチの怒声が飛ぶ。
「羊スケ、何でまたこのような看板を?」
「えっ?とっ、それはぁ〜」
 眉をひそめて問いかける輝矢に、羊スケが笑顔を向ける。
「輝矢さんたちがすげぇー有名になればぁ、オトポリで一早く知り合いになった俺も出世できるかなぁって」
「己のためですか…」
 出世目当ての羊スケに、呆れた顔となる輝矢。
「アホかぁっ!んなもんに俺ら使うんじゃねぇーよっ!!」
「ハチくんたちにはわかんないんスよぉ〜っ!俺の苦労なんてっ!!」
「うえっ?」
 文句を言おうとしたハチが、凄い勢いで訴えてくる羊スケに押し負ける。
「ゴンさんと組まされてるせいでロクに出世できないんスからっ!」
 必死に訴え続ける羊スケ。
「もーあの人ときたら、すぐケンカ売るわ、問題起こすわで俺ら、いつまで経っても地方巡回なんスよっ!?」
「そっ…そりゃまぁちょっとは同情すっけどっ」
 熱く訴える羊スケに、思わずフォローを入れてしまうハチ。
「あぁーんな問題キツネと組んでたら、一生出世なんてできないっスよぉ〜っ!」
「だぁ〜れが問題キツネだって?」
「へっ?」
 すぐ後ろから聞こえてくる声に、表情を引きつりながらゆっくりと振り返る羊スケ。
「ゴっ…ゴゴゴゴゴゴっ…ゴンっ…さんっ…」
「……。」
 羊スケが振り返った先にいたのは、いつも以上に目つきを悪くしたゴンであった。
「なぁーにが問題キツネだぁっ!!出世どころか生きてられなくしてやろうかぁっ!ああっ!?」
「うっぎゃあああっ!!」
「うわっちゃ〜」
「口は災いの元ってねぇ〜」
 怒り狂ったゴンの餌食をなっていく羊スケを見ながら、苦い表情を見せるモンキと冷静に呟くユキジ。
「ううっ…」
「くだんねぇーことしてねぇーで、とっとと見回り行くぞぉっ!!」
「ういっ…ス…」
 ゴンに引きずられるようにして羊スケが車に乗り込み、二人を乗せた車があっという間に見えなくなる。
「何やったんやぁ〜?一体っ」
「さぁ〜?」
「ああっ!ってか看板っ!回収していけよぉっ!」




「くっそぉ〜看板回収のせいで無駄に時間食っちまったなぁ〜」
「今日は久々に野宿やなぁ〜」
 道を行きながら話すハチとモンキ。空はすっかりオレンジ色に染まり、間もなく日が落ちようとしていた。
「あっ」
『……っ?』
 上空で声を出すユキジに、ハチとモンキが顔を上げる。
「どないしたぁ〜?ユッキー」
「街…」
『何っ!?』




『……。』
 やっと辿り着いた街の入口へと立った輝矢たちが、唖然とした表情を見せる。
『南国の街…トロピカーナ…?』
“南国の街・トロピカーナ”と書かれた看板の先に広がっているのは、深く雪の降り積もった白一色の街。南国というよりも北国のような寒さが身に沁みてくる。
「どこがっ…?」
「トロピカルな要素は一つも見当たりませんけどね」
「でも確かこの街って、年中温暖な気候の続くフラミンゴたちの街だとか何とか聞いた気がすっけど…」
「フラミンゴぉ〜?フラミンゴなんて一匹もおらへんでぇ〜」
 その雪の降り積もった街を見渡し、輝矢たちが首をかしげる。
「おおっ!ここだねっ!」
『……っ?』
 車のブレーキ音と声に、輝矢たちが振り返る。
『……っ』
「おやっ?君たちはっ…」
 黒い高級車から降りてくる、黒い制服にオカッパ頭の大きなマサカリを背負った青年。それは、鉄汰であった。
『げぇ〜っ』
「何だいっ!揃いも揃ってその反応はっ!!」
 正刈鉄汰。熊人であり、オトポリの若き隊長でもある。桃タローのライバルと称される“金タロー”こと正刈金汰を兄に持ち、その金汰に幼い頃から桃タローを目指した修行を強制されてきたため、桃タローを嫌っている。そんなわけで桃タローの弟子の輝矢とは、一悶着起こした仲なのであった。
「相変わらず失礼な連中のようだねっ」
「相変わらず頭悪そうですね」
「ムキぃ〜っ!!」
 輝矢の笑顔の一言に、怒りを剥き出しにする鉄汰。
「今日は兄グマいないのぉ〜?」
「金汰兄さんは別件で出張中さっ!今回はさすがに来れないよっ」
 鉄汰の兄・金汰は、オトポリの総長というとても偉い人なのだが、バカがつくほどの弟想いで、弟たちが取り仕切る事件には必ず付いて来てしまうのである。
「ってか鉄汰がこの街に来たってことは、この街なんかあったのか?」
「ふんっ!だぁーれが君たち何かに教えっ…!」
「竹取輝矢様ご一行さんですかぁっ!?」
「のおおぅっ!!」
 ハチの問いかけに悪態づこうとした鉄汰を蹴り飛ばし、鉄汰の車の中から出てきた一人の少女。柔らかい質感の桃色のショートカットに、大きく済んだ緑色の瞳をしている。年は十五,十六といった頃だろうか。何故か左足を上げて、一本足で立っている。
「何故にケンケン?」
「さぁ?」
「ずっきゅぅーんっ!!」
 皆が少女の一本足立ちに首をかしげている中、その少女にいつもの如くハートを射抜かれるモンキ。

――ボォォォォ〜ンッ!

