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鬼斬り かぐや <原作>
作:千風



第26章 玉手箱☆パニック


様々な波紋を残した、御伽砂漠の一件。
死の淵から目覚めた輝矢に、千鶴の姉・万亀とその連れ・浦島から、新たな依頼が入る。
海底都市へと赴いた輝矢たちは、乙姫の大切なもの“玉手箱”を、浦島とともに探すこととなってしまった。
分かれて玉手箱を探していた輝矢たちとハチたちであったが、それぞれに“玉手箱”と大きく書かれた箱を持つ男を捕まえ、取り戻した玉手箱を、輝矢とハチがそれぞれ開封した。

――――ボォォォォォ〜〜〜ンっ!――――

開かれた玉手箱から勢いよく噴き出した白い煙。
『・・・っ』
あまりの煙量に、少し身を屈めていた万亀と浦島が、ゆっくりと顔を上げ、目を開く。
「大丈夫…?玉之介…」
「おうっ、それより竹取さんはぁっ…」
万亀と浦島が、白い煙に包まれた輝矢の方を見る。徐々に晴れていく煙。
『あっ…』

「うぅわっ!もうっ!何々だよぉ〜っ?」
玉手箱から噴き出した白い煙を、煩わしそうに振り払うユキジ。
「どないしたんやぁっ!?」
そこへ、遠くで待機していたモンキが駆け込んでくる。
「はっ!まっ…まさかっ…!カメの呪いっ!?」
「んなわけないでしょっ…」
真剣な表情で言うモンキに、ユキジが冷たく否定の言葉を投げかける。
「それより桜時はっ…?」
「イヌっ…!?」
モンキとユキジが見つめる中、徐々に白い煙が晴れていく。
『・・・へぇっ!!?』
思わず大きく目を開けるモンキとユキジ。
「ふぅ〜っ」
晴れた煙の先、開けられた玉手箱の前に座っていたのは、キジのユキジでも抱えられそうなほどに小さな体の1匹の“ネズミ”。真っ白な体に、長い尾を持ち、前歯が鋭く出ている。
「ボク、何か異常に嫌な予感っ…」
「奇遇やなっ…俺もやっ…」
そのネズミを見つめ、顔を引きつりまくるモンキとユキジ。
「あっ!おいっ!由雉っ!別に全っ然っカメの呪いなんて降りかかんなかったじゃねぇーかぁっ!」
「いやっ…十分、降りかかってるけど…」
「あちゃ〜っ!やっぱイヌコロかぁ〜っ!」
「はぁっ!?」
頭を抱える2匹を見て、そのネズミは、眉を引きつり、首を傾げる。
「お前らっ、何ワケわかんねぇーこと言ってっ…!」
「はいっ」
「・・・っ?」
ネズミの前に、鏡を突き出すユキジ。
「鏡ぃ〜っ?一体、何を見ろっつっ…」
怪訝そうにしながら、鏡を覗き込んだネズミが、鏡に映る自分の姿に、口を大きく開く。
「ぬっきゃああああああああああああああっっっ!!!」
ネズミの叫び声が、海底都市に響き渡る。
「あぁ〜あ〜、イヌがまさかネズミになるなんてなぁ〜ほんま開けんで良かったぁっ」
「リスとかに変身して女の子人気上がったかもね」
「うおおおぉぉっ!!もう1個ないかぁっ!?玉手箱ぉぉぉっっ!!」
ユキジの一言に目覚め、玉手箱を探し始めるモンキ。
「んっ?」
モンキが玉手箱探しをし、ネズミとなったハチが落ち込んでいる中、ユキジは煙がすべて出た玉手箱の中に入っている、小さな白い紙きれを手に取った。何も書かれていない面から、裏を向ける。
「・・・“ハズレ”…」
紙に書かれているのは、“ハズレ”の3文字。
「ハズレっ?」
「玉手箱にハズレとかあるんかぁっ?」
ユキジの持っている紙を覗き込み、ハチとモンキがそれぞれ呟く。
「・・・。」
2匹の間抜けなコメントを聞きながら、ユキジが気難しい表情を見せる。
「とにかく1回、輝矢たちと合流しよっかぁ〜」
ハズレの紙を持ち、足を立てるユキジ。
「今回の件、ただの箱探しってわけじゃなさそうだしっ…」
『へっ…?』
ユキジの言葉に、モンキとネズミとなったハチは、目を丸くして首を傾げた。

『・・・。』
しかし、輝矢たちと合流した3匹を待ち受けていたのは、もっと衝撃的な光景であった。
「そうですか…アナタたちの玉手箱にもハズレ紙が…」
そう言うのは、長い黒髪にあどけない大きな黒目の、6,7歳くらいの1人の少女。幼いわりに、妙に大人びた、落ち着いた口調をしている。
「どうやら…私たちの玉手箱探しを、邪魔しようとしている者がいるようですね…」
『・・・。』
「・・・っ?」
少女を見つめ、呆然としている3匹に、少女が少し眉をひそめる。
「何ですか?人が珍しく真面目にお話してあげているというのに」
「ああぁ〜っ…さらに異常に嫌な予感っ…」
「奇遇やなぁ〜っ…俺もやっ…」
「かっ…かかかかかかっ…かぐっ…輝矢っ…かっ…?」
頭を抱えるモンキとユキジの横から、恐る恐る問いかけるネズミのハチ。
「はぁっ?」
少女が勢いよく顔をしかめる。
「何を言っているのです?当たり前でしょう?」
「ええぇぇぇぇぇぇっっ!!?」
「はぁっ…やっぱりっ…」
「ちっこい輝矢んもかぁ〜わいいぃ〜っ!」
「そういう問題じゃねぇーだろっ!!」
少女の答えに、目が飛び出そうなほどに驚くネズミハチと、深く頭を抱えるユキジ。暢気に目をハの字にするモンキに、ネズミハチが勢いよく怒鳴りつける。
「んっ?」
そのネズミを見て、眉をひそめる少女というか輝矢。
「そのネズミは何です?それにハチが見当たらないようですがぁ」
そう言って、徐に見慣れないネズミに手を伸ばす輝矢。
「ぎゃあああああああっっ!!俺に触るんじゃねぇぇぇっっ!!」
「あっ…ハチっ…」
勢いよく後退しながら怒鳴るネズミを見て、輝矢がハチであることを認識する。
「でも何故、ハチがネズミに…?」
「はいっ」
「んっ?」
首を傾げる輝矢へと、ユキジが鏡を差し出す。
「何です?キジ」
「見ればわかるよ。桜時がネズミになった理由っ」
「・・・っ?」
ユキジの言葉に戸惑いながらも、輝矢がゆっくりと鏡を覗き込む。
「・・・。」
映し出された幼い少女の姿に、輝矢が少し固まる。
「おお、誰です?こんな所に、こんな愛らしく、気立ての良さそうな美少女を連れてきたのはっ」
「自分てわかった上で言ってるでしょ、それっ…」
輝矢の言葉に、呆れた表情を向けるユキジ。
「でも何で俺がネズミになって…」
「輝矢んが子供にぃ〜っ?」
「フフフっ…」
『うっぎゃああああああああっっっ!!』
輝矢とハチを襲った変化に疑問を抱いていたハチとモンキが、背後から不気味な笑い声とともに現れた万亀に、悲鳴をあげ、慌てて輝矢とユキジの後ろに隠れる。
『ブルブルブルっ…!カメぇっ!カメぇっ…!怖いぃ〜っ!』
「バカっ…?」
後ろで震えるハチとモンキに、呆れた表情を見せるユキジ。
「ってか、いたんだ…」
「フフフっ…ええっ…貴方がたが来た時からずっと…フフフっ…」
「あっそう…」
いちいち不気味な万亀に、ユキジはどこか疲れたように肩を落とした。
「でぇも何で私が子供になって、ハチがネズミになど…」
「“弱ガス”…というものがありましてね…」
「・・・っ?」
首を傾げていた幼い輝矢が、万亀の言葉に反応する。輝矢と同じように、3匹も一斉に万亀を見た。
「弱ガス…?」
眉をひそめる輝矢。
「ええ…フフフっ…それを吸った者は…自分の何かしらを弱められてしまうとか…フフフっ…」
「弱められてっ…?」
輝矢とハチがそれぞれ、相手の姿を見る。確かに子供は大人より弱く、ネズミはイヌより弱い。
「あっ…!じゃあまさかっ…!ハズレ玉手箱から噴き出したあの煙っ…!」
「弱ガスであった可能性が高いですね…フフフっ…」
思いついたように言うハチに、万亀が不気味に頷く。
「それでかぁ〜っ」
「ハチ、人化はできるのですか?」
「いやっ…それが…」
「出来ないのですね」
桜時の姿になれなければ、花力も村雨丸も使うことが出来ない。確かに弱らされている。
「まぁ…時間が経てば…弱ガスの効果は切れるはずですから…フフフっ…」
「それまではネズミのまんまで我慢するしかねぇーってことかっ…トホホっ…」
「ネズミになっても好きですよ、ハチ」
「だあああああっっ!!うっせぇぇぇっっ!!」
がっくりと肩を落としたハチに、さらりと告白する輝矢。輝矢の告白に、ネズミは顔を真っ赤にして怒鳴り返す。少女とネズミの姿になっても、この光景に変わりはない。
「なぁ〜なぁ〜っ!」
『・・・っ?』
呼ばれる声に、輝矢たちが振り返る。
「そんなことよりぃ〜っ、とっとと本物の玉手箱、探してくんなぁ〜いっ?」
『・・・。』
そう言い放ったのは、空のような上方の海に釣り竿を伸ばしている、何とも暢気な浦島。釣りを楽しみながら、まるで他人事のような態度を取っている。
『お前が弱ガス吸えば良かったのにっ』
「ええぇぇっ!?万亀ぃぃ〜っ!何かヒドいこと言われてるぅぅ〜っ!!」
「フフフっ…玉之介…ショック…」
泣きつく浦島の頭を撫でながら、不気味に微笑む万亀。
「これからどうする?輝矢っ」
「もう1回分かれて玉手箱探すしかねいでしょうね」
ハチの問いかけに、輝矢が肩を落としながら答える。
「えぇ〜っ?」
「私も嫌なんですから我慢しなさい、キジ」
非難するような声をあげるユキジに、輝矢が説得なのか強制なのわからない言葉を言い放つ。
「カメ、そのバカのお守りはアナタがしなさい」
「バっ…!バカぁっ!?万亀ぃぃ〜っ!」
「フフっ…バカのお守り…了解っ…」
輝矢の厳しい言葉に悲しむ浦島の横で、しっかりと頷く万亀。
「ハチはキジと、サルは私と来なさい」
「あれっ?珍しい組み合わせだねぇ〜」
輝矢の割り振りに、少し目を丸くするユキジ。
「私とハチはこの状態ですからね。何かあった時用に、戦力は分散しておきます」
「なるほど」
「私と一緒にいられないからって、チューチュー泣かないで下さいね、ハチ」
「泣かねぇーよっ!!」
何となく波乱の予感もしながら、玉手箱捜索2回戦が始まった。

