五十九頁
「そうなのですか。巫女が前の巫女に選ばれる事はご存知ですか?」
「ああ。はい。知ってます」
巫女が引退する十年前に次の巫女を捜すのだと、伽黄から聞いた事がある。
「十七年前の事ですわ。時期巫女が選ばれて、巫女を宿す母の腹からこの世に生まれ落ちた赤子は二人いたのです」
結花はふっと悲しい表情を浮かべた。
「……」
なんだが、嫌な予感がすると悠は顔をしかめる。
「双子の巫女は禁忌なのです。なので、その時の陛下と五色が霊力の強いわたくしの方を巫女にすえたのです」
結花は溜息を落とした。
「陛下は五色にお姉さまの殺害をお命じになられたのです。ですが、当時の紫の君である李灯葉様が、お姉さまを連れて国を出られたそうです」
結花の言葉に、悠は押し黙った。
李灯葉?
それは、灯葉のペンネームだ。長年暮らしている灯葉の顔が浮かぶ。いつも笑顔で優しい大らかな人は家を出た時何と言っていた?
『悠さんの疑問に答えてあげることは出来ませんが、一つだけ。どんな選択をしたとしても、私はここで悠さんの帰りを待っています』
といつもの笑顔で。
『悠さん。帰って来たら、お話があります』
と悲しげ顔で。
話とまさかこの事だったのではないか。自分が昔五色の紫の君であった事、悠自身の事。それを打ち明けるつもりだったのか。
いや。だが、結花の事を鵜呑みにしていいものなのか。ただの偶然と言う可能性だってまだあるのだ。名前が同じ、顔が似ているなどよくある話である。
でも、結花の話を否定する根拠も何もないのだ。
しかし、だったら灯葉は……。
ガタンっと大きな音で扉が開いた。
思考を停止した悠はゆっくりと扉を振り返ると、何故か慌てた様子の伽黄が立っていた。
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