この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
炎蛇の贖罪と少女の憎悪(後編)
「『魔法研究所実験小隊』? 聞いたことありませんね」
「今もあるのかどうかは知らないが、魔法衛士隊が花形なら俺たちは裏方と言ったところだな。魔法衛士隊ではできない汚い裏仕事をやるのが俺たちだったということだ」
「なるほど……」
メンヌヴィルの言葉を全員が黙って聞いていた。いや、黙って聞くことしかできなかった。
メンヌヴィルは朗々と語っているが、その間も二人の間には緊迫感が漂っており、下手に手を出すことも逃げ出すこともできないような状況だった。
「そこで俺は隊長と出会った。俺も自分の炎には自信があったが、隊長の炎は俺の炎を遥かに凌ぐものだった。俺は生まれて初めて恐怖した。そして、俺は試してみたくなった。俺の感じた恐怖が本物なのかどうかを!」
「……それで結果は?」
「このざまだ」
部下の言葉にメンヌヴィルは己の目を指差した。その目の周りには古い火傷の痕があり、その目は何も見えていなかった。
「だが俺は後悔していない。貴族の名を失い、光を失い、人殺しに成り下がったが力を得ることができた。その力を得るために多くの人間を焼いたがな」
「なるほど」
「そして、この話には壮大なオチがあった」
「オチ?」
「ああ。俺たちは疫病蔓延を阻止するためという名目の元で村を焼き払ったのだが、その実はロマリアに金で頼まれた、ただの新教徒狩りだったのさ」
「そうだ。我々は罪のない人々を焼き殺してしまった」
コルベールは悲しみに満ちた表情でそう言った。
「あの日以来、私とお前は小隊を去った。そして、私は破壊以外の火の道を探し始めたが、お前は何も変わらなかったようだな」
「ふふふ。まさか、『炎蛇』と恐れられたお前が教師をしているとは……どうりで戦場で出会うことがなかったはずだ。俺とお前、過ごしてきた二十年はまるで違うものだったのだからな」
「愚かなことだ。二十年前のダングルデール、あそこで私とお前の人生は二度と交わることはないと思っていたのだが……」
「貴様らぁ!!」
すると、剣を構えたアニエスが二人に向かって斬りかかってきた。
「何だ?」
「アニエス君! 落ち着きたまえ!」
「うるさい! 貴様らが私の故郷を! 私の家族を!!」
アニエスは最早敵味方の区別なく、二人に向けてその剣を振るい続けた。
「ほう……お前はあの村の生き残りというわけか。まさか、こんなところで二十年前の任務の失敗を突きつけられるとは人生とは本当に面白いものだ」
「うるさい!」
アニエスが振るった剣を、メンヌヴィルは自信の持っている鋼鉄で固定化のかかった杖ではじき返した。甲高い金属音が食堂内に響き、そこでようやくアニエスも少し冷静さを取り戻してメンヌヴィルの隙を窺うようになった。
「ふふふ。せっかく拾った命をまた捨てにくるか」
「うるさい!」
「そもそも、俺たちが行ったことは少なくとも国家の命令だ。人殺しを正当化するような恥知らずな真似はしないが、少なくともあの時、お前たちは国家から人間ではないと言う烙印を押されたんだ! 俺たちが事の真相を知ったのは随分後になってからのことだが、それでもあの時、お前たちは国から人間ではなく、疫病を蔓延させる病原体だから焼き払えと言われたんだ! 真相はどうであれ、お前たちは捨てられたんだ!」
「うるさいうるさい!」
「メンヌヴィル! やめろ!」
しかし、メンヌヴィルはコルベールの言葉を聞かずに、更に言葉を続けた。
「二十年前には、お前が仕えているアンリエッタは生まれてもいなかった! だが、この国がお前たちを捨てた事実は変わらない! それでもお前はこんな国に仕えるか、小娘!」
「うるさいうるさいうるさい! 黙れぇ!」
アニエスはメンヌヴィルの言葉に何を信じてよいかどうかわからなくなり、頭を思いっきり振ってその雑念を振り払おうとした。しかし、それでも疑惑と不信感だけが次々と湧いて出てきており、アニエスの心はそれに押し潰されそうになっていた。
「もういい! メンヌヴィル!」
