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この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
ヴァリエール公爵家にて
「トリステインがアルビオンに宣戦布告か……」

 夏休みのある日、ヴァルデスの元にその一方が届けられた。

「でも、トリステインが自分から打って出るなんて愚策でしかないね」

 イザベラは呆れるようにそう言った。ヴァルデスもトリステインの出撃に対して同じような感想を抱いていた。そもそも、空軍でアルビオンに大きく差をつけられ、空中大陸だからろくに補給できない。更に兵力にも大きな差が生じている。そんな中で自分から打って出るのは愚策以外の何物でもなかった。そもそも、マザリーニ枢機卿はこの出撃に最期まで反対の立場をとっていたのだが、女王に就任したアンリエッタの強い意志によって出撃せざるを得なくなっていたとのことだ。

「まあ、そのとおりだな」

「でも~、トリステインが戦争状態になるのなら、私たちはどうしましょうか~?」

「そうだな……戦争状態になったらさすがにここにいるわけにもいかないな」

「私とエレーヌはガリアに戻るってことかね」

 イザベラはシャルロットの肩を抱いてそう言った。

 実際、正式に結婚をしていないので二人が戻る場所はゲルマニアではなく、現状ではガリアが正式なものということになるのだ。ヴァルデスとエルティナとネージュはゲルマニア、そしてカトレアのみがトリステインということになるのだ。もっとも、婚約者には違いないのでカトレアをゲルマニアに匿うことはできないわけではないのだ。

「本当はそうしたくないのだがな」

「でも、戦争になったらそうするしかない」

 シャルロットが呟いた言葉を誰も否定することはできなかった。

「とりあえずヴァリエール公爵のところに行ってみるか。あの家なら今の状況をよく知っているだろう」

 ヴァルデスのその言葉でヴァリエール公爵家行きが決まり、今はそのヴァリエール公爵家に向かう馬車の中だった。別荘を出発してから約二日、ようやく馬車はヴァリエール公爵家の敷地に入ったところである。

「しかし、さすがヴァリエール公爵家。何て広さだい」

 イザベラは呆れたようにそう言った。実際、今まで訪れたどんな貴族の屋敷より、このヴァリエール公爵家の敷地は比べ物にならないほどに大きいものだった。

「俺もこれほどとは思わなかった」

 かつてのコーラッド家の敷地とは比べ物にならないほど大きかった。現在の実家の領地はどれほどのものになったのかは知らないが、それでもこれに匹敵するには至らないだろうと思っていた。

「ところで、カトレアには姉がいたな」

「え、ええ。エレオノールという姉がいます」

 ヴァルデスが何となく話題を振ってみたのだが、カトレアは何故か姉についての話題をあまりかたろうとはしなかった。

「どうかしたんですか~?」

 カトレアの様子があまりにもおかしいので、エルティナが訊ねてみた。カトレアは少し考えるような素振りを見せてから、意を決してこう言った。

「その……エレオノールお姉様は最近婚約を解消されたそうなので、あまり機嫌がよくないと思うのです」

「婚約解消とは穏やかじゃないね」

「何故?」

 そもそも、貴族同士の結婚というのは政治的な意味合いが強い場合が多いので、それを解消するというのはかなりの大事であった。それもヴァリエール公爵ほどの大貴族の娘の婚約が解消されるというのは普通ではありえないことだった。

「私も詳しくは知らないのですが、何でも『もう限界』とのことです」

「男が女にだらしなかったというわけか」

「だったら、いいんじゃないか。そんな程度の男に嫁ぐよりは婚約解消のほうがましさ」

 ヴァルデスとイザベラはそう解釈したが、それでもカトレアはまだ言いにくそうにしており、視線も宙を彷徨っていた。

「それが……相手の方が『もう限界』とことで……」

「相手からの婚約解消?」

 それもまたおかしな話だった。そもそも、公爵家令嬢との婚約など望んだところでそんなチャンスがあるわけでもないのに、そのチャンスをわざわざ自分から断るような男がいるとは俄かに信じられなかった。