 モンキが素早く人化して、少女に駆け寄る。
「お嬢さんっ…ボクと一緒に愛の雪だるまを作っ…」
「竹取輝矢様ご一行ですよねぇっ!!」
「ゴフっ!!」
 カッコをつけた門貴を上げている左足で蹴り飛ばし、少女が一本足で飛びながら輝矢の前へとやって来る。
「えっええっ、まぁっ…」
 少し呆れながら、少女に頷く輝矢。
「やっぱりぃぃっ!!看板見ましたっ!!」
「まだあったのか…あの看板っ…」
 少女の言葉に、肩を落とすハチ。
「お願いしますっ!私たちの街に出た鬼人を退治して下さいっ!!」
『えっ…?』
 これが、この度の事件の始まりであった。




 そんなわけで輝矢たちは、鉄汰とともに、今は雪国の南国の街・トロピカーナに住んでいるというその少女の家へと案内された。
「申し遅れましたぁっ!!私、フラミンゴの獣人のゴラミといいますぅーっ!!」
「ゴラミちゃんかぁ〜可愛い名前やなぁ〜っ!」
「そうか…?」
 ゴラミに笑顔を向けるモンキの横で、少し首をかしげるハチ。
「それで一本足だったわけですね」
「すみませぇ〜んっ!これクセなんですっ!!」
「どうでもいいですけど、もう少し小さい声で話せないんですか…?」
「ええっ!?」
 笑顔を見せながら大声で話すゴラミに、輝矢が少し耳を塞ぎ気味に言い放つ。
「お陰で右足だけに筋力集中しちゃってっ!!」
「いやいや、左足のキック力はなかなかのものだったよ…」
 ゴラミに蹴られた腰を押さえながら、鉄汰が少し引きつった表情で呟いた。
「桜時の他にもいるんだねぇ〜無駄に派手なピンク頭の人って」
「悪かったなっ」
 ユキジの言葉に、顔をしかめるハチ。ゴラミの鮮やかな桃色の髪は、確かにフラミンゴを思わせる。
「ってかこの家、家ん中だってのに寒くなぁ〜い?」
 部屋の中を見渡しながら、ユキジが文句を言う。確かにゴラミの家は壁や窓も薄い造りで、あらゆるところからすきま風が入り込み、外と変わらぬ寒さであった。
「すみませぇーん!!」
「うわっ!」
 大声で謝るゴラミに、文句を言っていたユキジが少し驚く。
「この家は元々、中が涼しくなるように造られているものでぇっ!!」
「えっ?」
 ゴラミの言葉に、ユキジが目を丸くする。
「うちの家だけじゃないんですよぉっ!!この街の家はみんなそうなんですっ!!」
 ゴラミの表情が曇り始める。
「この街は元々、年中温暖な気候の続く、私たちフラミンゴ一族の住みやすい暖かな街だったんですっ!!」
『……っ』
 ゴラミの言葉に、皆が眉をひそめる。
「でも一週間ほど前、急に雪が降り始めてっ!それからちっっとも雪が止まないんです!!」
「止まないっ…?」
 輝矢が少し驚いた表情で問いかける。
「はいっ!街を少し離れたら晴れているのにっ!この街だけっ!!ずっと雪が降り続けていますっ!!」
「異常気象っ…いかにも怪しいねっ!よしっ!ここはボクが“鉄汰スペシャル”でっ…!」
「ちょっと静かにしてもらえません?」
「はいっ…」
 張り切って懐から鉄汰スペシャルを出そうとした鉄汰に、輝矢が冷たく言い放つと、鉄汰が大人しく頷いた。
「あの女っ…いつか痛い目見せてやるっ…」
「無理だって」
 陰でこっそり憎しみを募らせる鉄汰に、ハチが冷静に一言。
「この雪の中では飛び立てませんし、この寒さに体を壊してしまう街人も出てきてしまってっ…!!」
「確かに堪えるよねぇ〜この寒さはっ」
 ユキジが窓の外で、深々と降り注ぐ雪を見て気難しい表情を見せる。
「しかし異常気象が鬼人の仕業とはどうにもっ…」
「それだけじゃないんですっ!!」
「……っ?」
 今まで以上に声を張り上げたゴラミに、輝矢が首をかしげる。
「それだけじゃないって?」
「雪が降り始めてからっ…街の人間が一人っ!また一人とっ!!行方不明になっていてっ…!」
「行方不明っ…」
 ゴラミの話に、皆が表情を曇らせる。
「はいっ…!もう六人も…!いなくなっています…!!」
「それは怪しいねぇ〜っ!よぉ〜しっ!ボクが“鉄汰スペシャル”でっ…!」
「ちょっと静かにしててもらえません?」
「はいっ…」
 またしてもでしゃばろうとした鉄汰が、輝矢の一言に大人しく頷く。
「あの女っ…いつか復讐してやるっ…」
「だっから無理だって」
 こっそり呟く鉄汰に、ハチが再び一言。
「で、その行方不明になっている方々というのは、どのような…」
「それがっ…」
 ゴラミが再び表情を曇らせる。
「若くてカッコ良くて爽やかな美青年ばっかりなんですっ!!」
「若くて」
「カッコ良くて?」
「爽やかな」
「美青年?」
 ゴラミの言葉を一言ずつ繰り返すハチ、モンキ、ユキジ、そして鉄汰。
「どぉ〜しよぉ〜っ!!こんな可愛らしいボク、狙われちゃう〜っ」
「困ったねぇーっ!自分の身を守りつつ捜査しないとぉっ!」
「いっやぁ〜っ!美女に罠かけられたら一発ではまってまうわぁ〜っ!」
「なんで全員、狙われる気満々なんだよっ…」
 一斉に自分の身を心配し始めるモンキ、ユキジ、鉄汰に、ハチが呆れたように呟く。
「ハチのことは私が守ってあげますから安心して下さいねっ」
「はぁ?別に俺は狙われねぇーだろっ」
「またまたっ、まぁそういう所が好きなんですけどねぇ〜」
「すっ…すすす好きってっ…!んななっ…何言ってんだよっ!お前はっ!!」
 輝矢がサラッと言った言葉に、思い切り動揺するハチ。そんなハチを見て、輝矢がさらに笑顔を見せる。
「ゴラミお姉ちゃんっ」
『……っ?』
 聞こえてくる幼い声に、ゴラミや輝矢たちが一斉に振り返る。
せりっ!!」
 家の奥から皆のいる部屋へとやって来たのは、まだ幼い少年であった。サラサラと流れるような金色の髪に、深く大きな紫色の瞳の美しい、愛らしい顔立ちの少年である。まだ十二,十三歳ぐらいであろう。
「お客さん?」
「ええ!芹も見たでしょ!?あの看板に書いてあった、すっごい退治屋の人っ!竹取輝矢さんたちよっ!」
「あの看板のっ?」
「どんだけ立てたんだよっ、羊スケのヤツっ」
 看板と聞いて目を輝かせる芹に、ハチがまたしても肩を落とす。
「じゃあお兄ちゃんを探してくれるんだねっ!」
「お兄ちゃん?」
 目を輝かせる芹に、ハチが首をかしげる。
「この子のお兄さんの鈴白すずしろさんも、三日前、行方不明になってしまったんですっ!!」
『……っ』
「……。」
 ゴラミの言葉に、皆が表情を曇らせ、芹が悲しげに俯く。
「お願いしますっ!!鬼人を退治して、雪を止ませて、消えた街人を取り戻して下さいっ!」
「けっこう図々しいですね」
 輝矢に頭を下げて頼むゴラミ。その頼みごとの多さに、輝矢が思わず突っ込む。
「ふわはっはっ!こんな変な退治屋に頼むより、オトポリのとっても優秀な隊長っ!この正刈鉄汰にっ…!」
「お願いしますっ!!輝矢さんっ!!」
「無視っ!?」
 鉄汰を完全に無視して、輝矢に頭を下げ続けるゴラミ。
「私は別に看板に書かれているような正義の味方をするつもりはありませんからねぇ」
 輝矢が面倒臭そうな表情を見せる。
「ぶっちゃけ面倒臭いですしぃ」
「賛成〜」
「そんなぁっ…!!」
 やる気のない輝矢とそれに賛同するユキジに、ゴラミ悲しげな顔を見せる。
「愛しのゴラミちゃんのためやねんよぉっ!頼むわぁっ!輝矢んっ!!」
「嫌です」
「ううっ…」
 モンキの説得も、あっさり断る輝矢。
「お兄ちゃんっ…」
「……っ」
 悲しげに俯く芹を見て、ハチが眉をひそめる。
「いいじゃねぇーかっ、探してやろうよっ!コイツの兄ちゃんたちっ!」
「わかりました、探しましょう」
『ええぇーっ!?』
 ハチの言葉にあっさり承諾する輝矢に、モンキとゴラミが驚きの声を出す。
「探すったってさぁ〜一体、どうすんのさぁ〜」
「とりあえずこの街の周囲の捜索をします。アナタたちが」
「ええ〜っ」
「ゴラミちゃんと輝矢んのためやぁ〜っ!!頑張るでぇっ!!」
 輝矢の言葉に、不満げな声をあげるユキジとやる気を見せるモンキ。
「ふわぁーはっはっはっはっ!!」
『……?』
 急な笑い声に、輝矢たちが振り返る。
「ちょぉ〜っと名が知れたからって調子に乗らないことだねっ!!竹取輝矢っ!!」
「別に調子にならいつも乗ってますけど」
「鬼人はこのボクがっ!このボクが必ず、君より先に退治してみせるよっ!!ふわぁぁーはっはっはっ!!」
 高々とした笑い声を残して、鉄汰がゴラミの家を去っていく。
「相変わらず対抗意識剥き出しだねぇ〜」
「まぁ気にせず調査を始めましょう」
 鉄汰のことはまるっきり気にせず、やる気を見せて立ち上がる輝矢。
「さぁ探しに行ってきて下さい」
「喜んでぇ〜っ!!」
「行かないんなら立ち上がんなくていいじゃん」
 立ち上がったものの、探しに行こうとはせず、モンキたちに指示だけ出す輝矢に、ユキジが突っ込みを入れる。
「ボっ…!ボクも行っていいっ!?」
「えっ?」
 意を決したように声を出す芹に、輝矢が少し戸惑った表情を見せる。
「そりゃあまぁ別にいいですけど…」
「ホントっ!!ありがとうっ!!」
 輝矢の言葉に、芹が満面の笑顔を見せる。
「ハチは狙われたら危ないので、私とここにいましょうねっ」
「えっ?」
 笑顔で言う輝矢に、ハチが目を丸くする。
「いやっ、俺も探してくるよっ」
「わかりました、一緒に行きましょう」
『……。』
 ハチの一言に、率先して家を出て行く輝矢を見て、モンキとユキジは呆れたように肩を落とした。