玉手箱捜索隊。ハチ・ユキジチーム。
「ふぅ〜っ」
海底都市の上方、空のように広がる海。乙姫により張られたという膜のすぐ下を、1羽のキジが羽根を広げ、飛んでいる。
「やっぱ海中だからかなぁ〜、なぁ〜んか飛びにくいやぁ〜」
動かす羽根に少し不自由さを感じながら、海底都市上空を徘徊するユキジ。
「まぁでも桜時がネズミになったお陰だねぇ〜こうやって上から捜索できるのはぁ〜」
ユキジの背の上には、小さな小さな1匹の白いネズミ。
「何か見つけたらすぐ言ってよぉ〜っ?桜っ…」
「ブルブルブルブルっ」
「・・・桜時っ?」
上空から玉手箱を探すどころか、小さな体をさらに縮ませて、身を包めているハチに、ユキジが眉をひそめる。
「もしかしてぇ〜っ…高所恐怖症っ?」
「ブルブルブルブルっ…!高いの怖ぁ〜いっ…!高いの怖ぁ〜いっ…!」
「・・・。」
答えを聞かずともわかるその反応に、ユキジが思いきり表情を引きつる。
「はぁっ…降りよっ…」
こうして空からの捜索は、あっさりと断念されたのであった。

一方、輝矢・モンキチーム。
「はぁ〜あぁ…まぁた箱探しかぁ…めんどいなぁ」
見るからにダルそうに人混みを歩くモンキが、疲れたように声を漏らす。
「そんなに面倒なら、お1匹で海の藻屑となっていただいて結構ですよ?」
「いっやぁぁ〜〜んっ!輝矢んとなら、どこまででも付いてくでぇ〜っ!!」
前方を歩く幼い少女・輝矢に冷たくあしらわれるが、モンキは明るい笑顔で輝矢の後を追いかけていく。
「それにぃ〜今のミニミニプリチーな輝矢ん、1人にして、誘拐でもされたら大変やしぃっ!」
「アナタに保護者などしてもらわなくても、私は誘拐などされませっ…」
――――ドンっ!――――
「あっ!」
「輝矢んっ!!」
輝矢が多く行き交う人々の中の1人の男とぶつかる。幼い輝矢は大人の体に押され、少し前に倒れそうになるが、足に力を入れて何とか踏みとどまる。
「どっこ見て歩いてんだっ!気ぃ付けろっ!!」
「はぁっ…?」
不機嫌そうに言い放つ、ぶつかってきたその男に、勢いよく眉を引きつる輝矢。
「私にそんな口を聞いてっ…ただで済むと思っ…!」
「ホンマすんませぇ〜んっ!この子ぉ、まだ子供やしぃ、大目に見たって下さいぃ〜っ!」
「ケっ!」
ケンカを売ろうと、というな殴りかかりでもしそうな勢いの輝矢の口を押さえこみ、深々と頭を下げるモンキ。輝矢とモンキに悪態づきながら、男はとっととその場を歩き去っていった。
「ふぅ〜っ、命拾いしたなぁ〜あの男っ」
「一般市民相手なんですから、ちゃんと手加減くらいしますよっ」
「輝矢んなら手加減したってあの世行きやでぇ〜っ!でも、まっ!」
――――ボォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
モンキの体を白い煙が包んでいく。
「ほいっ!」
「えっ…?」
煙の中から現れた門貴が、爽やかな笑顔で、幼い輝矢の体を軽々と抱え上げる。
「サルっ…!何をっ…!」
「今日は滅多にないチャンスですからお守りしますよぉ〜っ!かぐや姫っ!」
「はぁっ?って、ああっ!!」
「うぎゃんっ!!」
何かを見つけたらしき輝矢が、門貴の頭を下に押さえ込み、勢いよく身を乗り出す。
「痛いっ!痛いっ!痛いっ!かっ…輝矢んっ…!首がっ…!首がもげるぅ〜っ!!」
「玉手箱っ…!」
「へぇっ!?」
輝矢の言葉に敏感に反応し、門貴がもげそうになっている首を必死に動かして、輝矢の指差している方に顔を向ける。
「んんっ?……ああぁぁっっ!!!」
輝矢の指差した方向には、混み合う人々の中で、またもや“玉手箱”と大きく書かれた箱を持っている男。男を見つけ、門貴が大きく声を出して首を立てる。
「ホンマに玉手箱やぁ〜」
「しかし、またハズレかも知れませんね…」
目を見開く門貴に対し、表情を曇らせる輝矢。
「サル、一先ず、あの玉手箱の確保をっ…!」
そう言って、輝矢が門貴の腕の中から飛び降りる。
「かっ…輝矢んっ…」
「何ですっ?早くしないと、玉手箱を見失ってしまっ…」
「あっ…あそこっ…」
「へっ?」
門貴が指差した方を輝矢が見る。
「なっ…!!」
その方向には、人混みの中に、またもや“玉手箱”と書かれた箱を持った男。
「もっ…もう1人っ…?ではどちらかがハズレでっ…」
「ああっ!あそこっ!そこっ!ああっ!あっちにもっ!」
「はぁっ!?」
次々と指を差していく門貴に、戸惑うように声をあげる輝矢。しかし、確かにその一方向、一方向、到るところに“玉手箱”と書かれた箱を持った男が歩いている。
「そっ…そんなっ…」
その状況に、呆然と呟く輝矢。
「どっ…どないなっとんねぇ〜んっ!!」
思わず頭を抱える門貴。
「どれが本物っ!?一体、どいつを狙ったらっ…!」
――――バギコォォォォォォーーーンっっ!!――――
「へっ…?」
聞こえてくる破壊的な音に、門貴が頭を抱えたまま、ゆっくりと振り返る。
「ふぅっ」
「きゅぅぅぅぅぅ〜〜っ」
「・・・。」
門貴の振り返った先には、かなりノビきった様子の男と、玉手箱を手にした輝矢。
「とにかく全部、回収しましょう」
「・・・子供になっても、強さに変わりはなしってことかぁ…」
控え目に問いかける輝矢を見ながら、門貴が少し呆れた表情で肩を落とした。
「やっぱお守りできそうにないわぁ〜かぐや姫っ」
「はぁっ?」
門貴の言葉に、輝矢はまたもや首を傾げた。

