第12章 眠れる森の罠
御伽界・東南東。緑深き森の中、山脈沿いに流れる川のすぐ岸。
「ぷっはぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っっ!!!」
川で水浴びをしていたハチが、気持ち良さそうに岸へと上がってくる。
「ブゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーっっっ!!!!」
「うわっ!」
全身を震わせて、体についた水滴を払い飛ばすハチ。飛び散った水滴が、岸で羽根を休めていたユキジに思い切りかかる。
「ちょっとぉ〜っ!もう少し周りに気ぃ遣ってよぉぉ〜〜っ!!」
「あっ、悪りぃ〜悪りぃ〜っ」
非難するユキジに、ハチが軽い笑みを向けて謝る。
「ったくっ!水はともかく、きったない犬菌が可愛いボクに付いたらどうすんのさぁ〜っ!」
「・・・俺、お前のそうゆうトコ、嫌いだわ…」
容赦ない言いっぷりのユキジに、ハチが少し傷ついた表情を見せる。
「すぅー・・・すぅー・・・」
「んっ?」
聞こえてくる寝息に、ハチが眉をひそめて振り返る。
「寝てる…」
「すぅー・・・すぅー・・・」
ハチがゆっくりと振り返ると、そこには岸の近くの木を背もたれに、すやすやと寝息を立てている輝矢の姿があった。ハチが少し驚いたように輝矢を見る。
「そりゃ寝るでしょ〜輝矢だって一応、人間なわけだしぃ〜」
「っつーかアイツ、最近寝すぎじゃねっ?今朝だって2時間も寝坊したんだぜっ?」
「じゃあ叩き起こせばぁ?」
「いやぁ、それはちょっと…」
気まずそうに俯くハチ。輝矢を叩き起こそうものなら、後でどんな恐ろしい目に遭うか、想像しただけで震えがきそうである。
「疲れてるんじゃなぁ〜い?やっぱ」
「へっ?」
ユキジの言葉に、ハチが目を丸くする。
「疲れてる?」
「ほらぁ〜最近、戦い続きじゃない?そりゃ傷とかはボクの癒羽で治してるけどさぁ〜」
少し表情を曇らせるユキジ。
「月器や水力使うのって、やっぱそれなりに輝矢の体に負担かけてんじゃないかなぁ〜?」
「負担っ…」
「すぅー・・・すぅー・・・」
「・・・。」
深く眠っている輝矢を見て、ハチが少し複雑そうに目を細める。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーいっっっ!!!!!」
『・・・っ?』
森の奥から聞こえてくる大きな声に、ハチとユキジが振り返る。
「ああぁぁっっ!!輝矢ん寝てたんかぁぁっっ!!しまったぁぁっっ!!大きな声出してもたぁぁっっ!!」
「いやっ…その声がすでにでけぇーよ…」
現れたモンキが、寝ている輝矢を見て、少し慌てた様子で頭を抱える。そんなでかい声のモンキに、呆れた表情で突っ込みを入れるハチ。
「でぇ〜?大声出したからには何か街でも見つけてきたんだろうねぇ〜?」
「いっやぁ〜っ!それがなぁっ!俺っ…!」
『俺っ?』
モンキの言葉に、首をかしげるハチとユキジ。
「ある日、森の中、クマさんに出会ってもてんっ!」
「何かどっかで聞いたことある展開だなぁ」
「おおぉぉっっ!!かっぐやさんのお供のイヌさんとサルさんとキジさんでねぇ〜かぁっ!!」
モンキに続いて森の中から現れたのは、体長2mほどの大柄な黒クマ。
「ひっさすぶりだなぁっ!!ガッハッハッハっっ!!」
「クマってアンタかっ…」
聞き覚えのある田舎ナマリと大声に、呆然と呟くハチ。この黒クマ、本名・正刈金汰。オトポリの総長というとてもお偉いさんで、あの“桃タロー”とライバル関係にあったほどの方らしい。
「おおっ!!かっぐやさんでねぇーかぁっ!!」
「アホうっ!!んな大声出して輝矢んが起きてもたらどないすんねんっっ!!!」
「ああっ!!しまっただぁぁっっ!!!」
「だからお前ら、すでにうるせぇーって…」
大声で会話をするモンキと金汰に、ハチがさらに冷たい目を向ける。
「でぇ?こんなトコで何やってるわけぇ?バカグマっ」
「お前、相手はオトポリの総長だぞ…?」
偉そうに問いかけるユキジに、少し焦った表情を見せるハチ。
「おんらぁ〜鬼人の捜査で来たんだけんどぉ、この森に入った途端、コイツらが眠っちまってぇ〜」
「コイツら?」
「ほれっ」
―――――――――ドッサァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!―――――――――
「おわあああああああああああああああああっっっ!!!!」
背中から勢いよく、背負っていたらしき2人の人間を地面に落とす金汰。
「っつーか、今ので起きんだろぉー…」
『ぐぅーっ・・・ぐぅーっ・・・』
「んっ?」
地面に叩きつけられたというのに、そのまま地面に寝転がってグッスリと眠っているのは、羊スケと鉄汰であった。これほどの衝撃を受けたというのに、起きる素振りのない2人に、ハチが眉をひそめる。
「おいっ!おおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーいっっ!!!」
2人に声をかけ、体を揺さぶって無理やり起こそうとするハチ。
「おいっ!!起きろっ!!おいっっ!!」
『ぐぅーっ・・・ぐぅーっ・・・』
「・・・っ」
どんなに耳元で大きな声を出しても、体を揺らしても、深く眠って起きない羊スケと鉄汰。そんな2人に、どこか不自然さを感じ、ハチがさらに戸惑った表情を見せる。
「なっ…何か…変じゃねぇーかっ?」
「何やっても起きないんだぁ〜」
「ちょっとどいてぇ」
「・・・っ?」
ハチを横にどかすようにして、後方からユキジが2人の傍へと降り立つ。
「“癒羽”」
――――――――――プスッッ!!!――――――――――
ユキジが懐から取り出した黄色い羽根を、2人の額へと容赦なく突き刺す。
「やっぱ羽根刺しても起きねぇーかぁ」
「・・・何か特殊な力をかけられてるね…」
『へっ?』
ユキジの言葉に、ハチや金汰が目を丸くする。
「特殊な力?」
「癒羽はねぇ、ちょっとした呪法や力なら解く力があるんだよぉ〜」
「マジかぁっ!!?」
「すっげぇーっっ!!」
「まぁねっ」
目を輝かせるハチとモンキに、どこか自慢げに微笑むユキジ。
「2人は癒羽でも効かないほどの力で眠らされてるってことだねぇ〜」
「じゃっ…じゃあ輝矢が寝てんのもまさかっ…」
「金汰さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーんっっっ!!!!!」
『・・・っ?』
これまた森の奥から聞こえてくる大きな声に、ハチたちが振り返る。
「ゴンっ」
「あっれぇ?竹取のペットどもじゃねぇーかっ」
そこへ現れたのはゴンであった。
「なんでハチ公どもがここにっ…」
「それよりゴン〜、森出る道は見つかっただかぁ?」
「あっ?ああっ!ありましたよっ!この先に道あって、まっすぐ行くと森出てすぐ街がありましたっ!」
「ほんじゃあとりあえずその街に行ってみるだかぁ〜」
「そうだな」
金汰の言葉に、ハチたちも大きく頷いた。
ということで、眠ったままの3人を連れて、森の中を歩き出した一行。
「クッソっ…なんで俺がっ…」
眠ったままの鉄汰を背負った桜時が、街の入口へと足を踏み入れながら不満げに呟く。
「んじゃあ、こっちのかっぐやさん背負うだかぁ?」
「遠慮しときますっ」
輝矢を背負ったまま振り返る金汰に、桜時があっさりと首を振る。
「んだよっ。今更照れんなよっ」
「照れてんじゃねぇーよっっ!!!」
羊スケを背負い茶化すゴンに、桜時が本気で怒鳴り返す。
「っつーかお前ら、代われよっ!」
「男背負うんは、俺の辞書ん中にないねんっ。まっ!輝矢んやったら喜んで背負うけどなぁっ!」
「ボク、可愛いからパス〜」
「・・・。」
モンキとユキジによくわからない理由で断られ、桜時が呆れた表情を見せる。
「おっ、抜けたぞっ!街だっ!」
『・・・っ』
ゴンの声に一斉に顔を上げる桜時たち。森の中の道は途絶え、森を抜けると穏やかな平原が広がっていた。平原の先に、小さな街並みが見える。
「よすぃ〜行くだぁ」
金汰を先頭にして、まっすぐに街へと向かう桜時たち。見えているだけあって5分も歩かぬうちに街の入口へと辿り着いた。小さな民家ばかり続く街は、人間の姿が目立ち、獣人は住んでいそうにない。
「えぇ〜っと“レム”の街だってぇ」
ユキジが街の入口に立っている看板を読む。
「おいっ」
「・・・はいっ?」
街へと足を踏み入れたゴンが、道を歩いている若い男に声をかける。
「森ん中で急に連れが眠っちまったて起きねぇーんだけど、何か知らねぇーかぁ?」
「眠った…?」
男が眉をひそめて、ゴンに背負われている羊スケの方を見る。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!」
「へっ?」
急に怯えるように震え上がる男に、ゴンが首をかしげる。
「呪いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!眠り姫の呪いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
「呪い?」
「眠り姫?」
『きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!』
『ひえええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!!』
―――――――――ドンっ!ガタンっ!バンっ!ガッシャーーーーーーンっっっ!!!――――――――
「へっ…?」
男が悲鳴をあげて逃げ去ると、男の声を聞いた街人も皆、悲鳴をあげ、身を隠すように慌てて家の中へと入っていった。街人のいなくなった街を見回し、戸惑うように目を丸くするゴン。
「何言うたんやぁ〜ゴンゴン〜」
「変に脅しちまったんじゃねぇーのかぁ?怖がり方、尋常じゃなかったぞぉ?」
「ただでさえ目つき悪いんだから気を付けてよねぇ〜」
「俺はフツーにフツーなこと聞いただけだってのっっ!!!」
冷たい目を向けてくる桜時たちに、ゴンが勢いよく怒鳴り返す。
「しっかし困っただなぁ〜これじゃあかっぐやさんたちを休ませることもぉ…」
「旅のお方ですか…?」
『・・・っ?』
街人が家の中に逃げ込んだはずの街中から聞こえてくる声に、困った顔を見せていた金汰たちが振り向く。
「よろしければ…わしらの家へお越し下さい…」
『・・・っ』
そう金汰たちに声をかけてきたのは、街の住人らしき心優しそうな老夫婦であった。
老夫婦の言葉を受け、老夫婦の家へと入れてもらった金汰たちは、眠っている3人を用意してもらった布団に横たわらせ、リビングの椅子へと腰かけた。
「いっやぁ〜すまないだぁ」
「へぇっ?」
礼を言った金汰に、老人が大きく耳を傾けて聞き返す。
「いんやぁ〜だっからぁ、上がらせてもらってぇすまないだぁとぉ」
「へぇっ?」
「・・・。」
ゆっくり、ハッキリとした口調で繰り返す金汰であったが、またしても聞き取ってくれない老人に少し呆れた表情を見せる。
「お気になさらないで下さい〜」
台所からやって来た老婆が金汰たちへとお茶を出す。
「この人、物凄く耳が遠いんですよぉ。ああ、私はおハナ、この人は六べぇと申します」
「ああ〜どんも〜おんらぁクマですぅ。こっちがキツネでぇ、あっちがキジさん、サルさん、イヌさんですぅ」
「種族じゃなくって名前紹介して下さい」
おハナに皆を紹介する金汰に、ゴンが少し突っ込みを入れる。
「すまないだねぇ〜こんな大人数で上がらせていただいてぇ〜」
「いえいえっ、ゆっくりしていって下さいなぁ〜」
少し頭を下げる金汰に、おハナが笑顔を向ける。
「もぉ〜ゴンが住民全員にメンチ切ったりするからぁ〜」
「だっから俺はフツーにものを尋ねただけだっつってんだろーがっっ!!!」
「ゴンゴンのフツーはフツーちゃうねんからぁ〜っ」
「どういう意味だよっ!!それはっっ!!」
「街人は皆…怯えているのです…」
『・・・っ?』
ゴンとモンキ・ユキジが言い合いをしている中、少し曇った表情で呟くおハナ。その言葉に皆が眉をひそめる。
「怯えてる…って?」
眠ったままの3人のすぐ横に座る桜時が、六べぇへと問いかける。
「へぇっ?」
「あっ、間違えた」
耳を傾けて聞き返す六べぇに、思わず言葉を発する桜時。
「怯えてるって?」
桜時が改めておハナに聞く。
「“眠り姫の呪い”にです…」
「・・・っ」
おハナの言葉に、眉をひそめる桜時。
「1ヶ月ほど前から…森に入った街人や旅人が急な眠りに襲われるという事件が続きまして…」
「えっ…?」
ユキジが少し驚いたように声を出す。
「眠った者たちは何をしても決して起きることはなく…まるで何かの魔法にでもかかったようでした…」
「羊スケや鉄汰とまったく同じやな」
「ああっ…」
モンキの言葉に、ゴンが真剣な表情で頷く。
「その者たちは夜遅く、眠ったまま導かれるかの如く、森の中にある古城へと歩いて行くのです…」
「古城っ…?」
「はい…その者たちが古城に入ると…城から化け物の叫び声のようなものが…」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!」
『・・・。』
おハナの話のあまりの怖さに、大きな図体を小さく丸めて怖がる金汰。そんな金汰に、皆が真剣な表情から一気に呆れた表情へと変わる。
「金汰さん…」
「あっ、すまないだぁ」
ゴンに冷たい視線を向けられ、金汰が苦笑いで謝る。
「街人は皆、眠り姫が呪いを使い、化け物に人間を喰らわせているのだと信じ…ひどく怯えております…」
険しい表情で話すおハナ。
「だからこそ…関わりたくないと、あのような態度を取ってしまったのでしょう…」
――――――――――ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!―――――――――――
「・・・なるほどなっ…」
一斉に逃げ去っていった街人のことを思い出し、納得したように頷くゴン。
「なんだぁ〜ゴンの目つきが悪かったからじゃないんだぁ〜」
「だっからそう言ってんだろうがっっ!!!」
少し残念そうに言うユキジを、ゴンが睨みつける。
「けど正直、信じらんねぇーなぁ、んな話っ」
しかめっ面を見せるゴン。
「眠り姫だの、呪いだのよぉ」
「眠った者たちが城に行くのは本当です。ただ…誰も城に近づかないので眠り姫を見たという者は1人も…」
「やっぱなぁ」
俯いて声を小さくしていくおハナの言葉に、ゴンがどこか納得したように頷く。
「でもまっ、この辺に鬼人の調査依頼が来てたのは確かだし、鬼が絡んでる可能性はありますね。金汰さん」
「そうとねぇ…」
ゴンの言葉に、真剣に頷く金汰。
「とりあえず古城の捜査に行くだかなぁ〜」
「ボクたち、どうすんの?」
「さぁ〜?輝矢んが寝とるんじゃ動けへんやろ?」
ユキジの問いかけに、少し困った表情で答えるモンキ。
「っつーか、輝矢んもホンマに眠り姫の呪いにかかってもたんかぁ?」
「ん〜正直、かかるとは思えないんだけどねぇ〜。あっ、そうだ」
何かを思いついたような顔を見せるユキジ。
「桜時ぃ〜、ちょっと輝矢にキッスでもしてみてよぉ〜」
「はぁぁぁぁぁっっ!!?んなっ…!んなっ…!!何言ってんだよっ!!お前はっっ!!」
突然のユキジの言葉に、あからさまに動揺する桜時。
「だってお姫様は王子様のキッスで目覚めるってゆ〜じゃないっ?」
「実際、んなもんで目ぇ覚めるヤツがいるかよっっ!!!」
「いいぞぉ〜やれやれぇ〜っ」
「ただの茶化し入れてんじゃねぇーよっっ!!!」
ユキジとゴンに次々に突っ込みを入れていく桜時。
「誰がんなことっ…!」
――――――――――――グイッ・・・!―――――――――――
「へっ?」
急に強く引っ張られる腕に、桜時が目を丸くする。
「ウグっ…!!」
―――――――――――ブチュウゥゥゥゥ〜〜〜〜ッッ!!―――――――――――
『あっ…』
眠っているはずの輝矢に腕を強く引っ張られ、引き寄せられた桜時の唇が、勢いよく輝矢の唇へと触れる。
「ふぅ〜っ、ハチのキッスのお陰で目が覚めましたっ」
『ウソをつけっ』
平然と起き上がる輝矢に、全員から突っ込みが入る。
「グっ・・・グプっ・・・プっ・・・」
「1人、半永久的に眠ったでぇ〜」
白目を剥いて気絶した桜時を見て、モンキが言い放つ。
「おおっ!!かっぐやさぁぁぁ〜〜〜んっっ!!やっとお目覚めだかぁ〜〜〜っっ!!!」
「てめぇー、どっから起きてたんだよっ?」
「“あっれぇ?竹取のペットどもじゃねぇーかっ”あたりからです」
「すんげぇ前じゃねぇーかよっっ!!!」
輝矢の答えに、勢いよく突っ込むゴン。
「ったくっ…じゃあだいたいの事情は飲み込めてんなっ?」
「ええ」
「だったらとりあえずその森ん中にある古城ってのの調査にっ…」
「夜を待って、羊スケと鉄汰をオトリに使い、直接、城に潜入しましょう」
「へっ?」
調査へ行こうと意気込んで立ち上がろうとしたゴンが、輝矢の言葉に肩を抜かす。
「眠らされた日の夜に城に導かれるんですよね?おじいさん」
「へぇっ?」
「ああ、そうでした。眠らされたその日の夜に城に導かれるんですよね?おばあさん」
「あっはい〜っ…今までは全部、そうでしたぁ〜」
輝矢が最初に六べぇに問いかけるが、六べぇは相変わらず聞き取れず、輝矢が次におハナに問いかける。輝矢の問いかけに頷いて答えるおハナ。
「では決まりですね。いいですか?金汰」
「あのなぁっ!お前、勝手にっ…!」
「もっちろんとぉぉ〜っ」
「だああああああああああああああああっっっ!!!!」
輝矢の言葉に迷うことなく1つ返事する金汰に、ゴンが思わずコケる。
「いいんですかぁ〜?総長っ!退治屋のガキなんかに捜査一任しちまってぇ」
「かっぐやさんに任せとけば間違いないとぉ〜っ!ガッハッハっっ!!!」
「・・・。」
暢気な笑い声をあげる金汰に、ゴンは少し冷たい視線を向けた。
その日・夜。
「んっ…んんっ…」
気絶していたハチが、やっとのことで目を覚ます。
「俺ぇ…」
「目が覚めましたか?ハチっ」
「うっ…!」
目を開いたハチが、目の前にいる輝矢を見て表情を凍りつかせる。
「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
「あれ?」
激しく遠ざかっていくハチに、輝矢が少し首をかしげる。
「どうかしましたか?ハチ」
「どうしたもこうしたもねぇーよっっ!!お前、俺に何したと思ってんだっ!?ああっ!!?」
「ああ、もしかして“接吻”のことですか?しかも二度目」
