第67章 vsトランプ兵団
「まっ町がっ…」
「・・・。」
唖然とした表情で、燃え盛る町を見つめる内兎。その横で桜時は、険しい表情を見せている。
「ハチっ…!」
「・・・っ輝矢っ」
大きな衝撃音を聞きつけたのか、桜時が振り返ると、輝矢と門貴、由雉、イチゴが、桜時たちと同じように、玄上の門前へと駆けて来た。
「今の音はっ…」
「今の音は何っ!?」
「・・・っ」
「アリス様っ」
桜時に問いかけようとした輝矢の声を遮り、その場へと駆け込んで来るのはアリスであった。やって来たアリスに輝矢は声を止め、内兎が勢いよく振り返る。
「・・・っ」
「・・・。」
互いに少し目を合わせた後、すぐさま視線を逸らす輝矢とアリス。
「アリス様っ!町がっ…!」
「町っ…?なっ…!」
内兎の声に町の方を見たアリスが、その上がる赤々とした炎を見て、大きく目を見開く。
「これはっ…」
「また鬼人かぁっ!?」
輝矢や門貴たちも、驚きの表情を見せる。
「・・・っ」
町を見つめるアリスが、その瞳を鋭くする。
「内兎っ、時計っ!」
「へっ?」
手を差し出し、言い放つアリスに、目を丸くする内兎。
「時計っ!」
「あっ、えっとっ…」
「遅いっ!!」
「ああぁ〜っ!!はいぃ〜っ!!」
アリスに怒鳴られ、焦りながら、内兎が必死にベルトに下がっていた銀色の懐中時計を取りはずし、差し出されたアリスの手の上へと乗せる。
「“針器っ…!」
内兎から受け取ったアリスが、素早く時計の針を弾く。
「六刻”っ…!!」
弾いた針が、鋭い銀色の剣となる。
「内兎っ!」
「えっ…?」
アリスが、針のなくなった時計を、内兎へ投げ返す。時計を受け取った内兎が、戸惑うようにアリスを見る。
「あんたはここにいなさいっ!」
「えっ?けどっ…」
「来ても足手まといっ!」
「ああぁっ!はいぃっ!」
不安げな表情を見せた内兎であったが、アリスの怒鳴りに、あっさりと頷く。
「クっ…!」
「あっ…!」
目覚めさせた六刻を持ち、燃えている町の方へと、必死に駆け出していくアリス。内兎は追おうと思わず身を乗り出したが、アリスの言葉に何とか足を踏み止めた。
「アリス様っ…」
遠ざかっていく背中を見つめ、内兎がそっと目を細める。
「輝矢っ!俺たちもっ…!」
「ええっ」
急かすように訴える桜時の言葉に、輝矢がしっかりと頷く。
「こっここここここれは一体っ…」
「・・・っ」
燃えている町を見て、明らかに動揺した様子の玄上の門番の元へ、真剣な表情で駆け寄っていく輝矢。
「そこの門番っ」
「へっ!?」
輝矢が勢いよく胸倉を掴み、力ずくで門番を振り向かせる。
「玄上国主の所へ行って、すぐに警備隊を町に送るよう伝えて来なさいっ」
「へっ…?」
「30秒以内っ!」
「はいぃ〜っ!!」
目を丸くして、首を傾げていた門番であったが、輝矢の睨みに命の危機でも感じたのか、必死に頷き、すぐさまその場を駆け出していった。
「イチゴっ、オトポリ本部への連絡を頼めますか?」
「あっ、はいっ!」
輝矢の言葉に、イチゴがしっかりと頷く。
「では行きますよっ!ハチっ!サルっ!キジっ!」
『おうっ!』
輝矢の声に、皆が一斉に、町へと駆け出していった。
玄上第一邸・国主の間。
「・・・。」
窓際に立った武史が、神妙そうな顔で、窓の向こうの炎に包まれた町を見つめる。
「国主様っ!」
そこへ国主の間へと飛び込んできたのは、先程、輝矢に脅され、慌てて駆けていった玄上家の門番であった。
「町に火がっ…!それで輝矢様が警備隊をとっ…!」
「わかってるよ…」
「へっ…?」
門番がすべてを話す前にそう言い放つ武史に、門番が少し目を丸くする。
「警備隊を町へ…町人の救出を最優先とするって伝えて…」
「はっ!」
武史の言葉に大きく頷くと、門番はまた、すぐに国主の間を飛び出していった。
「ふぅっ…」
扉が閉まると、武史が深々と肩を落とす。
「ついに…始まったか…」
そう呟き、武史は鋭い瞳を見せた。
「グガアアアアアアアアアアアっっ!!」
「きゃあああああああああああああっっ!!」
高々と爪を振り上げる緑鬼に、町人の女が悲鳴をあげる。
――――ブシュっ…!!――――
「グゥゥっ…!ギャアアアアアアアアアアっっ!!」
「えっ…?」
突然、激しい悲鳴をあげ、砂と化して崩れ落ちていく緑鬼に、悲鳴をあげていた女が、目を丸くし、戸惑うように顔を上げる。
「あっ…」
消えた緑鬼の後ろに見えてくる人影。
「アリス様っ…!」
「・・・っ」
そこに立っているのは、鬼人の血で濡れた六刻を構え、厳しい表情を見せたアリスであった。
「アリス様っ!ありがとうござっ…!」
「町人たちを集めて、山の下まで避難しなさいっ!」
「えっ…?」
女の礼を遮り、強い口調で言い放つアリス。町人の女は、アリスの満面の笑顔と愛らしい口調した見慣れておらず、思わず目を丸くした。
「えっ…」
「いいから早くっ!!」
「あっ!はいぃぃ〜〜っ!!」
アリスの怒鳴りに、女は内兎と同じような形で頷き、慌ててその場を駆け出していった。
「ったくっ!」
「グガアアアアアアアアアアアアっっ!!」
「・・・っ」
肩を落としていたアリスのすぐ後方から、鬼爪を振り下ろしてくる1匹の赤鬼。
「・・・っ!」
アリスが振り返りながら、鋭く六刻を振るう。
「ギャアアアアアアアアアアアアっっ!!」
六刻に真一文字に斬り裂かれると、赤鬼は、砂と化して消えていった。
「ふぅっ」
地面に零れ落ちた砂を見つめ、ホッと一息つくアリス。
「ったく、何なのよっ…」
アリスが顔をしかめ、ゆっくりと周囲を見回す。
「この数はっ…!!」
『グガアアアアアアアアアアアアっっ!!』
アリスの周囲には、色とりどりの鬼が、溢れんばかりに立っていた。
その頃、龍国・オトポリ本部。
「はぁっ!?武国に鬼人の軍勢がぁっ!?」
『・・・っ』
