一章 声
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夏も本番になってきた七月の始めの朝早く、基棟悠は今日も新聞配達をしていた。朝は新聞配達、夕方はコンビニでバイトをしている悠は高校二年の乙女である。そうは言っても大分乙女の部分を失っている気がしないではないが。
悠は日本人特有の黒髪に黒い瞳を持つ、どこにでもいるような少女だ。明るく活発でしっかり者で通っているが、結構苦労しているのだ。悠は老夫婦の玄関先の前に置かれていたのだ。この其棟と言う苗字は引き取ってくれた老夫婦のものだ。五年間の間、悠はこの老夫婦と一緒に暮らしていた。
二人から離れて暮らすようになったのは、悠が六歳の頃、お爺さんが亡くなったのがきっかけだ。お婆さんは息子と一緒に暮らし、悠は隣の家に引き取られた。お婆さんの息子が悠を引き取るのを嫌がったからだ。
離れて暮らす時は寂しさばかりが募ったけど、時々お婆さんに会いに行けるから今はそれほど寂しくはなかった。今は李灯葉と言う作家の人と一緒に暮らしている。
李灯葉と書いて『りとうは』と言うが、大抵の人は読めない。この名前を聞いて中国の人かと思う人も多いが、本名は高橋太郎と言う有り触れた名前である。
灯葉の家は今時珍しい和の趣がる建物で、庭には大きな池がある。悠は自転者を玄関先に置いて、家に入った。
「灯葉さん。おはようございます」
居間に入ると、朝ごはんが用意されていた。
灯葉は白髪掛かった黒髪に、笑い皺が顔に刻まれている優しい老人である。
「おはようございます。悠さん。いつもご苦労様です」
灯葉の丁寧な言葉は誰に対しても使われる。
「いえ。灯葉さんを当てにしてばかりじゃいけませんから」
悠は軽く首を振った。
「いいんですよ。私が好きでしていることですから。さ。朝ごはんにしましょうお腹空いたでしょう」
灯葉はにっこりと微笑んだ。
悠は朝ごはんを食べながら気になっていたことを灯葉に尋ねる。
「最近、変な声が聞えるんです」
「変な声ですか?」
「はい。女の子の声で私を呼ぶんです。お姉さまって。私に妹はいないはずなのに変でしょ」
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