「ぎゃああああああああああああああああっっっ!!!日本語で言うなぁぁぁぁっっっ!!!!」
平然と答える輝矢に対し、悩ましげに頭を抱えるハチ。
「“セカンド・キッス”っ」
「英語で言えばいいってもんじゃねぇっ!!もう絶対、お前の半径3m以内には近づかねぇーかんなっっ!!」
「ええ〜。んっ?」
「あっ?」
何かに気づいたように振り向く輝矢に、ハチもつられてそちらを見る。輝矢の視線の先にいたのは、廊下を歩き、庭へと出て行く六べぇの姿であった。
「・・・っ」
「あっ、おいっ!」
六べぇの後を追うように庭へと出て行く輝矢を、ハチが慌てて追いかける。
「・・・。」
「こんばんはっ」
「・・・っあんれぇっ?」
庭に立ち尽くし、何やら真面目な表情で森の方を見つめていた六べぇが、横に立った輝矢に気づく。
「老人は早起きなんですから、そろそろ寝た方がいいんじゃないですかっ?」
「へぇっ?」
「・・・。」
相変わらず聞き取れずに大きく耳を傾ける六べぇを見て、少し呆れた表情となる輝矢。
「まぁいいです。アナタも眠くなったら勝手に寝に行くでしょうし」
「へぇっ?」
輝矢がどこか諦めたように言い、聞き返す六べぇを無視して庭から家の方へと戻っていく。
「・・・ああ、そうでした」
「・・・?」
廊下へと入る前にふと足を止める輝矢に、廊下にいたハチが少し首をかしげる。
「あなた方は何故、私たちを招き入れて下さったんです?」
「・・・。」
森を見つめたまま、指1つ動かさない六べぇ。
「普通なら、眠り姫の呪いが降りかかることを恐れ、他の街人同様に私たちとは関わらないようにするはず…」
「輝矢…?」
言葉を続ける輝矢に、ハチはさらに不思議そうに首をかしげる。
「・・・。」
鋭い瞳を六べぇの背中へと向ける輝矢。
「まぁこんなこと、耳の遠いアナタに聞いても仕方ありませんね…」
そう言って少し微笑み、輝矢が廊下へ戻ろうと足を上げた。
「娘が…」
「・・・っ」
六べぇの声に、輝矢が足を止めて振り返る。
「娘が…いましてね…」
『・・・。』
背中を向けたままの六べぇを、まっすぐな瞳で見つめる輝矢とハチ。
「生まれつき不治の病を抱え…死を待ちながら生きることに疲れ…あの森で自ら命を絶ちました…」
「・・・っ」
輝矢が少し眉をひそめる。
「もう30年も前の話ですが…わしには…」
六べぇが顔を上げ、悲しい表情で森を見つめる。
「わしには…娘が眠り姫となって…長く生きれる人間たちに復讐しとるように思えてならんのです…」
「・・・。」
六べぇの話に、輝矢はそっと目を細めた。
その日・深夜。眠っている羊スケと鉄汰を囲い、2人が城に導かれる時を待っている一行。
「ぐがぁぁーっ!!ぐがぁぁーっ!!ぐがぁぁーっ!!ぐがぁぁーっ!!」
「アンタが寝てどうすんだぁぁぁっっ!!!しかも鼾がめっさうるせぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
「ぐがあああああああああああああああっっっ!!!!」
転寝をしていた金汰に、ゴンが激しく蹴りを入れる。
「なっ…何だぁ?地震だべぇ?」
「そうみたいですね」
『・・・。』
蹴られた頭を押さえて首をかしげる金汰に、平然と答えるゴンを見て、ハチたちが呆れた表情を見せる。
「にしてもまだかぁ〜?もう2時回ってんぞぉ?」
「じゃあハチ、2人で新婚ゴッコでもしましょうか?」
「しねぇーよっっ!!!!」
――――――――――スゥゥゥゥゥーーーーっっ・・・――――――――――――
『・・・っ!』
深く瞳を閉じたまま立ち上がる羊スケと鉄汰に、皆が一斉に表情を険しくする。
『ぐぅー・・・ぐぅー・・・』
寝息を立てたまま、部屋を出て、玄関の方へと歩いて行く羊スケと鉄汰。
「では追いかけましょう」
『おうっ!』
輝矢の言葉に、皆がしっかりと頷いた。
「ウフフっ・・・ウフフっ・・・さぁ…おいで…」
『ぐぅー・・・ぐぅー・・・』
「まっすぐに森に入ってったな…」
眠ったまま歩き続ける羊スケと鉄汰の後を歩きながら、少し厳しい表情で呟くゴン。2人は六べぇたちの家を出ると、まっすぐに街の出口へと向かい、昼間の森の奥へと歩いていった。
「一体、どこへっ…」
「みっ…見てみぃっ!あれっ!!」
『・・・っ?なっ…!!』
モンキの声に顔を上げた皆が、一斉に驚きの表情となる。2人が向かう道の先、森の奥に見えてきたのは、かなり古い要塞のような大きな城であった。蔦が壁中に巻きついており、その歴史を感じさせる。
「あれがっ…眠り姫の古城っ…」
「ここまではおハナさんの話の通りですね」
唖然として呟くハチの横で、眉をひそめる輝矢。
『ぐぅー・・・ぐぅー・・・』
「あっ!城の中に入って行っちゃうよぉ〜っ!」
「急ぎましょうっ!」
眠っている2人を招き入れるように自動で開く城門。2人を入れてすぐ閉まり始める城門に、輝矢たちが慌てて駆け込んでいく。
―――――――――――ギィィィ〜〜ガッシャァァァァァァァーーーーンッッッ!!!―――――――――
『ふぅっ…』
何とか城の中に駆け入り、一息つく一行。
「羊スケたちはっ…」
「“鬼口”っ!!」
『・・・っ!』
―――――――――――バァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!―――――――――
城の奥から飛んで来た鬼口を、輝矢たちが左右に分かれてかわす。城門を突き破り、外へと飛んでいく鬼口。
「グガガガガガッ…なかなかに素早いヤツらだなぁ」
「鬼人っ…!」
城の中で待ち構えていたのは、廊下中を埋め尽くすほどの緑鬼であった。
「ぞろぞろとうざったいなぁ〜」
「おいっ!お前らっ!羊スケたちをどこへやったっ!?」
ゴンが鬼人たちを睨みつける。
「あいつ等なら眠り姫サマのところだ…そこで我ら鬼の血肉となろう…」
「何っ…!?」
鬼人の言葉に、表情を一変させるゴン。
「ほらっ、聞こえてこないか?鬼どもの餓えた声が…」
―――――――――グガアアアアアアアアアアアアァァァァっっっ・・・・――――――――――
『・・・っ!』
鬼人の言葉通り、城の奥から鬼人のものらしき唸り声が聞こえてくる。
「いっやあああああああああああああっっっ!!!てっちゃああああああああああんっっっ!!!!!」
「情けない声出してんじゃねぇーよっっ!!」
頭を抱えて叫びあげる金汰に、ゴンが思わずタメ口で突っ込みを入れる。
「どうやら急いだ方が良さそうですねぇ」
「むんっ!!」
――――――――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!!――――――――――
気合いのこもった声を出し、白い煙に包まれてクマの姿から人化する金汰。
「輝矢さんは先に向かってくれっ!ここは俺が抑えるっ!ゴンっ!お前は輝矢さんと一緒に行けっ!!」
人間の姿となった金汰が、男らしく頼もしい感じで次々と指示を出す。
「鉄のことっ…頼んだぜっ!おっりゃああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
そう言うと金汰は、背中のマサカリを振り上げ、大量の鬼人たちに向かっていく。
「毎度のことながらあのギャップにはヤラれんなぁ〜」
「金汰の言葉通り、私は2人を追います。サル、キジ、金汰を援護して道を開いて下さい」
「ほいほぉぉぉ〜〜いっ!」
「ふわぁ〜いっ」
――――――――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!!―――――――――――
輝矢の言葉に軽い返事をして、人化するモンキとユキジ。
「“ゴォォォォーーールドォォォッ・・・ラァァァァッシュ”ッッッ!!!!」
「如意棒・第2の舞っ…“浄”っっ!!」
「両翼・“十裂羽”っ!」
―――――――――バァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!―――――――――
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
人化した金汰、門貴、由雉がそれぞれの技を繰り出し、城の奥へと続く直線状の鬼人を一掃する。
「行きますよっ!ハチっ!キツネっ!」
「おうっ!」
「俺に指示出してんじゃねぇーよっ!!」
3人が作った道を駆け込んでいく輝矢。その後をハチと、少し不満げな表情のゴンが追っていく。
「頼んだぜっ…輝矢さんっ…」
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
「・・・っ!」
金汰は真剣な表情でそう呟くと、向かってくる鬼人に再びマサカリを振り上げた。
一方、金汰たちに鬼人を任せ、城の奥へと突き進む輝矢、ハチ、ゴンの3人
「おいっ!先頭切って走ってやがるが、本当にこっちでいいのかよっ!?竹取っ!!」
「知りませんっ」
「知らないのかよっっ!!」
無責任に答える輝矢に、ゴンが走りながら突っ込みを入れる。
「・・・っ?何か広い部屋に出るぞっ!」
『・・・っ』
ハチの声に、輝矢とゴンが表情を鋭くする。
『・・・っ?』
長い廊下を突き進んでいた輝矢たちは、やがて少し明るい、広く何もない部屋へと出た。
「ここは…」
「何か…招かざる客ってのが来たみたいだねぇ〜」
『・・・っ』
部屋を見回していた輝矢たちが、聞こえてくる声に顔を上げる。