「そぉ〜うなのよぉ〜っ!ウチの可愛いフラッゴ君がっ!フラッゴ君がっ!」
 聞き込みのため、いなくなった美青年のうちの一人の自宅を訪れた輝矢、ハチ、芹の三人。
「私に似て顔も良くて頭も良くて運動神経も良くて性格も良かったから、きっとさらわれたんだわぁ〜っ!」
『……。』
 そこで三人が出会ったのは、イカつい顔立ちをした派手なピンク頭のオバサンであった。行方不明となった美青年の母親のようだが、悲しみのあまり豪快に泣き叫ぶ。そのあまりの豪快さに、言葉を失う輝矢たち。
「今頃、ママが恋しくて泣いているに違いないわぁ〜っ!!うおぉ〜んっ!」
「あっ…あのっ…それでっ…息子さんがいなくなった時の状況というのは…」
 泣きじゃくる母親に、遠慮がちに問いかける輝矢。
「急によっ!急にっ!二時のおやつには降りてきたのに、二時半のおやつには降りてこないからっ…!!」
「何回、おやつあんだよっ」
「二階のお部屋を見に行ったら、パッタリいなくなってたのよぉっ!!もうパッタリよぉっ!!」
 ハチに突っ込まれながらも話し、またしても泣きじゃくる母親。
「あ〜それでぇ、そのいなくなった時に妙な物音とか声とかしませんでした?」
「うおぉ〜んっ!フラッゴくぅ〜んっ!!」
「……。」
 輝矢の問いに答えることなく、母親は泣き続ける。
「ダメですね。次行きましょう、次」
「あっ、そういえばぁぁ〜」
「……っ?」
 輝矢が諦めて立ち上がろうとした時、母親が思い出したように口を開く。
「歌が聞こえたわ」
「歌っ…?」
 母親の言葉に、眉をひそめる輝矢。
「ええ、確か“ハイホーハイホー”とかって」
「ハイホー?」
 そのフレーズを口にし、ハチが首をかしげる。
「他に何かっ…」
「うおぉ〜んっ!!思い出したらまた泣けてきたわぁ〜っ!!フラッゴくぅ〜んっ!」
「……。」
 それ以上、何も聞けなかったのは、言うまでもない。