研究塔に響く、リンゴの大きな声。その大声に、周囲の研究員たちが、皆、驚きの表情で振り向く。
<うっうんっ…見張りさんの話だと、結構な数いるみたいでっ…>
無線の向こうから聞こえてくるのは、少し遠慮がちなイチゴの声。
「でぇっ!?輝矢たちはっ!?」
無線に伝わればいいというのに、研究塔全体に響く大声で、リンゴが強く問いかける。
<今っ…町に出て鬼人退治にっ…>
「ああぁ〜っ!もうっ!やっぱり私も行けば良かったぁっ!!」
イチゴの答えに、リンゴが深く頭を抱える。
<お姉ちゃん…それって暗に私を否定してる…?>
「そっそういうわけじゃないわよっ!」
無線から返って来る暗い声に、リンゴが慌てて言い繕う。
「とにかくっ!今から適当に誰か連れて、そっち行くからっ!あんたは輝矢たちのこと、お願いっ!」
リンゴが真剣な表情を見せ、無線に向かって叫ぶ。
「特に桜時っ…!はぁ、もう気になってるかっ、後、輝矢にも、気を配ってねっ!」
<わかったっ…!>
はっきりとした返事を最後に、イチゴからの無線が切れる。
「ったくっ…」
切れた無線を元の場所に戻し、少し困ったような表情で、頭を抱えるリンゴ。
「パパと太狼さんとトマトおばあちゃんと金汰さんに連絡をっ…えぇっとそれからっ…」
リンゴが、今からやるべきことを、頭の中で必死に整理する。
「武国に誰かをっ…誰っ…をっ…」
考えを巡らせ、頭を悩ませるリンゴ。
「・・・っ」
リンゴの表情が、そっと曇る。
「こんな時に…何やってんのよっ…」
誰にともなく、呟くリンゴ。
「バカゴンっ…」
静かになった研究塔に、リンゴの声が小さく落とされた。
「“瞬花っ…終刀”っ…!!」
「如意棒・第2の舞っ…“浄”っ…!」
「“右翼・裂羽”っ…!」
武器を構えた桜時、門貴、由雉が、それぞれの技を繰り出す。
『ギャアアアアアアアアアアアアっっ!!』
3人の力を喰らい、一気に30匹程の鬼人が、砂と化して消えていく。
『グガアアアアアアアアアアアアっっ!!』
「げぇっ!?」
消えた鬼人の後方から、さらにやって来る鬼人の軍勢に、如意棒を下ろした門貴が、思わず顔をしかめる。
「ったく、キリないでぇ〜っ!」
「ボク、もう疲れたぁ〜っ」
「まだ羽根1枚しか投げてねぇーだろっ!」
困った顔を見せる門貴の横で、すでに疲れている由雉に、桜時が勢いよく突っ込みを入れる。
「“月器・三日月”っ」
ピアスを弾き、月器を目覚めさせる輝矢。
「“水月”っ!」
目覚めたばかりの三日月から、無数の水の刃が放たれる。
――――バァァァァァァァァァァァーーーーンっっ!!――――
輝矢が水月を放ち、町を包み込んでいる炎の一部を消し去る。
「“月器”っ…」
「輝矢…様っ…」
そんな輝矢の姿を、茫然と見つめる町人たち。
「・・・っ」
輝矢がゆっくりと、視線を投げかけてくる町人たちの方を振り返る。
「動ける者たちで消火と怪我人の救助をっ!」
町人たちへ向け、輝矢が堂々と言い放つ。
「間もなく玄上の警備隊が来ますっ!その後は警備隊の指示に従って、避難して下さいっ!」
『・・・っ』
真剣な眼差しで訴える輝矢に、町人たちはどこか戸惑うような表情を見せてはいたが、皆、自主的に動き、輝矢の指示通り、町の消火活動と怪我人の救助を始める。
「・・・。」
そんな町人たちの姿に、複雑な表情を見せる輝矢。
「輝矢っ!」
「・・・っ」
後方から聞こえてくる桜時の声に、輝矢が振り返る。
「鬼の数、多すぎやわぁ〜っ!輝矢んっ!」
「分散した方がいいかもぉ〜っ」
「そうですねっ」
由雉の言葉に、輝矢が素早く頷く。
「では分散しましょうっ、ハチは町の中央、サルは西、キジは東、私は北を中心にっ」
『了解っ!』
「ハチっ」
「んっ?」
指示を出した後、輝矢が桜時を呼ぶ。
「牢戸知玖が来ている可能性もあります」
「・・・っ」
輝矢の言葉に、桜時の表情が一気に険しくなる。確かに、これだけの鬼人がいれば、その親玉であるシルクが、この場に来ている可能性は高い。
「あの女の狙いはアナタです。もし牢戸知玖が現れた時はっ…」
鋭い瞳を、桜時へと向ける輝矢。
「“助けてぇ〜っ!愛しの輝矢ぁぁ〜っ!”と叫ぶように」
「誰が叫ぶかぁっ!!」
その指示に、桜時が勢いよく突っ込みを入れる。
「まぁとりあえず何か叫べやぁっ」
「桜咲かすとかでもいいしねぇ〜っ」
「ああっ、わかったっ!」
「いや、ですからね、“助けて、愛しの輝矢”と…」
「とりあえずとっとと行くかっ!」
門貴と由雉の言葉にはしっかりと頷き、もう1度訴える輝矢を無視して、皆に強く言い放つ桜時。
「ふぅっ…」
輝矢が諦めたように、肩を落とす。
「ではっ、散開っ!」
『・・・っ!』
輝矢の声を合図に、4人はそれぞれ、町の東西南北へと散っていった。
武国の町・南部。武国入口。
「何だったんスかねぇ〜さっきの音はぁ」
車の見張りのため、1人、武国の入口に残った羊スケのところにも、先程の大きな衝撃音は届いていた。羊スケが少し不安げに、入口の向こうに見える町を眺める。
「煙っ…そういやさっきから悲鳴みたいなのも聞こえてくるようなっ…」
空に舞い上がる灰色の煙と、時折聞こえてくる遠くからの悲鳴に、羊スケの表情は、さらに不安の色が濃くなる。
「何か嫌な感じっスねぇ〜輝矢さんたちと合流した方がぁっ…ああでも不法侵入になっちゃうっスしぃ〜っ」
――――バァァァァァァァァァーーーンっ!!――――
「ひぃっ!」
町に背を向け、考え込んでいた羊スケが、後方から聞こえてくる大きな音に、思わず背筋を震え上がらせる。
「えっえぇっとっ…何の音っスかね…?」
躊躇いがちに、ゆっくりと後ろを振り返る羊スケ。
「んなっ…!?」
『うっ…うぅっ…』
羊スケが振り返ると、そこには傷だらけになって倒れ込んだ、あの武国の門番・左助と右助の姿があった。苦しげに声を漏らす2人に、羊スケが驚きの表情を見せる。