「侵入者とか来たの初めてだからなぁ〜こういう時って殺しちゃっていいの?」
「侵入者は眠り姫サマの敵…眠り姫サマの敵はボクらの敵…」
「あっ、そっかぁ〜」
「人…間っ…?」
「ああっ…」
部屋のシャンデリアの上から輝矢達を見下ろすのは、2人の人間の男。戸惑うように言葉を発するハチとゴン。
「さらわれた人間か?それとも擬態した鬼っ?」
「さぁ?見た目からは何ともっ…」
ハチの問いかけに、少し困った表情を見せる輝矢。
「じゃあ敵は排除ってことでっ」
『・・・っ!』
愛らしい顔立ちをした青年が飛び上がり、右手を輝矢たちへ向ける。
「“木檻”っ!」
――――――――――バァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!――――――――
『うっ…!!』
床から勢いよく木が生え、輝矢たちの四方をまるで檻のように囲んでいく。
「“木力”かっ…!」
「どうやらただのヒトというわけではないようですねぇ」
顔をしかめるゴンの横で、輝矢が冷静に呟く。
「ハチっ」
「おうっ!」
―――――――――ボォォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!!―――――――――――
輝矢に言われ、ハチが素早く人化する。
「“瞬花”っっ!!」
―――――――――パァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――――――
『・・・っ』
人化した桜時が両手を木檻に触れると、木檻が一瞬にして桜の花びらと変わり、床へと散っていった。その光景に目を見開く青年たち。
「“花力”…」
「へぇっ」
少し眉をひそめる根暗そうな青年と、楽しげに笑ってみせる愛らしい顔の青年。
「よぉぉーしっ!ここは俺らに任せて竹取っ!お前は先に行けっ!!」
「俺らって、お前、そんな戦力になんのかよぉ〜?」
「ああっ!?」
どこか不安げに聞く桜時に、ゴンが思い切り表情をしかめる。
「んだとぉっ!?俺はこう見えてもだなぁっ…!」
「まぁ多少の不安はありますが、事態が事態ですからね。ここはそうするしかなさそうです」
「そうかっ。じゃあしゃーねぇーなぁ」
「お前らなぁっ…!!」
輝矢と桜時の気を遣わない言いっぷりに、思わず怒鳴り声をあげるゴン。
「あいつ等…ボクらを喰い止めて1人、眠り姫サマのところへ行かせるつもりらしい…」
3人の会話を聞き、根暗そうな青年の方が小さな声で呟く。
「クロト…ボクが2人を止めておくからあの女を…」
「へっへっ!」
「あっ…クロトっ…!」
根暗そうな青年の言葉を無視し、愛らしい顔立ちの青年・クロトが、シャンデリアの上から勢いよく降下し、桜時の方へと飛び出していく。
「“枝槍”っ!!」
「・・・っ!村雨丸っ!!」
右手の指から蔓を伸ばし、先を尖らせて槍のように突き出すクロトに、桜時が村雨丸を抜いて応戦する。
「ハチっ…!」
「大丈夫だっ!行けっ!輝矢っ!」
「わかりましたっ!」
桜時の言葉にしっかりと頷き、その場から走り出す輝矢。
「キツネっ!命を投げ捨ててでもハチは守りなさいっ!」
「へいへいっ」
ゴンに強く言い放って、輝矢が部屋の先の扉へと駆け出していく。
「させないよっ…」
「・・・っ」
扉に行こうとした輝矢に向けて飛び降りていくもう1人の根暗そうな青年。輝矢が表情をしかめて、右耳のピアスへ手をかける。
「“狐火・二目”っっ!!!」
――――――――――ヒュゥゥゥゥーーーンッッ!!ヒュゥゥゥーーーーンッッ!!――――――――――
「クっ…!」
どこからともなく飛んで来た2つの火の玉を、空中で素早くかわす青年。
「てめぇーの相手は俺だっ」
「・・・っ」
着地した青年の前へと立ちはだかるのはゴン。
「チっ…」
青年が、扉から部屋を出て行く輝矢を見て、少し表情をしかめる。
「あっはぁ〜っ!まんまと先に行かれちゃったねぇ〜っ!シロキっ!」
「お前が人の言うことを聞かないからだ…」
楽しげに言うクロトに、冷たい目線を送るシロキ。
「そうゴタゴタ言わないでよっ」
不機嫌そうなシロキに、無邪気な笑顔を向けるクロト。
「とっととコイツら殺して、後を追えばいいだけの話なんだからっ」
「・・・っ」
笑顔を浮かべながら鋭い瞳を向けてくるクロトに、桜時は少し眉をひそめた。
古城・最奥部。眠りの間。
『ぐぅー・・・ぐぅー・・・』
自動で開く扉を抜けて、眠ったままの羊スケと鉄汰が眠りの間へと入ってくる。
「ウフフっ・・・ウフフっ・・・」
高い笑い声が響いてくるのは、眠りの間の奥にある大きな寝台のカーテンの向こう。
「さぁ…おいで…」
『ぐぅー・・・ぐぅー・・・』
カーテンの奥から差し伸べられる、白くて細い手に導かれるようにして、羊スケと鉄汰が寝台へと歩いて行く。
「そう…いい子ね…」
カーテンの向こうにいる人物が、少し笑みをこぼす。
「さぁ…私のものに…」
「なりませんよっ」
「・・・っ?」
寝台へと向かう羊スケと鉄汰の前へと立ち、カーテンの向こうの人物に鋭い瞳を向けたのは輝矢であった。
「こんなんでも一応、いなくなると困る兄や上司がいるので」
「・・・誰っ…?」
「習わなかったんですか?」
カーテンの向こうから聞こえてくる問いかけに対し、輝矢は右耳のピアスを弾いて言い放つ。
「“名を名乗る時はまず自分から”と」
―――――――――――パァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!―――――――――――
月器を目覚めさせると、輝矢が素早く三日月を振り切ってカーテンを切り裂いた。
「ウフフ・・・」
カーテンの向こうにいた者が、笑みを浮かべながらゆっくりと顔を上げる。
「それもそうね…」
それは金色の長い髪に、大きな青い瞳の、濃緑色のドレスを身に纏った美しい女であった。生きている人間とは思えないほどに白い肌をしている。大人っぽい顔立ちではあるが、17,18歳くらいであろう。
「失礼したわ…初めまして。この城の主のオーロラよ…」
オーロラが冷たい笑みを輝矢へと向ける。
「さぁ…今度は貴女の番…」
「・・・竹取輝矢。退治屋です」
「退治屋…?」
オーロラが少し眉をひそめる。
「そう…退治屋…」
『ぐぅー・・・ぐぅー・・・』
「・・・っ」
オーロラが少し指を動かすと、羊スケと鉄汰が再びオーロラの元へ向かおうと歩き出す。それに気づき、表情を鋭くして左手を構える輝矢。
「“水錠”っ!」
―――――――――バァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!―――――――――――
『ぐぅっ!』
輝矢の放った水の塊に足を縛られ、羊スケと鉄汰がその場に倒れ込む。
「あらあら…仲間に容赦ないわね…」
「アナタのものにさせるよりは感謝されると思いますけど?」
微笑むオーロラに強気に言い放つ輝矢。
「さぁっ、他のさらった方々も返していただきましょうかっ」
輝矢が表情を鋭くし、三日月の刃先をオーロラへと向ける。
「あら…?ここに来るまでに、もう会ったんじゃないの…?」
「えっ…?」
オーロラの言葉に、眉をひそめる輝矢。
「私の…“作品”たちに…」
「・・・っ?」
オーロラはどこか怪しく、そしてこの上なく冷たい笑みを浮かべて言った。
「“葉吹雪”っ!」
「“瞬花”っっ!!」
――――――――――パァァァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――――――――
クロトの放った無数の葉っぱを、一瞬にして桜の花びらと変えてしまう桜時。
「ん〜けっこう面倒だなぁ〜“花力”って」
その様子を見て、クロトが少し考えるように呟く。
「さらわれた人間っ?コイツらがっ?」
村雨丸を構えてクロトを警戒しながら、背中合わせに立ち、同じようにシロキを警戒しているゴンへと問いかける桜時。
「眠り姫ってヤツに洗脳されてるってのかっ?」
「ああっ。じゃなきゃっ、俺らと戦うのにいつまでも人間の姿でいるはずねぇーだろっ」
「たっ…確かにっ」
納得するように頷く桜時。確かに今までの鬼人たちは、正体がバレるとすぐに人間から鬼人の姿となって戦いを始めた。鬼人の姿の方が戦闘力も上がるし、2人が鬼人であれば、人間の姿のままいる理由はないだろう。
「じゃっ…じゃあどうすんだよっ?人間相手じゃむやみに攻撃することなんてっ…」
「まっ、適当に粘って、竹取が眠り姫倒すの待つしかねぇーだろっ」
「文句言ってるわりに輝矢任せだよなぁ〜」
「んだとぉっ!?」
「いつまでお話してるのかなぁ〜っ?」
『・・・っ!』
飛び込んでくるクロトに、2人が表情を鋭くして構える。
「あぁ〜〜〜んっ」
『何っ…!?』
2人へ向けて大きく口を開くクロトに、桜時とゴンが眉をひそめる。
「あれっ…!まさかっ…!」
「“鬼口”っ!」
『・・・っ!!!』
―――――――――バァァァァァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!―――――――――――
クロトが口から放った高密度のエネルギー波が、2人の立っていた辺りの床を直撃し、大きな穴をあける。
『なっ…』
左右に避けた桜時とゴンが、それぞれ驚いた表情で穴を見つめる。
