九頁
「あの」
「ん? なんじゃね」
老人は顔を上げて悠を見た。
「あの。私は基棟悠って言います。色々教えてくれて助かるんですが、貴方は何者です?」
ようやく問われた疑問に老人はにやりと笑った。
「わしか。わしは元式術師の李俊敬じゃ」
りしゅんけいと言う名前は中国っぽいが、ここが中国ではないことは悠にもわかっている。もし、中国なら言葉は通じないはずだ。悠が今話している言葉は日本語で、中国なら通じるわけがない。それに、地名もまるっきり違う。朱雀省など聞いたことがない。
「ん? 式術師なんですか。えっと俊敬さん」
「そうじゃよ。驚いたかね?」
俊敬はにやにやと笑いながら言った。
「えっ。まあ……」
驚くより先に、ここが地球のどこかだとつい考えてしまう。そんなわけないのに。
「まあ、それはいいじゃろ。それよりもこれからのことじゃ」
俊敬はにやつくのを止めて、真剣な表情を浮かべた。
「え?」
「お前さん一人で桜鈴市に行かせるのはのう」
「何かあるんですか?」
悠はごくりと唾を飲んだ。
「まあ、そうじゃの。先ずは物取りじゃろ。妖怪に人攫い……」
俊敬は指を折りながら話していた。
「えっ。あの妖怪って?」
まだ、物取りに人攫いはわかるが、妖怪はちょっと判断に困る。妖怪とは空想上の生き物で現実には存在していないはずだ。そんな存在が危険になるとは思えない。それとも、この世界では妖怪が存在しているのだろうか。
「妖怪は妖怪じゃよ。まあ、そんな大物は結界に守られておるから現れんが。小物でもなんの防護策を持たんお前には辛いだろ」
「そうでしょうか?」
大物小物の基準が悠にはわからないが、元式術師が言うのだから辛いのだろうと思う。でも、どうしても妖怪が道を歩いている姿が想像できない。
「それにじゃ。物取りやら、人攫いやら諸々のこともあるしのう」
俊敬は悩ましげに鬚を撫でた。
「じゃあ、俊敬さんが一緒に行ってくれればいいじゃないですか?」
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