「だっ大丈夫っスかっ…!?」
羊スケが慌てて2人に駆け寄る。
「一体っ、何がっ…!」
「あのような…者たちの…侵入を許して…しまうとはっ…」
「真正面…一生の…不覚っ…」
「・・・っ?」
そう呟く左助と右助に、羊スケが眉をひそめる。
「あのような者たち…?」
「あっ、人発見〜っ!」
「・・・っ」
さらに聞こえてくる妙に軽い口調のその声に、羊スケが勢いよく顔を上げる。羊スケが顔を上げると、そこには燃えるような赤毛に、赤色の瞳の青年・波跡が立っていた。
「だっ誰…」
「しっかもその制服っ、見たことあんなぁ〜っ」
戸惑う羊スケを、波跡が興味深く見つめる。
「あっお前、アレだろぉっ?オトポリっ!」
「・・・っ」
オトポリを知る波跡に、羊スケの表情がさらに曇る。
「じゃあお前っ…」
波跡がその瞳を鋭くし、そっと笑う。
「俺の敵だぁっ!!」
「うげっ…!」
両手を振り上げる波跡に、羊スケの表情が歪む。
「いっいやっ!俺はただの運転手であってっスねっ!輝矢さんたちとは何の関係もないんスよっ!」
追い込まれた羊スケが、必死に手を横に振り、輝矢たちとは無関係であることを主張する。その姿は、何とも情けない。
「なんでぇっ!ここは1つっ…!」
『ううっ…』
「んん〜っ?」
羊スケの主張が続いていたその時、羊スケのすぐ横に倒れ込んでいる左助と右助が、苦しげな声を漏らした。その声に気づき、波跡がゆっくりと2人を方を見る。
「何だぁ〜?まだ生きてやがんのかぁ〜っ」
『クっ…』
小バカにしたような笑みを浮かべる波跡に、悔しげな表情を滲ませる2人。
「我らっ…真正面っ…」
「武国の門を…守る者っ…」
「・・・っ」
苦しそうにしながらも、それでも国を守る意志を見せる左助と右助に、羊スケがそっと目を細める。
「はぁっ?その態勢で、何言っちゃってんのぉっ?」
そんな2人を嘲笑うかのように、冷たい言葉を投げ放つ波跡。
「もういいやぁっ!とりあえずお前らから死ねよぉっ!」
波跡が2人へ向け、右手を突き出す。
『・・・っ』
覚悟するかのように、顔を引きつる左助と右助。
「いっくぜぇっ!?“降っ…!」
「“羊々ボール”っ!」
――――ピトっ…!――――
「・・・っ!」
今まさに技を繰り出そうとした波跡の手に、ぴったりとくっつく、ふわふわとした白い毛玉。その手にくっついたものに、波跡が勢いよく顔をしかめる。
「んだよっ?ただの運転手じゃなかったのかぁっ?」
「・・・。」
波跡がそう問いかけた先に立つのは、両手に羊々ボールを構えた羊スケであった。
「上司の教えなんスよっ…」
「あっ?」
小さく呟いた羊スケの声に、波跡が首を傾げる。
「“救えるもんは、救っとけ”ってのがっ」
ゆっくりと顔を上げた羊スケが、先程までとは違う、鋭い視線を波跡へ向ける。
「ふぅ〜んっ…」
そんな羊スケに、あまり面白くなさそうな表情を見せる波跡。
「ならっ…」
波跡の声のトーンが落ちる。
「死ねよっ…!!」
「・・・っ」
両手を振り上げる波跡に、羊スケが厳しい表情となって身構えた。
武国の町・中央部。
「“瞬花っ…終刀”っ…!!」
『グギャアアアアアアアアアアっっ!!』
村雨丸に斬り裂かれ、桃色の花びらとなって散っていく無数の鬼人。
「ふぃ〜っ!」
桜時が村雨丸を下ろし、一息つきながら、周囲を見回す。
「粗方、片付いたかぁ〜?」
周囲に大量にいた鬼人の姿がなくなったことを確認すると、桜時が少し気の抜けたような声を漏らす。鬼人がいなくなり、町人たちも避難をしたのか、辺りに静けさが立ちこめた。
「後は消火と、羊スケんとこにも行った方がいいかっ」
桜時が次の場所へと移るべく、足を踏み出す。
「・・・っ!」
しかし、桜時の表情が突然、険しくなり、踏み出そうとしていた足が、その場で止まる。
「誰だっ…!」
そう叫び、勢いよく後方を振り返る桜時。
「こんにちは…」
「・・・っ」
そこに立っているのは、黒髪に赤い瞳の青年・術斗。礼儀よく挨拶をする術斗であったが、その冷たい瞳に、桜時は警戒心を強め、持っていた村雨丸を素早く構える。
「お前はっ…?」
「“トランプ兵団”…術斗…」
「トランプ兵団っ…?」
術斗の答えに、桜時が戸惑うように眉をひそめる。
「貴方がたには、こう言った方が理解しやすいでしょうかっ…」
そっと瞳を細め、術斗が桜時の方を見る。
「“牢戸知玖の手の者”と…」
「・・・っ!」
術斗からシルクの名が出ると、桜時の表情が一気に険しくなる。
「・・・っ」
さらに感覚を研ぎ澄ませ、辺りを警戒する桜時。だが周囲にいるのは、この術斗だけで、どうやらシルクはいないようである。シルクが近くに居れば、嫌でも体が反応するだろう。
「お相手願えますか…?“命咲かす者”…」
「・・・。」
そう誘う術斗を、桜時がまっすぐに見つめる。
――――俺っ、強くなる…――――
強くなると決めて、修行に励んだ1ヶ月。
「いいぜっ」
桜時が口の端を吊り上げ、少し得意げに微笑む。
「修行の成果っ、お前で試してやるよっ!」
「それは光栄です…」
村雨丸を振り上げる桜時に、術斗もゆっくりと両手を構えた。
武国の町・西部。
「ふぃ〜っ!しっかし暑いなぁ〜っ!」
炎に包まれた町の中は、相当暑い。門貴は風を巻き起こし、町を包んだ炎を消し去りながら、町の西部を回っていた。炎の勢いの強い地区だったせいか、鬼人の数は少ないようである。
「よっ!第1の舞っ!“空”っ!」
門貴が風の塊を放ち、家を包み込んでいた炎を消し去る。
「んっ?」
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
やっと火の消えた家の中で、苦しげな声を漏らし、倒れ込んでいる町の子供。
「おぉ〜いっ!大丈夫かぁ〜?」
門貴が家へと入り、その子供のもとへと駆け寄っていく。
「トオルぅぅ〜〜〜っっ!!」