「今のはっ…間違いなく“鬼口”っ…」
「おっおいっ!ゴンっ!コイツらやっぱ鬼人じゃねぇーかっ!」
「・・・っ」
非難するように叫ぶ桜時に対し、何やら信じられないといった表情を見せているゴン。
「隙だらけ…」
「・・・っ!」
そんなゴンに、すかさず鋭く伸びた爪を振り下ろすシロキ。
「ううっ…!!」
「ゴンっ!!」
構えを取ろうとしたゴンであったが、シロキの方が動きが速く、右肩を爪で切り裂かれてしまう。ゴンが血を流して苦しげな顔を見せる。
「クソっ…!」
村雨丸を構えてシロキの方へと飛び込んでいく桜時。
「“鬼爪・天回”…」
「・・・っ!」
向かってくる桜時に、シロキが鋭く尖らせた爪を飛び道具のように放つ。
「クっ・・・!」
―――――――――パァァァンッ!パァァァンッ!パァァァンッ!パァァァァンッ!――――――――――
村雨丸を振るい、すべての鬼爪を叩き落す桜時。
「なかなかやるね…」
そう言ってシロキが再び鬼爪を生やす。
「今のも…鬼人の技っ…」
「ゴンっ!」
唖然として呟く、傷ついたゴンの元へ、桜時が慌てて駆け寄る。
「大丈っ…!」
「人間の姿に擬態したまま…鬼口や鬼爪を使える鬼人なんて、俺は聞いたことも見たこともねぇーっ…」
「えっ…?」
ゴンの言葉に、眉をひそめる桜時。
「お前らはっ…お前らは一体、何者だっ!!?」
『・・・っ』
ゴンの問いかけに、クロトとシロキはどこか怪しげに微笑んだ。
「どういうっ…どういう意味ですっ…?」
「あら…?わからない…?」
明らかに動揺を見せて聞き返す輝矢に対し、オーロラは笑みを浮かべて寝台から降りる。
「なら見せてあげる…」
「・・・っ?」
寝台から降りたオーロラが、寝台のさらに奥へと歩いて行く。オーロラの行動を、戸惑うように見つめる輝矢。
「その方が…早いでしょう…?」
「・・・っ!」
「ぐぅー・・・ぐぅー・・・」
寝台の奥で深く眠っている男へと手を伸ばすオーロラ。輝矢は嫌な予感がして、思わず身を乗り出す。
「待っ…!やめっ…!!」
「“帰化鬼化”…」
――――――――――パァァァァァァァァァァァァァァーーーーーッッッ!!!!――――――――――
輝矢が必死に手を伸ばす中、オーロラが両手から放った白い光が、眠っている男の体を包んでいく。
「ぐっ…ううぅぅぅっ…」
眠っていた男が、光に包まれた途端、急に苦しげな声をあげて頭を抱える。
「ううううっ…!グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
―――――――――――バァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!―――――――――
「・・・っっ!!!」
激しい叫び声をあげて、人間の皮を破るように禍々しい緑鬼へと姿を変える男。輝矢が大きく目を見開く。
「そっ…そんなっ…」
「グアァァァァァァァァァァァァーーーーッッ・・・・」
生まれたばかりの鬼を見上げながら、茫然と呟く輝矢。
「これが私の力…そして彼が…私の“作品”よ…退治屋さんっ…」
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
「・・・っ」
オーロラの言葉に、輝矢は力なく三日月を持つ手を下ろした。
一方、桜時・ゴンvsクロト・シロキ。
「俺たちの正体ぃ〜?」
人間の姿を保ちながらも鬼人の技を使うクロトとシロキに、戸惑いながらも真剣な表情で問いかけたゴン。そのゴンの問いかけに、クロトがどこか楽しげに微笑む。
「君たちのお察しの通りさぁ〜っ」
「何だとっ?」
「ボクらは森の中で眠り姫サマの呪いにかかり、この城へと導かれた人間…」
「人間っ?」
シロキの言葉に眉をひそめる桜時とゴン。
「じゃあなんで鬼口や鬼爪をっ…」
「たっだぁ〜眠り姫サマのお力でぇ“人間から鬼人に生まれ変わらせてもらった”んだけどねぇ〜っ」
『なっ…!?』
思いがけないその言葉に、桜時とゴンが大きく目を見開く。
「人間から…鬼人にだとっ…?」
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
「・・・。」
激しい咆哮をあげる鬼人の前に、茫然と立ち尽くしている輝矢。人が鬼へと変わるその信じがたい光景を目にした輝矢は、その場から1歩も動けずにいた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
「・・・っ!クっ…!」
そんな輝矢へと勢いよく爪を振り下ろす鬼人。輝矢が慌ててそれを避ける。
「ダメね…戦闘中にボーっとするなんて…」
「・・・っ」
笑顔で言葉を投げかけるオーロラを強く睨みつける輝矢。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
「・・・っ!」
オーロラの方を向いていた輝矢に、鬼人がまたもや爪を振り下ろす。
「三日づっ…!うっ…!」
鬼人に三日月を振り上げようとした輝矢が、思わず三日月を止める。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
「あああああああああああああああっっっ!!!!」
三日月を止めてしまった輝矢に、容赦なく鬼人の爪が振りかかり、輝矢が勢いよく吹き飛ばされる。
「ううっ…」
壁に背中を打ちつけた輝矢が、苦しげな表情を見せる。
「どうしたの…?退治屋さん…目の前に鬼がいるのよ…?早く、退治しっ…」
「元にっ…」
「・・・っ?」
オーロラの言葉を遮り、立ち上がりながら声を発する輝矢。
「元に戻す方法はっ…!?」
「・・・。」
真剣な眼差しを向ける輝矢を見て、オーロラが一瞬、笑みを消す。
「そんなもの…」
再び冷たい笑みを浮かべるオーロラ。
「あるはずがないでしょう…?」
「・・・っ!」
オーロラの言葉に衝撃の走った様子で目を見開く輝矢。
「・・・。」
立ち上がった輝矢が、力なく俯く。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
俯いた輝矢に飛び込んでいき、鋭く爪を振り下ろす鬼人。
「・・・っ」
――――――――――――・・・・・・・・・・・・・っっっ!!!!!―――――――――――――
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
俯いたままの輝矢が素早く三日月を振り切り、向かってきていた鬼人の胴体を切り裂いた。鬼人は激しい叫び声をあげ、紫色の血を大量に流しながら、後方へと倒れていく。
「うっ…!ううっ…!・・・っ」
倒れた鬼人は一瞬、元の人間の姿へと戻り、すぐに砂となって崩れ落ちた。
「・・・。」
俯いたまま三日月を振り払い、鬼人の血を落とす輝矢。
「へぇ…わりと大人ね…。元には戻せないとわかったら、すぐさま殺すなんて…」
「“水月”…」
「・・・っ!クっ…!」
――――――――――バァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――――――――
感心したように笑っていたオーロラに、輝矢が無数の水の刃を放つ。不意をつかれたオーロラが慌てて横へと飛び、水月をかわす。水月はオーロラの寝台を破壊し、壁を砕いて外へと飛んでいった。
「・・・そうでもないみたいねっ…」
壁にあいた穴を見て、苦笑いを見せるオーロラ。
「アナタだけは…」
輝矢が三日月を握る力を強め、ゆっくりと顔を上げる。
「アナタだけは…許さないっ…」
「・・・っ」
強く睨みつける輝矢を見て、オーロラがどこか楽しげに微笑む。
「さぁ…できるかしら…?」
右手を挙げ、輝矢に問いかけるオーロラ。
「私は…“造り物”とは違うのよ…?・・・っ」
――――――――――パァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――――――――
「・・・っ」
そう言ってオーロラは白き鬼へと姿を変えた。
「にっ…人間が鬼人になるなんてっ…そんなことっ…」
「・・・。」
信じられないといった表情で呟く桜時。横ではゴンが厳しい表情を見せていた。
「眠り姫サマの力は偉大…ボクらに尽きぬ命と強き力を与えてくれた…」
「そうゆうことっ」
シロキの言葉を聞き、クロトが楽しげに笑う。
「助けに来たお仲間さんもぉ、そろそろ鬼になっちゃってる頃じゃないっ?」
『・・・っ!』
「アハハっ!アハハっ!」
動揺している表情を見せる桜時とゴンを見て、クロトはさらに愉快そうな笑い声をあげた。
「惜しかったねぇ〜っ!君たちはここで俺たちに殺されるんだぁっ!“葉吹雪”っ!」
「・・・っ!しゅっ…!“瞬花”っっ!!」
――――――――――パァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!―――――――――――
あまりに衝撃的なクロトたちの正体に、明らかに動揺していた桜時が、クロトの向けた葉吹雪に対し、慌てて瞬花を唱えて桜の花びらへと変える。
「“枝槍”っ!」
「・・・っ!村雨丸っ!」
花びらが散る前に桜時の懐へと飛び込んでくるクロト。桜時が慌てて村雨丸で対応する。
―――――――――カァァンッ!キィィンッ!パァァンッ!――――――――――――
