ボウサイシュウカン
週の始まり、各職員への伝達が終わったところ。
ガチャ
「失礼します。お呼びですか、校長先生」
「ああ、突然すみません。どうぞ、お掛け下さい」
「あ、はい」
ん、長い話になるのかな。
「どういったご用件でしょう」
「先週行った、我が校の避難訓練についてですが、どう思われますか」
何かあったのだろうか。
「まあ、例年通りといいますか、普通に行えたと感じています」
「そこです。教頭先生はこの週末に行われた各地域の避難訓練をご覧になられましたか?」
「私は地元の訓練に参加していました。結構、力を入れた内容でしたね」
最近の避難訓練は実際の災害に似せた本格的なものが多い。毎年、色々工夫されてきている。
「それに比べて、我が校の訓練はいかがでしょう。慣れが生じて、段々と緩んだものになっていませんか」
「確かに、言われてみればそんな気もします」
「そこで、教頭先生。今からまた、避難訓練を行いたいと思います」
何と。
「災害とは突然襲って来るものです。混乱が起きるかもしれません。しかし、先週の訓練が浸透していれば、上手くできるはずです」
「では、各職員に連絡を…」
「いえ、職員にも抜き打ちで行います。予め知らせておくのは、本来、妥当ではありません」
……
「私はこれから放送室に向かいます。教頭先生は正面玄関にて、職員や生徒を誘導して下さい」
「分かりました。ですが、普段と違うことというのは、何だか少し緊張しますね」
「いつも通りのところはいつも通りに。逆の意味で、緊急自体に対する慣れも必要なことです。では行きましょう。10分後に開始です」
玄関の扉は開けた。この立ち位置で良いだろう。そろそろか。
ジリリリリッ。
ウウウー、ウウウー。
非常ベルやサイレンが鳴り響く。何事か、各所から騒ぎ出す声が聞こえ始める。
「緊急放送、緊急放送」
そんな中、放送が入る。校長は冷静さを保つように落ち着いたトーンで語りかけた。
「緊急放送。2階理科室にて地震が発生。職員、生徒は速やかに校庭に避難せよ」