「『炎蛇』よ! お前もそう思っていたはずだ! お前は俺と違って職務に対しては非常に忠実だった! お前もあの時、国家のためと言う大義を掲げてあの村を焼き払ったはずだ! あの時、お前は一切の容赦なく村を焼き払った! お前の頭にあったのは疫病を蔓延する原因を排除する、ただそれだけだったはずだ! そこで焼き払ったのが家であろうと人であろうとどちらでも同じ程度のものだったはずだ!」
「……確かにそのとおりだ。私は国に病気が広がらないようにするため、それを正義だと考え、彼らを焼き尽くした。だから、その真実を知ったときは愕然とした。私は信じていた国に裏切られ、何の罪のない人々を金のために殺す道具として扱われた。その真実と、私が信じていた正義というものは決して唯一絶対のものではないということを知った」
コルベールの告白を生徒たちは静かに聞いていた。普段はちょっと変わっているが、明るく優しい教師という一面しか見せないコルベールに、こんな悲しい過去があったなどと誰も信じられなかった。コルベールの過去を知っているオスマンも、こうして改めて本人とその当事者たちの口から聞かされた真実に何とも苦い思いを味わっていた。
「だから、私は小隊を去った。そして、この学院で教師となり教え子たちを導く道を選んだ。私のように道を誤らないようにするために」
「偽善だな。どんなに言葉を飾ろうとも人殺しは人殺し、お前も俺も同じということだ」
「そのとおりだ。だからこそ、お前はここで止めなければならない」
「おっと。俺を止めるつもりなのは結構だが、お前の大事な生徒が人質であるという状況は変わっていないぞ」
メンヌヴィルの言葉に合わせるかのように、その部下たちは杖を生徒たちに向けていた。すでに呪文の詠唱は終わっており、いつでも生徒たちに向けて術を放てる状態になっていた。
「この期に及んでまだ生徒たちを人質にするか!?」
「悪いが俺も仕事だ。そう簡単に諦めるわけにはいかない」
「くっ……!」
確かに生徒の半数ぐらいは逃がすことに成功しているが、それでもまだ半分の生徒を人質に取られてしまっては手が打てない。もっとも、メンヌヴィルたちもすっかり包囲されていることには変わりはないので、互いに膠着状態が続く……かに見えた。
「随分と楽しそうにしているじゃないか」
突然聞こえてきたその言葉に、全員の注目が集まった。
「あなた……!」
「まさか……ゲルマニアのヴァルデス……」
メンヌヴィルは両目が見えない。そこに何かがいるという判断は、傭兵としての勘というのもあったが、メンヌヴィルが目を失ってから培われた絶対的な温度感覚によるものだった。人間の温度を感知する敏感な感覚、それによってメンヌヴィルは敵の居場所をほぼ正確に察知することができるようになっていた。
だが、メンヌヴィルが察知できるのは人の気配だけなのだ。後は周りに教えてもらうか、この場において誰がそのピースに当てはまるかを推理して話す。
しかし、そんなメンヌヴィルでも彼が誰であるかはすぐにわかった。本来、この場にはいないはずの人物だが、それでも彼の気配だけはメンヌヴィルにも特別であると思わせていた。
それは何とも不思議な気配だった。実戦慣れしている傭兵にも似ているが、それとは根本的に何かが違う。傭兵よりももっと底知れぬ何かがあり、それと同時に思わずひれ伏してしまうような畏怖を与えてくるような感覚。今まで、メンヌヴィルが出会ってきたどんな人間にも当てはまらず、彼は目の前に対峙しているのがヴァルデスだと結論付けるしかなかった。
「どうしてここに?」
「馬鹿か。戦時中の国にいるのに、飛行するものの調査を怠ると思ったのか? 私の護衛が夜中に飛行する怪しい気球を見つけ、それが魔法学院に向かっていると報告を受ければどんな間抜けでも怪しいことに気づく」
「くっ……!」
ヴァルデスはカトレアに視線を向けて、それから改めてメンヌヴィルを見た。
「俺の女の身柄を押さえてゲルマニアを脅迫するつもりだったか? 浅はかなことだ」
「お前の女がいたことは全くの偶然だ。我々がゲルマニアと喧嘩することに何の意味もない」
「……なるほど、嘘は吐いていないようだな。だが、俺の女を人質にとったことは事実だな」
