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(俺とユウリが異母兄妹……)

ラーサーは一人になった部屋の中でずっとその事ばかりを考えていた。



自分の父親とユウリの父・ラウルの背中にあったという紋章――。



シジスモン国王が自分をラウルと間違えた事――。



嘘であってほしい……。

そう願わずにはいられないでいた――。





コン、コン……、



ソファーの背凭れに全体重を預けるように座り、目を閉じていると微かにノックの音がした。

しかし、ラーサーの耳にはその音は届いていなかった。



「……ラーサー様?」

そして、ドアの向こうから呼び掛けたユウリの声も届いてはいなかった。



ユウリは中から何も反応がない事を怪訝に思いながらそっとドアを開けた。



「……」

特に足音を立てないように近付いた訳でもないのにラーサーはまだユウリには気が付いていない。



「ラーサー様……?」

ユウリはもう一度ラーサーに呼び掛けた。



すると、ようやくラーサーはハッとしてユウリに視線を向けた。

「ユウリ……ッ」



「ご、ごめんなさい……、ノックをして声もお掛けしたのですけれど……」

ユウリは申し訳なさそうに呟き、俯いた。



「……いや、俺の方こそ……すまない。少し、考え事をしていた……」

ラーサーはそう言うとユウリを隣に座らせた。





「……俺達……本当に兄妹なのかな……?」

しばらくの沈黙の後、ラーサーは呟くように言った。

それはまるで、ユウリに否定して欲しいかのようだった。



「でも……ラーサー様のお父様は……十年前にお亡くなりになっているんですよね?」

ユウリもまた、ラーサーの口から“兄妹ではない”という確証を得たいかのように口を開いた。



「あぁ……確かに俺の父は十年前に亡くなっている筈だ」



「では……」



「けれど……」



「……」

ユウリはラーサーの否定的な言葉に息を呑んだ。



「俺は……実際に父の遺体を見た訳じゃないんだ……」



「……それは、どういう……?」



「十年前、ランディール王国の王立騎士団に助けられて、その次の日に騎士団の皆が

 イムールの俺の家に両親の遺体を引き取りに行ってくれた。

 けど、俺は城の中にいるように言われていて一緒には行かなかったんだ。

 だから……両親の遺体は見ていない」



「……」

ユウリはラーサーの言葉をじっと聞き入り、黙っていた。



「騎士団の皆はイムールとは逆方向のアントレア皇国の丘の上に両親のお墓を建ててくれた。

 もちろん、それは“エマの幼馴染み”という記憶と辻褄を合わせる為に。

 そして、その後直ぐに俺は記憶を封じられた。

 だから、ずっとアントレアの丘の上に両親が眠っていると疑わなかった。

 記憶が戻ってからもずっと……」



「では……ラーサー様はあのお墓にはお父様は眠っていないと……?」



「わからない……でも、さっきセシリアにあの紋章の事について訊いた」



「セシリアさんは、なんと……?」



「あの紋章は……新たな魔王が誕生した時にその背中に刻まれるもので一度だけ死を免れる事が出来るらしい」



「……死を免れる……?」



「十年前のあの時……、父が死んでいないとすれば……」



「十年前ではなく……八年前に亡くなった私の父がテオドール様だと……?」



「だとしたら……」



「私達は……兄妹……?」

ユウリの瞳には涙が溢れていた。



「そんな……信じられません……っ」



「俺だって……っ! こんな事……、けど……それでも……考えれば考える程否定出来る物が何一つ出て来ないっ」



「……」



「俺の父と、君のお父上が同一人物だと推測される事はどんどん出てくるのに、否定出来る事は何一つ出て来ないんだっ!」

「ラーサー様っ」

ユウリは思わず両腕でラーサーを抱きしめた。



「ユウリ……」



「……」



「……」

ラーサーとユウリはそのまましばらく動かないでいた。





「ユウリは……俺が兄だとしたら、どう思う?」

やっと落ち着きを取り戻したラーサーは静かに口を開いた。



「……」



「なんとも思わない……?」



「……」

ユウリは何も答える事が出来ずにいた。



「……」



「……」

そして、再び沈黙があった後、

「今は……答える事が出来ません……」

ユウリは少し震えた声で言った――。





     ◆  ◆  ◆





――翌朝。

ラーサー達は再び会議室に集まっていた。

最終的な作戦会議をする為だ。



「セシリア、作戦会議の前にまず魔界が何処にあるのか教えてくれないか?」

ラーサーはいつもの口調で言った。

昨日、ユウリの前で取り乱したのが嘘のように落ち着いている。



「わかったわ。それじゃまず、魔界の場所についてだけど……」



「……? 君は魔族の現魔王なのだろう? なのに“魔界”がある場所を知らないのか?」

すると、セオドアが怪訝そうな顔をラーサーに向けた。



「……」



「彼は……ラーサーは現魔王と言っても、生まれてからずっと人間として過ごして来たの。

 だから、魔界の事は何も知らないのよ」

言葉に詰まったラーサーの代わりにセシリアがそう説明する。



「ふーん」

セオドアは『なんだ、そうなのか』といった顔をした。



「私達、魔族が住んでいる魔界というのは、この世界の南側に位置するこの火山島の事よ」

セシリアはそう言いながら世界地図の前に立ち、一番南にあるどの大陸からも遠く離れた大きな島を指した。

それは火山がある孤島で普通の人間には到底住めるはずもない場所だった。