「ふっはぁ〜っ!これで全部かぁっ!」
――――カランカランっ!カランっ!――――
そう言って門貴が、山積みになっている玉手箱の上に、さらにもう一個、玉手箱を投げ上げる。
「ったく何個あんねぇ〜んっ!」
門貴が疲れきった様子で、その場に倒れ込む。それもそのはず、集めた玉手箱は100個以上。行き交う人々の5人に1人は玉手箱を手にしており、それを1つ残らず回収するのは、かなりの労働であったのだ。
「さすがにこの量は、作為的なものを感じますね」
玉手箱の山を見上げながら、真面目な表情で呟く輝矢。
「また弱ガスが噴き出してくるかも知れませんから、むやみやたらに開けるわけにもいきませんしっ…」
「弱ガスっ!?」
輝矢の言葉に、門貴が素早く反応する。
――――リスとかに変身して、女の子人気上がったかもねぇ〜――――
思い出されるユキジの言葉。
「ヌフフっ…女の子人気っ…女の子人気っ…」
あまり品の良くない笑みを浮かべながら、ゆっくりと玉手箱の1つに手を伸ばす門貴。伸ばした手が、山積みの玉手箱の1つを掴む。
「よしっ…!」
「何をやっているのです?」
「どはあああああぁぁぁっっ!!!」
背後からの輝矢の声に驚いた門貴が、そのまま勢いよく玉手箱の山の中へとダイブする。
――――ドンガラガッシャンバァァァーーーンっ!――――
景気よく崩れ落ちる、玉手箱の山。
「痛たたたたたっ…」
「痛い…ったくっ…何をやってくれているのですかっ」
輝矢と門貴は、玉手箱の崩落に巻き込まれ、玉手箱の中に埋め尽くされていた。2人が頭を痛そうに押さえながら、ゆっくりと起き上がる。
「ああっ!ごっめぇ〜んっ!輝矢んっ!大丈夫かぁ〜っ?」
立ち上がった門貴が、玉手箱に埋まっている輝矢の小さな体を、再び軽々と持ち上げる。
「アナタとハチを組ませなくて良かったですよっ…」
「アハハっ!貧弱なネズミやったら即死しとうかもやもんなぁ〜っ!」
「貧弱で悪かったなっ!」
「んっ?」
聞き覚えのある怒声に、輝矢と門貴が同時に振り返る。
「あっ、ハチぃ〜っ!」
振り返った先には1羽のキジと、その頭に乗った1匹のネズミ。そのネズミに向い、輝矢が門貴に抱っこされたまま、嬉しそうに手を振る。
「うわぁ〜っ、何か運動会の親子みたいだよぉ〜っ」
「いやんっ!ユッキーっ!そこは禁断の匂いチラリの素敵な年の差カップルって言ってくれなっ!」
「誰がですかっ」
ノリノリでユキジにダメだしをする門貴を睨みつけながら、輝矢が地面へと降りる。
「ったくっ…」
ユキジの頭の上で、肩を落とすネズミハチ。
「お気楽なもんだぜっ…」
「ああぁ〜っ!そう言うけどなぁっ!俺ら、ちゃ〜んとたんまり玉手箱をぉっ…!」
「玉手箱見つけて来たよぉ〜“担羽”っ」
――――ドサドサドサドサっ!!――――
「へっ…?」
ユキジが茶色の羽根を上に向い投げると、舞い上がった羽根から、次々と玉手箱が落ちてくる。輝矢と門貴の集めた山積み玉手箱の横に、さらに高い山を築いてどんどん積み上がっていく玉手箱に、門貴の目が点になる。
「ざっと150個ってとこかっ?」
「集めるの、苦労したんだからぁ〜っ」
「うっ…ウソ…やろっ…?」
見渡す限りの玉手箱に、唖然と立ち尽くす門貴。
「フフフっ…見つけたっ…」
「ぎゃああああああああああっっっ!!!」
またしても背後から、不気味に微笑んで現れる万亀に、門貴が飛びあがって、すぐさま輝矢の後ろに逃げ込む。
「カメ」
そこには、浦島と万亀の姿。
「と、ただのバカ」
「万亀ぃぃぃぃぃ〜〜〜っっ!!!」
「フフフっ…玉之介…ドンマイ…」
輝矢の心ない言葉に傷つき、泣きつく浦島を、万亀が不気味に励ます。
「そんなことより…」
「えっ!?そんなことっ!?」
「玉手箱…見つけてきましたよっ…フフフっ…」
「へっ…?なっ…何か嫌な予感がっ…」
傷ついている浦島を無視して進める万亀の言葉に、門貴が顔をしかめる。
――――ドサドサドサァァっ!!――――
「やっぱりっ…」
案の定、玉手箱の山が2つから3つになった。万亀と浦島が持ってきた玉手箱も加えると、最早、何個あるのかもわからない。
「どっ…どないなっとんねぇ〜んっ…」
門貴がもう疲れた様子で、その場に座り込む。
「持ってた人さぁ〜、“これを持って街を歩くよう、金を貰い頼まれた”って皆、口を揃えて言ってたよぉ〜」
「誰に頼まれたかはわからないと言っていましたよっ…フフフっ…」
「どうやら…私たちの玉手箱探しを、邪魔したい方がいらっしゃるようですね…」
ユキジと万亀の言葉に、輝矢が気難しい表情を見せる。
「とにかく、コイツらん中に本物があんのか確かめないとなぁ〜」
「桜時、開けてみてよぉ〜次はミジンコくらいになっちゃうかもっ」
「絶対、開けねぇーっ!」
ユキジの言葉に、開けないことを強く誓うハチ。
「でぇも開けねぇーとハズレかどうかわかんねぇーしなぁ〜」
「フフフっ…私に任せて下さいっ…」
「へっ…?って、どわああっ!!」
ハチが振り返ると、妙にゴツいガスマスクを装着した万亀の姿があった。
「どっ…どっからそんなの、持ってきたんだよっ…?」
「フフフっ…企業秘密です…」
「あ、そう…」
ハチの素朴な疑問に、万亀が不気味に微笑み返す。その答えに、特に突っ込もうとはせず、とりあえず流していくハチ。
「うおおおっ!!かっけぇっ!!万亀っ!俺もそれ欲しいっ!!」
「いずれ…時が来れば貴方に継承するわ…玉之介…」
「やったぁっ!!」
「・・・もう勝手にしろっ…」
ガスマスクに目を輝かせる浦島と、ガスマスクを重要アイテムかのように語る万亀。ハチは最早、突っ込む気にもなれずに、頭を抱えてそのやり取りを見守った。
「ふぅ…」
――――ボォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
『のおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!』
いきなり無造作に玉手箱を開ける万亀。吹きあがる白い煙に、門貴とユキジが、輝矢とハチを引っ張り、必死にその場から離れる。
「ガス吸うとこやったやないかぁっ!あっぶないなぁっ!!」
「開けるなら、ちゃんと開けるって言ってよっ!!」
「“ふぅ”って…言いましたが…?」
『全然、“開けます”の合図になってねぇーっ!!』
自分のペースで生きる万亀に、ハチと門貴が勢いよく怒鳴りあげる。
「“ハズレ”…次ね…」
2人の怒鳴りを気にすることもなく、次の玉手箱へと手を伸ばす万亀。甲羅から短い手をゆっくりと伸ばし、やっと山積みの玉手箱の1つを取り、それをゆっくりと自分の手元に近づけては、またさらにゆっくりとした動きで、玉手箱の蓋を開ける。
――――ボォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
「“ハズレ”…」
またしてもハズレと書かれた紙を見つけ、万亀が繰り返し、玉手箱を開けていく。
「このスピードでっ…あの玉手箱を全部、開けていくわけっ…?」
「おぉ〜いっ!もうちょいスピードあげられねぇーのかぁっ?」
顔を引きつるユキジに代わり、ハチが万亀を少し急かす。
「それは無理っ…」
『へっ…?』
即答する万亀に、目を丸くする3匹。
「だって私は…カメ…だから…フフフっ…」
『・・・。』
万亀の最もな答えに、反論することもできずに3匹が固まる。
「気長に待ちますか」
『はぁ〜〜っ…』
輝矢の言葉に、3匹は一斉に深い溜息をついた。
「・・・。」
溜息をつく3匹の横で、幼い輝矢はどこか浮かない表情を見せていた。