 一時間後。
「街中調べ回って、結局わかったのは消えた時にハイホーって歌が聞こえたってことだけかぁ〜」
 街の中央に設置されたかまくらに集まり、聞き込み調査の結果を報告しあう輝矢たち。輝矢たちが聞き込みに行った家だけでなく、モンキとユキジが行った家でも息子が消えた時に歌が聞こえたそうだ。
「けど歌って…」
 その唯一の共通点に、難しい表情を見せるハチ。
「芹のお兄さんが消えた時も聞こえたのですか?」
「えっ?」
 輝矢の不意な問いかけに、芹が少し驚いたような顔をする。
「あっ、うっう〜んとっ…どうだったかなっ…」
「……?」
「兄貴が消えちまったんだっ。動揺してそんなん覚えてなくても無理ねぇーよっ」
 引きつった表情で曖昧な発言をする芹に、輝矢が少し眉をひそめる。そんな芹を庇うように、ハチが優しい笑顔でフォローを入れた。
「歌と行方不明事件とホントに関係あんのかなぁ〜」
「わかったでぇっ!!」
「へぇっ?」
 首をかしげていたユキジの横で、ひらめいた様子で元気よく立ち上がるモンキ。
「犯人はぁっ!“歌唱力”を持った鬼人やぁっ!!」
『……。』
 モンキの言葉に、一瞬にして白ける一同。
「んでなっ!人をさらう度に自慢の喉を披露してんねんっ!この雪は歌の深みを増すための演出じゃっ…!」
「勝手に言ってろ、アホザルっ」
「ギャグとしても面白くないし最低だよねぇ〜」
「もういっそ消えて下さい」
「ぐっはぁぁーんっ!!」
 仲間から次々と寄せられる突っ込みに、大きなショックを受けるモンキ。
「うううっ…」
「でぇ?歌以外に何か手がかりになるようなものはないのかいっ?」
「そっれが特になくってさぁ〜って、んっ?」
 聞こえてきた問いかけに、ハチが答えながら眉をひそめ、ゆっくりと振り向く。
「何だいっ、ないのかぁ〜使えないねぇっ」
「……。」
 ハチが振り向いた先にいたのは、偉そうに肩を落とした鉄汰。
「何でお前がここにいんだよっ!!」
「通りかかったかまくらに入ったら、ちょうど君達がいたんだよ。奇遇というやつさっ」
「ああっ!?」
 鉄汰の言葉に、顔をしかめるハチ。
「そっちはどうだったのさぁ〜?鉄汰スパークルの成果は出たのぉ〜?」
「“鉄汰スペシャル”だよっ!間違えないでもらえるかなっ、君っ!」
「そんなこと聞くまでもありませんよ、由雉」
「えっ?」
 鉄汰に問いかけたユキジが、輝矢の言葉に首をかしげる。
「私たちが掴んだ情報を聞きに来ている時点で、自分では何も成果があげられなかったに決まっています」
「あっそっかぁ〜」
「そっそそんなことないよっ!!適当なことを言うのはやめてくれたまえっ!竹取輝矢っ!」
 ユキジが納得する中、鉄汰が思い切り動揺しながら輝矢に言い放つ。
「成果はもっもうバッチグーさっ!ふわぁーはっはっはっ!!」
「負けず嫌いやなぁ〜」
「バレバレだけどな」
 無理やり笑う鉄汰を見て、呆れた表情を見せるハチとモンキ。
「さっ!じゃあ鬼人を捕まえに行ってこようかなっ!ふわっはっはっはっ!!」
「はいはい、とっとと行って下さい」
「ふっふんっ!言われなくても行ってやるよっ!!」
 鬼人の居場所などわかっていないのだろうが、後には引けなくなり、仕方なくかまくらを出て行く鉄汰。
「あぁ〜あ」
 そんな鉄汰を見送り、ユキジが少し肩を落とした。
「でも鉄汰が何も掴めてないってことは、鉄汰スペシャルに反応がなかったってことかぁ〜」
「また仮死状態なんとちゃう?」
「それはないでしょ〜六人が消えたのってこの一週間のうちだよっ?」
「じゃあ今さっき仮死状態に入ったばっかとかっ!」
「んな都合よく寝る鬼人いんのかぁ〜?」
「そもそもっ…」
『……っ?』
 いつになく真剣な表情で口を開いた輝矢に、ハチ・モンキ・ユキジが視線を寄せる。
「今回の事件…本当に鬼人の仕業なのでしょうか…」
『えっ…?』
 輝矢の言葉に、三人が眉をひそめる。
「どういうことだよ?鬼人の仕業じゃないってんなら誰がこんなことっ…」

『ハイホー……ハイホー……』

『……っ!!』
 聞こえてくる歌声に、皆が一斉に顔を上げる。

『ハイホー……ハイホー……』

「歌っ…!?」
「ハイホーってこれっ…」
「うわああっ!!」
「……っ!」
「鉄汰の声だっ…!!」
 外からする悲鳴に、急いでかまくらを飛び出す輝矢たち。

「鉄汰っ…!!鉄汰っ…!!……っ!」
 いち早く飛び出していったハチが、道の途中で急に足を止める。

「どないしたんやっ!?イヌっ!」
「これっ…」
 後ろからやって来たモンキの言葉に、深刻な表情で呟くハチ。
「鉄汰の…マサカリ…」
『……っ』
 ハチのすぐ目の前の雪道に落ちていたのは、鉄汰がいつも背負っているマサカリであった。マサカリが落ちているというのに、近くには鉄汰の姿はもちろん、足跡さえない。皆が表情を険しくする。
「鉄汰が…消えた…?」
 輝矢も驚きの表情で呟く。
『…って、あれが“若くてカッコ良くて爽やかな美青年”っ!?』
「そこかよっ!!」
 声を揃える輝矢、モンキ、ユキジの三人に、ハチが力強く突っ込みを入れる。
「だってこのボクを差し置いて大問題じゃない?」
「そうそうっ!俺もおったっちゅーのにっ」
「犯人の趣味を疑いますね」
「だっからそういう問題じゃねぇーだろぉーがっ!!」
 鉄汰がさらわれたことよりも、鉄汰が“若くてカッコ良くて爽やかな美青年”を見なされたことに、かなり衝撃を受けている輝矢たちに、ハチが唯一まともに怒鳴りつける。
「今は鬼人にしろ、鬼人でないにしろ、犯人を見つけることが先決だろっ!!」
「そりゃそうだけどさぁ〜」
「ホンマに歌が聞こえただけで、後はさっぱり人影も何もなかったしぃ」
「あっ…」
『……っ?』
 急に声を出す輝矢に、三人と芹が振り返る。
「いい作戦を思いつきました」
『いい…作戦…?』
 首をかしげたハチたちは、誰一人としていい予感がしていなかった。





