040:仮宿
あとがきに報告ありますよい
「だから僕は何にも覚えて無いって」
「嘘吐くと閻魔様に舌引っこ抜かれて慰み者になっちゃうわよ」
何それ怖い。幻想郷だと笑えないから怖い。
ともかく、霧が晴れてからの三日間。何故かカーペットで寝てた僕は、ぐるぐる巻きに縛られて逆さ吊りのまま押し問答を続けていた。まぁ、ご飯の時間には下ろされるからそこまで苦じゃないんだけど。
「じゃあ何よ、貴方は自分がやった事も覚えてないの?」
「仕方無いだろ。つーか、腕斬られて生きてるのが不思議だとかそんなのは無いのか」
「別にそんなのはいいから、早く質問に答えなさい!」
バシバシと机を叩く駄々っ子、レミリア・スカーレット。巫女による折檻が大分効いたのか、それとも此方が素なのか、思いっ切り子供になってる。
「咲夜から聞いたのよ! お兄――――鉄生が生き返ったかもしれないって!」
「だから覚えてないとあれほど。蘇りなんて僕に出来る訳無いだろ」
「自分を信じて!」
「信じるなよ」
段々壊れてきてる。
そう、さっきから話題はこれだ。水元鉄生とやらが生き返ったらしいと、そればっかり言ってきやがる。それが幽夜の肉体からって言うのがまぁ、なんとも言えないポイントではあるんだが。
「別に恋人って訳じゃないんでしょ。だったら良いじゃない」
「いや、そーじゃなくて」
少しの間でも一緒にいた奴がいないと言うのは寂しいモノがあって云々。
喧々囂々と論争する部屋に、磁器の割れる音が響く。
「…………」
「…………」
「…………ッ!? も、申し訳ございません!」
赤面しながら割れたティーポットやらを片付けるメイドに、僕とレミリアが溜め息を吐く。
まぁ、なんと言うか。十六夜咲夜と水元鉄生には浅からぬ縁がある様で? 彼女が言うには彼を生き返らせる時に手伝っていたが、限界が来てぶっ倒れたとの事。僕が変身してた時もそういう結末だったのだろう。
で、幽夜の身体が無く僕が元通りになっていたから、もしかしたら水元鉄生が本当に生き返ったのかもしれないと。その考えが頭にあるままだからあの体たらくなのだろう。
給仕している彼女に変化は無いが、彼の名前が出る度にピクリと身じろぎするし、頬は面白い位紅潮する。作業の手が止まり、今の様な失態を起こす事も多々。
「……咲夜。後は他のに任すから」
「いえ、あの」
「咲夜」
「だ、だいじょう」
「め・い・れ・い・だ」
やはり顔を赤らめたまま、十六夜は下がっていった。それの主は眉間にシワを寄せたまま、此方に顔を向ける。
「……本当の事を言ってやらないと、何時までもあの調子な気がしてならない」
「と、言われても」
知らないモノは知らない。変な事答えたら恨み買いそうだし。
僕だって逆さ吊りのままと言うのは嫌だから、知ってたらとっくの昔に言ってるだろう――――等々、言いたい事は言ったのだが進展無し。
さて、どうしたものか。唸り声を少し出すが、僕よりも頭痛の種があるのはこの少女な訳で。
「〜〜〜〜ッ! あーもー仕方ない!」
苛立った声を上げ椅子から立ち、こちらにずんずんと向かってくるレミリア。逆さになった顔では、どんな感情が込められた表情なのかは把握しづらい。
「選ばしてあげるわ、感謝なさい。
一つ目、水元鉄生の事を洗いざらい吐く」
喉に当てられた爪が、少しずつ皮膚を切っていく。
「二つ目、気が済むまで逆さ吊りになっている」
下から上、否、上から下に向かう爪は、僕の顎辺りで止まる。
「三つ目――――この館で、下男として働く」
それは、選択肢があると見せ掛けて、実は一本道と言う典型だろうか。少なくとも、僕はそう感じた。
恐らくコイツは前二つを選ばせるつもりなんか無い。好奇心から選んでみたいが、これ以上困らせるのもなんかあれだ、話が進まなくなりそうだし。
かと言って言いなりになると言うのは…………存外悪くない。給金に関しては期待出来ないだろうが、休み位は貰える……か? 分からないがあると希望的観測しておこう。無ければ逃げればいいし。そのタイミングを見計らってマヨヒガとか言う場所に行けば、元の世界に帰れるかもしれない。
そう、あくまで帰るまでの仮宿。そう考えるなら、多分悪くない。
◆◇◆◇◆◇
そう思ってた頃も僕には云々。
「嗚呼……良い天気だ」
季節は夏。霧が晴れ、燦々と照りつける太陽が木々に天の恵みが如く光合成を促す。
足元の草からぽたりぽたりと朝露が垂れる。地面に染み込んでいく雫は、生命が漏れている様。
歪む視界、蜃気楼に揺らめく匂い蘇りむせる――――――
「……はぅあッ!」
いかん、また意味不明な幻覚見てた。
額の汗をワイシャツの袖で拭い、溜め息を吐く。
下男。雑用をこなす使用人の様なものである。炊事掃除洗濯買い出し等やるのであろうと思い、なんとか自分の生活の知恵でも絞ろうと思っていたのにこの仕事である。
門番。門の番人をせよとレミリア・スカーレットお嬢様に仰せつかった訳だ。
それまでの門番は紅さんであったが、それを交代して俺が門番一辺倒。紅さんは厨房周りと庭の世話が担当と言う事だ。
最初は頑張ろうかねぇ、と呑気に考えていたが、予想以上に辛い。田舎は気温低いんじゃなかったのかと思いたくなる。幻想郷にもヒートアイランドはあるのか。
お陰で朝露の代わりに俺の汗が地面を潤す事になっている。植物に塩分取らせてどうするつもりだちくしょう誰に言っている僕は。
まだ一日目、されど一日目。疲れた身体に鞭を打ち、休めの姿勢で僕は再び警戒を始めた。
……真に警戒すべきは自分の体調だろうが。
さて、にじファンが色々ヤバいです。
東方projectも危ない気がします。つーか多分アウト。はっきりしてくれ運営。
と言う事で、災生変や魂合変その他を、「ハールメン」と言うサイトに移すつもりでいます。なろうで東方projectがセーフだったらいいんだけど、念の為ね。
にじファンに似せたサイトらしいので、移った後もご愛読よろしくお願いします。感想も是非とも。
魂合変は多分、加筆修正が凄いだろうなぁ。てな訳で、アリーヴェデルチ、もしくはアウフ・ヴィーダーゼン・カメラード