「それもまたおかしな話」

「ですね~」

 シャルロットとエルティナの言葉は正論だった。カトレアは何と言っていいか言葉に迷っているような感じだった。

「その……エレオノールお姉様は非常に綺麗なのですが、その性格が……」

「どんな性格なんだ?」

「……今のルイズをそのまま大きくしたと思っていただければ」

「……納得した」

 ルイズもたいした癇癪持ちであったので、それが大きくなったと考えれば『もう限界』の言葉の意味も理解できるというものである。それと同時に、結婚のメリットよりも精神的苦痛からの開放を相手に選ばせたのがどういう女性であるかにも興味が湧いていた。

「ですので、お姉様の前で結婚の話は……」

「わかった。好き好んで虎の尾を踏む趣味はない」

 全員がヴァルデスの言葉に賛同した。こうして馬車の中で一つの約束が結ばれて一行はヴァリエール公爵邸に入った。

「先日は失礼いたしました。ヴァルデス殿」

 屋敷に通されるとヴァルデスたちは全員上座に座らされた。ヴァリエール公爵もヴァルデスに対しては最敬礼をとっていた。そもそも、トリスタニアでの一件以来、ヴァルデスに頭が上がらないという状況なので仕方ないといえば仕方なかった。

 それよりもヴァルデスはこの場に同席している顔ぶれに驚いていた。

「どうしてお前がいるんだ? サイト」

 誰にも告げずにここへ来たはずなのに、何故かルイズと才人がこの屋敷にいたのだ。しかも、シエスタを連れて。

「ルイズのお姉さんに連れてこられて……」

 才人はそう言いながら視線だけその主に向けた。

 長い金髪にすらりとした長身、胸のほうはいまいちではあるがそれでも間違いなく美人と呼べるだけの器量を持っている女、それがエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールだった。一目見ただけならば人目を引く美女だと思うのだが、彼女が身に纏っている雰囲気と、その鋭い目つきが男を遠ざけているような気がしていた。

「はじめまして、ヴァルデス殿下。カトレアの姉でエレオノールと申します」

「ああ。よろしく」

 何となくだが、ヴァルデスには『もう限界』のその言葉の意味が判ったような気がした。確かに素振りなどはちゃんとした教育を受けたものであるということはわかったが、それでも本人が生来身に纏っている雰囲気だけは隠しようがない。必死で取り繕っているつもりだが、内面に隠そうとしているものはどうしても隠し切れずにいた。

「しかし、当家にお越しになるのでしたら事前に連絡をいただければ歓迎準備もいたしましたのに」

「ヴァリエール公爵、今日は急ぎの用で来たので歓迎は結構。それよりも伺いたいことがある」

「ははっ」

「トリステインは本気でこの戦争に勝てると思っているのか?」

「……耳の痛い話ですな」

 ヴァリエール公爵はため息を吐きながらそう言った。これだけで少なくとも、ヴァリエール公爵が戦争反対派であることは明白となった。

「正直な話、今回の戦争は女王陛下に軍部が乗っかって無理やり押し切ったというかたちになりますな」

「勝てる見込みはないと?」

「ヴァルデス殿下なら戦況の予想はできるかと……」

「……なるほど。では、ヴァリエール公爵は戦争には参加しないと」

「勝てないとわかっている戦争に領民たちを向かわせるわけにはいきません。金で済むなら安いものです」

 それにカトレアがヴァルデスの嫁になるのだからその程度の出費ぐらいはたいした痛手にはならないとヴァリエール公爵は考えていた。それに、正式に婚姻が結ばれればゲルマニアから便宜を受けられて領地発展することもでき、今回の出費よりも大きな収入を得ることができることだってありうるのだ。それを考えればこの程度の出費はたいした痛手にはならないのだ。

「ですがお父様、女王陛下のお考えに背くようなことは……」

 すると、ルイズが弱々しくも反論してきた。この間のカリーヌのお説教がまだ尾を引いているのか、彼女の目を気にしながらルイズはヴァリエール公爵にそう言った。ヴァリエール公爵はルイズの傍に行って優しく諭すように言った。

「いいかい、ルイズ。自分から攻めるには相手の三倍もの戦力を必要とするんだよ。今のトリステインにはそれだけの戦力はないし、何よりもアルビオンは空中に浮遊する大陸であり、空軍はトリステインよりもずっと強い。たとえ上陸できたとしても、補給路を潰されてしまっては長くは戦えない。だから、この戦争に勝てる要素がないのだよ」

