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この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
二人の『ゼロ』
「私が風の魔法を諸君に教える『疾風』のギトーである」

 ヴァルデスが最初に受けることになったのは『疾風』の二つ名を持つギトーであった。なかなか鋭い眼光で生徒を値踏みしているような感じがあった。

「今年の生徒たちは不作のようだ。ほとんどがドットばかり。ラインやトライアングルも極僅か、今年の生徒で唯一のスクウェアはヴァルデス君だけ」

 そう言うと、生徒たちの視線がヴァルデスに集中していた。ギトーはただ引き合いに出しただけだが、生徒たちの視線がとても痛々しかった。

「ヴァルデス君」

「はい」

「君も私と同じ風のスクウェアだったな」

「ええ」

「得意な術は何かね?」

 ヴァルデスにとって、魔法はただの道具という思いが強いため、得意も不得意もあまり関係ないような気がしていたが、さすがに相手が教師なので変なことをいうわけにはいかず、無難だと思うところで返事を返した。

「ウィンディ・アイシクルや遍在ですが……」

「ほう。遍在が得意かね? ならば、実演してもらってもよいかね?」

「はい」

 ヴァルデスは渋々呪文を唱えて、自分の遍在を十体ぐらい作り上げた。それを見ると、さすがに生徒たちから感嘆の声が上がった。ギトーもまさか十体も作り上げるとは思わなかったので、ヴァルデスの実力に少し寒気を感じていた。

「よ、よろしい。もういいぞ、席に座りたまえ」

「はい」

 遍在を消してヴァルデスは席に座ったが、既に同じクラスの生徒たちからは注目の的となっていた。この一件は一気に学院中を駆け巡り、学院内での彼の立場を知らず知らずのうちに築き上げていた。

 正直、彼にとってはどうでもいいことだった。城内での立場ならば色々と考えなければならないが、学院での立場を考えることなど何の意味もないと考えていたからである。

「いやあ、やっぱり君は本当に凄いんだね」

 昼休み、唯一の友達であるギーシュとその話題で話していた。

「ま、一応は魔法衛士隊にいたから」

「そう言われても、噂を聞くのと実際に見るのとでは大きな違いがあるからね。これで、君の実力を疑う人間は誰もいなくなるさ」

「平穏無事、休暇なんだからそれが一番なんだけどな」

 ヴァルデスは紅茶を飲みながらそう言った。二人が会話をしている姿を周りの生徒たちもその様子を観察していた。特に女子生徒たちの視線が多かった。

「お話中のところ、よろしいかしら? ミスタ」

 すると、二人のところに一人の女子生徒がやって来た。赤い髪に褐色の肌、シャツのボタンを開けて胸元を大きく開いてはだけさせていた。ヴァルデスは何にも感じなかったが、ギーシュの目はその豊満な胸に釘付けになっていた。

「その髪……もしかしてツェルプストー家の……」

「はい。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。ヴァルデス様」

「様は結構。もう魔法衛士隊の隊長じゃないし、今は君と同じただの学生だ。気軽にヴァルデスと呼んでくれ」

「じゃあ……そうさせてもらうわ」

 キュルケはそう言うと明るい笑顔でそう言った。切り替えの早い性格、それはヴァルデスに好感を与えていた。キュルケは手近な席から椅子を持ってきてその輪に加わった。

「でも、どうしてトリステインに留学を?」

「規律の厳しい学校という話だからね。俺もあんまりマナーとかそういうのに詳しいわけじゃないから、学ぶにはちょうどいい環境だと思っただけさ。それより、ツェルプストー家の君こそどうしてここに?」

「実家で結婚させられそうになったの」

「結婚?」

「相手は公爵家のおじいちゃん。さすがに、そんなおじいちゃんと結婚なんてしたくないからトリステインに来たの」

「なるほど」

 政略結婚に年の差など関係ないが、さすがにあまりに離れすぎている相手だと敬遠したくなる気持ちはわかった。もっとも、それを言うとアルブレヒト三世とアンリエッタ姫もかなり歳が離れているのだが。