メンヌヴィルはヴァルデスから放たれる雰囲気が明らかに変わったことを察した。目が見えない分、気配を察知することが敏感になっているので、彼から放たれる重圧の感じ方は常人よりも重くのしかかっていた。
「殿下、こっちには人質がいることをお忘れ……」
メンヌヴィルがそこまで言いかけたとき、周囲から悲鳴が聞こえた。メンヌヴィルは自分の部下が次々と倒れていくのを感じ取り、改めてヴァルデスに話しかけた。
「遍在による不意打ちとは……随分と王族らしくないやり方をなさるものですな」
「貴族の名を捨てて貴族の戦いというものを忘れたらしいな。笑顔で対峙して寝首を掻く、これが貴族の戦いであり、俺が城に上がってから今日に至るまで続いているものだ」
ヴァルデスはここに入る前に自身の遍在をいくつも作り出し、その遍在で油断していたメンヌヴィルの部下の心臓をナイフで一突きにしていったのだ。全員の注目が入り口にいるヴァルデスに集まっていたため、誰一人として遍在に気づくことはなく、メンヌヴィルの部下たちも対処しようもなくあっさりと絶命していった。
「どうやら殿下は相当荒事に慣れていらっしゃるようだ」
「これでも、かつては一部隊を率いていた身だ。甘く見るな」
部下は全てやられ、作戦は最早完全に失敗していた。生徒たちも既に食堂を離れ、中にいるのはヴァルデスとメンヌヴィルとヴァリエール三姉妹と才人、そして、コルベールとアニエスだけとなった。
「あなた」
「カトレア、外に出ていろ。少し荒事になる」
「ですが……」
「護衛は既に待たせてある。彼らに任せれば問題はない」
「……ご武運を」
カトレアはそう言ってルイズたちを連れてアルヴィーズの食堂を後にした。メンヌヴィルもこの状況ではどうにもできないため、ただそれを見逃すことしか出来なかった。
「お前は私が相手をしてやる」
「殿下自らお相手いただくとは光栄だな」
「殿下! どうか、その男は私にやらせてください!」
すると、アニエスがヴァルデスにそう願い出た。しかし、ヴァルデスはアニエスの願いを聞き入れなかった。
「ここまで失態を重ねてきたお前をどうして信用できる? 笑わせるな」
アニエスは臍をかむような思いだったが、ヴァルデスの言うことの方が全て正しかった。魔法学院に常駐していたにも拘らず、賊に簡単に押し入られ、あまつさえ生徒たちを人質に取られてしまったというのは失態以外の何物でもない。
この件が済んだら、恐らく自分は銃士隊の隊長を下ろされる。アンリエッタよりせっかく賜ったシュヴァリエという身分も、ミランという姓も失うことになるかもしれない。だから、そうなる前にこの男を自分に手で殺したい。それがアニエスの願いだった。
「さて、始めようか」
「殿下は不意打ちがお得意のようですが、真っ向勝負はどうでしょうかね!」
メンヌヴィルはそう言ってヴァルデスに向けて炎を放ってきた。最早、この状況においてゲルマニアどうこうを考える余裕はない。ただ、目の前の敵を倒して逃げ延びる。それしかメンヌヴィルの頭にはなかった。
自分に向かってくる炎をヴァルデスは剣を抜いて、風を発生させることによって軌道を逸らした。ヴァルデスは全く動揺することなく、冷静に戦いをこなしていた。
今のヴァルデスを例えるなら、それは先端の尖った氷のようであり、その先端をメンヌヴィルの喉元に突きつけている。アニエスとコルベールにはそんな風に二人は見えていた。
「ウィンディ・アイシクル」
ヴァルデスは炎をそらした直後に呪文を唱え、すぐに術をメンヌヴィルに向けて放った。風に乗ったいくつもの氷の刃がメンヌヴィルめがけて飛んでいく。一つ一つは小さいので致命傷にはなりにくいが、それでも直撃すれば相手の機動力を大きく奪うだけに威力はある。
「ぬるいわ!」
メンヌヴィルは再び炎を放って、飛んでくる氷の刃を全て溶かしてしまった。
「くら……!」
メンヌヴィルはそのままヴァルデスを焼き払おうとしたが、即座に術を止めてその場を離れた。メンヌヴィルが離れた直後、彼がさっきまでいた場所には巨大な氷の刃ジャベリンが突き刺さっていた。