「“魔界”と言っても、別に異世界とかそういう訳じゃなくて、ただ、まぁ……孤立した島だし、

 噴火の後の溶岩で緑は極端に少ないから普通の大陸とは別世界に感じるでしょうね。

 それに此処にある火山は今はもう噴火する事がないけれど、未だに噴煙が上がって火山ガスが出ているから

 到底、人間には住む事が出来ないらしいし。

 私達魔族が元々、火の耐性が強いのも火を操る事が出来るのもこれが影響していると考えられているわ」



「なるほど。ありがとう、よくわかったよ」

ラーサーが納得したように頷くとセシリアは

「じゃ、次に奴等について……」

と、次の説明に移った。





そうして――、

「作戦は以上よ」

セシリアは一通り説明を終えると、ラーサーに視線を移した。



「よし、それじゃさっそく出発しよう」



ラーサーとユウリ、セシリアとセオドア、そしてジョルジュは転移魔法で魔界の中央に位置する城の前まで移動した。



赤い煉瓦で造られた燃えるような紅の城・レッドキャッスルは、その名の通り、

真っ赤な外観で火山の熱気に包まれ、陽炎で歪んで本当に燃えているようにも見える。



(これが……レッドキャッスル……)

ラーサーはその大きな城を見上げてごくりと息を呑んだ。



レッドキャッスルには結界が張られていた。

その事は先程会議室でセシリアから聞いていた。



解除方法はランディール国王達の監視に就いていたあの三人の魔族を倒す事。

しかし、セシリアの話によればもう一つ結界を解く方法があるらしい。

それはラーサーがベンヌを召喚し、そのベンヌの持つ炎の力で結界を解く方法だ。



「……」

ラーサーはベンヌソードを鞘から抜いて剣先を天に向けて両手で持つとクリスタルに精神を集中させた。



「……」



「……」



「……」



「……」

セシリア達四人は息を潜めるように黙ったままラーサーを見守っている。



やがて、ラーサーが手にしたベンヌソードは徐々に輝きを増し、次第に眩しい光へと変わっていった。





しかし……



その光はクリスタルから解き放たれる事はなく、消えていった……。



「……くそっ」

ラーサーは眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めた。

そして、もう一度精神を集中させようとした時、

「これ以上は止めておいた方がいいわ」

セシリアが制した。



「どの道、あの三人も倒さなければならないんだし、今あなたが無理をして

 魔力を使い果たしてはそれこそ本末転倒……意味がないわ」



「……そうだな……」

ラーサーは軽く溜め息を吐くと、ベンヌソードを鞘に納めた。



「しかし、あの三人の居場所が……」

ラーサーがそう口を開くと、何処からともなく三人の魔族がラーサー達を取り囲むように姿を現した。

結界を解く鍵でもある例の魔族達だ。

ラーサーは素早く剣を構えた。



「まさか、そっちから態々乗り込んで来るとはな」

目の前にいる魔族が口端を上げながら言った。



ユウリはレヴィアタンを召喚し、セシリアとセオドアもまた、それぞれソアとジルフェを召喚した。



「空間風遮!」

セオドアはジルフェが姿を現すと直ぐに魔界全体を無風状態にするよう命じた。

それは転移魔法を封じる為のものだった。

転移魔法はたとえ僅かでも風があれば使う事が出来る。

だが逆に無風状態では転移魔法が使えないのだ。



風がなければ瞬間移動が出来ない……魔族達は顔を顰めた。



ユウリとセシリア、セオドア、ジョルジュはラーサーと背中合わせに立ち、

それぞれ目の前に立っている魔族に向けて神獣に攻撃命令を下した。

神獣達が盾になっている間、セオドアは弓で、ユウリとセシリアは魔法で攻撃を開始した。



そして、ラーサーも既に剣を交えていた。

ジョルジュはラーサーの援護している。



転移魔法を封じたとは言え、ラーサーが今まで戦ってきた人間や格下の魔族達とは違い、

リュファスの側近である三人の魔族は流石に手強い。

ラーサーが繰り出す技も全て剣でかわされている。



ユウリとセシリア、セオドアも神獣が盾になっているとは言え、苦戦しているようだ。

特にセオドアとジョルジュは純粋な有翼人で火に対する耐性が皆無だ。

レヴィアタンの水紗・水のベールで覆われているにも拘らず、時折ジルフェの攻撃の隙をついて

魔族の指先から放たれる炎が結構なダメージとなっていた。

その状況にジョルジュもラーサーの援護からセオドアの援護に回り、癒しの力でセオドアをサポートするのに精一杯だった。



魔族はジルフェの攻撃を掻い潜り、とうとうセオドアの目の前まで迫って来た。



そして……



セオドアに向けて構えていた大剣を振り下ろした。



“もう駄目だっ!”



セオドアが顔を背け、ギュッと目を瞑り、覚悟した瞬間――、

「く……っ!?」

「っ!?」

彼に斬り掛かった魔族が目の前に崩れ落ちた。

その胸には短剣が突き刺さっていた。



セオドアが振り返ると、その短剣を投げつけたのはラーサーだった。



ラーサーはセオドアが無事なのを確認すると直ぐに前方に視線を戻した。





やがて――、

ラーサーはようやく魔族を追い詰め、その喉元に剣先を突き付けた。



そして……



一気に剣を突き差した。



魔族が事切れたのを確認するとラーサーは剣を抜き取り、素早くユウリとセシリアの方に視線を向けた。

すると、セシリアが相手にしていた魔族が彼女に目掛けて剣を投げつけた。



「っ!?」

ラーサーは咄嗟に剣を構えたが既に遅かった――。

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