『……。』
 雪の降るトロピカーナの街の中央に立っているのは、人化した門貴と由雉。
「名づけて“オトリ作戦”ですっ」
 二人の前に立ち、何やら誇らしげに言い放つ輝矢。
「まぁ大して新鮮味のない作戦だよねぇ〜」
「輝矢ぁ〜んっ!!ついに俺が“若くてカッコ良くて爽やかな美青年”と認めてくれたんやなぁっ!」
「鉄汰でもさらわれるくらいですから、このくらい妥協してもオトリにはなるでしょう」
「よっしゃああっ!!頑張るでぇっ!!」
「貶されたの、わかってないでしょ?」
 張り切って声を出す門貴に、呆れた表情を向ける由雉。
「俺もオトリやった方がっ…」
「ハチにそんな危ないことはさせられません」
「ボクらはいいのね」
 笑顔でサラッと答える輝矢に、由雉が不満げにこっそり呟く。
「じゃあボク、街の東側回るからぁ〜」
「俺は西やなっ」
「消されても死んでも私たちに犯人の手がかりを残すんですよ?いいですね?」
「はいはいっ」
「まっかせといてぇっ!!」
 輝矢の言葉に返事をして、門貴と由雉がそれぞれ東と西に分かれて歩き去っていく。
「アイツら、大丈夫かなぁ〜?」
「まぁ消えたら消えたで次の作戦、考えます」
「鬼っ…」
 門貴と由雉のことをまるで心配していない輝矢に、ハチがこっそりと呟く。
「……っ」
「……?」
 振り向いたハチが、塞ぎこむように俯く芹に気づく。
「心配か?兄ちゃんのことっ」
「えっ…?」
 ハチの問いかけに、ゆっくりと顔を上げる芹。ハチは芹に穏やかな笑顔を向けた。そんなハチの笑顔を見て、芹が少し目を細める。
「お兄ちゃんには…兄弟…いる?」
「えっ?」
 不意な芹の質問に、少し目を丸くするハチ。
「兄弟っつーか兄弟みたいな感じでずっと一緒に育ってきたヤツらはいるぜぇ?ホントは従兄弟だけどなっ」
 ハチが芹に笑顔で答える。
「ハーモニーうるせぇーし、自由奔放ってゆーか自分勝手っつーかでいっつも振り回されっけどっ」

――おぉ〜うぅ〜じぃぃ〜っ♪♪――
――だあああっ!!うっせぇっ!!――

「まっ、一緒にいんのは楽しいかなっ」
「そうっ…」
 ハチの答えを聞いて、芹が少し笑顔を見せる。
「ボクもね、お兄ちゃんといるのは、すごく楽しかったよ…」
 芹が思い出すように、悲しげな笑みを浮かべる。
「だからお兄ちゃんがいないのは…すごく寂しいし、すごく辛い…」
「芹っ…」
 やがて笑みを失う芹に、ハチが眉をひそめる。
「だぁーいじょうぶだってっ!!俺たちが絶対、兄ちゃん見つけてやっからっ!なぁっ?」
「ええっ」
 相づちを求めたハチに、笑顔を向ける輝矢。
「大丈夫っ…」
「……?」
 輝矢が芹にも笑顔を向ける。
「私は約束は守りますよ…」
「……っ」
 輝矢の笑顔に、少し目を見開く芹。
「……うんっ」
 そして笑顔となり、大きく頷いた。

「ぎゃっぼおおんっ!!」

『……っ!』
 遠くから聞こえてくる悲鳴に、輝矢やハチが顔を上げる。
「門貴の声だっ!!」

――ボォォォォ〜ンッ!

「現れましたかねっ!“月器”っ」
 ハチが素早く人化し、輝矢がピアスを弾いて月器を目覚めさせる。
「ハチは芹を連れて一旦、ゴラミのところへ戻って下さいっ!」
「わかったっ!」
「……っ!」
 三日月を右手に、雪道を走り出していく輝矢。

「……っ」
 遠ざかっていく輝矢の背中を見つめ、厳しい表情を見せる桜時。
「よしっ、ゴラミんとこに戻ろうっ」
 輝矢が見えなくなると、桜時が芹の方を振り返る。
「さぁっ!行こうっ!」
「……。」
「……?」
 慌てた様子で芹に手を伸ばす桜時であったが、いつまでも掴んでくる手がなく、少し戸惑うように顔を上げる。
「芹っ…?」
 桜時が芹の方を見ると、芹は黙ったまま深く俯いていた。
「どうしっ…」

『ハイホー……ハイホー……』

「……っ!この歌はっ…!」
 桜時が芹に手を伸ばそうとしたその時、またしてもあの歌が聞こえてくる。どこからともなく聞こえてくる歌に、顔を上げ、辺りを見回す桜時。しかしどこにも人影はない。
「一体、どっからっ…!」

『ハイホー……ハイホー……』

 頭の中に直接響くように、どんどん大きくなっていく歌声。
「んっ…!」
 何か痛みのようなものを覚え、桜時がこめかみに手を当てる。
「何かヤベぇなっ…芹っ…!とりあえずこっからっ…!」
「フフフっ…」
「……っ!」
 頭を押さえながら苦しい表情で振り向いた桜時の先で、どこか冷酷な笑みを浮かべている芹。そんな芹を見て、桜時が驚くように目を見開く。
「芹っ…!まさかお前っ…!ううっ…!!」

『ハイホー……ハイホー……』

 さらに大きく響く歌声に、頭に走る痛みが激しさを増し、桜時がその場に膝をついてしまう。
「ううっ…うううっ…!!くっ…そっ…」
 頭に走る痛みに耐え切れず、ゆっくりとその場に倒れこんでいく桜時。表情を歪ませながら、桜時が力尽きるように瞳を閉じていく。
「ごめんねっ…」

『ハイホー……ハイホー……』

 歌声が小さくなっていく中、倒れた桜時を見下ろし、冷たい表情を見せる芹。
「お兄ちゃんっ…」
「……。」
 雪道に倒れた桜時に、白い雪が降り注いだ。





「ぎゃっぼおおんっ!」
「サルっ…!」
 門貴の悲鳴の聞こえてくる方へと急いで駆けて行く輝矢。
「輝矢っ!!」
「由雉っ」
 走っていた輝矢の元へ、逆方向からユキジが飛んでくる。
「ボクを差し置いて門貴が狙われたのかなっ!?」
「わかりませんが急ぎましょうっ」
「うんっ!」
 輝矢とユキジが門貴の元へと急ぐ。

