この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
園遊会へ(前編)
「おはよう」
『おはようございます! ヴァルデス隊長!』
稽古場に姿を現すと、隊員たちは全員が揃ってヴァルデスに挨拶してきた。
ヴァルデスが王宮に上がってから三年の月日が経った。ヴァルデスは十四歳になり、体つきもかなり大きくなった。一般的なメイジなどとは比べ物にならないほど鍛え上げられた体をしていた。
ヴァルデスは最初こそ、元からいた隊員たちに歳があまりにも若いからと侮られていたが、訓練や実戦ですぐに頭角を現し、今では新設された第二魔法衛士隊の隊長を務めるまでになっていた。
第二魔法衛士隊は、元から存在する第一魔法衛士隊の補助的な存在として新設された。だが、直轄領での魔物退治や盗賊退治などでかなり武勲を挙げており、決して補助部隊だからと侮られることもなくなった。
この第二魔法衛士隊は別名牙部隊とも呼ばれていた。その凶暴なまでの攻撃性と、妥協を許さない徹底した仕事振りを見てそう呼ばれるようになっていた。だが、凶暴と言われるまでの攻撃性とは対照的に軍規を徹底させることについては第一魔法衛士隊よりも遥かに厳しかった。下手に規則を破ろうものなら、ヴァルデスによるきついお仕置きが下されるので隊員たちは絶対に規則を破るようなことだけはしなかった。
ちなみに、隣国トリステインにおいて『烈風カリン』という伝説にもなっているマンティコア隊という魔法衛士隊の隊長になった人物が、何よりも重要視していたのが規律の徹底だった。鋼の規律、その言葉にはヴァルデスも共感しており、新たな隊作りに取り入れていた。
「何か問題は?」
「いいえ。今のところ何もありません」
「なら結構だ。しっかりと訓練に励むように」
『ははっ!』
まだ十四歳なのだが、ヴァルデスが持っている有無を言わさない力によるカリスマ性がこの隊を隊として成立させていた。誰一人として、ヴァルデスに疑問を抱くものはおらず、今では心酔する者がいる始末である。
ヴァルデスは牙部隊の隊長であると同時に、執務官という肩書きも持っていた。同時進行でヴァルデスの教育は行われていたが、ヴァルデスは二人が思っている以上の速さでその両方を見事に修めていた。ただ、牙部隊の隊長という役職に就いたため、今では執務官の仕事はあまり行っていなかった。
「隊長」
すると、一人の兵士がヴァルデスのところにやってきた。
「何だ?」
「閣下が至急謁見の間に来るようにとの仰せです」
「わかった。ご苦労」
「はっ!」
兵士は敬礼をして持ち場へと戻っていった。ヴァルデスもその後に続いてすぐに謁見の間に向かって急いだ。
「ヴァルデス・ウェストリ・コーラッド。閣下のお召しにより参上いたしました」
「うむ。早速だが、こんな書状が我に届いた」
アルブレヒト三世はそう言うと、傍にいた兵士に書状を持たせてヴァルデスに渡した。
「トリステイン王国での園遊会ですか……」
「うむ。マリアンヌ大后め、ガリアやアルビオンにまで招待状を出したようだ」
「そうなると、かなり大掛かりな会になりますね」
「まあ、招待されて行かないわけにはいかぬからな。参加するつもりだ」
「なるほど」
「お前もついて参れ」
「しかし、護衛は第一魔法衛士隊が行うのでは……?」
牙部隊はあくまで第一魔法衛士隊の補助的な存在であり、第一魔法衛士隊が国をあけるときには国家の守護を第一任務にしていた。その隊長であるはずの自分が、ここを外れろというアルブレヒト三世の意図がよくわからなかった。
「我の護衛は第一魔法衛士隊が行う。お前には伯爵家嫡男として我について来いということだ」
「父ではなく、ただの嫡男である私が……ですか?」