「・・・っ?」
駆け寄っていこうとした門貴の横を、勢いよく通り過ぎ、子供へと駆け寄っていく町の女。
「トオルっ!トオルっ!?」
「おっ…母さっ…」
「トオルぅぅぅ〜〜っ!!」
女の必死の呼びかけに、子供が目を開け、弱々しくではあるが母を呼ぶ。その声に母親であるその女は、何とも嬉しそうな笑顔を見せた。
「ふぅ〜っ」
その様子に、どこか安心した表情を見せる門貴。
「・・・っ」
「・・・っ!」
その時、何かの気配を感じ、門貴の表情が一気に険しくなった。
――――バァァァァァァァァァァーーーーンっっ!!――――
次の瞬間、子供と女のいた家が、何か大きな力を受けたのか、粉々に崩れ落ちる。
「ぅあっ…」
「ふぃ〜っ!」
崩れ落ちた家を唖然として見つめる女の手を掴み、もう一方の手でしっかりと子供を抱いた門貴が、崩れた家のすぐ傍へと着地する。家が崩れる寸前に、2人を助けたのである。
「間一髪やったなぁ〜ってかぁっ」
門貴がその表情を鋭くし、横を振り向く。
「危ないねんけどぉ?」
「・・・。」
門貴が振り向いた先には、十字型をした刃を構えた、オレンジ色の髪に赤い瞳の青年・醍也が、無表情で立っていた。
「相変わらず…他人に甘いようだな…」
「いっくら物忘れの悪い俺でもっ、お前の顔は忘れられへんみたいやわぁ〜っ」
ポツリと呟くように言葉を発する醍也に対し、少し苦々しい笑みを浮かべる門貴。
「一回っ、殺されかけた相手の顔はなぁっ」
「・・・。」
自分を皮肉ったように言う門貴であるが、醍也は特に反応は示さず、無表情のままで門貴を見つめる。
「子供連れて、どっか安全なところに逃げときぃ〜っ」
「あっはいっ…」
まだ少し茫然としている女に、子供を手渡し、門貴が指示を出す。女は素直に頷き、しっかりと子供を抱いて、すぐにその場を駆け出していった。
「さてとっ」
如意棒を持ち直し、門貴が改めて醍也の方を見る。
「ちょっとお話しに来たってわけではないんやろぉ?」
「この前は邪魔が入ったからな…」
少しふざけたように問いかける門貴に対し、ゆっくりと十字刃を構える醍也。
「今日こそは…敗北者に…死を…」
「・・・っ」
醍也の言葉を受け、門貴もすぐに如意棒を構える。
「今回は、前みたいに簡単にはぁっ、負けへんでぇっ!」
「・・・。」
得意げに言い放つ門貴に、醍也はそっとその瞳を鋭くした。
武国の町・東部。
「山の麓へ避難しますっ!こちらへ続いて下さいっ!」
「怪我人はこちらへっ!怪我人はこちらへぇっ!」
「手の空いている者は消火を手伝ってくれぇ〜っ!!」
黒い軍服を着た者たちが、大声を張り上げながら、町人たちの誘導や、町の消火活動などをしている。
「へぇ〜警備隊、もう来たんだぁ〜」
その様子を、少し離れたところから、あまり興味なさそうに眺めている由雉。
「じゃあボク、もう帰って寝ていいかなぁ〜フツーに眠いんだけどぉ」
「暇そうだな…」
「・・・っ」
どこからか聞こえてくるその声に、由雉がハッとなって振り返る。
「俺も暇なんだが…」
由雉が振り返った先、とある家の屋上に降り立つ、1羽のカラス。
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
カラスが白い煙に包まれると、次の瞬間、白い煙の中から、長い黒髪の男・黒羽が現れた。
「俺と一緒に遊ばないか…?」
「・・・っ」
含んだような笑みを浮かべながら、屋根の上から、黒羽が地面へと降り立つ。そんな黒羽の様子を見ながら、由雉もゆっくりと口の両端を吊り上げた。
「いいのぉ?言っとくけどっ、ボク、高いよぉ〜?」
「フンっ…」
挑戦的に言い放つ由雉に対し、黒羽が軽く鼻で笑う。
「相変わらずだな。あれだけの傷を負っても、性格は変わらなかったようだ…」
「なんでボクが変わらなきゃいけないのさっ」
嫌味っぽく言い放つ黒羽に対し、すぐさま切り返す由雉。
「確かに、その性格は死んでも変わらないだろうな…」
黒羽が、少し諦めたように肩を落とす。
「だからっ…」
すっと鋭くなる、黒羽の瞳。
「俺が殺して、いい人間に生まれ変わらせてやろうっ…」
「・・・っ」
冷たい笑みを浮かべる黒羽に、由雉は少し眉をひそめたが、それもすぐ消え、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「結構ですっ」
「・・・っ」
きっぱりと断る由雉に、黒羽もどこか楽しげに笑う。
「そう言っていられるのもっ…今のうちだっ…!」
「そっちこそっ…!ボクの強さに驚いてっ、泡吹いても知らないよぉっ!」
互いに笑みを浮かべながら、由雉と黒羽が、それぞれの羽根を構えた。
武国の町・北部。
「ギャアアアアアアアアっっ!!」
激しい断末魔をあげ、砂と化して消える鬼人。
「ふぅっ」
アリスが六刻を下ろし、疲れたように一息つく。
「ったく、ホントに何匹いっ…」
「アリス様っ!」
「・・・っ?」
倒しても倒しても減らない鬼人に、嫌気のさした表情を見せていたアリスが、後ろから聞こえてくる大きな声に振り返る。
「警備隊っ?」
「アリス様っ!」
アリスのもとへと駆け寄って来るのは、黒い軍服を着た玄上家の警備隊であった。やって来る警備隊に、アリスが少し眉をひそめる。
「ご無事でっ!?」
「見たらわかるでしょ〜っ?っていうかぁ、なんであなた達がここにぃ?」
警備隊を見て、アリスが不思議そうに首を傾げる。
「あっ、内兎が連絡入れたとかぁ?ああ、でもあいつはそんなに気のきく奴じゃっ…」
「いえっ、輝矢様が」
「・・・っ」
警備隊の口から輝矢の名が出ると、アリスの表情が一気に曇った。
「そうっ…」
アリスがどこか素気なく、返事をする。
「鬼人どもの相手は私がするからっ、あなた達は町人たちの避難をさせてぇっ」
「えっ?いやっ、しかしっ、数も数ですし、我々もお手伝いをっ…」