数時間後。
海中なので太陽が沈んだかどうかはわからないが、もう夜が来たのだろう。外を歩く街の人々も徐々に減り始めていた。そんな中、万亀の玉手箱開けはまだ続いていた。
「“ハズレ”…」
――――ボォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
「“ハズレ”…」
「ふわぁ〜あぁっ…」
繰り返される万亀のハズレコールと、玉手箱から煙が噴き出す音を聞きながら、少し眠そうに欠伸をするハチ。
「ぐがぁっ!ぐがぁっ!」
「うるさい」
「ぐぎゃああああああああっっ!!」
少し離れたところで居眠りをしているモンキを、輝矢が蹴って無理やり起こす。
「はぁっ…ねぇ〜っ、後何個くらいぃ〜っ?」
深々と溜息をつきながら、ユキジが万亀へと問いかける。
「残念ながら…まだまだです…フフフ…」
「そうっ…」
「後3個ですから…」
「すっげぇラストスパートっ!!
「どこがまだまだっ!?」
万亀の言葉に、ハチとユキジが思わず立ち上がりながら、突っ込みを入れる。
「っつーか何で、んな早いんだっ?あんなにあったのにっ…」
「フフフ…それはですね…」
――――ボォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
「あっ!ハズレぇ〜っ☆」
『へっ…?』
「玉之介が手伝ってくれたから…フフフっ…」
万亀の横には、玉手箱開けを手伝っている、ガスマスクも何も装着していない無防備の浦島の姿。蓋を開け、
思いきり白い煙を被っている。
「おいおいおいっ!あれじゃあ思いっきり弱ガス吸っちまうんじゃっ…!」
「さてっ、次ぃ〜っ!」
「んっ…?でもその割に、何も変わってないようなっ…」
いつもと何ら変わりない様子で、次の玉手箱を開けようとしている浦島を見て、ハチが眉をひそめる。
「あっ!またハズレぇ〜っ☆」
「フフフ…玉之介は元々弱いから…」
「これ以上、弱らせようがないので、弱ガスが効かないというわけですか」
「ええぇ〜っ!?ある意味、強いじゃねぇーかっ!」
万亀と輝矢の言葉に、ハチが驚いたように声をあげる。
「防御は最大の攻撃なりぃってなぁっ!」
「それ、何かちょっと違くないっ…?」
輝矢の蹴りから立ち直ってやってきたモンキに、ユキジが呆れた視線を向ける。
「万亀ぃ〜っ!こっち全部、ハズレだったぞぉ〜っ!」
「そう…お疲れ様…玉之介…」
「いっやぁ〜っ!それほどっでもぉ〜っ!」
万亀に労いの言葉をもらい、浦島が上機嫌となっている中、万亀がゆっくりと振り向き、目の前に置いてある玉手箱と向き直る。浦島が2個の玉手箱を開けた。これが最後の1個。
「ではっ…」
その最後の1個に、手をかける万亀。
「いよいよ最後の1個ですか…」
「うんっ…」
『・・・っ』
輝矢たちが、蓋の開かれる最後の玉手箱を見つめる。
――――ボォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
噴き上がる白い煙。
「・・・。」
万亀が煙の出た玉手箱から、小さな紙切れを取り出す。
「・・・“ハズレ”…」
『だっはぁぁぁぁぁ〜〜〜っ…』
読み上げられるその文字に、一気に肩を落とすハチと門貴。
「結局…全部、ハズレでしたね…フフフっ…」
万亀が不気味に微笑みながら、装着していたガスマスクをはずす。
「あぁ〜んなに集めたのに全部ハズレぇ〜っ!?」
「もうっ!どないしたらええねぇ〜んっ!」
「はぁっ…何かこう、一気にやる気なくしたっ…」
「ですねぇっ…」
これだけ集めて全部ハズレだったのなら、もう一生アタリなど見つからないような気がして、輝矢たちは諦めきった様子でその場に座り込んでしまう。
『はぁっ…』
一気に暗くなる、その場の雰囲気。
「諦めるなっ!!お前らっ!!」
『・・・っ?』
聞こえてくる威勢のいい声に、暗いムードだった輝矢たちが、眉をひそめ、顔を上げる。
「諦めなければきっと必ず道は開くさっ☆」
『・・・。』
挫けていた輝矢たちにそう声をかけたのは、きらきらと瞳を輝かせた、ハツラツとした表情の浦島であった。そんな浦島を見て、皆が固まる。
「さぁっ!またゼロからのスタートだっ!」
目を輝かせた浦島が、夜空のように光る上方の海を指差す。
「もう1度、玉手箱を探してくれっ!!」
『お前が探せやぁぁぁぁぁーーーーっっ!!!』
「ぎゃあああああああああああっっっ!!!」
勝手すぎる浦島に、さすがにキレた面々がそれぞれに浦島を攻撃した。ハチに噛みつかれ、モンキに殴られ、ユキジに嘴で突かれた浦島であったが、やはり輝矢の蹴りが一番強力だったようで、道のかなり端の方まで吹き飛ばされていった。
「ぎゃふんっ!」
「玉之介…KO…フフフ…」
倒れ込んだ浦島を見て、万亀は特に心配する様子もなく微笑む。
――――カランカランっ!カランっ!――――
『・・・っ?』
浦島が倒れ込むと、浦島の持っていた大きな餌ツボの中から、何かが勢いよく地面へと転がり落ちた。
『んっ…?』
落ちたものへと目をやる輝矢たち。それは、光沢の美しい、金色の模様の施されている、黒い小箱。輝矢たちが小箱の近くへと駆け寄っていく。蓋の表面には、金色の墨でこう書かれていた。
『たっ…“玉手箱”ぉぉぉぉっっっ!!!?』
その文字に、ハチとモンキが大きく目を見開く。
「なんで浦島の餌ツボから玉手箱がぁっ?」
「さぁ〜っ?」
「またハズレとちゃうんかぁ〜っ?」
「んん〜っ」
戸惑い疑いながらも、その小さな玉手箱を手に取る輝矢。
「万亀」
「はい…フフフっ…」
輝矢からその玉手箱を受け取り、再びガスマスクを装着した万亀が、ゆっくりとその蓋に手をかけた。
『・・・っ』
――――パカっ…――――
皆が息を呑む中、玉手箱の蓋が開かれる。
――――しぃぃぃぃぃぃ〜〜〜んっ……――――
しばらく流れる、沈黙。
「ガス…出ぇへんなっ…」
「うん〜中身はっ…これはっ…?」
『・・・っ?』
煙の出なかった玉手箱を覗き込んだユキジが、少し驚いたように目を見張る。その由雉の様子に、続けて玉手箱の中を覗き込む、輝矢たち。
『・・・石っ…?』
玉手箱の中に入っていたのは、ほんのりと光る赤い原石であった。採掘されたところのような歪な形ではあったが、その光は何とも美しい。その石が秘めているパワーのようなものを感じさせる。
「これって…」
「フフフっ…」
『うっぎゃあああああああああっっっ!!!』
至近距離で微笑んでくる万亀に、驚き飛び上がるハチとモンキ。
「聞いたことがありますね…乙姫様の家系に…先祖代々伝わるという…“空気石”…」
「空気石っ…?」
万亀の言葉に、輝矢が眉をひそめる。