「門貴っ…!」
「あっ!!輝矢ぁーんっ!!」
 雪道の真ん中に立っていた門貴が、やって来た輝矢たちを見つけ、必死に手を振る。
「何があったのですっ?犯人はっ…!」
「右足が雪に埋もれてもて動かれへんねぇーんっ!助けてぇーっ!」
『はっ…?』
 門貴の言葉に、大口を開けて固まる輝矢とユキジ。
「走っとったらさぁ、いきなりズッボンってはまってもてさぁっ!ズッボンていったんよぉ〜?ズッボン!」
「……。」
 右足が埋もれた状況を話す門貴を見ながら、表情を無くしていく輝矢。
「いっやぁ〜でも輝矢んが助けに来てくれるって俺、信じてっ…!」
「紛らわしいっ」
「ふっぎゃあああっ!!」
 笑顔を見せていた門貴を、輝矢が容赦なく蹴り飛ばす。景気よく舞い上がり、雪道へと落下していく門貴。
「右足抜けたっ…でも痛いっ…」
 落下した門貴が、力なく呟く。
「まったくっ…」
「人騒がせなサルだよねぇ〜」
 輝矢とユキジが呆れたように肩を落とす。

『ハイホー……ハイホー……』

『……っ!』
 そこへ聞こえてくる歌声に、輝矢とユキジが表情を一変して顔を上げる。
「歌っ…!?なんでっ…!」

『ハイホー……ハイホー……』

 どこからか聞こえてくる歌声に、警戒するように辺りを見回す輝矢たち。
「また誰かがさらわれるっちゅーことかっ!?」
「……っ」
 門貴の言葉に、輝矢が何かに気づいたような表情となる。
「まさかっ…ハチっ!!」
「あっ!輝矢っ!」
 血相を変えて飛び出していく輝矢を、門貴とユキジが慌てて追いかける。

「ハチっ!ハチっ…!!」
 慌てて先ほどハチたちといた場所まで戻る輝矢。

「ハチっ…!!……っ」
 しかし輝矢が戻ったその場所に、ハチの姿はなかった。残っているのは不自然に途切れた犬の足跡のみ。輝矢が表情を凍りつかせる。
「輝矢んっ!どないしたんやっ!?」
「まさか桜時がっ…!?」
 そこへ駆けつける門貴とユキジ。
「ハチっ…」
 こうしてハチは、輝矢の前から姿を消した。








 その日、夜。ゴラミの家。
「吹雪が…増してきたね…」
 窓の外を見つめながら、どこか気難しい表情で呟く由雉。
「そんなぁっ!!ハチさんや鉄汰さんっ!芹までもが消えてしまったなんてぇっ!!」
「今、シリアスムードなんだから、もう少し声小さくしてくんない?」
 相変わらずの大声で騒ぐゴラミに、由雉が少し呆れた表情を向ける。
「まさか三人とも鬼人の手にっ!?」
「せやろなっ…消えた時に例の歌聞こえとったし、街中一通り探したけど見つけられんかったっ…」
「そんなぁ〜っ!!」
「……。」
 珍しく深刻な表情で話す門貴に、ゴラミは悲痛な声を出し、輝矢は元気なく俯く。
「すまんっ…輝矢んっ…俺のせいでイヌコロや芹までっ…」
「別にアナタだけのせいではありません」
 辛い面持ちで頭を下げた門貴に、輝矢が声をかける。
「あの時、二人から離れた私のミスです…」
「輝矢っ…」
 自分が間違っているなどとこれっぽっちも思っていなさそうなあの輝矢が、自分を責めるようなことを言う。そんな輝矢を、目を細めて見つめる門貴。
「輝矢んっ…!そんなに辛いんなら俺の胸の中で泣っ…!」
「問題はハチたちがどこに連れて行かれたのか、ということですね」
「ううっ…」
 勢いよく立ち上がり手を広げて受け入れ態勢を整えた門貴であったが、輝矢にあっさりと無視され、悲しみに暮れる。
「そうだよねぇ〜あんな短い時間でいなくなっちゃうんだから、そう遠くではないと思うけどぉ〜」

――バッリィィィーンッ!

「へっ…?」
 由雉のすぐ傍の窓ガラスが急に砕け割れ、外から何かが飛び込んでくる。
「矢ぁ〜?」
 部屋の中へと飛び込んできたのは、何やら紙のようなものが括り付けられた一本の矢。
「のおおおおうっ!!」
 中へ飛び込んできた矢が、見事に門貴の後頭部に突き刺さる。
「ああっ!!窓ガラスがぁぁっ!!」
「窓ガラスよりまず俺の頭ちゃう〜?ゴラミちゃ〜んっ」
「張り変えるの、けっこうお金かかるのにぃっ!!」
「……。」
 頭から血を流す門貴のことなどまるで気にせず、割れた窓ガラスを悔やむゴラミ。
「矢文ですかね」
「今時、古風だねぇ〜」
「よっ」
「ぬっきゃあああっ!!」
 輝矢が門貴の後頭部に刺さった矢を、荒っぽく抜く。第二の痛みが門貴を襲う。
「えぇ〜っと、何々?」
 矢に括り付けてあった手紙を取り、開く輝矢。
「“消えた街人を返して欲しくば、街の北はずれにやっとこさ造った『雪鏡の城』まで来るべし」
「雪鏡の城?」
「ああ、そうそう。来るのは退治屋・竹取輝矢とその一味のみの限定ねっ”だそうです」
「俺ら限定?」
「鬼人にしては情緒溢れるお手紙ですねぇ」
 手紙の内容に首をかしげる由雉と門貴。読み終えて手紙を閉じる輝矢が、目つきを鋭くする。
「街の北はずれに城なんてっ…建ってるぅぅっ!!」
 家の北側の窓を見たゴラミが驚きの声をあげる。確かに窓の景色を独占するかのように、吹雪の中に佇む大きな白一色の城。雪景色の中に紛れながらも、不気味な空気を醸し出している。
「おっかしいわねぇーっ!確かに昨日まではなかったのにっ!!」
「本当に出来たてホヤホヤのようですね…」
「……?」
 窓の外に見える城を見ながら、すっと立ち上がる輝矢。そんな輝矢をゴラミが戸惑うように見る。
「行きますよ、サル、キジ」
「おうよぉっ!!」
「はぁ〜いっ」
「ええっっ!?」
 呼びかける輝矢と迷わず返事をする門貴・由雉に、大きく驚くゴラミ。
「行くんですかっ!?敵の罠ってわかりきってるのにぃっ!!」
「当然です」
 驚いて問いかけるゴラミに、輝矢が鋭い表情を向ける。
「私からハチをさらった罪…死んで償わせます…」
「すごい気迫っ…!!」
「おおっ、マジやっ」
「いつもより迫力三割増しだねぇ〜」
 殺意のこもった冷たい瞳を見せる輝矢に、ゴラミは思わず圧倒され、止めようとした手を引っ込めた。そんな殺意溢れる輝矢を冷静に見ながら、輝矢の後へと続いて部屋を出て行く門貴と由雉。
「あっ…!」
「心配せんといてぇ〜っ!ゴラミちゃ〜んっ!俺はすぅ〜ぐ戻ってくるからっ!ゴラミちゃんの元へっ!」
「美味しいものでも作っといてぇ〜」
「……っ」
 ゴラミが止める隙もなく、輝矢たちは雪鏡の城へと旅立っていく。
「どうか…お気を付けてっ…」
 吹雪が激しさを増す外の景色を見ながら、ゴラミが祈るように呟いた。





