からっぽの浴槽に身を埋めて、わたしはなにをやっているのだろう。もう二度とあなたがわたしの元に帰って来ないことを、わたしは知っているのに。わたしはなにをやっているのだろう。
目の前にはピンクの浴槽の壁面がある。こうして手と足を折って浴槽に蹲っていると、なんだか胎児のような気分になる。蓋を閉めてしまったなら更にそんな感じが増すだろう。窓から光が入ってきてはいるが、薄暗い。
どれだけ願っても縋っても手に入れられないものはある。それでもあなたが、そのドアを開けてくれることをわたしは期待していた。
あなたはわたし以外にも愛する人がいて、その全ての愛を注がれないことをはじめから理解していたはずなのに、どうしてこんなに切ないのだろう。頭で理解していても、心でわかっていなかった。あの日のわたしは浅はかだった。
わたしはもう、あなたがそのドアを開けて、わたしの元に戻って来ないことを知っている。それでもわたしは、あなたを愛している。
浴室の扉が開く音で目が覚めた。どうやらわたしは知らないうちに眠ってしまっていたらしい。未だに胎児のような格好をしていたから、少し体の節々が痛い。
「何やってんだよ、こんな所で。」
驚いたあなたの顔がかわいくて、愛しい。
「おかえりなさい。」
その向こうにあなたの愛する人がいて、憎かった。その女が、悲鳴をあげたので少し嬉しかった。
おかえりなさい。わたしには帰る場所などないと言うのに。 |