「お前のことがどうやら他国にも知れ渡ったようだ。メイジでありながらほとんど魔法を使わず、それでいて素手でスクウェアを圧倒するほどの実力を持つ男として有名なのだそうだ。ついでだからお前のお披露目も済ませてしまおうというわけだ」
「それでゲルマニアの力を各国に鼓舞するというわけですか」
「お前のそういう察しのいい所が我は好きだ。出発は明後日だ、それまでに準備を済ませておけ」
「ははっ!」
その話から一週間後、一行はゲルマニアからトリステインにやって来ていた。さすがにマリアンヌ大后が自ら開いた園遊会というだけあって、その規模はここ近年ではもっとも大きいものだった。
「さすがマリアンヌ大后が自ら開いただけのことはある。有名貴族たちが勢ぞろいって感じですね」
その面子の中にはゲルマニアのツェルプストー辺境伯もいた。トリステインのヴァリエール公爵もこの園遊会に参加しているとの事なので、妙な喧嘩が勃発しないか、両家の仲の悪さを知る者は気が気でなかった。
「お前はこういうパーティーは初めてか?」
アルブレヒト三世は隣に控えているヴァルデスに訊ねた。個人参加とは言え、牙部隊の隊長であるヴァルデスが隣にいることは何にも不思議なところはないので誰一人として文句を言うものはいなかった。
「はい。残念ながら、今までこういうパーティーに参加する機会がなかったので」
「ならば、是非ここで色々な貴族と顔をあわせておくがいい。顔を広いことは決して悪いことではない」
「かしこまりました」
「但し、ツェルプストー辺境伯とヴァリエール公爵にだけは必ず顔を見せておけ」
今までアルブレヒト三世がこんな風に何かを強制するようなところを見せたことがなかったので、ヴァルデスは少し驚いていた。
「何故、ヴァリエール公爵とツェルプストー辺境伯に……?」
「あの両家はよく小競り合いを起こすからな。今後は小競り合いが起きそうになったらお前が処理しろ」
「……とどのつまり、面倒ごとの仲介役をするために顔合わせをしておけということでしょうか?」
「そのとおりだ。察しがよくて本当に助かる」
(七面倒な役割を……)
ヴァルデスはそう思ったが、決して表情には出さなかった。これもまた城中に上がってから覚えたことだった。
「私は他国の王族たちに挨拶してくる。お前はあの二人に挨拶したら自由に過ごしておけ。ヴァリエール公爵とツェルプストー辺境伯に顔を合わせておけば、他の貴族から寄ってくることだろうしな」
「ははっ」
アルブレヒト三世はそう言ってパーティーの人込みの中へと消えていった。ヴァルデスはまず、同じゲルマニア貴族であるツェルプストー辺境伯から挨拶することにした。ヴァリエール公爵はとりあえずツェルプストー辺境伯の後ろ盾が出来てから挨拶したほうがいいような気がしていたからだ。それに、トリステイン貴族はゲルマニアを蛮人の国と陰口を叩くこともあるので、付き合うには色々と警戒が必要なのだ。
「ツェルプストー辺境伯、はじめまして」
「ん? ああ、ヴァルデス殿か。はじめまして」
ツェルプストー家現当主、ラダックはヴァルデスの姿を見ると笑顔で返してきた。燃えるような赤い髪に褐色の肌、ツェルプストー一族の特徴を色濃く受け継いでいた。
「いつぞやはツェルプストー辺境伯にもご迷惑をおかけいたしました」
「ご迷惑?」
「あの、もう三年ほど前の話になりますが……」
「ああ。平民との諍いの件か、あれは貴殿に非は無い。むしろ、あの馬鹿者どもの方が問題だったのだからな」
「そう言っていただけるとありがたいです。今後とも是非よろしくお願いいたします」
「ああ。こちらこそよろしく頼む。お父上にもよろしく」
「必ず伝えます」
二人は互いに友好を結ぶと、その証明として握手を交わした。ゲルマニアの大物貴族であるツェルプストー辺境伯と握手を交わしている姿は、すぐに周りの注目を集めて、「あの若い男は誰だ?」と囁き声が聞こえてきた。
