この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
主人と使い魔
「決闘?」
翌朝、キュルケとギーシュが深い眠りについている頃、朝食の席でその話題が出た。話題はワルドから切り出され、才人へと提案されたものだった。
「そうだ。昨日の君の野盗との戦いはなかなか見事だった。是非、一手交えてみたくなった」
「ワルド様、こんな時に決闘なんて……」
「こんな時だからこそだよ。これから何が起こるかわからない。だから、彼の力を知っておきたいんだよ。どうだい? 受けるかい?」
「……わかりました」
「ちょっとサイト!」
「いいじゃねえか。この人の言うとおりだし」
才人もワルドの提案に乗ったので、ルイズは頭を抱えた。
「では、朝食後でいいかな?」
「ええ」
「では決まりだ」
二人の間でさっさと決闘が決まってしまったので、最早ルイズでも止めることは出来なかった。正式な決闘ではないとは言え、爵位を持つワルドからの提案なので爵位のない公爵令嬢のルイズでは持っている権力が違った。それゆえ、決まってしまったことをどうこうすることは出来なかった。
朝食を済ませると、二人はワルドの案内で決闘場に足を運んでいた。
「かつてはここで貴族がよく決闘したものだよ。もっとも理由は女の取り合いなど他愛もないことが多かったが、それでも決闘は貴族にとって名誉を賭けた大事なものだった」
ワルドは朗々と講釈していたが、才人は興味がなかったため、全然聞いていなかった。ただ二人の間に流れる雰囲気が非常に険悪なものになっているのだけは確かであり、ルイズはそれを感じて不安になっていた。
「準備が出来たら教えてくれ」
ワルドは余裕の態度で才人にそう言った。
「相棒、気合入れろよ」
「ああ」
デルフの言葉に才人は短い言葉で返事を返した。ただ、普段のような明るい雰囲気ではなく、酷く張り詰めたような感じであるのをデルフもわかっていた。
「いいですよ」
「ああ。では、始めようか」
二人はそれぞれの武器を抜いて対峙した。ルイズは固唾を呑んでそれを見守っていた。
緊張感だけがどんどんと高まっていき、どっちが先に手を出すか、互いに攻撃を仕掛けるタイミングを狙っていた。言うまでもなく、この勝負に有利なのはワルドである。ワルドの武器はレイピア型の杖なのだから、武器の射程範囲外でも魔法による攻撃が出来る。それだけでも勝負は大きくワルドに傾くのだが、更にスクウェアメイジであるワルドは術のレパートリーも多い。才人がどう思っているかはわからなかったが、誰の目から見ても才人に勝ち目はなかった。
「相棒、かなり強いぜ」
「わかってる!」
才人はそう言って一気に前へ踏み出した。先手を取る、とりあえずそれを考えていた。だが、逆を言えば才人にはそれしか出来なかった。
魔法が使えない才人は如何に相手より早く動いて隙を突く、これしか取れる戦術はなかった。
ガンダールヴの力で並みの剣士より早く動けている。並みの相手ならそれだけでも十分圧倒できるのだが、相手が経験をつんだ戦士が相手ではそれだけでは勝てない。最初こそ、才人の動きの早さにワルドも驚いていたが、徐々に慣れてきて余裕を見せ始めていた。
「くそっ!」
才人もワルドが余裕を見せていることはわかっていた。どんな攻撃を繰り出しても受けられるどころか、余裕を持ってかわされる。才人の心の中を徐々に焦りという感情が侵食していった。
(どうして当たらねえんだ!?)
