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この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
園遊会へ(後編)
「しかし、君ほどの人物に会えるとは思わなかったよ。アルブレヒト閣下がゲルマニアの若き期待の星をこの園遊会に伴ってくるとは思わなかったよ」

「私も直前になって命令を受けました」

「ははは。恐らく、君を見せることでゲルマニアの勢いを見せつけようと考えたのだろう。今においても未来においても、その勢いに衰えがないことを証明するために君を伴ったのだろう」

「私如きを伴ったところでたいした意味はないように思いますが……」

「それだけ君に期待しているということだろう。さっきのはただの建前だろう」

「そう思われているのなら光栄です」

 ヴァルデスはそう言って一礼をした。園遊会の会場に戻ると、ウェールズ王子の登場に会場が沸き立った。そして、何故かその隣にヴァルデスが一緒にいるのを見て訝しげな視線で見つめる連中も多かった。

「ウェールズ、そちらの方は誰じゃな?」

 すると、一人の老人がこちらにやって来た。その佇まいからその人がジェームズ一世であることは明白だった。

「父上、こちらの方はゲルマニアの若きエースであるヴァルデス殿です。先程、知り合いになりました」

「ほう。ゲルマニアの……。息子が世話になったようじゃな、わしがアルビオン国王ジェームズ一世じゃ。よろしく」

「は、はい。ヴァルデス・ウェストリ・コーラッドと申します。お会いできて光栄でございます、ジェームズ陛下」

 ヴァルデスが慌てて頭を下げた。膝をつかないのは彼はアルブレヒト三世の臣下であるため、忠誠を誓うことができなかったからだ。もっとも、他家の王族に会った時のマナーを心得ていないというのも一つだったが。

「ふむ。その若さで一部隊の隊長を任されるとは、両親もさぞ喜んでおろう」

「恐れ入ります」

「では、失礼する」

 ジェームズ一世はそう締めくくると、ウェールズを伴ってその場を去っていった。それと入れ違いになる形で、アルプレヒト三世が挨拶回りを終えてやって来た。

「見ていたぞ。いつの間にアルビオンの王と王子に近づいたのだ?」

「それがその……」

 ヴァルデスは湖畔での出来事をアルブレヒト三世にかいつまんで話した。全てを聞き終えた後、彼は面白そうに笑いながらこう言った。

「なるほど。アンリエッタ姫の水浴びか、それはよいものを見たな」

「はぁ……」

「で、どうだった?」

「どうだった……と申しますと?」

「アンリエッタ姫だ。お前、彼女の裸身を見たのであろう。それがどうだったと聞いておるのだ」

(下心か。まあ、こういうところをストレートに語るこの方は嫌いではないが……)

「そうですね……まあ、歳の割には肉付きのよい体をしておりましたので、元気な子を産んでくれるのではないかと存じます」

「そうか、それならばよい」

 あくまでアルブレヒト三世が欲しているのは始祖の血筋なのだ。それは別にアンリエッタ姫でなくてもかまわないのだが、一番手近なところにいて女性であるのが彼女だということで狙いを定めているのに過ぎないのだ。元より、王族は愛だの恋だのを語る資格がない生き物なので、政治的な意味において彼女を欲しているのだ。

「ですが、アルビオンのウェールズ殿下はなかなかの強敵かと存じます」

「ほう。アンリエッタはウェールズに懸想しているとでも言うのか?」

「さあ? ただ、一番無防備な格好でいたにも拘らず、私には相当の警戒心を持っていたようですが、ウェールズ様にはそれほど警戒をされていないようでした」

「アンリエッタとウェールズは従兄妹の関係だから、特に気にする間柄ではないのではないか?」

「いくら従兄妹同士でも、普段は全く顔も合わせない男に裸を見られて気にしないと思いますか?」

「……なるほど。言うとおりだ」

 それを聞くとアルブレヒト三世はまた小さく笑った。

「勝算がおありですか?」

 その余裕たっぷりの姿を見て、ヴァルデスは思わずそう訊ねてしまった。

「わしがウェールズに負けているところがあると思うのか?」

「強いて言うなら……若さでしょうか?」

「若さなど何の意味も持たぬ。特に王族の婚姻に関しては、な」

 それは正論だった。王族の婚姻など政治的戦略の一つであり、それ以上でもそれ以下でもない。王族のいい男というのは、国力のある国家を持っているということなのだ。

「おっしゃるとおりで」

「お前もいずれはゲルマニアの中枢にその身を置くことになるだろう。若輩者と言われる今のうちに色々と学んでおくがよい。ゲルマニアに戻り次第、お前にはダンスの講師をつけ、我の名代としてパーティーに参加してもらう」

「ははっ」

「さて、そろそろ夜も更けてきたな。一通りの挨拶も済んだことだし、今夜はこの辺で帰るとしよう」

「かしこまりました」

「お前は残れ」

「はい?」

「我の名代だ。せいぜい最後まで付き合ってやるがよい」

(何か……面倒ごとばかり押し付けられている気がする)