桜時の村雨丸とクロトの枝槍が互角の斬り合いを見せる。
「クっ…!」
クロトと距離を取るように後方へと飛び、村雨丸を構える桜時。
「“瞬花っ…終っ…」
―――――――ボクらは森の中で眠り姫サマの呪いにかかり、この城へと導かれた人間…――――――――
「・・・っ!」
思い出されるシロキの言葉に、桜時が思わず刀を止めてしまう。
「隙ありぃ〜っ!」
「・・・っ!」
そんな桜時に、笑顔で斬りかかって来るクロト。村雨丸を構える時間もなく、桜時が目を見開く。
「“狐火・一髪”っ」
『・・・なっ…!!』
――――――――――バァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!――――――――――
「うわああああああああああああああああああああっっっ!!!」
「クロトっ…!」
飛んで来た火炎の玉に身を焼かれ、吹き飛ばされるクロト。飛ばされたクロトの下へ、シロキが駆け寄る。
「ゴンっ…!!」
炎を放ったゴンへ、非難するような瞳を向ける桜時。
「何やってんだよっ!?」
桜時がゴンへと駆け寄る。
「聞いてなかったのかっ!?アイツらは人間っ…!」
「前は人間でも、今は鬼人だ」
「・・・っ」
どこか冷たい瞳で言い放つゴン。いつもとは違うゴンの様子に、桜時が戸惑うような表情を見せる。
「鬼人は倒す…」
「そんなっ…!」
ゴンの言葉に思わず声をあげる桜時。
「そんなのねぇーよっ!!アイツらだってまだっ…!元の人間に戻る可能性があるかもっ…!」
「ハチ公…」
「・・・っ」
冷静に桜時の名を呼ぶゴンに、桜時が言葉を止める。
「普通に考えて、人間が鬼人になる方法なんてあるはずがねぇー…。だがなっ…」
ゴンがまっすぐに桜時を見る。
「1度、鬼人になった人間が元に戻る方法の方が、もっとあるとは思えねぇーっ…」
「・・・っ」
ゴンの言葉に、桜時が表情を曇らせる。
「正解…」
『・・・っ?』
狐火にヤラれたクロトの体を支えながら、シロキが冷静に言い放つ。
「ボクらを元の人間に戻す方法なんてないよ…」
「そんなっ…」
「まぁもっとも…元の人間に戻ることなんて、ボクらは少しも望んでないけどね…」
「そのとぉ〜りっ!」
狐火に焼かれ、顔の一部に焼けどを作ったクロトが、気味が悪いとさえ思える笑みを浮かべて立ち上がる。
「もぉ〜怒っちゃったもんねぇ〜っ!本気で行くよぉっ!シロキっ!!」
「ああ…」
遅れて立ち上がったシロキが、クロトの言葉にしっかりと頷く。
「これが今の俺たちの本当の姿だよぉっ!!」
――――――――――バァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――――――――
『・・・っ!!』
強い光を放って、クロトとシロキがそれぞれ、黒鬼と白鬼へと姿を変える。その禍々しい姿はまさに鬼人そのもの。姿を変えた2人を大きく見開いた目で見上げる桜時とゴン。
「さぁっ!いよいよ死んでもらおうかぁっ!!」
「・・・。」
そう叫んで爪を立てる黒鬼・クロトに、ゴンが右手を身構える。
「待っ…!待てよっ…!!」
「・・・っ」
そんなゴンの右手を止めるように掴む桜時。
「やっぱりっ…!やっぱりこんなのっ…!!」
「覚悟がねぇーなら下がってろっっ!!!邪魔だっっっ!!!!」
「・・・っ!」
ゴンの怒声に、思わず掴んでいた手を離す桜時。
「・・・。」
戦意を失ったかのように村雨丸をも下げる桜時を横目に、ゴンがたった1人で2匹の鬼の前へと立つ。
「俺たち相手に1人で戦う気ぃ〜っ?いくら何でも強気過ぎんじゃないのぉ〜っ?お兄さんっ!」
「・・・悪りぃーが手加減はしねぇーぜっ…」
―――――――――――ボォォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!!――――――――――――
そう言い放ったゴンが白い煙に包まれ、黄金色のキツネへと姿を変える。
「獣化…?」
キツネへと姿を変えたゴンに、首をかしげる桜時。
「アハハっ!今更そんな姿になって何しようってのぉっ?子ギツネさんっ!」
「ああっ…五火からはこの姿じゃねぇーと使えねぇーもんでなっ…」
「何っ…?」
笑っていたクロトが、ゴンの言葉に眉をひそめる。
「“一髪・二目・三耳・四首・・・」
――――――――――――ボォォォォォォォォォォォォォォウウウウッッッ!!!―――――――――――
『・・・っ!!』
ゴンが何やら言葉を発するとともに、ゴンの尾の横に1つずつ、炎でできた尾が増えていく。激しく赤い炎は、先ほどの火の玉とは比べものにならないほどの力を感じた。
「五臓・六腑…」
「マズいな…クロトっ…!あの技が完成する前にアイツを殺すぞっ…!」
「りょおかいっ!!」
そう言葉を交わしたクロトとシロキが、さらに炎の尾を増やしていくゴンに向けて、同時に大口を開く。
『“鬼口”っっっ!!!』
「・・・っ!ヤバいっ…!」
技の準備を整えているゴンに向けて、同時に鬼口を放つクロトとシロキ。2つの鬼口は1つとなって、激しい威力でゴンの元へと飛んでいく。その様子に思わず声を出す桜時。
「ゴンっっ!!!」
「七臍・・・」
桜時が危機を感じて叫ぶにも関わらず、ゴンはそのまま言葉を発し続ける。
「八脚・・・」
―――――――――――パァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――――――――
『なっ・・・!!!』
新しく出来た8本目の炎尾が空中で舞い、向かって来た鬼口を一瞬で掻き消す。炎尾のあまりの力に、大きく目を見開く桜時とクロト・シロキ。
「九尾”・・・」
最後に8本の炎尾を持ったゴンの本物の尾も、赤々とした炎が包んでいく。
「せめて苦しませずに逝かせてやる・・・」
9つの炎尾がさらに燃え盛り、巨大化していく。
「“九火煉獄”っっ!!!」
――――――――バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!―――――――――
『ううっっ・・・!!!』
9つの炎尾が、まるで洪水のように、激しい勢いでクロトとシロキに向かっていく。迫り来る巨大な炎に、思わず怯むクロトとシロキ。
「シっ…!シロキっ…!!」
「クロトっ…!!!」
互いに手を伸ばした黒き鬼と白き鬼に、激しい炎は躊躇することなく向かっていった。
―――――――――――バァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!―――――――――
真っ赤な炎が2匹の鬼と、その周囲をすべて焼いていく。
「あ…れ…?」
炎の中に倒れ込んでいるのは、元の青年の姿へと戻った、かなり弱り果てた様子のクロトであった。
「確か俺…シロキと森に遊びにっ…あれ…?」
「・・・。」
クロトがすぐ隣に倒れている、こちらも青年の姿に戻った、深く瞳を閉じたシロキの姿を見つける。
「シロキ…?ねぇ…シロキっ…どう…したの…?」
少しも動かぬシロキに、クロトは弱々しく手を伸ばす。
「あれっ…?何だか俺もっ…もう眠いやっ…」
そう呟いて微笑んだクロトの瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
「・・・っ」
――――――――――・・・・・・・・・・・っっ――――――――――――――
そのまま瞳を閉じたクロトは、隣で眠るシロキとともに、砂となって崩れ落ち、炎の中に消えていった。
「・・・。」
――――――――――ボォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!――――――――――
人の姿へと戻ったゴンが、小さくなっていく炎を見つめ、立ち尽くす。
「・・・っ」
強く握り締めたゴンの拳からは、炎と同じ赤い血が流れ落ちていた。
「・・・。」
そんなゴンを、後方から静かに見つめる桜時。
桜時は背負わせただけであった。2人の死を、ゴンに背負わせることしかできなかったのであった。
「三日月っ!」
「“鬼爪・天回”っ…」
「“水月”っ!」
「“鬼口”っ」
―――――――――――バァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!―――――――――――
「クっ…!」
何を放っても互角以上の力で返してくる白鬼・オーロラに、輝矢が少し表情をしかめた。
「技が感情に呑まれて先走っているわよ…?退治屋さん…」
オーロラは余裕の笑みで輝矢を見下ろす。
「冷静さを忘れてはいけないわ…」
「大きなお世話ですっ」
まるで助言でもするかのように言うオーロラに、強く言い放った輝矢が再び三日月を構える。
「・・・っ!」
三日月を構え、勢いよくオーロラへと飛び込んでいく輝矢。
「三日月っ!!」
輝矢がオーロラの懐へと入り、三日月を振り切る。
―――――――――――・・・・・・・・・・・・っっ!!――――――――――――――
「うっ…!」
空を切る三日月に、輝矢が目を開く。
「そうやって…安易に敵の懐に飛び込む…」
「・・・っ!」
いつの間にか輝矢の後方へと立っているオーロラ。
「“月器・十六っ…!」
「“鬼爪”…」
「ううううっっ・・・!!!」
輝矢が三日月を十六夜へと変形させる前に、オーロラの爪が輝矢の背中を切り裂いた。