ヴァルデスはウィンディ・アイシクルを囮として使い、本命はこのジャベリンでメンヌヴィルの体を貫くことだった。ジャベリンはウィンディ・アイシクルとは違い、氷の刃が大きいために直撃すれば充分死に至るだけの威力を持っていた。
「見えない目でよくかわせたな」
ヴァルデスはメンヌヴィルに賞賛の言葉を贈ったが、その表情は全くの無表情だった。二人の戦いを見ていたアニエスは今のジャベリンについては完全に見落としていたし、コルベールも遠めで見ていたからこそ気づけたものの、自分がメンヌヴィルの立場だったらどうだったであろうか、と悩んでいた。
一方、メンヌヴィルも彼が情報を視覚に頼らず、周りの温度変化によって情報を得ているからこそ、室内とはあまりに違いすぎるジャベリンの氷点下との気温差でそれに気づくことができていた。彼もまた、追い詰められて必死の戦いをしていた。
「なるほど。殿下は相当戦い慣れをしているようだ」
表情こそ変えないが、メンヌヴィルは明らかに焦っていた。不意打ちはともかく、メイジとしての実力も自分より上をいっていると思われるヴァルデスをどうすれば出し抜けるかを必死になって考えていた。
メンヌヴィルが全力で放った術ならば、炎は熱風を生み出し、気流の変化をもたらすこともできるので、効果をあげることもできるかもしれないが、あのヴァルデスがそのことを考えていないとは到底思えない。だからと言って、他系統の術に関しては火系統とは比べ物にならないほど威力は弱いし、使える術のレパートリーも少ない。
正直なところ、まだ戦いを開始して僅かな時しか経っていないが両者の格付けはこの時点で既に終わっていた。後は強者であるヴァルデスがどのようにしてメンヌヴィルを殺してしまうか、最早この戦いにおける見所はそこだけになっていた。
それは傍目で見ていたアニエスとコルベールにもわかっていた。決着は、呆気なくついてしまうだろうと。
(考えろ! どうする!? どうすればいい!!)
メンヌヴィルはこれまでにないくらいに必死になって頭を働かせていた。今までの戦場では相手の焼ける匂いを嗅ぐことに執着し、その無慈悲な力を振るい続けてきた彼が、今はかつて自分が殺してきた者たちと同じ立場に立たされていた。
そして、この湧き上がってくる感情は、かつてコルベールと初めて出会った時に感じたものと同じものであることを理解していた。
それは恐怖。幾多もの戦場を生き抜いてきたメンヌヴィルをもってしても、ヴァルデスの前では恐怖を感じずにはいられなかった。自分のような狂人ではなく、ヴァルデスはあくまで理性的に相手を殺す。はっきりとした目的意識があり、それに則って彼は人を殺す。
ただ快楽を求めるために殺す自分とは違い、己の分をわきまえ、その上で利益を得るために殺す。これは最も怖いものである。目の前で食事を共にしている相手を笑いながら殺すことのできる人間、対等の立場から捕食者へと瞬時に立場を切り替えることの出来る人間は何よりも怖い。
あえて言うなら異常者である。正常な状態から狂ってしまった狂人とは違い、初めから何かが違う。生まれながらにして普通の人間とは違う何かを持っている、あるいは何かを失っているというのが適切なのだろう。何かを失っているからこそ殺しという最も卑しい行為にも抵抗をなくし、何かを持っているからこそ利に聡くなり、殺しという最も卑しい行為を受け入れるだけの度量を持っている。持っている者なのか、失っている者なのかは誰にもわからないが、それだからこそ異常者なのだ。
「さて、夜も更けてきた。俺も今夜のお勤めがまだ終わっていないからこのあたりで終わりにしようか」
そして、捕食者はとどめの一撃を加えようと獲物に狙いを定めた。
「おのれぇぇ!!」
メンヌヴィルは渾身の力を込めて無作為に術を何発も放った。当然、そんな術がヴァルデスに当たるはずもなく、彼が作り出していた風の障壁であっさりと防がれていた。
しかし、メンヌヴィルの術と風の障壁が触れた瞬間に術は爆発音と爆煙をあげ、煙をすぐに払ったがメンヌヴィルの姿は何処にもなかった。
「なるほど。術を目くらましにして逃げたか」
「す、すぐに追え!」
「必要ない」
アニエスが銃士たちに慌てて命令を下したが、ヴァルデスはすぐにその命令を撤回させた。