才人はガンダールヴの力で強くなった気でいたが、結局は剣の扱いをろくに知らない素人のままだった。実戦を積んで少しは剣の使い方を体で覚えていたが、受けてきた訓練の質やこれまでの経験の数でもワルドのほうが大きく勝っているのだ。才人に勝てる道理はない、あるとしたら千に一つ、いや万に一つあるかないかの偶然だけだった。
「ふむ。少しは出来るようだが、これが限度のようだな。では、そろそろ終わりにしよう」
ワルドはそう言うと、才人の一撃をかわしつつ杖を才人に向けた。
「エア・ハンマー」
ワルドが唱えたその術で、才人は思いっきり吹き飛ばされ積んであった木箱に激突し、デルフも手放してしまった。それと同時に才人は自らの意識も手放してしまい、慌ててルイズが駆け寄り、その頭を膝の上に乗せた。
「ワルド様! いくらなんでもやりすぎです!」
「ははは。確かにちょっと大人気なかったな」
ルイズが憤慨しているのに対し、ワルドは笑みを浮かべながらそれを受け流していた。
「うっ……」
「サイト!」
才人が短く呻き声を上げて目を覚ました。
「気分はどうだい? 使い魔君」
ワルドの言葉を聞いて、才人は頭を軽く振って意識をよりはっきりさせようとした。
「……負けたのか」
「ええ」
才人の問いかけのような言葉にルイズは優しい言葉でそう言った。才人は起き上がり、吹き飛ばされて転がっていたデルフを拾い上げその鞘にしまった。
「これでわかっただろ」
その背中にワルドが言葉を投げかけた。
「君ではルイズを守れない」
「……っ!」
「悪いことは言わない。ここで引き返すか、ここで僕らの帰りを待ちたまえ」
「ワルド様!」
ワルドはそれだけ言ってその場を後にした。才人はワルドに言葉を掛けられた状態のままその場から動かない、いや動けなかった。体が自然と震え、これまでの生涯で一番の悔しさを感じていた。
「サイト……仕方ないわよ」
「仕方ない?」
「ワルド様は魔法衛士隊で今までにいくつもの戦いを経験してきたわ。それに貴方は平民、ワルド様はメイジよ。負けるのは恥じゃないわ」
「……そうか」
才人はそれだけ言ってその場を後にした。ルイズは何だか寂しそうな才人の背中をただ見送ることしか出来なかった。
「で、サイトは落ち込んでいるわけか」
その日の夜、晩餐に才人の姿はなかった。ワルドも早々に食事を切り上げており、この場にはいなかった。
「かわいそうなダーリン。慰めてあげなきゃ」
キュルケの言葉にもルイズは反応しなかった。明らかにルイズも落ち込んでいる、とこの場にいる誰でもそれがわかった。
「しかし、こう言っては何だがサイトの腕は決して悪くないと思うよ。この僕を倒したんだからね」
「ギーシュを倒したぐらいじゃ自慢にもならないでしょ」
ギーシュの言葉にキュルケが冷ややかな言葉を浴びせた。
「キュ、キュルケ。ちょっと酷いんじゃないかい?」
「あら? ギーシュはそう言えるほど強いのかしら?」
「うっ……!ま、まあ、それはともかく、あの野盗たちだってサイトの前ではほとんど手が出せなかったんだ。決してサイトが弱いというわけではないと思うな、僕は」
「そうね……フーケのゴーレムにだって真正面から対抗できていたんだから弱いって事はないわね。ワルド様が言うほどダーリンが足手まといになるってことはないと思うわ」
「でも……」
すると、ルイズは小さな声で言葉を続けた。
「アルビオンは危険な所よ。ワルド様の言うとおり、ここで待つと言うのも……」
「君は自分が何を言っているのかわかっているのかい?」
ルイズの言葉に、ギーシュはこれまでに見せたことのない鋭い視線で彼女を見た。それは一年生の頃から彼と付き合いのあるキュルケでさえ、一度も見たことのないものだった。
「今回の任務を受けた時、君はサイトが止めるのを制して引き受けた。だが、止めようとした彼は君についてここまで来た。そんな彼に君はここで帰れ、などと残酷なことを言うつもりかい?」
「それは……」
「僕は決闘を通じて彼を一人の人間として認めている。仮に、君が彼を人間ではなく使い魔として認めているにしても、あれだけ主人についてきてくれる使い魔を見捨てるつもりかい?」
ギーシュの言葉には何一つ間違いはなかった。いつもの軽い口調ではなく、真剣な言葉と真剣な眼差しが彼の言葉を重いものにしていた。
(普段もこういう風にしていれば、私だって少しはなびくのに)