「ところで、ルイズって娘知ってる?」

「ヴァリエール公爵の三女だろう?」

 キュルケはヴァルデスの答えを聞くと頷いた。

「あの子、未だにコモンマジックも使えないのよ」

「コモンマジックも使えないか、まるでイザベラ様みたいだな」

 イザベラの名前が出ると、キュルケとギーシュは互いに顔を見合わせた。

「イザベラってまさか、ガリアのイザベラ姫かい?」

「ああ。あの方も魔法が苦手なんだ。もっとも、全く使えないというわけじゃないけどな」

「ガリアの王族を引き合いに出せるあたり、さすがと言ったところね」

 二人はヴァルデスの顔の広さにただただ驚くしかなかった。学生の身で他国の王族と知り合いになる機会など、普通では考えられないからだ。自国の王ですら会うのが難しいというのに、他国の王に会う機会などよほど高い地位や身分でない限りはまずないといってもいい。

「で、そのルイズ嬢がどうしたんだ?」

「別に。ただ、面白いなってだけ」

「いい趣味とは言えないな。それは」

「我がツェルプストー家とヴァリエール家は不倶戴天の敵同士よ。馴れ合うつもりはないわ」

 そのことはヴァルデスもアルブレヒト三世から何度も聞いていた。あの両家の小競り合いが原因で国同士が争うこともしばしばあったことも聞いており、今は問題が起こった際は仲裁をするようにと言い付かっている。仲裁役をやらされている立場としては、決して笑い話で済むようなことではなかった。

「ははは。レディの罵り合いは美しくない、この話題はもうやめようではないか」

 ギーシュがその話題を無理やりに終わらせた。ヴァルデスはその配慮に少し感謝していた。
 あんまり長くこの話題を続けて、それが人伝にルイズの耳に入って喧嘩などということになると、結局苦労するのはヴァルデスということになるのだ。学生同士の喧嘩とは言え、あの両家に関しては子供の喧嘩だけで済むとは限らないからだ。それだけ両家の間に禍根を残しているのだ。

「ま、いくら魔法が使えないからって失敗で爆発を起こすんだから相当のものよね」

「失敗魔法で爆発……?」

 キュルケが何気なく言った一言にヴァルデスは食いついた。

「爆発するのか?」

「ええ。レビテーションでもフライでもいつも爆発するのよ。ほら、聞いたことないかしら? 時折、授業中に激しい音がしているのを」

「ああ……」

 ヴァルデスもその音を聞いていたのだが、まさかレビテーションやフライの失敗による爆発だとは夢にも思っていなかった。てっきり、何かもっと凄い術の練習で生じた轟音か何かだとずっと思っていたのだ。

「あれか」

「そう。最初は公爵家の令嬢ということで、周りも遠慮していたんだけど、立て続けに失敗して一度も成功しないから今では『ゼロ』のルイズ、なんて陰口も叩かれているわ」

「君も言っているのかい?」

「もちろん」

 ヴァルデスの問いに、あっけらかんと言うキュルケに、ヴァルデスは思わずため息を漏らした。

「喧嘩だけはしないでくれよ。仲裁するのは俺なんだから」

「あら? どうして?」

「皇帝閣下からツェルプストー家とヴァリエール家が小競り合いを起こしたら、被害が大きくなる前にお前が仲裁して何とかしろって命令が出てるからね。もっとも、ツェルプストー家とヴァリエール家にそんな話がいっているかどうかは知らないけど」