「ちゃんと準備はしてある。あいつが生きてこの学院を出ることはまずない」
ヴァルデスはそう言って剣をしまった。
一方、メンヌヴィルは成功確率が万に一つの可能性であった逃走という手段が成功したことに心から喜んでいた。当然追っては来るだろうが、ヴァルデスを相手にするよりは他のメイジや銃士を相手にするほうが、かつて自分が恐怖を抱いたコルベールを相手にするほうがずっとましだと思っていた。
ヴァルデスに比べれば、他の連中はまだ正常な人間だからだ。正常な人間、あるいは狂人ならば自分でも対処できると思っていたが、異常者だけはどうにもならないことを彼はこの戦いで知ることになった。そして、あれを超える異常者はこの世にいないだろうと思っていた。
「待て」
すると、メンヌヴィルの前に一人の騎士が立ちはだかった。
「誰だ……お前」
「私の名はネージュ。メンヌヴィル、貴方をここから生かして出すわけにはいきません」
隙のない立ち方、それを見るだけでも銃士という連中よりは明らかに実力が上の存在だとわかった。だが、あの異常者が放つ恐怖に比べれば、この者が放つ威圧感はあれには及ばない。メンヌヴィルはそう判断し、安堵していた。
だが、それは大きな間違いであった。普段の彼ならばその程度のことで安堵など絶対にしなかっただろうが、ヴァルデスという異常者が放つ恐怖によって、彼が持っていた勘を大きく狂わせてしまっていた。
「死ねえ!」
メンヌヴィルはネージュに向かって杖を構えた。しかし、既に彼女は行動を開始しており、一気にメンヌヴィルの懐にまで距離を詰め、彼の心臓目掛けてその刃を突き刺した。
「ぐっ!?」
メンヌヴィルは見誤った。ネージュがメイジであることは見抜いていたが、メイジが必ずしも魔法で戦いを挑んでくるなどという誤った先入観を抱いていた。
それは、先程戦っていたヴァルデスが剣を杖にしていたのに武器として使ってこなかったことが原因に挙げられる。どんな形をしていようと、メイジが持っている以上、それは杖にしかなりえない。そんな誤った先入観をあの戦いでメンヌヴィルが抱いてしまっていた。それは間違いなくヴァルデスが放っていた恐怖によって植えつけられたものに相違なかった。
「お前の敗因は一つだ」
薄れ行く意識の中、メンヌヴィルは確かに悪魔の声を聞いた。
「お前はメイジを言う枠を外すことができなかった。魔法で戦うからメイジ、その先入観こそがお前の敗因だ」
それがメンヌヴィルがこの世で聞いた最後の言葉となった。その言葉を聞くと同時に、彼はこの世を去った。
「ご苦労だったな、ネージュ」
「はっ!」
「今夜はもう遅い。抗議は明日にして帰ることにしよう」
「かしこまりました。ヴァルデス様」
メンヌヴィルの死体を銃士に引渡し、二人は護衛たちが待っている馬車に戻った。そこにはカトレアたちも既に控えていた。
「お疲れ様でした。あなた」
「お前も災難だったな」
「いえ……」
「では、戻ることにしよう。お前たちも今日は我が別荘で休むがいい」
「ありがとうございます。殿下」
エレオノール以下三人はヴァルデスに対して深々と礼をした。
「ネージュ」
「はい」
「今夜は久しぶりに興奮した。今夜のお勤めは激しいものになりそうだ」
「この全身全霊を持ってヴァルデス様の寵愛を受ける覚悟でございます」
「いい返事だ」
こう言ってヴァルデスたちは馬車に乗り込んだ。エレオノールとルイズ、そして才人はその言葉に頬を朱に染め、カトレアはいつもどおりの笑みを浮かべていた。
こうして長い一夜は終わった。
メンヌヴィル編でした。
まともにヴァルデスが戦った珍しい話でしたが、結局とどめはネージュでした。
まるで某将軍が「成敗!」の一言で自分の手を汚さないようなシーンが浮かびました。
.
小説家になろう 勝手にランキング
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。
ついったーで読了宣言!
― お薦めレビューを書く ―
※は必須項目です。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。