「いいからっ」
「・・・っ!はっはいっ!」
アリスに強く睨みつけられると、警備隊の先頭に立つその男は、少し驚いたような表情を見せた後、大人しく頷いた。
「町人たちを避難させるぞっ!怪我人の手当て急げっ!」
『はっ!』
先頭の男の指示に頷き、警備隊の者たちが、辺りに散らばっていく。
「ったくっ…」
散っていく警備隊を眺めながら、少し肩を落とすアリス。
――――いえっ、輝矢様が――――
アリスはただ、闇雲に飛び出して行っただけだったというのに、輝矢は、この国に来たばかりの状況であっても、迅速で的確な判断をし、素早く指示を出した。
「・・・っ」
悔しげな表情を見せたアリスが、そっと唇を噛む。
「ドレミファソラシドォ〜っ♪」
「・・・っ?」
前方から聞こえてくる、音階を歌うその声に、アリスが怪訝そうに眉をひそめながら、ゆっくりと顔を上げる。
「ドシラソファミレドォ〜っ♪」
「・・・。」
アリスの見つめる先に立つのは、頬に派手な星型のペイントを入れた、金色の髪の少女・城歌であった。何やら楽しげに歌っている城歌に、アリスが少し呆れたような表情を見せる。
「やっぱり歌はいいわレェ〜っ♪じゃなくって、ねぇ〜っ!」
広げていた両手を下ろしながら、城歌が歌うように言葉を発する。
「あなたもソォ〜思わないぃ〜っ?」
「誰っ?」
問いかける城歌に、アリスが冷たく切り返す。
「私ぃ〜?私はトランプ兵団の城歌ぁ〜っ」
「トランプっ…?」
城歌の答えに、アリスが顔をしかめる。
「あんたが、あの山程の鬼人の親玉ってわけぇ?」
「まぁそうなるわレぇ〜っ!じゃなくって、ねぇ〜っ!」
「そうっ…」
楽しそうに微笑みながら頷く城歌に、アリスが瞳を鋭くし、右手に持った六刻を構える。
「じゃあとっとと倒して、終わりにしてあげるわぁっ!」
「いいえぇ〜っ」
「えっ…?」
勢いよく六刻を振り上げたアリスであったが、大きく首を横に振る城歌に、戸惑うような表情を見せる。
「私が戦いたいのは、あなたではないファ〜♪じゃなくって、わぁ〜っ!」
城歌がまた、歌うように答える。
「私が戦いたいのは、“月器”っ」
「・・・っ」
城歌の言葉に、止まるアリスの表情。
「“月器”を持つ、竹取輝矢よぉっ」
「・・・。」
そっと微笑む城歌に、深く俯いていくアリス。
――――やはり“針器”より“月器”っ!――――
――――いえっ、輝矢様が――――
思い出される、無数の言葉。
「・・・そうっ…」
俯いたアリスが、小さな声を発する。
「あんた達でさえ、私より輝矢の方がいいってわけっ…」
アリスがそう呟き、力なく口元を緩める。
「アリスっ?」
「・・・っ」
聞こえてくるその声に、アリスが表情を歪める。
「あぁ〜らっ、噂をすれば影レェ〜っ♪じゃなくって、ねぇ〜っ!」
「はぁっ?」
アリスの後方から、その場へと現れたのは、月器を持った輝矢であった。楽しげに笑う城歌の言葉に、輝矢が少し顔をしかめる。
「アナタはっ…?」
「さっきも同じこと、聞かれたけドォ〜♪トランプ兵団の城歌よぉ〜っ!」
「トランプ兵団?牢戸知玖の手の者ですか?」
「まぁそんなところレェ〜♪じゃなくって、ねぇ〜っ!」
「・・・っ」
頷く城歌に、輝矢が表情を険しくする。
「アリスっ」
城歌を警戒しながら、輝矢が茫然と立ち尽くしているアリスのもとへと駆け寄っていく。
「アリスっ、大丈夫でっ…」
「・・・っ!」
――――パシンっ…!――――
「・・・っ」
アリスへと伸ばされた輝矢の手が、アリスの手により、勢いよく振り払われる。
「触んないでよっ」
「アリスっ…」
冷たく睨みつけるような瞳を向けるアリスに、輝矢がそっと目を細める。
「ご指名よぉ?あの女ぁ、あなたと戦いたいんですってぇ〜」
「えっ…?」
「大変ねぇ〜っ、“月器”の使い手ともなるとぉ、あぁ〜んな連中にまで大人気でぇ〜っ」
「・・・っ」
嫌味たっぷりに言い放つアリスの、その口振りに、輝矢が少し表情をしかめる。
「アリスっ、今はそんなことを言っている場合ではっ…」
「うるさいなぁっ!」
「アリスっ…」
輝矢の呼びかけを、煩わしそうに一蹴するアリス。そんなアリスに、輝矢が少し悲しげな表情を見せる。
「あラァ〜♪仲間割レェ〜っ♪」
「・・・っ」
アリスの方を見ていた輝矢が、その歌うような声に、瞳を鋭くして振り向く。
「別に元々、仲間じゃないわっ」
「そうなんだぁ〜っ」
吐き捨てるように言い放つアリスに、城歌はあまり興味なさそうに答える。
「どうでもいいかラァ〜♪早く相手になってくれないぃ〜っ?」
城歌が、輝矢へ笑顔を向ける。
「わたシィ〜っ♪あなたと戦いに来たんだけドォ〜っ♪」
「・・・っ」
何の狙いがあるのかわからない、城歌のその笑顔に、輝矢が警戒するように表情を曇らせる。
「仕方ありませんねっ」
ゆっくりと右手に持っている月器を、構えようとする輝矢。
「ハ二ホヘトイロハァ〜っ♪」
身構える輝矢を見て、どこかうきうきしたような笑みを浮かべながら、城歌が発声練習を始める。
「輝矢さんっ…!」
『・・・っ』
さらに後方からやって来る声に、輝矢と城歌が振り向く。
「イチゴっ」
「はぁっ」
どこか慌てた様子で、その場へと駆け込んできたのは、イチゴであった。輝矢のすぐ横で立ち止まったイチゴが、呼吸を整えるように、胸を手で押さえる。
「オトポリへ連絡入れて来ましたっ、お姉ちゃんたちが今からすぐ行くってっ…あっ」
言葉を続けていたイチゴが、輝矢の前に立つ城歌の方を見て、ハッとしたような顔を見せる。
「連絡することっ…まだあったみたいですね…」
「ええ、まぁそれはあの者を倒してからでいいでしょう」
少し眉をひそめるイチゴに対し、輝矢が余裕で言い放つ。城歌に負けることは、考えていないようである。
「あラァ〜♪みんなして、町に出てきちゃったのぉ〜っ?」
『・・・っ?』