「んっ…んんっ…」
 暗がりの中、ゆっくりと目を覚ましたのは桜時であった。
「ここ…はっ…?痛っ…!」
 倒れこんで気を失っていたらしき桜時が、辺りを見回しながら少し体を起こすと、桜時の頭に痛みが走った。歌が流れてきた時の痛みが残っているようである。
「クっ…」
「鏡よ、鏡っ…」
「……っ?」
 同じ空間から聞こえてくる女の声に、桜時が戸惑いがちに振り向く。

「この世で一番美しいのは…だあれ…?」

 そこにいたのは、蝋燭の灯りに照らし出された一人の女。灰色がかった白く長い髪に、大きな青色の瞳をしていた。青と黄色の艶やかなドレスを身にまとい、髪には真っ赤なリボンを結わえている。大人びたところはあるが、まだ十六,十七の少女に見えた。

――パアアアアアーーッ!

 少女の問いかけに答えるように光を放つのは、少女のすぐ傍の壁に掛けられた、楕円形の美しい装飾の施された一枚の鏡。
<それは貴女様です…白雪様…>
 鏡の中から響く低い声。鏡は白雪と呼んだその少女の問いかけに答える。
「フフフっ…」
 鏡の答えを聞き、白雪が笑みを浮かべる。
「知ってるわっ!オォーっホッホッホっ!!オォォーっホッホッホッ!!」
「げぇぇ〜っ」
「んっ…?」
「あっ、ヤベっ」
 高々と笑う白雪に、思わず不快な声を漏らしてしまう桜時。そんな桜時の声に反応して、白雪が桜時の方を振り向くと、桜時が少し表情を引きつった。
「あらっ?お目覚めっ?」
「……っ」
 椅子から立ち上がり、白雪が怪しげな笑みを浮かべて桜時の元へと歩み寄ってくる。表情に緊張感を走らせながら、体を起き上がらせる桜時。
「桜時様っ」
「……っ!なんで俺の名前っ…!……っ」
 自分の名を呼ぶ白雪に驚きを見せる桜時であったが、白雪の後方に立っている芹を見て驚きを消す。
「そうかっ…お前がっ…」

――ごめんね…お兄ちゃんっ…――

 薄れていく意識の中でかすかに覚えている、芹の冷たい瞳。
「兄貴がさらわれたってのも全部ウソかよっ…大した役者だなっ!」
「……。」
 桜時の皮肉った言葉に、芹は顔色一つ変えることなく黙ったままであった。
「じゃあてめぇーが街に雪降らせたりっ、街の人たちをさらったんだなっ!って、ううっ…!!」
「そうよっ?」
 勇ましく白雪を問い詰める桜時であったが、白雪との距離が一メートルを切った途端に怯み始める。
「ちょっ…!近っ…!」
「見たい?私のコレクションっ」
「コレクション?」
 桜時の怯みも気にすることなく、白雪はさらに桜時へと近づいてくる。その白雪の言葉に、眉をひそめる桜時。
「コレクションてっ…」
「芹っ」
「はい、白雪様」
「……っ?」
 白雪が芹の名を呼ぶと、芹が壁にあったスイッチのようなものを押す。芹がスイッチを押すと、蝋燭の灯りだけに照らされていた部屋に、急に天井から光が降り注いだ。どうやら電灯のスイッチだったようである。天井の豪華なシャンデリアが光輝く。
「……っ!!」
 明るく照らされた部屋を見た途端に、目を大きく見開く桜時。
「鉄汰っ…!!」
 鏡の掛けられた壁沿いに、鏡を中心にして並ぶように立っている六つの氷の塊。桜時がその氷の一つの中に、深く瞳を閉じた鉄汰の姿を見つける。
「これはっ…」
「素敵でしょう?私の雪像コレクションっ。全部で六体あるわ」
「じゃあこれみんな、消えた街人かよっ…」
 信じられないものでも見ているかのように、氷の中に眠っている青年たちを見回す桜時。
「コイツらをどうするつもりだっ!?」
「そうねぇ〜」
「ううっ…!!」
 考えるように天井を見上げながら、桜時のすぐ前へとしゃがみ込み、桜時の目の高さを揃える白雪。至近距離に迫る白雪に、桜時が思わず目を逸らしてしまう。
「特に考えてなかったけど…貴方でちょうど七人目だし…」
「ひいっ!」
 桜時の頬に触れる白雪の白い手。手が触れた瞬間に、桜時が背筋を震え上がらせる。
「おっ…おおお俺に触るんじゃっ…!」
「私の小人さんにでもなってみる…?」
「……っ」
 白雪の冷たい笑みに、表情を引きつる桜時。
「ううんっ…でもそれじゃあつまらない…」
「えっ…?」
 首を振る白雪に、桜時が眉をひそめる。
「竹取輝矢は随分と貴方を大切にしているらしいわねぇ…?」
「輝矢っ…?お前っ…!輝矢と何かっ…!」
「竹取輝矢をもっと苦しませなくちゃっ…」
「……っっ!!」
 桜時に伸びていく白雪の手。
「うっ…うわあああっ!!」






 トロピカーナの街、北はずれ。
「ここですか…」
“雪鏡の城”へと辿り着く輝矢、門貴、由雉の三人。
「真っ白な城やなぁ〜まるで雪で作っとうみたいやっ」
「ううぅ〜っ!どうでもいいからさっさと入ろうよぉ〜っ!吹雪キツすぎぃ〜っ!」
「そうですね。行きましょう」
 城を見上げる門貴の横で全身を震わせる由雉の言葉に頷き、輝矢が雪鏡の城の扉へと手をつく。

――バァァァァーンッ!