「その石の力を借りて…乙姫様は海底都市に膜を張り…我らに空気をもたらすそうです…フフフっ…」
「空気をっ…」
――――じゃあこの人たちも乙姫の大切な“玉手箱”を探してくれますのぉ〜っ!?――――
「本当に大切なものだったのですね…」
乙姫の言葉を思い出し、輝矢が少し考え込むように呟く。
「やったぁぁっ☆ついに念願の玉手箱ゲットぉぉぉっ!!」
「あっ」
輝矢の手から玉手箱をかすめ取り、嬉しさ全開で掲げる浦島。
「これでぇっ、きっと乙姫ちゃんもぉ〜っ!グフフっ!」
玉手箱を抱え、浦島があまり品の良くない笑みを見せた。
「良かったわね…玉之介…」
「うんっ☆早速、乙姫ちゃんのところにっ…!」
「ちょい待ちぃ〜っ!!」
「へぇっ?」
早速、竜宮城の乙姫の元へ玉手箱を届けようと、万亀の背中に乗り込もうとした浦島を、モンキが勢いよく呼びとめた。浦島が間の抜けた表情で振り返る。
「何ぃ〜っ?」
「どう考えてもおっかしいやろっ!」
「そうだっ!何で盗まれたはずの玉手箱が、お前の餌ツボの中に入ってたんだよっ!?」
「そっ…それはぁ〜っ、泥棒が俺の餌ツボに隠したぁ〜からっ?とかっ☆」
「いくら灯台下暗しとは言っても、餌ツボの中に箱が入ってて気づかないなんて有り得ないでしょ〜っ」
「んっ…んなこと言われてもっ…」
鋭い瞳を向けてくるハチ、モンキ、ユキジに、最初は軽い笑みで答えていた浦島であったが、徐々に気まずそうに俯いていく。
「本当は…アナタが盗んだのではないですか…?」
「えっ…?」
向けられる輝矢の鋭い瞳に、浦島が戸惑うように声を出す。
「せやせやぁ〜っ!乙姫ちゃんにええとこ見せるために、自作自演したんやろぉ〜っ?」
「ボクたち呼んだのも、見つけたっぽくするためだったんじゃないのぉ〜?」
「とっとと白状しろっ!」
「えっ?えっ…!?」
次々と向けられる3匹の言葉に、戸惑いから焦りの表情となる浦島。
「ちっ…違うっ!!俺は何もっ…!」
「きゃああああああああああああああああああっっっ!!!」
『・・・っ!』
聞こえてくる悲鳴に、一斉に振り返る輝矢たち。
――――バァァァァァァァァーーーンっ!!――――
『なっ…!?』
輝矢たちが振り返った途端、近くに並ぶ家の一軒が粉々に崩れ去った。
『グガァァァァァァァァァァっっっ!!!』
『・・・っ!』
崩れ去った家から、輝矢たちのいる広い道へと姿を見せる、巨大な生き物たち。
「きっ…“鬼人”っ…!?」
それは、背中からまるで羽根のように、禍々しい鰭を生やした、青色の皮膚の5匹の鬼であった。
「レベル5・青鬼っ…」
輝矢は5匹の鬼を見上げながら、厳しい表情で呟く。
「青鬼っ!?5匹もぉっ!?」
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
素早く人化した門貴が、如意棒を構えながら、少し焦ったように声を出す。
「ひいやああぁぁぁぁぁっっ!!万亀ぃぃぃぃっっっ!!!」
「フフフ…玉之介…パニック…」
玉手箱を抱いたまま、涙を滲ませ、頭を抱える浦島に対し、特に動じた様子のない万亀。
「輝矢んっ…!」
「とにかく場所を変えましょうっ…!ここで戦っては街に被害が出るっ…!」
「りょ〜かいっ!」
「へっ?」
輝矢の指示にヘラヘラとした笑みで頷くと、門貴が素早く輝矢を抱え上げた。
「またアナタはっ…!」
「今日の俺は輝矢んのお守り役やからねぇ〜っ!」
「誰がお守り役ですっ。この道を抜けたところに広い草原がありました!そこまで行きましょうっ!」
「了解っ!」
門貴が左手に輝矢を抱えたまま、右手で如意棒を構える。
「如意棒・第1の舞っ…“空”っ…!」
――――ビュウウゥゥゥゥゥンっ!――――
『グガァァァァァァァっっ!!』
門貴の放った一陣の風が、5匹の青鬼たちの間を駆け巡り、注意を誘う。
「“鬼さんこっちらぁ〜♪”やでぇっ!」
青鬼たちの注意を引き、草原への道を駆け出す、輝矢を抱えた門貴。
「ユッキーっ!」
「了解ぃ〜っ、振り落とされないでねぇ〜桜時ぃ」
「まっ…またっ…空中飛行かよっ…!」
小さな体を縮めながら、かなり不安げな表情を見せて、ユキジの頭の上へと乗り込むハチ。ユキジが羽根を広げ、上方へと飛び上がる。
「はぁっ…と、いうわけで、乗せる余裕なさそうなんだけどぉ〜っ?」
飛び上ったユキジが、万亀とその後ろで震えている浦島へと声をかける。
「ええぇぇぇぇ〜っ!?乗せてってくれないのぉっ!!?」
「大丈夫ですよ…フフフっ…」
焦る浦島に対し、どこか自信のある素振りで、不気味に微笑んで見せる万亀。
「私の走りはチーターよりも速いですから…フフフ…」
「とてもそんな風には見えないけど…」
スピードに自信を覗かせるカメに、呆れた表情を見せるユキジ。
「じゃっ、知らないよぉ〜っ」
「ああっ…!!」
鬼人の元へと駆けていくユキジに、浦島が救いを求めるように手を伸ばした。しかし手は届くことなく、ハチを乗せたユキジは門貴や輝矢の元へと行ってしまう。
「万亀ぃぃ〜っ!」
「フフフ…大丈夫よ…玉之介…」
泣きつく浦島に、優しい微笑みを向ける万亀。
「貴方が私の盾になるから…フフフっ…」
「ああ、そっ…!って、いっやぁぁぁぁっっ!!よく聞いたら逆ぅぅぅっっ!!!」
万亀の言葉に、頭を抱える浦島。
「冗談よ…フフフ…」
「なんだぁっ!冗談かぁっ!万亀ってばオチャメさっ…!」
「グガァァァァァァァァァァァっっっ!!!」
「ひええええええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜っっ!!!」
迫りくる青鬼の吠声に、浦島が全身を震わせて、万亀の甲羅の後ろへと逃げ込む。
「背中に乗って…玉之介…」
「へっ…?」
「早く乗らないと…死ぬ…わよっ…?フフフ…」
「ひえええぇぇぇぇぇ〜〜〜っっ!!」
浦島が涙を流しながら、万亀の背中に乗り込む。
「フフフ…さてと…」
甲羅の上に浦島が乗ったことを確認すると、万亀が頭と手足を甲羅の中へと引っ込める。
「必殺っ…“回転カメカメ”っ…」
「へぇっ…?って、どうええぇぇぇぇぇぇぇっっ!!?」
浦島を乗せた甲羅が勢いよく回転を始める。
「フフフっ…」
「のわああああああああああああっっ!!」
回転の力を利用し、物凄い速さで青鬼から遠ざかっていく万亀。しかし甲羅に乗った浦島は、高速回転による風圧を受けながら、振り落とされまいと必死に頑張っていた。
「あっ、ホント、チーター並みぃ〜っ」
「死んじまうんじゃねぇーかっ…?浦島のヤツっ…」
あっという間に抜かしていく高速回転甲羅を見ながら、ハチとユキジがそれぞれ呟いた。