聞こえてくる城歌の声に、会話をしていた輝矢とイチゴが、同時に振り向く。
「いいのかしラァ〜♪」
「えっ…?」
「それはどういうっ…」
――――バァァァァァァァァァーーンっっ!!――――
『・・・っ!』
城歌の言葉に、イチゴが戸惑いの表情を見せ、輝矢が問いかけようとしたその時、輝矢たちの後方から、大きな衝撃音のようなものが聞こえた。輝矢やアリスが、一斉に後ろを振り返る。
「あっあれはっ…?」
灰色の煙の上がっている方を見て、眉をひそめるイチゴ。
「玄上の屋敷の方ですっ…」
「えっ!?」
イチゴが、輝矢の言葉に、驚きの表情を見せる。
「まさかっ…!私たちをおびき出して、国主をっ…!」
「・・・っ!」
イチゴの言葉を隣で聞いていたアリスが、その表情を一気に険しくする。
――――アリス様っ!――――
浮かぶ、内兎の穏やかな笑顔。
「内兎っ…」
アリスがポツリと、声を漏らす。
「内兎っ…!!」
「あっ…!」
輝矢が止める間もなく、アリスがその場を駆け出していく。
「アリスっ…!」
「ドォ〜は“ドカン”のドォ〜っ♪」
「・・・っ!」
アリスを追いかけて行こうとした輝矢のもとに、城歌の歌声に乗るようにして飛んでくる、大きな衝撃波。
「輝矢さんっ…!!」
「うっ…!」
イチゴに手を引かれるようにして、輝矢が高々と飛び上がる。
――――ドッカァァァァァァーーーンっっ!!――――
まさに城歌の歌った通りの音を立て、辺りの地面を砕く衝撃波。
「凄い力ですねっ…」
「ええっ」
城歌の力を目の当たりにし、厳しい表情を見せながら、輝矢とイチゴが砕けた地面のすぐ横へと着地する。
「・・・っ」
着地した輝矢が、ふと後方を振り返る。もうすでに、駆け出して行ったアリスの姿は見えなくなっていた。もう姿のないアリスに、輝矢が少し、不安げな表情を見せる。
「レェ〜?じゃなくて、ねぇ〜?私の相手をしてよぉ?」
「・・・っ」
城歌の声に、再び前を向く輝矢。
「せっかくあなたと戦いにきたんだかラァ〜♪」
「・・・。」
歌うような口調とは裏腹に、どこか冷たい瞳を見せる城歌。そんな城歌に、輝矢がそっと眉をひそめる。
「私の“歌力”でっ、あなた達を地獄へ誘ってあげるっ」
『・・・っ』
城歌の笑顔に、輝矢とイチゴは、そっと表情を険しくした。
「あれはっ…?」
その頃、トランプ兵団の1人・術斗と向き合っていた桜時も、玄上の屋敷の方角から上がる灰色の煙に気づき、同じように険しい表情を見せていた。
「まさかっ…」
――――こうも早くっ、四大国の国主を殺す機会が巡ってくるとはなぁっ!!――――
桜時の脳裏に、かつて朱実の屋敷で孔雀を襲った太鷲の姿が、蘇る。
「国主をっ…?」
「そのようですねぇ」
「・・・っ」
聞こえてくる声に、桜時が勢いよく振り返る。
「残念っ、貴方がたは皆、我々の罠に嵌ってしまったようです…」
「・・・。」
そっと微笑む術斗に、桜時が少し顔をしかめる。
「ならっ」
桜時が素早く村雨丸を構える。
「とっととてめぇを倒してっ、罠になんて嵌ってなかったことにするまでだっ!」
「・・・っ」
強きに言い放つ桜時に、術斗は怯むことなく、むしろ楽しげに笑う。
「さぁ〜て、出来るでしょうか…」
「見せてやるよっ…!」
余裕の表情で微笑む術斗に対し、勢いよく村雨丸を振り上げる桜時。
「“瞬花っ…終刀”っ…!!」
振り下ろされた村雨丸から、術斗へ向け、桃色の一閃が放たれる。
「・・・。」
向かってくる桜時の力に、術斗は動じることもなく、避けようともせずに、ただ微笑んで立ち尽くす。
「直撃する気かっ…?」
「・・・っ」
「・・・っ?」
ゆっくりとした動作で、向ってくる一閃の方へと、右手を突き出す術斗。そんな術斗の動きに、桜時が戸惑いの表情を見せる。
「素手で受け止める気かっ…?」
桜時が首を傾げる中、桃色の一閃が、術斗へと迫る。
「“瞬花…」
「えっ…?」
術斗の発したその声に、思わず声を漏らす桜時。
「終刀”っ…」
「・・・っ!!」
術斗の右手から放たれる、桜時が村雨丸で放ったものとまったく同じ、瞬花終刀。桜時が大きく目を見開く中、2つのまったく同じ技が、ぶつかり合う。
――――バァァァァァァァァァーーーンっっ!!――――
ぶつかり合った2つの力は、威力も同じだったのか、少しも残ることなく、見事に相殺した。
「いっ今のはっ…」
唖然とした表情で、桜時が術斗の方を見る。
「“花力”っ…?」
術斗が放ったのは、桜時と同じ技。桜時と同じ、“花力”。
「そんなっ…朱実一族でもない奴がっ…なんでっ…」
桜時が、信じられないといった瞳を、術斗へと向ける。
「いやっ!そんなこと、あるわけがねぇっ!」
自分の考えを振り払うように首を横に振り、桜時が再び村雨丸を構える。
「“瞬花っ…終刀”っ…!!」
「・・・っ」
再び放たれる桃色の一閃に、術斗はさらに微笑んで、ゆっくりと右手を突き出す。
「“瞬花…終刀”…」
――――バァァァァァァァァァーーーンっっ!!――――
「・・・っ!」
先程と同じように、術斗の右手から、桜時の技とまったく同じ力が放たれ、ぶつかり合った同じ力の2つが、見事なまでに相殺した。
「そんなっ…」
2度目ともなると、もう疑いようがない。桜時がさらに困惑した表情となる。
「ならっ…!」
その惑いを振り払うため、もう1度、村雨丸を構える桜時。
「これならどうだっ…!“柔桜っ…無塵”っ…!!」
桜時が村雨丸を振り切ると、先程の瞬花終刀よりも強い光の一閃が、術斗目がけて飛んでいく。
「・・・っ」
「・・・っ!」
その笑みを崩すことなく、またしても右手を突き出す術斗。
「まさかっ…」
「“柔桜っ…」
桜時が大きく目を見開く中、術斗はそっと呟いた。
「・・・無塵”っ…」
――――バァァァァァァァァァーーーンっっ!!――――
「・・・っ!!」