 ヴァルデスはそう思ったが、その場はただ頭を下げるだけで終わらせた。アルブレヒト三世はマリアンヌ大后に挨拶して、園遊会から宿舎へと戻っていった。ゲルマニアのアルブレヒト三世が帰った、ということで帰る機会を窺っていた他のゲルマニア貴族たちもそれに便乗してどんどん帰っていった。おかげで、この会場に残ったゲルマニア貴族はヴァルデスだけになってしまった。

「居残り役か? 宮仕えの悲しさという奴だな」

 すると、今度は体格のいい中年男性が彼に声をかけてきた。髪も立派な口髭もその色が蒼だった。それはその者がハルケギニア最大の国家、ガリア王国の王族であることを示していた。

「お察しの通りで。失礼ですが、ガリアの王族の方で……?」

「うむ。余はガリア王ジョゼフだ。ヴァルデス殿」

「ジョ、ジョゼフ王!? 失礼いたしました!」

「かまわん。失礼だと思ったが、先程のアルブレヒト殿とお前の会話が耳に入った。お前、パーティーに参加するのはこれが初めてとのことだそうだな。ならば、俺のことを知らなくても仕方あるまい」

 ジョゼフはそう言って豪快に笑った。

(この男……うちの閣下より読めぬ……)

 ヴァルデスはジョゼフという男がいまいちよくわからずにいた。正直、先程のウェールズやジェームズ一世に関してはヴァルデスなりの感想を持つことは出来たが、このジョゼフだけはどう評価していいかよくわからなかった。開けっぴろげな馬鹿に見えるが、その瞳には野心が見える。それがヴァルデスのジョゼフに対する人物像の判断を止めていた。

「陛下の寛大なお心、恐れ入ります」

「下手な世辞はよせ。そんなこと微塵も思っていまい。お前の目は、この余という男がどれほどのものであるかを今も必死に推し量ろうとしている」

「……陛下の慧眼、まことに恐れ入りました」

 ヴァルデスは素直に謝ることにした。それと同時に、自分という男がジョゼフにはすっかり理解されてしまったと負けを感じていた。

「下手な意地は張らず、余計な波風を立てぬか。アルプレヒト殿が可愛がるわけだな」

「恐れ入ります」

「どうだ? 主君もいないことだ、少し私の酒に付き合え」

「喜んでお付き合いさせていただきます」

「では、こちらへ」

 ヴァルデスはジョゼフと共にテーブルの一角に二人で座った。その姿は方々から注目を集めることになった。特にガリア貴族からの視線が痛々しいくらいにヴァルデスに向けられていた。

「ふん。雀たちが気にしているようだな」

「恐れ多くも、ジョゼフ陛下と席を共にしていればそれは仕方ないかと存じます」

「お前もいずれはゲルマニアの中枢に立つことになるだろう。これぐらいのことには慣れておいたほうがよい」

「勉強になります」

「では、今日の出会いを祝して」

「乾杯」

 二人はワインの入ったグラスで乾杯して、まずは最初の一杯を一気に飲み干した。傍に控えていた侍従がすぐにグラスに次のワインを注いだ。周りの貴族は何を話しているのだろうと必死に聞き耳を立てていた。

「美味しいですね」

「ガリアのビンテージだ。気に入ってもらえて何よりだ」

 ジョゼフはそう言うと、すぐに注がれたワインも飲み干した。

「しかし、その若さで魔法衛士隊の隊長になったか。まるで、若い頃のシャルルを見ているようだ」

「お亡くなりになったシャルル殿下ですか」

「ああ。シャルルは魔法衛士隊には入っていなかったが、魔法の才能は他の追従を許さなかった。わずか十二歳でスクウェアになった、それは当時の貴族たちの間でかなり騒がれたものだ。お前はどうだったのだ?」

「一応、十一歳で風のスクウェアです」

 それを聞くと、ジョゼフは大きな声で笑い声を上げた。

「ふふふ。お前もシャルルと同じ風のスクウェアか。しかも、シャルルより一年も早いとは……本当に若い頃のシャルルを見ているようだ。その聡明なところもそっくりだ」

「そうですか」

「聡明で魔法の腕前も確か、対して私は魔法を使えず馬鹿だった。誰もが次の王はシャルルだと思っていた」

 そう言ってまたワインを飲み干した。その様子に聞き耳を立てていた貴族たちも段々と関わらないほうがよさそうだとその場を離れていった。

「だが、父が今わの際に指名した次の王は俺だった。誰もがそれには驚かされていた、もちろんこの俺自身もだ」

「非の打ち所のない完璧な弟と何をやっても駄目な兄、普通に考えれば誰だって前者を選びますからね」

「お前のその歯に衣着せぬところは非常に好ましい。俺の周りには俺の機嫌を伺うだけの連中ばかりだからな」

 ジョゼフが最初の一杯以外口をつけていないヴァルデスに飲むよう促すため、グラスを少し前に押し出した。ヴァルデスはその意図を理解して、グラスに注がれていたワインを飲み干した。