「うあっ…!うううっ…」
血を流した輝矢が、力なく床に倒れ込む。
「・・・。」
それを見ていたオーロラが白鬼の姿からまた人間の姿となり、倒れている輝矢へと歩み寄った。
「ほらっ…だから言ったでしょう…?」
「・・・っ」
すぐ傍に立ち微笑みかけるオーロラを、輝矢が痛みをこらえながら睨み上げる。
「そうだっ…貴女も鬼にしてあげましょうかっ?」
「・・・っ」
オーロラの言葉に、眉をひそめる輝矢。
「そうすれば…ここで私に殺されることもない…永遠に生きることができるのよ…?」
「・・・冗談じゃありませんっ…」
「・・・っ」
すぐさま答える輝矢に、オーロラの表情が曇る。
「鬼となって永遠に生きるぐらいならっ…ここでアナタに殺された方がずっとマシですっ」
「・・・。」
強い瞳で言い放つ輝矢を見て、オーロラが表情から笑みを消す。
「まぁ私はアナタなどに負けたりしっ…」
「・・・それは…貴女が長く生きることを許された命を持っているからよっ…」
「えっ…?」
少しトーンを落としたオーロラの言葉に、輝矢が少し眉をひそめる。
「でもね…人間の命なんて…いつかは必ず尽きるもの…」
どこか遠い目を見せるオーロラ。
「貴女も…目の前に死が迫ったら…きっと言うわっ…“鬼になってでも生きたい”って…」
「・・・っ」
妙に気持ちのこもったそのオーロラの言葉に、輝矢は怪訝そうに顔をしかめた。
「だって…みんな、喜んだものっ!鬼人になれてっ…これで死ぬことはないんだって…喜んだものっ!」
「・・・。」
必死に言い放つオーロラを、輝矢はどこか悲しげに見つめる。
「人でなくなるだけでっ…死ななくて済むのよっ…!?だったらその方がずっとずっといいじゃないっ!」
「オーロラ…アナタ、まさかっ…」
「私はっ…私は死なないっ…!私は永遠に生き続けるのっ…!!」
「・・・。・・・っ」
まるで自分の方が追い詰められているかのように、必死に叫ぶオーロラ。そんなオーロラをまっすぐに見つめていた輝矢であったが、やがてどこか諦めたかのように視線を逸らし、俯いた。
「オーロラ…」
「・・・っ?」
再び三日月を強く握り、傷ついた体を立ち上がらせる輝矢。
「もし…私の命が明日には尽きるほどのものだったとしても…」
痛みをこらえて立ち上がった輝矢が、ゆっくりと顔を上げ、オーロラを見つめる。
「私は…決して鬼として生きる道は選びませんっ」
「・・・っ」
輝矢の答えに、少し眉をひそめるオーロラ。
「最期まで人として生き、そして死にますっ」
曇りのない表情と堂々とした態度で言い切る輝矢。
「でもまぁ正直、まだ死にたくはないので…」
少し笑みをこぼす輝矢。
「私はアナタを倒しますっ…!」
「・・・。」
そう言って三日月を構えた輝矢を見て、オーロラがどこか暗い表情で下を向く。
「・・・そう…じゃあっ…」
―――――――――――バァァァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!―――――――――
再び白鬼の姿と変わるオーロラ。
「望み通りっ…人として死なせてあげるわっ…!!」
「・・・竹取輝矢っ…」
鋭い瞳となって、鬼と化したオーロラを見上げる輝矢。
「鬼退治…いたしますっ…!」
「アアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
同時に飛び込んでいく輝矢とオーロラ。
――――――――――・・・・・・・・・・・・っっ!!!――――――――――――
輝矢の三日月とオーロラの鬼爪が激しくぶつかり合う。
「貴女にっ…貴女に何がわかるのっ…!?」
「・・・っ?」
輝矢に鬼爪を向けながら、どこか悲しげな声で問いかけるオーロラ。
「生まれながらに死に逝く命を持った人間のっ…何がわかるっていうのっ…!!!」
―――――――――パァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――――――――――
「ううっ…!」
オーロラの激しい攻撃に、輝矢が持っていた三日月を弾き飛ばされる。
「クっ…」
「ハァっ…!ハァっ…!ハァっ…!」
丸腰となった輝矢の前に立ちはだかり、肩で大きく息をするオーロラ。
「貴女にっ…貴女に…何がっ…」
「確かに…私にはわかりません…」
「・・・っ」
その言葉を繰り返していたオーロラが、三日月を失い、ただ立ち尽くしているだけの輝矢の声に顔を上げる。
「でもっ…わかってくれた人はいたのではないですかっ…?」
「・・・っ!」
突き上げるようにまっすぐに見つめる輝矢に、ハッとした表情を見せるオーロラ。
―――――――――可哀想に…オーロラ…わしがっ…わしが代わりに死にたいっ…―――――――――――
――――――――ああっ…どうしてあなただけが…不治の病になどっ…オーロラっ…――――――――――
「・・・っ」
思い出される映像を、オーロラが必死に振り払うかのように首を振る。
「鬼になることで帰る場所すら亡くしてっ…それで永遠に生きて、本当に幸せですかっ?」
「私っ…私はっ…!」
「アナタは永遠の命を得る代わりに、たくさんのものを亡くしたんですっ!」
「違うっ!!!」
輝矢の言葉を、頭を抱えて大きな声で否定するオーロラ。
「違うっ…!違うっ!違うっ!私はっ…!!私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
「・・・っ!」
三日月のない輝矢へと、オーロラが勢いよく爪を振り下ろす。
――――――――――パァァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――――――――――
「・・・っ!!」
オーロラの爪が輝矢の体を切り裂いた途端に、輝矢の体が水となって弾け飛ぶ。
「水の分身っ…!?うああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」
弾け飛んだ水が刃となり、驚いているオーロラに向かって一斉に飛び出していく。
「うううっ…!」
全身に水の刃を受け、思わずよろけるオーロラ。
「・・・っ」
「うっ・・・!!」
そんなオーロラの目の前に現れる、三日月を構えた鋭い目つきの輝矢。
「これでっ…終わりですっ…!」
「クっ・・・!!」
三日月を突き出す輝矢と、険しい表情を見せるオーロラ。
「・・・っ三日月っっ!!」
―――――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・っっ!!!―――――――――――
「うっ…!ううっ…」
輝矢の突き出した三日月が、オーロラの胸を貫いた。
「いっ…嫌ねっ…」
胸から紫色の血を流していた白鬼が、やがて赤い血を流す人間の女の姿へと変わっていく。
「永遠にっ…生きられるっ…はず…だったのにっ…」
「・・・。」
輝矢が三日月を引くと、オーロラは力なくその場にしゃがみ込んだ。
「輝矢っっ!!」
「竹取っっ!!!」
そこへ桜時とゴンが駆けつける。
『・・・っ!』
部屋の中にいる輝矢とオーロラの姿を見て、思わず目を見開く桜時とゴン。
「オーロラ…」
壁にもたれかかるようにしてしゃがみ込んでいるオーロラを、少し細めた目で見つめる輝矢。
「アナタ…やはり人げっ…」
「昔ね…」
「・・・っ」
弱々しい声で話しを始めるオーロラに、輝矢が言葉を止める。
「昔…生まれつき、不治の病を患った子供がいたの…」
「・・・。」
オーロラを、輝矢はただまっすぐに見つめる。
「不治の病っ…?」
――――――――――娘が…いましてね…――――――――――
「あっ…」
輝矢とオーロラのやり取りを見ていた桜時が、何か思い当たったかのような表情を見せる。
「生まれながらに死ぬことを宣告されたその子供を…両親はひどく哀れんだ…」
―――――――――可哀想に…わしがっ…わしが代わりに死にたいっ…―――――――――――
――――――――ああっ…どうしてあなただけが…不治の病になどっ…――――――――――
「両親は…毎日言ったわっ…“可哀想な子、可哀想な子”って…」
「・・・っ」
そっと俯く輝矢。
「子供は思ったわ…“私は可哀想なんかじゃない”…“もっと…もっと生きたい”…」
オーロラがどこか悲しげに笑う。
「“永遠の時を…生きたい”って…」
「・・・。」
遠い瞳を見せるオーロラを見て、輝矢はそっと目を細めた。
「んっ…!ううっ…!」
痛みが走ったのか、急に顔をしかめるオーロラ。その体が足元から徐々に砂と化していっている。
「どうやら…本当に終わりが来たみたいね…」
砂となりゆく自分の体を見て、オーロラが笑う。
「アナタを…アナタを鬼人へと変えたのは…?」
死に逝くオーロラに、輝矢が最後の疑問を投げかける。
「・・・あの方は偉大な方よ…」
「あの方…?」
オーロラの言葉に眉をひそめる輝矢。
「あの方も間もなく動き出す…そうなれば…世界は鬼に満ち、やがて滅びの一途を辿るわ…」
「そのあの方っつーのっ…!あの方っつーのは誰だっ!?」
「ゴンっ」
輝矢の横から顔を出し、必死の勢いでオーロラに問いかけるゴン。
「ウフフ…。・・・っ」
――――――――――――・・・・・・・・・・・っっ――――――――――――――
「・・・っ!」