握手を交わした後、周りのざわめきが落ち着く前にヴァリエール公爵に接触を図った。
「ヴァリエール公爵、お初にお目にかかります」
「……君は?」
金髪と口元には同じ金髪の髭、右目にかけられたモノクルがきらりと光っていた。その鋭い眼光も貫禄を示していたが、残念ながらアルプレヒト三世ほどではなかったため、ヴァルデスはさほど威圧感を感じなかった。だが、それを鵜呑みにするほど迂闊な男というわけでもなかった。
「ヴァルデス・ウェストリ・コーラッドと申します。ゲルマニア貴族、コーラッド伯爵家の嫡男でございます」
「ほう……君があの牙部隊の隊長を務めているヴァルデス殿か」
アルブレヒト三世が言っていたことが事実だということを、ヴァルデスはここで初めて知った。自分の名前が他国にも知れ渡っているなどとは思いもよらなかったが、事実であるということを知るとかつて暗殺者時代に轟かせた悪名のことを思い出させた。
「私如き若輩者を存じ上げていただき光栄でございます」
「ご両親もご子息がご立派になられてさぞお喜びであろう」
「ありがとうございます。まだ若輩者ゆえ、至らぬ所があると存じますが、何卒よろしくお願いいたします」
「うむ。ご丁寧な挨拶、痛み入る」
ヴァリエール公爵はヴァルデスの挨拶が気に入ったのか、手を差し出してきた。ヴァルデスはすかさずにその手を握り返した。ツェルプストー辺境伯と握手を交わしたかと思えば、ヴァリエール公爵と立て続けに握手を交わしているのでさすがに周りの貴族もヴァルデスを無視するわけにはいかなくなった。次は自分だ、と色々な思惑が飛び交っていた。
「娘もここに来ていたのだが、姿が見えんな……せっかくだから君にも紹介したかったのだが……」
「どうぞお気になさらないでください。また機会があればその時にでも」
「うむ。すまないな」
「いえ。本日はお知り合いになれて光栄でした」
「私もだ。また会おう」
「はい」
ヴァリエール公爵と別れた後、国を問わずに様々な貴族がヴァルデスに挨拶をしに寄ってきた。さすがに少々面倒ではあったが、これを疎かにすると味方がいないなんて事態にもなりかねないので、浅く広く付き合いを広げていった。
「おお、アンリエッタ姫だ」
すると、招待客からどよめきが起こった。彼らの視線の先にはこのトリステイン王国の王女であるアンリエッタ姫がいた。トリステインに咲く一輪の可憐な花、という表現もあながち間違ってはいないとヴァルデスは思った。それと同時に、あれがうちの閣下が狙っている女か、とも思っていた。
ゲルマニアは新興国であるが故、始祖の血筋を引いている人間がいないのだ。これほど国の規模が大きくなったというのに、皇帝が未だに閣下と呼ばれている理由はそこにあるのだ。なので、ゲルマニアは国家としての地位を磐石にするために始祖の血を取り入れようと考えていたのだ。その筆頭候補がアンリエッタ姫なのだ。
「何と可憐だ……」
招待客の間からため息が漏れているが、ヴァルデスはあまり興味がなかった。他人の容姿など人によって違うのが当たり前であり、そこで優越を決めるというのが彼にはよくわからなかった。
招待客の注目がアンリエッタに向かったことで、ヴァルデスに挨拶に来る者がいなくなったのでその隙に彼は一時的に園遊会から離脱した。
「やれやれ……パーティーというのはああいうものなのか?」
静かな湖畔を一人で歩く、月が湖面に反射して何とも幻想的な雰囲気を作り出していた。園遊会の喧騒を遠くに聞き、やっとこの国に来てから一息つくことが出来た。
元々の目的は達成されたため、残りの時間はもうここでのんびり過ごそうかとさえ考えていた。
「ん?」