海底都市のはずれ。ただっ広い草原。
「おっしゃあぁっ!一番乗りぃっ!」
そこへ意気込んでやって来るのは、幼い輝矢を抱えた門貴。
「フフフ…それはどうですかね…」
「ぎゃああああああああっっ!!」
どこからともなく現れる万亀に、門貴が悲鳴をあげる。
「ひぃぃぃぃっ!カメ怖いぃ〜っ!」
「万亀、随分と早いですね」
震えて体を縮める門貴の手から、輝矢が地面へと降り立つ。
「ええ…私が本気を出せば…ざっとこんなもんですよ…フフフ…」
「ぐっ…ぐふっ…」
「甲羅の上で1人、死んでますけど…?」
得意げに微笑む万亀の甲羅の上で、目をぐるぐると回し、倒れている浦島。そんな浦島を見て、輝矢が少し引きつった表情を見せる。
「ふぅ〜っ」
「・・・っ?」
上から聞こえてくる声に、輝矢が顔を上げる。
「よいしょっとっ」
――――ボォォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
ハチを頭の上に乗せて飛んできたユキジが、白い煙に包まれながら降下してくる。
「とうちゃ〜くっ」
「ふぃ〜っ、怖かった…」
地面へと降り立つ由雉と、由雉の手の中で、ホッと胸を撫で下ろしているネズミ。
「ハチ、私が怯えきったその心に、愛の祝福をっ…」
「いらんわっ!!どっかの宗教かっ!お前はっ!」
両手を広げる輝矢に、ハチが勢いよく怒鳴り返す。
『グガァァァァァァァっっ!!』
「おっ、お出ましみたいだねぇ」
『・・・っ』
そこへ予定通り、誘い出されてやって来る5匹の青鬼。皆が表情を鋭くする。
「ほいっ」
「のわあああっ!」
由雉が手の中のハチを、万亀の上に倒れている浦島の背の上へと投げる。少し驚きながらも、何とか浦島の背に着地するハチ。
「由雉っ…!」
「か弱いネズミさんは、そこで見学っ」
振り向いたハチにそう言って笑いかけ、由雉が懐から取り出した色羽を構える。
「“月器っ…」
子供の姿の輝矢が、耳に付けているピアスを弾く。
「三日月”っ」
月器を目覚めさせ、三日月を構える輝矢。
――――ズシっ…――――
「・・・?」
三日月を構えた輝矢の右手が、いつもよりも重みを感じる。少し表情を曇らせる輝矢。
「輝矢んっ?」
「・・・っ」
門貴に名を呼ばれ、輝矢がハッとした表情となって三日月を構え直す。
「とっとと終わらせますよっ、サル、キジっ」
「了解ぃぃ〜っ!」
「はいはいっ…!」
輝矢の言葉に頷き、門貴と由雉がそれぞれ、如意棒と色羽を構えて、青鬼の元へと駆け込んでいく。
「おっりゃあああっ!!如意棒っ!!」
「“左翼っ…滅羽”っ…!」
門貴と由雉が、青鬼へ攻撃を開始する。
「・・・っ」
そんな2人の後方で、輝矢がどこかぎこちない動きで、三日月を持ち上げる。
「“鬼爪っ…天回”っ…!!」
「・・・っ!」
そんな輝矢に向け、放たれる10本の鬼爪。
「三日月っ…!」
飛んでくる鬼爪を、三日月を振るって叩き落とす輝矢。
「クっ…!」
いつもより重みを感じる三日月は、いつものように自由に振りきることができない。輝矢が少し苦しげな表情を見せた途端、三日月を持っていた手がガクっと落ちる。
「・・・っ!」
払い落せなかった鬼爪の1本が、輝矢の顔面に迫りくる。
「うっ…!」
厳しい表情で、唇を噛みしめる輝矢。
「輝矢んっ!!」
――――パァァァァンっ!――――
横から割って入り、輝矢に迫っていた鬼爪を、如意棒で叩き落とす門貴。
「大丈夫かぁっ!?」
「すっ…すみません…」
門貴の呼びかけに、輝矢が少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「子供の体やからなっ!普通より力がないんはしゃーないでぇっ」
「月器を操るのは厳しいかもねぇ」
「・・・。」
門貴と、2人の元へとやって来た由雉の言葉に、輝矢は少し気難しい表情を見せる。月器が振るえなければ、輝矢の力は半減、いやそれ以上である。ハチも戦えない上、鬼人が5匹もいるというのに、この状況は予想していたよりも厳しい。
「今はイヌコロもチューチューやし、俺らだけで何とかしよかっ!ユッキーっ!」
「輝矢は万亀とか浦島とかその他もろもろをフォローしててぇ〜っ」
「えっ…?あっ…!ちょっ…!サルっ!キジっ!」
『・・・っ』
門貴が如意棒を、由雉が色羽を構え、2人は5匹の青鬼の元へと駆け出していく。
「待っ…!・・・っ」
輝矢は止めようと伸ばした手を下ろし、もどかしげな表情で遠ざかる2人の背中を見つめた。
「“右翼っ…」
青い羽根を構えた由雉が、青鬼たちの上方へと飛び上がる。
「裂羽”っ…!」
由雉が青い羽根を、下方の青鬼たちへ投げつける。
――――バァァァァァァァァーーーンっ!!――――
『グギャアアアアアアアアっっ!!』
体を切り裂かれ、数匹の青鬼が悲鳴をあげる。
「よしっ…!もう1個っ…」
「“鬼水”っ…!」
「えっ…?ううっ…!!」
「ユッキーっ!!」
降下していきながら、もう1枚羽根を出そうとしていた由雉を、青鬼の放った水の塊が捕える。
「ぐっ…!ううっ…!」
上方に浮かぶ水球に、全身を包まれ、その中で苦しげな表情を見せる由雉。呼吸ができないのであろう。
「そういえば青鬼は“水力”を使うんでした」
「お前はいっつもいっつも言うのが遅せぇーんだよっ!!」
「すみません」
外野から怒鳴ってくるハチに、輝矢が大人しく謝る。
「とにかくっ…!」
ハチと輝矢の会話を振りきり、素早く如意棒を構える門貴。
「ユッキーを助けんとっ…!如意棒・第1の舞っ…“空”っ…!!」
門貴が、由雉を捕えている水球へ向け、風の一陣を放つ。
――――パァァァァァァァンっ!!――――
『あっ…!』
水にあっさりと弾き返される風に、思わず声を漏らす輝矢と門貴。
「あっかんっ!海中じゃ水に比べて、風の力が弱過ぎるっ…!」
「ううっ…!!」
「クっ…!」
水球の中で苦しげな表情を見せている由雉の姿に、輝矢が少し顔をしかめ、素早く三日月を構えた。
「“月器・上弦”っ」
輝矢が三日月を上弦へと満ちさせる。
「“水げっ…!」
――――ズキンっ…!――――
「うぅっ…!」
水力を使おうとした途端、輝矢の頭に痛みが走り、輝矢がそのまま頭を抱えてしゃがみ込む。
「輝矢んっ!?」
「・・・っ?」
しゃがみ込む輝矢に、駆け寄る門貴と眉をひそめるハチ。
「こっ…こんな時にっ…!」
しゃがみ込んだ輝矢が、頭を押さえながら、どこか悔しげに唇を噛む。
「輝矢んっ…?」
「“鬼水”っ…!」
『・・・っ!』
しゃがみ込んだ輝矢に向かい、青鬼の1匹が、水の塊を放つ。向かってくる水球に、目を見開く輝矢と門貴。
「“月器っ…!」
上弦を持ち上げる輝矢であるが、防御が間に合わないのは、もう目に見えていた。
「クっ…!」
輝矢が表情をしかめる。
「・・・。」
「なっ…!」
その時、輝矢の前に、輝矢の壁になるようにして立つ人影。
「サルっ…!何をっ…!」
前に立った門貴に、輝矢が思わず声をあげた。
「・・・っ」
門貴がゆっくりと輝矢の方を振り返る。振り返った門貴は、穏やかな優しい笑みを浮かべていた。
「今日はお守りしますぅ〜言うたやろぉ〜?かぐや姫っ」
「バカなことをっ…!早くそこをどっ…!」
「・・・っ」
――――バァァァァァァァァーーーンっ!!――――
「・・・っ!!」
輝矢の叫び声も虚しく、輝矢の目の前で水の塊が門貴を直撃し、門貴が水球の中に捕えられていく。
「門貴っ…!!」
「ぐっ…!ううっ…!」
門貴を捕えた水球が、上方へと舞い上がっていく。水球の中で、苦しげな表情を見せる門貴。
『ううっ…!』
「サルっ…キジっ…」
水の中に捕えられ、呼吸を封じられ、苦しげな表情を見せている門貴と由雉。しかし、今の輝矢には、月器も水力も使えず、2人を助ける力はない。
「この姿のままではっ…クっ…!」
悔しげな表情を見せた輝矢が、強く強く拳を握り締める。
「どうやら全滅くさいわね…フフフ…」
「ええぇ〜っ!?アイツら死んだら、誰が俺を守るんだよぉ〜っ!?万亀ぃ〜っ!」
「・・・っ」
万亀と浦島の思いきり他人事な会話を聞きながら、浦島の上で強く歯を噛みしめるハチ。
「クソっ…!」
「あっ…!」
居ても立ってもいられなくなったのか、ハチがその小さな体で、浦島の背の上から、輝矢の元へと飛び出していく。甲羅の上で思わず起き上がる浦島。
「おいっ…!!」
「追ったら死ぬわよ…玉之介…」
「成仏しろよっ!!」
「フフフ…」
すぐさま手を合わせる浦島に、万亀が不気味に微笑む。
「こっのっ…!」
戦場へ駆け出たネズミが、自分の体のもう一体何倍あるのかもわからないほど巨大な青鬼へ向け、小さな前足を勇んで突き出す。
「“瞬花”っ…!!」
桃色に光る、ハチの前足。
――――ポスンっ!――――
「・・・。」
しかし、前足から放たれたのは、桜の花びら4,5枚ほどであった。その寂しい景色に、ハチが固まる。
「“鬼水”っ…!」
「げぇっ!?」
無力なネズミハチに、青鬼が容赦なく鬼水を放つ。
「ハチっ…!」
鬼水を向けられたハチの元へと、必死に駆け込んでいく輝矢。
『クっ…!』
――――バァァァァァァァァァーーーンっ!!――――
『うっ…ううっ…!』
地面に当たり、弾け飛んだ水の塊のすぐ横から、転がるようにして出てくる輝矢と、その輝矢の手の中に収まっているハチ。水球に捕えられることこそ防いだが、水飛沫を受け、2人は傷を負っていた。
『・・・っ』
そんな輝矢とハチを、水球の中の門貴と由雉が、苦しみながらも、どこか心配そうに見つめる。
「かっ…輝矢っ…」
「今…触るなとか…言わないで下さいよっ…正当防衛ですから…ねっ…」
「わかってるって…ってか、正当防衛の使い方、おかしくね…?」
少し呼吸を乱しながら、輝矢とハチがあまり緊迫感のない会話をする。
「それよりっ…このままじゃマズい…ぜっ…?」
「ええっ…とにかく…弱ガスの効果が切れないことには…」
「“鬼水”っ!!」
『・・・っ!』
倒れたままの輝矢とハチに、青鬼はまたしても鬼水を向ける。
――――バァァァァァァァァーーーンっ!!――――
『うああああああああああああああっっ!!』
水飛沫とともに、2人の叫び声が散った。