「多分いってないと思うわ。私はそんな話を聞いたことがないもの」

 キュルケの言葉を聞いてヴァルデスは頭を抱えた。こんな調子ならば、近いうちに本当に面倒ごとを起こしてくれそうな嫌な予感しかしなかった。

「しかし、『ゼロ』か……」

「どうかしたのかい?」

「いや……いいなと思っただけだ」

 ギーシュの問いかけにヴァルデスがそう返したので、二人はその意図がよくわからずにいた。

「魔法成功率ゼロだから、『ゼロ』のルイズ。何処がいいの?」

「意味はともかく、ゼロって二つ名はいいと思ったんだ」

「ゼロがいいの?」

「色んな意味が持てるだろ? それに、俺はまだ二つ名を決めていないし、ちょうどいい機会だから俺の二つ名はゼロってことにするかな」

「正気かい? 二つ名だったらもっと格好いいものにすればいいじゃないか。ちなみに、僕は『青銅』だ」

「私は『微熱』よ」

 普通、二つ名というのは属性に合わせたもので考えられるものである。例外がないわけではないが、それでも数少ないものであることは言うまでもない。

「いや、やっぱりゼロにしよう。今日から俺は、『ゼロ』のヴァルデスだ。喧嘩売って立ち上がった者はゼロ、俺の名にぴったりだと思わないか」

「「確かに……」」

 そういう意味合いならば、ゼロという二つ名にもかなり剣呑なイメージが付きまとってくる。ヴァルデスにはそういう剣呑なイメージの二つ名がよく似合う、それが言葉にはしなかったが二人の意見として共通するものだった。

「その爆発もちょっと気になるけどね」

「それってどういう……」

 すると、授業開始を知らせる鐘の音が鳴り出した。

「授業が始まる。また後でな」

 ヴァルデスはそう言って教室へと向かっていった。ヴァルデスとギーシュたちのクラスが違っていたため、こうして会うことが出来るのは放課後や朝の時間だけなのだ。

 ギーシュとキュルケはヴァルデスが何を言いたかったのかがよくわからないまま、その場を離れた。だが、二人にとっては些細なことであるため授業を受け始めるとすぐに忘れてしまった。







「さてと……」

 真夜中、宿舎の明かりがほとんど消え、月明かりだけが夜の学院を照らしていた。そんな時刻にヴェストリの広場にやってくる一つの影があった。

「とりあえず練習してみるか」

 ヴァルデスは腰に下げた剣を抜いた。もちろん、この剣もただの剣ではない。ヴァルデスが錬金によって作り上げたものであり、並大抵のメイジが作るより遥かに立派なものだった。おまけに固定化もかけられているので強度の方もかなりのものだった。
 そして、この剣は武器であると同時にメイジの杖でもあった。武器として使いながら魔法も使える、ヴァルデスに合った戦い方を追求した結果、こういう形になったのだ。
 敵もまさか剣が杖でもあるとは思いもよらず、普通の平民相手だと思って痛い目に遭わされ続けていた。このあたりは、ヴァルデスの作戦勝ちとも言える。

 剣を水平に構え、静かに呪文を唱えた。刃毀れ一つない刃に月明かりが反射して、幻想的な雰囲気を作り出していた。

「はあっ!」

 ヴァルデスが唱えたのはファイアー・ボール。それは一直線に壁に向かって飛んでいき、その間もヴァルデスは次の呪文を唱えていた。

「エア・ハンマー!」

 飛んでいくファイアー・ボールに向けて風の呪文を叩きつける。ファイアー・ボールは爆発という現象を引き起こして消えた。事前にサイレントを周りにかけておいたので、その際の爆音が誰かに聞かれることはなかった。

「やっぱ爆発を起こすんならこうだよな……」

 昼間話題に上ったルイズの爆発のことを、ヴァルデスは気にかけていた。彼が今まで練習してきた魔法の中で、いきなり爆発を引き起こすような術は一つとして存在していなかったからだ。

「いきなり爆発を引き起こす術か……」

 それはヴァルデスにとっては非常に魅力的な術だった。何の過程も経ずにいきなり爆発を引き起こす、この術があれば好きなときに事故を演出することができる。暗殺者ならば喉から手が出るほど欲しい術といっても過言ではない。前の世界にだってこんな術はなかったのだ。

 この術は術者を立証するのが不可能な術と言ってもいい。今のところはルイズが使えるので、誰が使ったかの特定は非常に簡単なのだが、これを覚えてしまえば誰が使ったかはわからない。大勢の人が見ている前で使える術なのだ。

「やっぱり一度本物を見てみないと駄目か……」

 元々、一度の見たことも聞いたこともない術なだけに、初めから出来るなどとは思っていなかった。試しに不可能に挑戦してみただけである。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールか……どんな人物なのだろうか?」

 ヴァルデスはしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて夜も更けて肌寒くなっていったので部屋へと戻っていった。
おかげさまで昨日10万PVを突破しておりました。
たくさんの皆様にご支援いただき、誠にありがとうございます。
これからも楽しく読める作品を作ってまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。
次回はルイズ初登場、それにあの人も登場します。
ご期待ください。
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