柔桜無塵でさえも、術斗は桜時とまったく同じように放ち、向かってきた同じ力に相殺させた。そのあまりにも信じられない光景に、桜時が大きく目を見開いたまま、少しの間、固まる。
「そっ…そんなっ…」
もう疑いようもない。術斗が使ったのは、紛れもなく、桜時と同じ“花力”。
「朱実と同じっ…“花力”使いっ…?」
「・・・っ」
戸惑う桜時を見て、術斗は、どこか不適に微笑んだ。
「ドォ〜は“ドカン”のドォ〜っ♪」
――――ドッカァァァァァァーーーンっ!!――――
『・・・っ』
城歌の歌に乗ってやって来る衝撃波を、飛び上がって避ける輝矢とイチゴ。
「うわああっ!」
「ぎゃあっ!」
「・・・っ」
しかし、衝撃波を受けて地面が砕けると、近くで怪我人の救助や、町人たちの誘導をしていた警備隊の者たちがそれに巻き込まれ、悲鳴のような叫び声をあげた。その声に、輝矢が少し顔をしかめる。
「場所を移した方が良さそうですね…ここでは余計な被害が出てしまうっ」
「・・・。」
着地をしながらそう言う輝矢の横で、ふと考え込むような表情を見せるイチゴ。
「輝矢さんっ…」
「えっ?」
急に名を呼ばれ、輝矢がイチゴの方を振り向く。
「私…あなたが何者なのか、正直…疑問に思っている部分が多いです…」
「・・・っ」
イチゴの思いがけない言葉に、輝矢は何を言うでもなく、そっと眉をひそめる。
「桜時さんたちは、あんなにあなたのことを信用しているのに…それでもすべてを話さないあなたを、酷いとも思います…」
「・・・。」
その言葉を否定することも出来ず、輝矢は少し申し訳なさそうに俯いた。
「だから1つだけっ…聞かせて下さいっ…」
イチゴがまっすぐに、輝矢を見つめる。
「私はあなたを…信じてもいいのですかっ…?」
「・・・っ」
真剣な眼差しで問いかけるイチゴに、輝矢が少し目を細める。少しの間を置いた後、輝矢がゆっくりと顔を上げた。
「ええっ」
「・・・っ」
しっかりと頷く輝矢に、イチゴがそっと口元を緩める。
「では行って下さい」
「えっ…?」
そう言って微笑みかけるイチゴに、輝矢が戸惑うような表情を見せる。
「ここは私が引き受けますので、輝矢さんは、アリスさんや玄上国主を」
「イチゴっ…」
イチゴの好意に、輝矢も笑みを零す。
「勝手に話を進めないでくれるかしラァ〜っ♪」
『・・・っ』
聞こえてくる歌声のような話し声に、輝矢とイチゴが表情を鋭くし、同時に振り向く。
「そんなことっ、私が許すはずないでしょ〜っ?」
「いいえっ」
「・・・っ?」
すぐさま答えたイチゴが、輝矢の前に立つように足を踏み出す。
「許すのは、あなたではありません…」
右手を強く握り締め、拳骨を作り、脇腹の横につけるようにして、構えを取るイチゴ。
「私ですっ…」
「何ですって?」
城歌が眉をひそめる中、イチゴの構えた拳が、青色の光に包まれていく。
「青き拳…龍が如く…」
イチゴが青く輝くその拳を、素早く突き出す。
「“青拳突き”っ!」
「うぅっ…!」
イチゴの拳から放たれた、青い光の塊が、物凄いスピードで、まっすぐに城歌に向かっていく。
――――バァァァァァァァァァァーーーーンっっ!!――――
「あらららららららラァァァ〜〜〜っ♪」
歌うように叫びながら、その光をもろに喰らい、空の彼方へと飛んでいってしまう城歌。
「では場所を移動しますっ!」
「えっ?あっええっ」
飛んでいった城歌を、唖然とした表情で見つめていた輝矢が、振り向くイチゴに慌てて頷く。
「気をつけて」
「輝矢さんも、ご武運をっ」
そう微笑みかけると、イチゴは素早く駆け出していき、飛んでいった城歌の後を追っていった。その場に輝矢だけが残される。
「相変わらず…龍人の力は凄いですねぇ…」
イチゴの力を目の当たりにし、思わず呟く輝矢。獣人最強一族の力は、やはり半端ではない。
「と、感心してる場合じゃありませんでしたね」
輝矢がゆっくりと振り返り、未だ、煙の上がっている玄上の屋敷の方を見る。
「武史さんっ…アリスっ…」
胸に走る、妙な予感。
「・・・っ」
厳しい表情を見せた輝矢は、玄上の屋敷へと急いだ。
一方、イチゴの拳に吹き飛ばされた城歌。
「あららららららららラァァァ〜〜〜っ♪」
まだ歌声のような叫び声を出しながら、悠然と空を舞っている。だがその高度は徐々に下がり始め、固そうな地面がすぐ目の前に見えてきた。
「仕方無いわレェ〜♪じゃなくって、ねぇ〜っ!」
どこか余裕すら感じる、いつも通りの歌うようなしゃべり。
「ファ〜は“ふわぁっと”のファ〜っ♪」
城歌の歌声が、城歌がもう間もなく落下する地面を包み込む。
「・・・っ」
――――ふわぁぁ〜〜っとっ!――――
城歌が地面へと落ちると、いかにも固そうな地面が、まるでクッションのように柔らかく、城歌の体を受けとめた。
「ふぅ〜っ」
あれだけの高度から落下しながら、怪我1つ負わなかった城歌が、その場でゆっくりと立ち上がる。
「凄いですね…それも“歌力”ですか?」
「・・・っ」
横から聞こえてくる声に、振り向く城歌。
「これはお早いお着きレェ〜♪じゃなくって、でぇ〜っ」
「・・・。」
城歌が振り向くと、そこには城歌の後を追ってきたらしきイチゴの姿があった。
「まぁ〜ったく、あなたのせいで台無しだわぁ〜っ」
城歌が、困ったような表情を見せる。
「私は“月器”と戦いに来たのよぉ〜?なのにぃっ」
イチゴの方を見て、城歌が深々と肩を落とす。
「戦い相手があなたなんてっ…役不足過ぎるファ〜♪じゃなくって、わぁ〜っ!」
「・・・っ」
不満げに言い放つ城歌の言葉に、イチゴが少し眉を引きつる。
「私の名は、青守イチゴ…」
「何ぃ〜?いきなり自己紹介ぃ〜?」
突然、名を名乗り出したイチゴに、城歌が怪訝そうな顔を見せる。
「ああでもぉ〜っ、“青守”ってどこかでっ…」
「我が一族は、御伽界最古にして、最強と謳われる“龍人”一族っ」
「・・・っ」