「でも……」

「ルイズ、お前が戦争のことを考えなくていい。戦争のことは私に任せておけばいい」

 ルイズが少し気落ちしているのに対し、才人はヴァリエール公爵の言葉に安堵していた。恐らく、ルイズが戦争に赴こうとしており、両親の許可を取りに来たというところだろう。才人は無理やり戦争に連れ出されそうになっていたので、ヴァリエール公爵の言葉にやっと安心を得ることができたというところだろうとヴァルデスは思っていた。

「ヴァリエール公爵の言うとおりだな」

 助け舟というわけではないが、ヴァルデスはヴァリエール公爵の言葉に続いて話し始めた。

「そもそも、アルビオンは攻めにくい国であるのに違いはないが、逆を言えば空に浮いているから補給が満足にできないという弱みもある。わざわざこちらから攻め込まなくても補給路を地道に潰していけばそのうちにこっちへ降りてこなければならなくなる。そのときに迎え撃てばいいだけの話だ。攻め込むよりも迎え撃つほうが被害も少なくて済むはずだ」

「でも、だったらどうして姫様はそんな結論を出したんだ?」

 才人が疑問の声を上げるとエレオノールが鋭い視線を向けた。才人はひるんだが、その疑問に答えるかのようにヴァリエール公爵が言葉を続けた。

「女王陛下が何をお考えなのかはよくわからぬが、女王陛下は攻撃をお望みだ。それに軍部が乗っかったというわけだ。リッシュモン高等法院長が汚職でいなくなり、文官たちの力が弱くなったからさすがの鳥の骨も止められなかったというわけだ」

「どうしてそこまでレコン・キスタにこだわるのだろうな?」

 ヴァルデスはそのあたりの事情をよく知らなかったが、才人やルイズは何となく察しがついていた。亡くなったウェールズとアンリエッタは恋仲であったことを二人は知っている。恐らく、アンリエッタはウェールズの敵討ちをしたいのだろうと推測していた。

 そして、それはヴァルデスも同じだった。何度かウェールズとアンリエッタと会ったことがあり、二人の仲も大体推測がついていた。だが、それゆえよくわからなかった。どうして国家元首たる国王が恋人のために戦いを始めるのだろうかと。

 仮にイザベラやシャルロットが殺されても、ヴァルデスは敵討ちなど考えないだろう。少なくとも、最優先すべきは国家の利益であり、その上で敵討ちが有効的な手段ならばそれを選択するという程度の認識である。無論、夫婦の愛というものは持ち合わせているが、それを最優先して国を巻き込むほどヴァルデスは無責任なことはできなかった。どうしても敵討ちがしたいなら、今の地位を全て捨ててから赴く。それが前世で何も持たずに腕一つだけで生きてきた男としての考え方だった。

「まあいい。トリステインがそういう考え方なら俺がこれ以上言うことは何もない」

 ヴァルデスはそう言って席を立った。

「いいんですか? 殿下」

 あまりにもあっさりとしているので、才人はヴァルデスに訊ねてみた。

「ああ。だって俺はゲルマニア人だからな、トリステインの戦争に関与するつもりはない」

「はあ……。でも、カトレア様は……」

「無論、カトレアは守る。だが、それだけだ。もし、トリステインがレコン・キスタに敗れ、ヴァリエール公爵家がゲルマニアに亡命を申し出た場合もそれを受け入れる。だが、この国のために何かをするつもりはない」

 あくまで、ヴァルデスにとって重要視するのはゲルマニアであって、トリステインなどどうでもいいのだ。むしろ、一度レコン・キスタに滅ぼされて占領された方が戦いやすいし、王権に刃を向ける逆賊として退治することも可能なのでヴァルデスにとってはレコン・キスタが勝ってくれたほうが非常に助かるのだ。

「サイト、お前も万が一のときは亡命を受け入れてやる」

「あ、ありがとうございます。殿下」

 そもそも、戦場に駆り出されようとしているような状態なので、負けはすなわち死を意味するも同然である。才人にしてみれば、何とかここでルイズを説得して思いとどまらせたいのだ。そうすれば、最悪トリステインが負けてもゲルマニアでヴァルデスが安全を約束してくれるのだから。