すると、湖畔に誰かやって来た。湖面に反射した月明かりがちょうど影を作り出し、相手の顔を確認することは出来なかった。かろうじて、そのシルエットから相手が女性だとわかる程度だった。
ヴァルデスは特に相手のことを気にしていなかった。とりあえず不審者ではないだろうか、という程度の警戒はしていたが、自分から何かを仕掛けるということはしなかった。件の女性は、湖畔の近くで身に着けていたドレスや下着を全て脱いで水浴びを始めた。
「ただの水浴びか……ん?」
すると、今度はその少し離れた木々の陰からそれを見つめている気配に気がついた。相手はヴァルデスには気づいていないようだが、貴族や王族ばかり集まっている園遊会なので妙なことが起こっても不思議ではない。それがひとたび起こると、国家同士の戦争にさえ発展しかねないのだ。とりあえず、堂々と水浴びしている彼女は後回しにして、陰で見つめている不審な相手を優先した。
音を立てぬようにこっそりと相手の背後に回りこんで、隠し持っていたナイフを握る。そして、一気に踏み込んで相手の腕を取って後ろから喉笛に刃をちらつかせる。
「何者だ? こんなところで何をしている?」
ドスを効かせた低い声、真正面から見ればただの茶番にしか聞こえないが、この状況下なら相手を恐怖に陥れるには充分だった。相手は小さな呻き声を上げるだけで、何にも反撃できなかった。
「そこにいるのは何者です!?」
すると、水浴びをしていた彼女が二人に気づいて声を上げた。ヴァルデスは男の腕を締め上げたまま、ゆっくりと彼女へと歩み寄った。
「水浴び中に失礼いたします。あちらの木の陰から覗き見ている不審な輩を捕らえました。失礼ですが、ここはマリアンヌ大后主催の園遊会の会場、本日は水浴びなどの行為は原則的にお控えいただくのが礼儀かと存じ上げます。恐れ入りますが、貴女のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? ミス」
「彼女はこの国のアンリエッタ王女だよ」
「アンリエッタ姫?」
すると、雲が動いて月明かりがその女性の姿を映し出した。その姿は恐怖におびえているアンリエッタ王女だった。
「……なるほど。では、お前は誰だ?」
「僕はウェールズ。アルビオン王国ジェームズ一世の息子のウェールズだ」
「ウェールズ様?」
「その証拠は?」
「僕の懐には紋章が刻まれた短剣がある。それが証拠だ」
男の言葉どおりにヴァルデスはその懐を探って短剣を取り出した。刃を抜いて柄の部分を確認すると、確かにアルビオン王家の紋章が入っていた。
「……失礼いたしました。ウェールズ殿下、アンリエッタ姫」
ヴァルデスは刃を収め、その場に膝をついて謝罪をした。
「いや、時と場所を考えない行動を取っていたのも事実だ。君は職務に忠実だっただけだ、むしろ誇りに思うといい」
「ははっ。もったいなきお言葉、光栄でございます」
「ところで」
すると、今まで黙っていたアンリエッタが口を開いた。
「どちらの隊の所属でしょうか? あなたは……」
「これは紹介が遅れました。私は帝政ゲルマニアのコーウッド伯爵家嫡男のヴァルデスと申します」
「ほう。君があの牙部隊の若き隊長か、噂は聞いているよ。腕前も噂に違わぬもののようだな、身を持って体験したよ」
「大変失礼いたしました」
「あの……服を着たいので後ろを向いていただけませんか?」
すると、アンリエッタが恥ずかしそうに俯いていた。
「これは失礼。ヴァルデス君、我々は退散しよう」
「ははっ」
「じゃあ、アンリエッタ。また後で」
ウェールズはアンリエッタにそう言うと、ヴァルデスを伴って園遊会の会場に向かって歩き出した。
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