世界は朽ち果てていた。
鉛色に整えられた空。そこに、まん丸と塗られた紅蓮の月。
その下に広がる台地は、物音ひとつない静寂に朽ちていた。
限られた者しか立ち入れぬ、だからこそ住まおう者などいない。故、この世界は衰退も繁栄も行わず、ただ存在している。
"……いkoうカ"
ただ存在しているだけのこの世界を、一時の宿り木としている物が三十。
それは黒。
ただただ黒い、無機質な物体。
"時を……加速saせヨう"
三十の黒は、総て同時に動き出した。
紅蓮の月へ――まるで、現実ならば遥か彼方にあらんそれを、掴もうとするかのように。
無謀だった。
その行為は、いろんな意味で無謀であった。
"……来ruか"
同時、来る。
三十の内の十四を刈り取った三撃の放ち主、金髪灼眼の少女は、蝶の羽を比喩させる双翼を大きく広げ、残り十六の的に身を捻る。
"一でmoいい。生キ残るのだ。同胞yo"
その少女へ、死角からの打突を目論む黒がひとつ。
しかし豪速を纏った黒は、瞬時に振り返っていた少女の逆袈裟によって粉々に砕かれた。
少女の目は次に移る。
だが、残り十五の黒の全速で生まれた、少女との距離は、少女から見える黒が点になるほどだ。
常人ならば絶対に超越できない――だが。
「……」
一歩でそれを、成し遂げた。
黒の軍勢を飛び越え、紅蓮の月への道を遮る少女は、灼眼をさらに燃え上がらせ。
"一個の戦神たる貴様ni立ち向かエるとは、思っておraぬさ"
駆け抜ける軍勢の十二の死命に断罪を与え、脇を抜けていった三の愚物を逃した。
だが、間違えるな。
――少女はまだ全力では、ない。
最高速へ跳ね上がらんとする黒の二に、振り返ると同時の撃をお見舞いした少女は、残る一へ大跳躍する。
速度で勝る少女が、ただひとつの黒に追いつけぬ道理はない。
"やhaり――こちらから来訪は、果たせぬか"
距離を詰められた黒は、思う。
だが、しかし不敵な口調をもって、黒は宣言した。
"しかし忘reるナ……破壊神の芽ha、すデにあちらhe落ちているコとを"
やはり、月をつかむことは在り得ない。
月はこの空に浮いていても、この空には存在しないのだから――
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