 輝矢が少し押しただけで、勢いよく開いていく扉。
「ようこそっ!我が雪鏡の城へっ!」
『……っ』
 城の中から聞こえてくる女の声に、輝矢たちが表情を鋭くして身構える。
「……っ」
「女の子…?」
 扉を入ってすぐにある階段を上がった先の踊り場で、輝矢たちを見下ろしながら、美しくどこか冷たい笑みを浮かべているのは白雪であった。輝矢と由雉が意外そうな顔を見せる。
「鏡よ、鏡っ…この世で一番美しいのはだあれ…?」
『……っ?』
 白雪の問いかけに、白雪の後方の壁に掛けられている鏡が光を放つ。輝く鏡を不思議そうに見つめる輝矢たち。
<それは貴女様です…白雪様…>
「オォォーホッホッホッ!!そうっ!この世で一番美しく、かつこの城の主、白雪にございますっ!」
『……。』
 鏡の答えを聞き、高々と笑う白雪を見て、呆然と固まる輝矢と由雉。
「何…?あれっ…」
「さぁ?思い上がったバカ女じゃないですか?」
「ズッキュウーンッ!!」
 輝矢と由雉が呆れ返っている横で、あっさりとハートを射抜かれる門貴。
「白雪ちゃ〜んっっ!!この俺と結婚を前提にお付き合いなんかぁっ…!!」
「ストップ」
「ぐぎゃんっ!!」
 白雪に向かって走り出そうとした門貴を、輝矢が足を引っ掛けて転ばせる。
「なっにぃ〜?輝矢んっ、俺が白雪ちゃんに目移りしたことへの嫉妬ぉぉ〜っ?」
「違います」
「ううっ…」
 いつものように輝矢にあっさりと否定され、転んだ状態のまま悲しみに暮れる門貴。
「あの女の両脇を見てみなさい」
「えっ?」
 輝矢の言葉に、門貴が戸惑いながら顔を上げる。
「なっ…!?」
 驚き、目を見開く門貴。
「あれはっ…!鉄グマっ!!他のんもっ…!」
「ウフフっ…」
 白雪の両脇に並んでいるのは、像のような氷の塊が右と左に三体ずつ。その白雪のすぐ右横の氷の中には、深く目を閉じた鉄汰の姿があった。他の氷の中にも、同じように人間が眠っている。驚く門貴を見ながら、不敵な笑みを浮かべる白雪。
「街人誘拐事件の犯人と見て間違いないようだねぇ〜」
「じゃあ街の雪も白雪ちゃんがぁっ!?んっ?」
 由雉と言葉を交わしていた門貴が、何かを見つける。

「ああっ!!芹っ!!」
「……。」
 それは二階へと続く階段から、白雪のいる踊り場へとゆっくりと降りてくる芹であった。芹は無表情のまま、輝矢たちを見下ろす。
「良かったぁ〜っ!お前は凍らされんと無事やったんやなっ!!今、助けっ…!」
「……っ」
「……っ?輝矢んっ?」
 芹を助けに行こうとした門貴の前に、輝矢が手を出し、それを止める。止めた輝矢に、首をかしげる門貴。
「おかしいとは思っていたんです…ハチと一緒にアナタまでいなくなった時…」
『えっ?』
 輝矢の言葉に、門貴と由雉が首をかしげる。
「自分がさらわれる事態になったとしても…ハチであれば、アナタだけは必ず逃がすはずですから…」
「……ご名答っ」
 鋭く睨むように芹を見ながら言い放つ輝矢に、芹が少し冷たい笑みを浮かべて白雪の横へと並ぶ。
「じゃあお前っ!はじめっからっ…!!」
「そうっ、ボクは白雪様の忠実なる部下…」
「何やとぉっ!?」
 笑って答える芹に、怒りを見せる門貴。
「ひっとの情に漬け込んでっ!何てヤツやぁっ!!」
「いるんだよねぇ〜あ〜ゆ〜可愛い顔して、平気で人のこと裏切るヤツってぇ〜」
「ホントいますよねぇ〜この辺りにも」
 怒る門貴の横で、自分のことは棚に上げて軽い口調で話している由雉に、輝矢が白い目を向ける。
「そんなことより…」
 輝矢が目つきを鋭くし、突き上げるように白雪を睨みつける。
「ハチはどこです…?」
「ンフっ…怖い顔っ…」
 そんな輝矢を見て、楽しげに笑う白雪。
「ん〜?どうしよっかなぁ〜?」
「……っ」
 わざとらしく言う白雪に、輝矢が表情をしかめて素早くピアスを弾き飛ばす。
「“月器・三日月”っ」
「……っ」
 三日月を目覚めさせる輝矢。白雪が三日月を見て、少し眉をひそめる。
「二度と話せなくなる前に、とっとと答えなさいっ」
 輝矢がさらに殺意のこもった目を白雪に向ける。
「今、近づいたら殺されるなぁ〜」
「うん。もうちょい離れといた方がいいよぉ」
 全身から殺気を放っている輝矢から、身の安全を守るため多少、距離をとる門貴と由雉。
「いいわっ、そんなに会いたいなら会わせてあげるっ」
「えっ?」
「私の王子様にっ」
『……っ?』
 白雪の言葉に呼応するかのように、輝矢たちのいる階の階段横の大扉がゆっくりと開いていく。開く扉の先を、息を呑んで見つめる輝矢たち。
『……っ!』
 輝矢たちが一斉に目を見開く。
「ハ…チ…」
「……。」
 開かれた扉の先に立っていたのは、桜時であった。
「良かったっ…無事だったんですねっ、ハっ…」
「村雨丸…」
「えっ?」
「……っ」
「……っ!!」
 輝矢が安心した笑みを見せた途端、桜時が鞘から村雨丸を抜き放ち、輝矢へと飛びかかってくる。

――………………っ!

 激しくぶつかり合う、三日月と村雨丸。
『なっ…!?』
 門貴と由雉にも衝撃が走る。
「桜時っ!?」
「何やっとんねんっ!!イヌころっ!!」
「……。」
 戸惑うように声をあげる門貴と由雉のその声にも、顔色一つ変えずに村雨丸を握る手に力を込める桜時。

「ハ…チ…?」
 三日月で村雨丸を受け止めながら、輝矢が戸惑いの表情を桜時へと向ける。

「何をっ…」
「白雪様に仇なす者は…俺が殺す…」
「えっ…?」
 桜時は感情の通わない、冷たい瞳を輝矢へと向けた。



                        第8章へつづく。


千風のHP「千風のお部屋」へ!←キャライラストも満載です。