その女はいつも見ている。
ある日、
何気なく窓から外を見たら、
向かいのマンションのその女が目に入った。
私の部屋は8階。
その女の部屋は6階。
その女は、
窓辺に座り、
ただひたすら熱心に何かを見つめている。
視線の先を辿ると、
私の部屋の数階下のようだ。
女の視線からいって、
4階か3階あたりだろうか。
何をそんなに熱心に見ているのだろう、
と一瞬興味は湧いたが、
急いで出かけなければならないことに気付いて、
私は窓辺から離れた。
部屋を一歩出た途端私は、
駅までの暑い道のりにウンザリし、
暑苦しい満員電車に辟易し、
会社では息をつく暇もないような雑事に追われて、
あの女のことなどすっかり忘れてしまっていた。
会社が引けて、
軽く一杯のつもりが、
何杯もになり、
深夜、
真っ暗な玄関へ入った瞬間、
私はその女のことを思い出した。
そして、
着替えもせずに、
なかば無意識で、
窓辺へと寄る。
あの女の部屋は……。
目を凝らして見ると、
女はそこにいた。
カーテンもせずに、
明かりもつけずに、
女はそこにいた。
だんだんと暗さに目が慣れてくる。
女は、
私が出かける前と同じ状態でそこに存在した。
私はどのくらい窓辺に立ち尽くしていたのだろう。
女が立ち上がった。
女はカーテンを閉めた。
私はハッと我に返った。
なんだろう、あの女……。
まあ、他人事だし。
さて、眠ろう……。
翌朝、
会社は休みだし、
昨夜は深酒をしたはずなのに、
朝早くに目が覚めた。
そして私の足は、
自然と窓辺へと向かっていた。
女は……。
女はそこにいた。
よし、今日は休みだし予定もないから、
じっくり女を観察してやろう。
椅子を持ってきて窓辺に腰を据える。
女は、
相変わらず、
一心に何かを見つめている。
女は、
時折立ち上がって、数分、私の視界から消えるほかは、
ずっと窓辺に座っている。
そして、見ている。
私は、そんな女を見ている。
女が立ち上がった。
そして、
カーテンを閉める。
ギョッとした。
もうそんな時間なのか。
時計を見ると、深夜の2時だ。
朝からこんな時間まで、
窓辺に座り込み、
ただ女を見ていたことになる。
バカバカしい……!
私は自嘲した。
眠ろう……。
明日は会社だ……。
翌朝。
目覚めたわたしは、
まっすぐ、
窓辺へと向かう。
女はすでにそこにいた。
あと5分、
あと1分……。
女になんの動きがあるわけでもなく、
女はただひたすら何かを見ているだけなのに、
私は女から目が離せない。
結局、
風邪を引いてしまって……、
と会社へ電話した。
そして私は、
その日も、
女がカーテンをしめるまで、
女を見続けた。
女がカーテンをしめると、
ハッと我に返る。
私は何をしているんだ一体……。
自己嫌悪に陥る。
そして、眠る……。
翌朝、
やはり、
私はまっすぐ窓辺へと向かう。
そして、
女を見続ける。
あれから何日たったのだろう。
会社へは行っていない。
外へも出ていない。
電話やチャイムが鳴っていた気がする。
どうだろう。
気のせいかもしれない。
きっと気のせいだ。
ボンヤリとそんなことを考えていたら、
いつもある一点だけを見ているその女が、
フッと、
顔を巡らし、
こちらの方に顔を向けた。
ちょっと視線をさ迷わせ、
私を見た。
女は明らかに私を見た。
そして、
ニヤリと笑った。
私は、
その女をいつも見ている。
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