「ところで、どうして戦場に行きたいんだ? ルイズ」

 ヴァルデスが兼ねてからの疑問をぶつけてみた。そもそも、ヴァルデスでさえ戦場なんかには行きたくないと思うくらいなのに、ルイズが行きたいと思う理由がよくわからなかった。

「そ、それはもちろん女王陛下のお力になるために……」

「ちびルイズ! 貴女が戦場で何の力になれると言うの!? 碌に魔法も使えないくせに!」

 エレオノールの言葉にルイズも少し厳しい視線を彼女に向けたが、すぐにそれを上回るエレオノールの視線に負けてしまっていた。

「わ、私だって魔法は使える……もん」

「へえ、コモンマジックでさえ碌に使えない貴女がどんな魔法を使えるのかしら?」

「エレオノール、ルイズ、ヴァルデス殿下の前ですよ」

 カリーヌの言葉で二人ともおとなしく引き下がったが、代わりにヴァリエール公爵がルイズに訊ねた。

「ルイズ、系統に目覚めたのかい?」

「はい、お父様」

「何の系統だい?」

「……火ですわ」

「火か……お前のお爺様と同じだ。破壊を司る罪深い系統だ。だから、戦争に興味を示しているのだね」

 ヴァリエール公爵はそう言って宥めていたが、ヴァルデスは系統を告げたルイズの表情が何処か曇っているのを見抜いていた。少なくとも、真実を語っているわけではないということは間違いないだろうと思っていた。ただ、それを今本人に問い詰めても何も語らないだろうということもわかっていたので、あとで上手いこと才人から聞き出そうと考えていた。

「だけどねルイズ、戦争はルイズが思っているほど格好いいものじゃない。戦争で勝てれば名誉というものを貰えるが、負けたら全てを奪われる。それにたくさんの人が死ぬ」

「でも、女王陛下が私の力を貸してほしいと……!」

 ルイズのその言葉を聞いた瞬間、それまで穏やかだってヴァリエール公爵の表情が強張った。それは普段は優しい父親で接してきていたルイズやそれを見ていたエレオノールを驚かせるのに充分すぎるものだった。

「何と言うことだ……女王陛下が私の娘に戦争へ行けと命じたというのか!」

 ヴァリエール公爵はそう言って机を思いっきり叩いた。そのあまりの迫力にルイズやエレオノールは何も言えずにただただその様子を見ていることしかできなかった。この場で平然としているのは、妻であるカリーヌとヴァルデスたちだけだった。

「誰か竜籠を用意しろ! すぐにトリスタニアに向かう!」

「あなた!」

 激昂しているヴァリエール公爵を止めたのはカリーヌだった。カリーヌには逆らえないのか、ヴァリエール公爵も少し頭を冷やしたようで、息は荒かったがそれでもいきなり出かけるということはしなくなった。

「失礼いたしました、ヴァルデス殿下」

「気にしていない。気持ちはわからないでもないからな」

 ヴァルデスに謝罪の言葉を述べて体裁を整えたが、頭の中では王室に対しての怒りでいっぱいだった。それでもこの場においてもっとも身分が上であるヴァルデスを置いていくなどという愚挙をしなくなっただけ冷静になったと言える。

「しかし、一学生に戦争へ行くように女王が自ら言うとは……この戦いの先は見えたな」

 トリステインで一二を争う貴族の前でそのようなことを言うのは本来ならばありえないことだが、ヴァリエール公爵が戦争反対派なのでさして問題にもならなかった。そのヴァリエール公爵もアンリエッタが行ったことに対して怒りを感じているくらいなので、この場においてたいていの発言は見逃されると誰もがわかっていた。

「ヴァルデス殿下、盛大な歓迎はできませんが、どうぞ今晩は当家にお泊まりください。できる限りの歓迎の宴を催させていただきます」

 ヴァリエール公爵がそう言ったので、ヴァルデスもその言葉に甘えることにしてその日はヴァリエール公爵家に泊まることになった。ヴァルデス一行は翌日にはヴァリエール公爵家を去ったが、その後、王室とヴァリエール公爵との間で一悶着があったことは公然の秘密となった。
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