名を明かさぬまま、オーロラは砂となって崩れ落ちていった。
「・・・。」
風に吹かれ、消えていく砂を、輝矢は神妙な面持ちで見つめていた。
御伽界・とある山奥。
「オーロラの反応が消えました…」
崖の上に立ち、そう言うのは、色素の薄い灰色の髪に、あまり光を感じない紫色の瞳の、まだ若い男。首筋に何やら黒い紋様のようなものが入っている。
「シルク様…」
「・・・そう」
崖の先に座っているのは、長い白髪の人物。背中しか見えないが、その華奢な体に高く響くその声は、恐らく女性であろう。シルクと呼ばれた女性は、男の言葉に素っ気ない返事をする。
「やっぱりどこまで行っても人間は人間だったわねぇ…」
「オーロラの抜けた穴はどうなさいますか?」
「穴…?」
男の言葉を不思議そうに問い返すシルク。
「どこに穴があいたというの…?諸刃…」
「えっ…?」
諸刃が少し戸惑うような表情を見せる。
「捨て駒を1つ失くしただけよ…私には何の影響もないわ…」
「・・・っ」
そのシルクの言葉に、諸刃はあまりない表情でそっと眉をひそめた。
「すべては…私の計画通り…」
シルクが座ったまま、その白く細い手を高々と空へと伸ばす。
「やがてこの美しい世界を…醜い鬼が埋め尽くす…」
伸ばした手が、シルクを照らす太陽を隠す。
「フフフっ…アハハハハっ…アハハハハハっ…」
高々とした笑い声が、太陽の在る空へと響いた。
翌日。眠りの森。オーロラの古城付近。
「・・・。」
オトポリの制服を着た多くの警官が古城内や周囲を調査する中、輝矢は古城から少しはずれたところに作られた、小さな墓の前に立っていた。
「良かったのか…?」
「・・・っ」
そんな輝矢の横へと現れたのはハチ。
「六べぇさんとおハナさんに…オーロラのこと伝えなくてっ…」
「・・・。」
ハチの問いかけに、そっと目を落とす輝矢。
「良かったんですよ…」
輝矢が悲しげに微笑む。
「2人の娘は…30年前にこの森で死んだ…それで…いいんです…」
「・・・そっか…」
輝矢の言葉に、ハチが小さく頷く。
「・・・“瞬花”…」
―――――――――――ポンっ!!―――――――――――
「・・・っ」
ハチが瞬花で花を出し、その花を墓へと手向ける。
「かぁ〜っ!墓なんて作ってんじゃねぇーよっ!辛気くせぇーなぁっ!!」
「ゴンっ」
いつも通りの不機嫌面でその場へと現れたのはゴンであった。何とも煩わしそうに墓を見るゴン。
「おいっ!ハチ公っ!お前もなぁ〜に花なんか供えてんだぁ〜っ?辛気くせぇっ!!」
「何って…」
「情緒の欠片もないキツネですねぇ」
墓や花がとても気に食わない様子のゴンに、輝矢とハチが少し呆れた表情を向ける。
「だいたい俺は花っつーものが昔っから嫌いなんだよっ!」
「それはハチへの侮辱と受け取って、蹴り倒してもいいんですか?」
「何っっでだよっっ!!!」
かなり勝手な解釈をする輝矢に、ゴンが大きく突っ込みを入れる。
「あっ…そういえばっ…」
『・・・っ?』
何かを思い出したように声を出すハチに、言い争いをしていた輝矢とゴンが振り向く。
「誰に言われたのか忘れたけどっ…こんなこと言われたなぁ〜」
「・・・?何です?」
「うん…“永遠に咲く花を、人は誰も美しいとは思わない”」
「・・・っ」
――――――――――私は永遠に生きるのっ…!!――――――――――――――
「・・・。」
ハチの言葉にオーロラのことを思い出し、そっと俯く輝矢。
「“じゃあどうして、散り逝く花は美しいのか”…」
墓をまっすぐに見つめるハチ。
「“人が…花はいつか散るものだと知っているから美しく見える…そうじゃない”…」
穏やかな笑顔で言葉を続けるハチ。
「“花自身が…いつか散ることを知りながら…それでも一生懸命咲くから美しいんだ”ってっ」
「・・・っ!」
そう言って笑顔を見せるハチに、輝矢が少し衝撃が走ったかのように口を押さえる。
「でぇも誰に言われたんだっけなぁ?」
「・・・っ」
考え込み、首を捻るハチの横で、小さく笑顔をこぼす輝矢。
「さっ、ここはオトポリに任せて、私たちはそろそろ行きますかっ」
「へっ?」
「サルぅ〜っ!キジぃ〜っ!どこですぅ〜っ?」
目を丸くするハチを墓の前に残して、足早に古城の方へと向かい、モンキとユキジを探す輝矢。
「何だぁ?アイツ…」
「やっぱすげぇーよっ、お前っ」
「へっ?」
首を捻っていたハチが、ゴンの言葉に振り向く。
「あっ…」
「・・・っ?」
ゴンの顔を正面から見た途端に、昨日のクロトとシロキとの戦いが思い出され、気まずそうに俯くハチ。そんなハチを見て、ゴンが眉をひそめる。
「ゴン…そのっ…昨日は悪っ…」
「良かったよっ。お前に殺させなくてっ」
「えっ…?」
ゴンの言葉にハチが戸惑うように顔を上げると、ゴンは穏やかな笑みを浮べていた。
「お前はこれから…たくさんのものを背負うアイツを…支えていかなきゃいけねぇーんだもんなっ…」
そう言ってゴンが、モンキやユキジと合流する輝矢を見つめる。
「それってどうゆうっ…」
「まぁ一言で言うと、良き旦那になれってことだっ!」
「だんっ…」
ゴンの笑顔に、固まるハチ。
「って、なるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
「アッハッハっ!」
「ハチ〜っ!行きますよぉ〜っ?」
思い切り怒鳴り返すハチを見て、楽しげに笑うゴン。そんなハチを古城の方から輝矢が呼ぶ。
「ゴンと何の話をしてたんです?」
「何でもねぇーよっ」
やって来たハチに輝矢が問いかけるが、ハチは素っ気なく答える。
「怪しいなぁ〜」
「桜時、ゴンゴンに何か脅迫されてんじゃなぁ〜いっ?」
「誰がじゃっ!!」
疑いの目を向けてくるユキジに、ゴンが力強く怒鳴りつける。
「おおぉぉぉ〜〜〜いっ!かっぐやさぁぁぁぁ〜〜〜んっっ!!!」
『・・・っ?』
そこへ古城の調査を行っていた金汰がやって来た。
「いっやぁぁぁぁ〜〜っ!ここにおったとですかぁ〜っ!」
「金汰さんっ、調査終わったんですか?」
「んんっ?」
――――――――――ボォォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――――――――――
「ああっ…粗方なっ」
「渋っ!」
「ずっと人でいりゃいいのにぃ〜っ」
ゴンの問いかけに、人化してカッコよく答える金汰に、モンキとユキジが少し呆れた表情を見せる。
「それで輝矢さん」
「はいっ?」
真剣な表情で輝矢の方を見る金汰。
「今回の件、本部に知らせたら、緊急会議が開かれることになった。オトポリ全員に召集かかっている」
「えっ?俺もですかぁ?」
「まぁ一応なっ」
「一応って…」
金汰の微妙なニュアンスの答えに、顔をしかめるゴン。
「まぁゴンさんがいない方が会議はスムーズに進むと思うっスけどねぇ〜っ!」
「・・・っ」
―――――――――――――バギコォォォォォォォーーーーーンッッッ!!!!――――――――――
「うううっ…」
現れた途端に要らぬ口を叩いた羊スケに、ゴンの鉄拳が降り注いだ。
「危うく鬼人にされるところだった可愛い部下になんたる仕打ちっ…」
「あ〜あ。鬼人にされときゃあ容赦なく燃やしてやったのによぉっ」
「ヒドいっスよぉ〜っ!ゴンさぁ〜んっ!」
羊スケが泣きそうな顔で訴える。危うく鬼人にされそうだったわりには元気そうである。
「んんっ?羊スケっ、お前が目覚めたということは鉄もっ…」
「ああっ、さっき起きたっスよっ?」
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!?」
羊スケの答えを聞き、大きなリアクションをとる金汰。
――――――――――ボォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!―――――――――――
「待ってるだべぇ〜っ!鉄ちゃぁぁ〜〜んっっ!!兄ちゃんが今すぐ行くだぁぁぁぁぁ〜〜〜っっ!!!!」
『・・・。』
再び熊化した金汰が、物凄いスピードで再び古城の方へと走り去っていってしまう。
「結局…何言おうとしてたんだ…?あのクマ…」
「さぁ?」
呆れた表情で問いかけるハチに、首をかしげる輝矢。
「まぁ要は〜会議があるなら情報収集できるし、輝矢さんも来たらどうっ?ってことじゃないっスかぁ?」
『なるほどっ』
代わりに言う羊スケに、ハチたちが納得したように手を叩く。
「そういえばさぁ〜オトポリの本部ってどこにあんのっ?」
「“龍国”だ」
ユキジの問いかけに、真面目な表情で答えるゴン。
「龍国…?」
「ああっ…四大国が一、御伽界・最古にして最大の国…」
「どうするんだ?輝矢」
「うぅぅぅ〜〜〜んっ…」
ハチの問いかけに、考え込むように首を捻る輝矢。
「そうですねっ、じゃあ行きましょうかっ」
「おうっ!」
「私も久々に里帰りしたいですしっ」
「おうっ!って…へっ?」
勢いよく返事をしたハチが、何やらおかしいと思い、首をかしげる。
『へっ?へっ?』
モンキやユキジらと目を合わせ、首をかしげ合う3匹。
『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!?』
3匹の大きな声が響き渡った。
其の十三へつづく。
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