イチゴの言葉に、城歌の表情が一変する。
「“龍人”っ…」
急に鋭くなった瞳を、イチゴへと向ける城歌。
「そんな私が相手でも…“役不足”、と…?」
「・・・いいえぇっ」
城歌がそっと否定し、楽しげな笑みを浮かべる。
「何だかとっても…燃えてきたファ〜♪じゃなくって、わぁ〜っ!」
「・・・っ」
楽しそうに歌う城歌に、イチゴはゆっくりと拳を構えた。
その頃、武国入口。
「ぎゃあああああああああっっ!!」
必死に逃げている羊スケの後方に、迫り来ているのは、山の上なのに何故か大波。
「ハッハッハっ!!」
高々と笑った波跡が、逃げ惑う羊スケに、両手を向ける。
「“降波薄”っ!!」
――――ザッパァァァァァァ〜〜〜ンっっ!!――――
波跡の両手から放たれる大波。
「げぇっ!?」
前からも大波、後ろからも大波の状態となり、羊スケが頭を抱えて、とりあえず叫ぶ。
「ふぎゃああああああああっっ!!」
とりあえず横へと飛び、前後から迫っていた波から、必死に逃げる。
――――バァァァァァァァァァァーーーンっ!!――――
「クっ…!」
飛び避けた羊スケの目の前で、2つの波がぶつかり合い、大きな音を立てて崩れ落ちる。周囲に激しい水飛沫が飛び、羊スケも全身に水が降りかかった。
「えぇ〜っとっ…」
水と音が止んだところで、羊スケが恐る恐る目を開く。
「ふええぇぇぇっっ!?」
羊スケが目を開くと、目の前の地面に、巨大な穴があいていた。深く抉られたようなその穴が、波跡の力の強力さを物語っている。1発でも喰らえば、羊スケなど一溜まりもない。
「ダメっス、逃げるっス」
すぐに決意を固める羊スケ。
「ああぁ〜でもなぁっ」
決意はしたものの、羊スケがすぐに首を捻る。
「輝矢さん達は大丈夫としてぇっ、ここで逃げたらオトポリ、クビになったりしてっ…そしたら職がぁっ…」
「なぁ〜にゴチャコチャ言ってんだぁ?」
「げっ…!」
悩みこんでいた羊スケの前へと、現れる波跡。
「いえっスねっ!そのっ!ちょっとっ…!」
「何もしてこねぇーんならぁっ、終わらせちまうぜぇっ?」
「クっ…!」
余裕の笑みを見せ、再び両手を向けてくる波跡に、羊スケが表情を険しくする。
「もうこうなったら覚悟決めるっスっ!」
羊スケが意を決した表情で、立ち上がる。
「“羊々ボール”っ!」
両手それぞれに羊々ボールを作りだした羊スケが、前方にいる波跡目がけて、2個の羊々ボールを、勢いよく投げ放つ。
「“降波薄”っ」
――――ザッパァァァァァァァ〜〜〜ンっ!!――――
「あっ」
波跡の放った大波に、あっさりと呑み込まれる2個の羊々ボール。波に沈んだ白の毛玉を見て、羊スケが少し間の抜けた声を漏らした。
「やっぱりぃ…そうっスよねぇ〜…」
引きつった笑みを浮かべた羊スケのもとへ、大きな波が降りかかる。
――――バァァァァァァァァァァーーーーンっ!!――――
「うわああああああああああああああっっ!!」
やって来た大きな波に呑まれ、強く吹き飛ばされる羊スケ。
「うっ…!うぅっ…」
背中を打ちつけるようにして地面へと落下した羊スケが、苦しげな声を漏らす。
「痛ってぇぇ〜っ…」
全身に走る痛みに、思わず率直な言葉を呟く羊スケ。1回喰らっただけだというのに、体中が軋み、もう立つどころか、動けそうにもない。
「俺、やっぱっ…戦闘向きじゃないっスねぇ〜…」
自分を皮肉ったような笑みを浮かべ、羊スケが力なく頷く。
「はぁ〜あっ、オトポリだからって期待して損したぜっ」
倒れた羊スケを眺めながら、波跡が疲れたように肩を落とす。
「とっとと倒して、とっとと次の奴でも探しにいくかなぁ〜っ」
「・・・っ」
倒れ込んだままの羊スケに、両手を向ける波跡。向けられた手を横目で見つめ、羊スケがそっと目を細める。
「結構、短かったっスねぇ〜…俺の人生っ…」
どこか諦めたように呟く羊スケ。
「おふくろっ…泣くかなぁ…」
羊スケが、力のない笑みを浮かべた。
「とっとと死にやがれっ!“降波薄”っ!!」
――――ザッパァァァァァァァァ〜〜〜ンっ!!――――
高々と笑いあげる波跡の両手から、放たれる大波。
「・・・っ」
迫り来る大波に、羊スケがそっと目を閉じた。
―――――バァァァァァァァァァァァーーーーンっ!!――――
「何っ!?」
「・・・っ?」
大きな衝撃音と、波跡の驚いたような声に、目を閉じていた羊スケが、ゆっくりと目を開く。
「あっ…」
すぐ目の前にある人影に、思わず目を見開く羊スケ。
「ゴっ…」
ゆっくりと振り返る人影に、羊スケが声にならない声を漏らす。
「ゴンさんっ…!!」
「よぉっ」
そこに現れたのは、右手に天狼丸を構え、相変わらずの目つきの悪い顔で笑みを浮かべた、ゴンであった。
一方、玄上邸。
「国主様っ!国主様ぁぁぁっっ!!」
煙の立ち込める廊下を、国主の間を目指して、必死に駆ける従者の男。
「屋敷の至るところから火がっ…!今すぐ避難をっ…!うぅっ…!」
国主の間の扉を勢いよく開き、必死に叫ぶ従者であったが、その叫びが終わる前に、流れてきた不可思議な空気を吸い込み、力なくその場に倒れ込んだ。
「・・・。」
倒れた従者を、まっすぐに見つめる武史。国主の間内をよく見ると、倒れているのは、今入ってきた従者だけではない。十数名の従者、そして仕官である老人たちが皆、床に力なく倒れ込んでいた。立っているのは、武史だけである。
「状況は…?」
「はっ!」
武史が誰にともなく問いかけると、武史のすぐ後方に、1人の従者が現れた。
「予定通りっ、アリス様を追って、竹取輝矢もこちらへ向かってきておりますっ!」
「そうっ…」
従者の言葉を聞き、武史がゆっくりと頷く。
「後…少しだね…」
武史が、冷たい瞳で呟いた。
其の六十八へつづく。
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