「ううぅ〜っ…!」
戦況を見つめ、両手を組み、どこか不安げな表情を見せる浦島。
「マズいよマズいよ、万亀ぃ〜っ!このままじゃアイツらっ…!」
「全滅…フフフっ…」
「いっやぁぁぁぁっっ!!全滅したら、次は俺らっ!?まじ勘弁〜っ!」
万亀の不気味な微笑みに、浦島は頭を抱え、必死に首を横に振る。
「フフフっ…じゃあ…助けに行く…?」
「はぁっ!?あり得ないっ!あり得ないっ!」
「そう…言うと思った…」
いつものように不気味ではあるのだが、どこか悲しそうにそう呟き、万亀はそっと肩を落とした。
「グガアアアァァァァァっっ!!」
『・・・っ!』
その時、万亀と浦島の背後から、青鬼が現れる。
「しまったっ…!」
「ううっ…!」
2人へ向けて爪を振り上げる青鬼の姿に、倒れたままの輝矢とハチが表情を険しくする。
「ぎゃあああああああああああああっっ!!」
「ガアアアアアアアアァァァっっ!!」
「クっ…!」
悲鳴をあげる浦島を強く押さえ、万亀が素早く青鬼の爪を避ける。
――――パァァァンっ!――――
「あっ…!」
その時、浦島の手の中から、浦島がずっと抱え込んでいた本物の玉手箱がこぼれ落ちた。
「玉手箱っ…!」
「玉之介っ…?」
『・・・っ!』
こぼれ落ちた玉手箱を拾うため、万亀の甲羅の上から飛び降りていく浦島。万亀が少し焦るように振り返り、見つめていた輝矢とハチが、驚いたように目を開く。
「あのバカっ…!」
「戻ってっ…!玉之介っ…!」
思わず声を出すハチと、珍しく声を張って浦島を呼ぶ万亀。
「玉手箱っ…!」
しかし浦島は足を止めず、必死に玉手箱の方へと駆け出していく。
――――乙姫の大切な“玉手箱”を探してくれますのぉ〜っ!?――――
――――浦島様っては頼もしいぃぃ〜〜っ!!――――
「乙姫ちゃんの大切なものっ…やっとっ…やっと見つけたんだっ…!」
「・・・っ」
まっすぐな瞳でそう言って、玉手箱の元へと駆けていく浦島に、万亀が少し目を細める。
「・・・っ!やったっ…!」
落ちた玉手箱を拾い、思わず笑顔をこぼす浦島。
「“鬼水”っ…!!」
「えっ…?」
しかし、笑顔を見せたのも束の間、やっと玉手箱を掴んだ浦島に、無情にも鬼水が向けられる。
「うっ…うわあああああああああああっっ!!」
「浦島っ…!!」
「クっ…!」
恐怖に満ちた叫び声をあげる浦島に、思わず身を乗り出すハチと、必死に月器を構えようとする輝矢。
『・・・っ!!』
皆が諦めかけた、その瞬間。

