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東方災生変  作者: すばみずる
東方紅魔郷 ~the Embodiment of Scarlet Devil.
34/51

033:06/恋色マスタースパーク

 星とナイフが潰し合う。

 圧倒的大火力と神技にまで登り詰めようとしている技巧のぶつかり合いは、最早ごっこ遊びを超えていた。

 決して近寄らず、離れず、外さず、倒す。互いの殺気を飛ばしあう。


捕捉変更(チェンジ・ターゲット)乱雑(ランダム)


 魔理沙の八卦炉とサブ武装である魔術具が動く。前面だけの単調なモノから、全面へ向けての雨霰。一つの標的で無く、寄る者全てに向けての射撃。

 そうで無ければ、転々と消え現れるメイド――――十六夜咲夜を捉える事が出来ない。

 否、そうであっても捉える事が出来ない。


「無駄」


 まるで舞踏の様に空を跳ぶ。前に、後ろに、後ろに、前に――――そして魔理沙の(、、、、)後ろに。


「ッ!?」


 痛みと共に大きく旋回し、消え失せたメイドを追う。目の端で確認する前に、ホウキを後退させナイフから逃げる。


「この程度のミスディレクションに引っ掛かるなんて、まだまだ恐怖劇(グランギニョル)は始まったばかりよ?」

人形(ギニョール)みたいな奴がよく言うよ」


 言葉を返しながら、肩口に出来た傷に触れる。やはり非殺傷にはされていない様だ。熱に似た痛みが腕の動きを阻害しようとする。


捕捉変更(チェンジ・ターゲット)一点砲火(クロスファイア)


 その腕を庇いながら、再び魔弾を撒き散らす。魔術具は再び動きを変え、必要以上の一点集中、必要以上の弾幕密度を作り出す。空間自体を穿つかの様に、十六夜咲夜が向かおうとする場所を害する。


「分からない子ね」


 予測された動線。射撃に寄って塞がれる道を見て呟く。駄々っ子をあやす母親の様に。

 だが、その消え失せる動作には、母の温もりの一片も感じられない。寧ろ強くさせるのは、仇人への殺意。


「首でも腕でも、置いて行きなさい」


 内臓に氷をぶち込まれたと勘違いしかねない程冷える声。それに脊髄反射でホウキを縦に回転させ、大きく下降させる。

 その選択の代償は、帽子の端が5cm程断たれると言う囁かなものだった。


「危ないなぁ、殺す気か?」

「もっと上品に言って欲しいわね」

「じゃあ、お殺しになるおつもりなのですか?」

「やっぱり貴方はさっきのままで良いわ」


 失礼な。でも自分でも鳥肌が立つからもうやらない。

 ともかく、状況は物凄く不利。此方の攻撃は当たらないけど、相手の攻撃はさっきから掠り続けている。凪人じゃないけど獣の直感地味だ動きもそう何度も出来るものでは無いだろう。


 だが、そちらの方が燃えると言うものだ。


「楽しい……って訳じゃない。けど、」


 体を動かすのは、やはり目一杯全力を出すのが良い。そう思いながら、記憶に埋もれていた本を引きずり出す。

 捉え難い相手でも、やり方は幾らでも存在する。

 歌う。それは、自分が生み出した訳では無い、だが自分に最もぴったり合うであろう呪文。

 ミニ八卦炉から、魔法陣が描かれる。橙色の炎で形取られたそれは、八卦炉を覆い尽くす大きさだ。

 異変に気付いたメイドがナイフを放ってくるが、後もう数節だ。何よりこの詠唱は、長々と詠い上げてはいても実質の時間は無。刹那に編み込まれた呪言を掻き消す事は出来ないし、そもそも音すら無い。

 八卦炉が、炎を纏う。不死鳥なんていうものではない。あれは必滅の鳥だ。このまま存在していて良いものではない。

 であればその様なものを使う彼女は何なのか?

 歯をむき出して笑う。


「行くぜ……『flare』」


 そのワードで、迫り来るナイフに対する盾が出来上がる。

 否、盾では無い。――――炎の壁である。


「これはッ……」

「遅い遅い――――『attack』」


 防壁が、敵を討つ刃と化す。何千と分かれるそれは、弾幕と呼ぶのも恐ろしい。

 それを只の人間である十六夜咲夜へと向かっているのだから、尚更。


「ぅッ!?」


 姿を消す暇も無く、炎の弾幕に圧倒される。主から賜った魔法陣が無ければ、間違い無く消し炭となっていただろう。

 それでも、その身体はじわりじわりと削れていく。現実に対しても、幻想に対しても、炎の破壊力は変わる事は無い。

 炎とは神聖視されてきたものであり、それ以上に神秘性を纏ったその破壊を無視する事は、生物には不可能だ。


「『武装選択(ウェポンチョイス)』、『魔弾の射手』」


 ミニ八卦炉の炎が形を成す。矢を番えられた弓が、霧雨魔理沙の手で次々に放たれていく。

 だが、何もしない程十六夜咲夜も甘くは無い。火の流れに乗るかの様に後退して行く。

 その動きを見た上で、霧雨魔理沙は重ねて言の葉を紡ぎ、


「『激痛の枝』」


 魔弾達が爆ぜる。夜空の流星が潰える瞬間の様に。

 差異は、その熱焔が留まり続ける点だろうか。




◆◇◆◇◆◇




 ――――勝った。と、霧雨魔理沙は確信する。その留まり続け全てを燃やし続ける炎はそれを裏付ける。

 何故なら、その炎は徐々にその爆心地を広げているのだから。


 放った魔法の名は『激痛の(レーヴァティン)』。弾幕ごっこの枷に嵌めた不完全な魔法ではあるが、必殺級であるのには間違いは無い。

 その効果は、あらゆる炎があらゆる存在を焼き尽くす存在になると言う極悪なもの。自分が焼かれる事を気を付ければ、何よりも強力な魔法だろう。

 その上、此処は屋内。空に逃げようにも限界がある。そしてあのメイドはあるミスを犯した。


「なんで私がコレを最初にぶっ放さなかったか分かるか? お前を其処(、、)まで追い詰める為だよ」


 そう。機関銃に追われた少女――と言うには少しはみでそうだが――の背後には、既に本で埋め尽くされた本棚しか無かった。

 霧雨魔理沙の狙いはコレだった。必中の炎を必中の瞬間に中てる。その最高のタイミングを見つける事こそがコレまでの狙い。

 そして、今現在の狙いとは――――


「往生際悪いぜ。さっさと地獄に落ちるんだな」


 さっさと煉獄の苦しみを終わらせ、審判を下す事のみ。

 魔力を送り込み、侵食を早める。灼ける空と地は十六夜咲夜の退路とはならない。

 そして包囲網は凝縮されて――――

2013/01/15修正

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