「誰もが王はシャルルであると思い、父は病のため乱心していたと思った。この俺でさえそう思ったぐらいだ。だが、シャルルはそんな俺に笑顔を向けて、俺に祝いの言葉を述べた。それも俺が今まで見てきた中で最高といえるほどの笑顔でな」

「……心中お察しします」

 すると、今まで笑顔を見せていたジョゼフの表情が曇った。

「お前に、俺の心がわかると言うのか?」

「残念ながら、凡人に過ぎない私には陛下のお心は深すぎて理解することなど出来ません。ですが、同じ凡人であるシャルル殿下のお心なら察することが出来ます」

「凡人……お前もシャルルも、その若さでスクウェアメイジであり、歳に似合わぬほどの聡明なところもある。それを凡人とのたまうか」

「はい。残念ながら、私が生きているシャルル殿下とお会いする機会は一生ありませんが、それでも陛下のお話を伺えばおおよその見当はつきます」

「では、お前はシャルルがどう思っていたと言うのだ。言ってみろ」

「恐らく、シャルル殿下はさぞ悔しかったことでしょうね」

「悔しい?」

 ジョゼフはその言葉に眉をひそめた。

「私がシャルル殿下の立場ならそう思ったことでしょう」

「その意味は?」

「シャルル殿下はお話を聞く限り、相当の努力をなされていたお方のようです。十二歳でスクウェアメイジになられたあたり、相当努力したことが伺えます」

「そうだな。奴は幼い頃より必死になって努力していた」

「だが、次の王として指名されたのは自分ではなかった。自分が兄に劣っていることを承知して、必死になってこれまで努力を続けてきたというのに、それが報われることはなかった。さぞかし、悔しかったことでしょう」

「シャルルが無能な俺より劣っていると思っていた? どうして?」

「確かに魔法の面では陛下を上回っていたことでしょうが、それ以外のことは陛下に劣っていたと思いますよ。だからこそ、必死になって努力を続けた。でも、亡きお父上はその努力を認めなかった。殿下が見せた笑顔は、殿下なりの最後の矜持というところでしょう」

「では問おう、シャルルが俺に負けていたものとは何だ?」

 ジョゼフはヴァルデスを射抜くような目で見つめていた。その険悪な雰囲気を周りも察していたし、ワインを注ぐためにいる侍従はここから逃げたいといわんばかりの表情をしていた。

「シャルル殿下が陛下に負けていたもの、それは王としての資質そのものです。王に必要なのは魔法ではありません。王に必要なのは、清濁併せ呑むだけの腹と政治的手腕とそれを活かすだけの頭の回転の速さです。ジョゼフ陛下にはそれが備わっていたが、シャルル殿下にはそれがなかった。だから、必死になって努力したと思います」

「王としての資質……」

「もし、私が陛下と兄弟として生きていたなら、絶望の中で毎日を過ごしていたでしょう。その重圧に押しつぶされないために必死に努力していたと思います。同じ……凡人ですから」

 ヴァルデスはそう締めくくってワインを飲み干した。ジョゼフはしばらく黙りこくってしまい、空を見上げていた。そして、大きくため息をついて言葉を続けた。

「そんな風に考えたことはなかったな。いつも優秀な弟と比較された駄目な兄、そんな風にしか考えられなかった」

「所詮、私の言ったことは私の考えでしかありません。今となっては、それを確認する術もありませんが……」

「お前のように考えることが出来たなら、過ちを犯すことなどなかったのかもしれないな」

 過ち、その一言に心当たりはあったがヴァルデスは口を挟まなかった。これはガリアの問題であり、ゲルマニアの貴族である自分がどうこう言える話ではないからだ。

「我ら兄弟のところに、お前のような者がいればもっと互いを分かり合えたかもしれないな……今となってはもう手遅れだが」

「過去は所詮過去でしかありません。終わってしまったことは変えることは出来ません。変えることが出来るのはこれから先のことだけです……ごちそうさまでした」

 ヴァルデスが席を立ってその場を離れようとした時

「今度」

 背中から聞こえたジョゼフの声に振り返らずに足を止めた。

「お前を私の客として招待しよう。もっとも、その時は俺が王であるとは限らないがな」

 ジョゼフのその言葉を聞いて、ヴァルデスを振り返りジョゼフに対して一礼をしてからこう述べた。

「心より……お待ち申し上げております」

 ヴァルデスはそう言ってジョゼフの前から去った。残されたジョゼフは何をするわけでもなく、ただその場に残っていた。ここが園遊会の会場であることも忘れ、ただ自分の時間を呆然と過ごしていた。その心に何を思っているのかは、彼しか知らない。

 やがて、夜も更けていき園遊会からは次々と招かれた客たちが姿を消していった。王族・貴族たちがいなくなる中、ただ一人残っていたジョゼフを月が優しく照らしていた。まるで、彼を慰めているかのように。
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