――――パァァァァァァァァァーーーンっ!――――

浦島に当たる寸前のところで、鬼水が粉々に飛び散った。
「・・・えっ…?」
『・・・っ』
戸惑うように顔を上げる浦島と、思わず目を見張る輝矢とハチ。
「これ…はっ…」
浦島の前で、浦島を守るようにして浮かんでいるのは、赤い光を放つ原石。
「乙姫ちゃんの…空気石っ…?」
そう、それは、本物の玉手箱の中に入っていた空気石。乙姫の一族が、海底都市に空気をもたらすために使うとされているものであった。
「すっげぇっ…何だ?あの石っ…」
「・・・。」
唖然としているハチの横で、輝矢が少し表情を曇らせる。
「そっかぁ〜っ!乙姫ちゃんの愛が俺を守ってくれたんだなぁ〜☆ありがとうっ!乙姫ちゃっ…!」
――――スカっ…!――――
「あれっ?」
抱きつこうとした浦島の手を擦りぬけ、さらに上方へと浮き上がっていく空気石。
――――パァァァァァァァァァーーーンっ!――――
浮き上った空気石が、さらに強く赤い光を放つ。
――――パァァァァンっ!――――
「うおっ!!」
――――パァァァァンっ!――――
「うわぁ〜っ」
「・・・っ!門貴っ!由雉っ!」
空気石が光を放った次の瞬間、門貴と由雉を捕えていた水球が弾け飛び、2人が解放されて地面へと落ちた。
「助かったぁ〜っ」
「ふぃ〜っ!もう溺死寸前やったわぁ〜っ!」
「あ、そう。それはおしかったね」
「がびぃぃーーんっ!ユッキーっ!それ、どういう意味っ!?」
地面に座り込んだまま、会話をする門貴と由雉。普通に元気そうである。
「すっげぇなぁ〜あれもあの石がやったのかぁ〜?」
「何にせよ、そろそろ石よりイイところを見せないといけませんね…」
「へっ…?って、お前っ…!」
ハチが振り返ると、そこには子供の姿ではない、元の輝矢が笑顔で立っていた。
「元にっ…?」
「いっやぁ〜っ!輝矢んはやっぱ、その姿が一番可愛えぇ〜っ!!」
戸惑うハチの向こうから、門貴が黄色い声援を飛ばす。
「おっ…俺はっ…!?俺も元にっ…!」
「ちゃんと立派なネズミだよぉ〜っ」
「なんでぇっ!!?」
由雉が向けてくれた鏡に映るネズミの姿に、ハチが苦悩するように頭を抱える。
「輝矢は元に戻ってんのにっ…なんで俺だけっ…」
「一生、このままネズミなんとちゃう〜?」
「いやだぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「とにかくっ…」
叫びまくっているハチの横で、輝矢が軽々と、落ちていた月器を拾い上げる。
「“月器・三日月”っ…」
輝矢が月器を三日月へと変化させ、その感触を確かめるように、何度か回転させる。
「竹取輝矢、鬼退治いたしまぁ〜すっ」
笑顔で三日月を構える輝矢。
「グウゥゥっ」
「・・・っ!」
浦島へ鬼水を放った青鬼の元へ、輝矢が勢いよく駆け込んでいく。
――――・・・・・・・・・っ!――――
光りのように、走る一閃。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアっっ!!」
次の瞬間、横に一直線に斬り裂かれた青鬼は、激しい断末魔をあげて、砂となって掻き消えた。
「ふぅっ、さて後4ひっ…」
「必殺・“シルバァァァァーーーアァァァァーーーックス”っっ!!!」
『ギャアアアアアアアアアアアっっ!!』
残り4匹の青鬼と対峙するべく、振り返った輝矢であったが、横から飛んできた銀色に輝く物凄い衝撃波に、4匹の青鬼が一気に消えていく。
「へっ…?」
その光景に、思わず間抜けな声を出してしまう輝矢。
「グマッハッハッハっ!諸君っ!見たかっ!今のが私の必殺技“シルバーアックス”だよっ!」
『・・・っ』
衝撃波の飛んできた方から聞こえてくる、ガサツそうな大声に、輝矢たちが一斉に振り返る。
『はっ!勉強になりますっ!正刈隊長っ!』
「正刈っ…?」
「そうかそうかっ!グマッハッハッハっ!!」
多くの黒制服集団の先頭で、豪快な笑い声をあげているのは、黒のオカッパ頭が印象的な、眉毛の太い、どこかで見たことのある顔立ちの男。黒い制服を身に纏い、背中には大きな銀色の斧を背負い、左手には“銀”と書かれた腕章を付けていた。
「なっなぁっ、もしかして、あれぇ〜っ」
「絶対、あの兄弟の1人じゃ…」
「んん〜っ?」
門貴とハチのコソコソ話を聞きつけ、オカッパ男がハチたちの元へとやって来る。
「おいっ!お前たちっ!そこで何をやっているっ!」
「なっ何って言われてもっ」
「特にそこの“イヌ”っ!!」
「へっ…?」
オカッパ男に強く指を差され、ハチが大きく目を見開く。
「イっ…イヌっ…?」
「そうだっ!お前だっ!イヌっ!何故、イヌがこの海底都市にいるのだっ!?」
「イっ…イイイイイヌってっ…」
「ほいっ」
少し震える声をもらすハチに、由雉が再び鏡を向けた。
「・・・っ」
そこに映るのは、まぎれもない1匹のイヌ。
「もっ…戻ったぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「はぁっ?」
元のイヌの姿に戻り、飛び跳ねて喜んでいるハチを、オカッパ男が怪訝そうに見つめる。
「それより輝矢ぁ〜あの男って」
「金汰と鉄汰の間とみて間違いないでしょうね」
鏡を片付けながらこっそりと問いかける由雉に、どこかうんざりとした表情で答える輝矢。
「面倒なことには関わりたくありません。適当に誤魔化して下さい」
「了解っ」
輝矢の言葉に、由雉がどこか悪戯っぽく微笑む。
「おいっ!イヌっ!私の話を聞っ…!」
「ボク達、海底都市見学ツアーにやって来た、健全な陸上市民なんですぅ〜っ!」
「んんっ?」
ハチを問い詰めようとしていたオカッパ男の前へと、しゃしゃり出てくる由雉。
「でも見学途中に鬼人に襲われちゃってっ…ああっ!怖かったぁ〜っ!」
「そっ…そうだったのかっ」
由雉のブリブリ演技に、あっさり納得するオカッパ男。
「そいつは大変だったな。オトポリの署の方で詳しい話をっ…」
「ああ〜っ!自由行動の時間終わっちゃうぅ〜っ!早くバスのところに戻らなきゃ〜っ!」
「へっ…?」
まだ喜んでいるハチを抱え、輝矢や門貴とともに、すぐさまオカッパ男に背を向ける由雉。
「おっおいっ!お前たちっ…!」
「うっわぁ〜っ!またバスガイドさんに怒られちゃうかなぁ〜っ!!」
「・・・。」
オカッパ男が止める間もなく、由雉たちは、あっという間にその場から走り去っていった。
「なっ…何だったんだっ…?」
ちなみにこの男、正刈銀汰。24歳。オトポリ・海底都市支部の隊長を務めている。

「ふぅ〜っ!」
銀汰から逃げるようにして走って来た輝矢たちは、人気のない草原から、元の海底都市中心部まで戻って来ていた。もうすっかり夜更けなので、出歩いている人間はいない。
「助かりましたね」
「さっすがユッキーっ!舌先三寸っ!」
「まぁねっ。あれっ?そういえば万亀と浦島はぁ〜?」
由雉が辺りを見回しながら問いかける。
「置いてきてもたんと違うかぁ〜?」
「フフフ…それはどうですかね…」
「ぎゃああああああああああっっ!!!」
またもや背後から不気味に現れる万亀に、懲りもせずに同じように驚き、輝矢の後ろへと逃げ込む門貴。
「いたわけねっ」
「ええ…フフフ…大丈夫…?玉之介…」
「ううぅ〜っ…何とかっ…」
目を回している様子の浦島が、万亀の甲羅からゆっくりと降りる。どうやらあの高速回転甲羅で、輝矢たちの後を追ってきたようだ。
「それより、これ…」
「んっ…?ああっ!!」
万亀が浦島に差し出したのは、空気石であった。空気石を見て、浦島が一気に目を覚ます。
「乙姫様に渡しに行くのでしょう…?しっかりとしまっておかないと…」
「うんっ!ありがとぉーっ!万亀ぃぃ〜っ!」
「フフフ…」
万亀から空気石を受け取った浦島は、大事そうに空気石を玉手箱の中へとしまう。嬉しそうな笑顔を見せる浦島を見て、どこか満足げに微笑む万亀。
「そういやさぁ〜っ」
「・・・?」
やっとイヌに戻った喜びの落ち着いたハチが、少し戸惑ったような表情で輝矢の元へとやって来る。
「結局、あのハズレ玉手箱は誰の仕業だったんだぁっ?」
残ってしまった疑問を、輝矢へと向けるハチ。
「あの様子見て…」
――――乙姫ちゃんの大切なものっ…やっとっ…やっと見つけたんだっ…!――――
「浦島が盗んだんじゃないってのは、わかったしさぁ」
危険も顧みずに玉手箱の元へと駆け出していった浦島。本当に玉手箱を探していたことは、もう輝矢たちには十分わかっていた。
「そういやそうやなぁ〜一体、誰がっ…」
「では行きましょうか…」
『へっ?』
輝矢の言葉に、ハチと門貴が目を丸くする。
「この一連の事件…すべてを仕掛けた、黒幕さんのところへ…ね…」
そう言って輝矢は、どこか怪しげに微笑んだ。



                              其の二十七につづく。







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