第三話:元の場所には帰れない!?
そりゃ、ため息の一つも付きたくなるよね、お兄さん。
だけどね、自分が一番ため息つきたい心境なんですけどね!
こんな所で仕事って…。じゃあ、あっちでの秘書という仕事はどうすりゃいいの?
私だって暇な人間でもなければちゃんとした社会人なんですけど…
そんな人間連れてこなきゃいけないほどここは人手不足なのか?そうなのか??
「あの……とりあえず、仕事の説明をしますので付いて来て頂けますか?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
男は私が黙って付いて来ると思っていたのだろう。私の呼び声に歩き始めていた男はやれやれといった感じで振り向いた。
「なんですか?」
「仕事って…私、元の場所に帰れないんですか!?」
「……」
「どうしてそこで黙るんですかー?」
「その事についてもお話しますので、とにかく付いて来て下さい」
そう言うと彼はスタスタと城の中に入って行ってしまう。
置いていかれても困るので私も彼の後について城の中へ。
城の中は意外にも明るくて綺麗だった。
魔界の城なんかは想像だけど暗くて蝋燭の火が転々とあるだけだと思っていたからちょっと驚きだ。
毛の長い赤い絨毯がひいてあったり、廊下の途中には花なんかが飾られてちょっとした中世のお城っていう感じ。
私は周りをキョロキョロ見ながら彼に着いていく。
と、突然ある扉の前で男は立ち止まったものだからよそ見していた私は彼の背中にぶつかってしまった。
「ぶっ!あ…すいません」
「いえ。申し訳ありませんが、こちらに入って少々お待ちいただけますか?」
「え?は、はぁ…」
そう言って彼は私をある部屋に押し込むとどこかへ行ってしまった。
部屋に一人残されてしまった私はというと、部屋の観察をしてみたかったが、何せ私はここの人間ではないのだ。勝手にうろちょろしてはいけないだろう。
とりあえず、部屋に入ってすぐ目に入った備え付けられてある座り心地が良さそうな椅子へと腰掛けた。
さっきの廊下もそうだったが、この部屋の物も質のいい調度品が配置してあってここが魔界のお城とは到底思えないほど豪華だ。
これから一体どうなるのかと一人悶々と考えていた所にノックの音がした。
慌てて椅子から立ち上がって扉のほうへと体を向けると女の人が部屋の中に入ってきた。
「お待たせしまして申し訳ありません」
そう言って入ってきた女の人は、見た目私より年下みたいだ。というか、女の人もいたのね…
「い、いえ…」
「えーと、すいませんお名前を伺ってもよろしいですか?」
「え?染谷夏輝ですけど…」
「それでは夏輝様、セルロス様がお呼びですのでこちらへどうぞ」
「?セルロス?」
「先ほどこちらへ案内した者です」
「あぁ、あの人セルロスって言うのね…」
それにしても…一体どこへ連れて行かれるのだろうか?
さっきから同じようなつくりの廊下を何回も曲がっていて、すでに自分がどこからやって来たのかすら思い出せない。
目の前を歩く女の人は一言もしゃべらず淡々と歩いているだけだ。
しかもこれだけ歩いているにも関わらず誰一人としてすれ違ってはいない。
これは本格的に人手不足なのだろうか?
そう不思議に思い始めた頃に彼女は立ち止まった。
「夏輝様、こちらです」
そう言ってある扉をノックすると中から人の声が聞こえた。
その声を聞き彼女はドアノブを回すと扉を開け夏輝を部屋の中へ入るように促した。
なにがなんだか訳が分からず緊張して中へ入ると、セルロスと言う男がソファに座ってこちらを見ていた。
「あぁ、来ましか…。さっそく仕事の説明を…」
「それより!私は元の世界には帰れないんですか!?」
「それは…」
ちょっ、何その反応!?やっぱり帰れないのか?そうならそうと言ってくれ!!
言葉を濁すような彼の言い方に私は顔を顰めた。彼は言葉を捜しているのか黙ったままだ。
「ねぇ、どうなの!?」
「それは出来ないな」
悶々と次の言葉を待っていると、別な声がしてそちらの方へと視線をやるとギルが丁度部屋へ入ってきた所だった。
「ギル!!」
「セルロス、説明は終わったのか?」
「いえ、それが…」
「ちょっと、私をここから元の世界に帰してくださいよ!ここに連れてきたあなたなら出来るんでしょ!?」
私は早く帰してほしくてギルに詰め寄った。
「それは無理だ」
「どーしてよ!!」
「人手が足りないからだ」
「はぁ!?そんな理由はないでしょう!?」
そんな理由で納得するとでも思ってるのか!!コイツ馬鹿か!?
「はぁ…あまり言いたくなかったのだが仕方ない。いいか?人間であるそなたは、こちらに来てしまった以上あちらの世界には戻る事はできない。それはなぜか?こちらから向こうに戻る場合、もしかしたら別の次元に行ってしまう可能性があるからだ。それが理由だ」
ため息交じりで答えたギルはこれで納得したかと言う。
隣で立っているセルロスをちらと見ればうんうんと頷いているだけだ。
てことは何?私は帰れないって事?ここで一生を過ごすわけ!?
がっくりとうな垂れてソファに座り込む。
手の甲に額を乗せている私を気の毒に思ったのか、セルロスは静かに部屋を出て行きお茶を持ってきた。
目の前にカチャりと置かれたお茶に俯いていた目線を上げると向い側にはいつの間にかギルが座っててこちらを見ると口を開いた。
「すまない…我は人間界で数日間そなたの仕事ぶりを見ていた。それはもうここの門番にぴったりだと思った。だが無理やり連れてきた事は謝る。本当にすまない…」
そう言ってギルは頭を下げた。
ん?ちょっと待ってよ!確かに落ち込んではいるけど…
あなた一応魔界の王様なんでしょ!?そんな人が簡単に人間なんかに頭下げて言い訳?
それって面目丸つぶれってやつなんじゃないの?
ほら、立ってるセルロスもビックリした顔してるけど…
はぁ……なんだか王様のギルが頭を下げてる姿を見てたら、もう帰れるとか、帰れないとかどうでもよくなってきたよ…
どうせ、帰っても毎日毎日同じことの繰り返し。嫌味ばっか言われる職場。私にはそれしかないと思って頑張ってきたけど…いい加減疲れてきてた所だったし…
そんなんだったら、ここで仕事でもなんでもしてやるわよ!!
「もういいです…頭上げてください…で?私の仕事って…?何するんですか?」
「……さっき言ったの聞いてなかったのか?」
頭を上げたギルは呆れたっていう感じで言う。
私はというとなんか言ってたっけ?という顔をしてギルを見返す。
見つめあうこと数秒。
「はぁ……さっき門番をやってもらうと言ったはずだぞ?」
「へ?」
も、門番ですってぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!?
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