キュルケはその表情を見ながらそんなことを思っていた。少なくとも、彼の表情や言葉を見たら自分の言うことは何もなくなったと傍観に徹していた。
「決めるのは君だし、部外者の僕にはこれ以上言う資格はない。後は君が決めるんだ」
ギーシュはそう言って席を立った。
「私も疲れたわ。失礼」
キュルケもそう言って席を離れていった。後にはルイズが一人寂しく残された。
「私だって……」
ルイズの小さな呟きは誰にも聞かれず、ただ喧騒の中へ消えていった。
そんな話が行われている頃、才人は一人バルコニーで佇んでいた。
「相棒。何を考えているんだ?」
デルフはただ景色をずっと眺めている才人を見ていられず、とりあえず声をかけてみた。
「なあ、デルフ?」
「何だ?」
「俺って弱いのかな?」
「さあな? 少なくとも、あのワルドって奴よりは弱いな」
「あいつより……弱いか」
「決着は魔法でついたって形になったが、剣でやりあったとしても今の相棒の上を行くと思うぜ」
「そっか……」
「ま、今は人間が至る所にうじゃうじゃいる。その数は数え切れねえほどだ。それだけいる中で最強になるって言うのは無理な話ってもんだ」
デルフは才人を慰めるつもりで言ったのだが、逆に才人の気分は更に落ち込んでいった。
「でも、ワルドより弱い。俺じゃルイズは守れねえ……」
「そいつはわからねえぜ。確かに、あの野郎は今の相棒より強いが、もっと訓練を積んだら相棒にだって充分勝ち目はある」
「だけど、これからアルビオンへ行くっていうのに、ルイズを守れないんじゃ……」
才人がそう言って更に落ち込むのを見て、デルフは一つの疑問をぶつけてみた。
「なあ、相棒はどうしてあの嬢ちゃんを守りたいんだ?」
突然ぶつけられた疑問に、才人はしどろもどろになりながら答えようとした。
「え? だって、ルイズは俺の……」
「俺の……何なんだ? 主人か?」
「いや、その……」
才人は何と言うべきなのかわからなくなった。デルフはそんな才人の様子を見て更に言葉を続けた。
「今、相棒と嬢ちゃんには主人と使い魔って言う主従関係が結ばれている。相棒に刻まれたガンダールヴのルーンにも、使い魔としての強制力が働いている」
「強制力?」
「嬢ちゃんに尽くすようにさせる力ってことだな」
「俺はそんなの関係ないぞ」
「じゃあ、何で嬢ちゃんを守るんだ?」
「何で、って……」
才人は自分が何をしたいのかよくわからなくなっていた。ルイズを守りたいという思いは確かにある。でも、それがガンダールヴのルーンのせいでそう思い込まされているのかもしれない。自分の本心が何処にあるのか、才人はそれさえもよくわからなくなり、思考の袋小路に迷い込んでしまっていた。
「使い魔として主人に従うのなら迷う必要はない。主人の命令で行くも帰るも決まる。だが、相棒はあの嬢ちゃんを止めようとした。それは間違いなく相棒の意思だ。俺の質問に迷うってことは、相棒には使い魔としての強制力が不完全だということになる。本当に効いているのならいちいち悩むことなんてしないからな」
「デルフ……」
「つまり、悩むってことは相棒の意思であの嬢ちゃんを守りたいって思っているってことだ。だから、聞くんだ。どうして、相棒はあの嬢ちゃんを守りたいんだ?」
才人は目を閉じて自分の中にある答えを探していた。デルフも才人が答えを出すまでは何も語らず、ただ答えを探して必死になってもがき苦しんでいる才人の姿を見守った。
やがて、閉じていた目をゆっくり開いて言葉を紡いだ。
「俺は……ルイズのことが好きなんだと思う」
何度も頭の中を引っ掻き回して探し出した答えがそれだった。もっと学があれば他にも言い回し方はあったのかもしれないが、これは才人が必死になって見つけ出した答えを言葉にしたものだった。
「惚れちまったのかい?」
「わからねえ。女として好きなのかもしれないし、友達として好きなのかもしれない。ただ……」
「ただ?」
「主人と使い魔、っていう関係だからってことじゃねえことは断言できる……と思う」
答えを言葉にした才人と、疑問をぶつけたデルフとの間に沈黙が流れた。だが、それはデルフによってあっさりと破られた。
「なるほどねえ。ま、相棒がそれで納得できるならそれでいいやね。剣には人間の気持ちなんてものはわからねえしな」
「ああ。ありがとな、デルフ」
「いいってことよ」
「サイト……」
すると、バルコニーにルイズが姿を現した。
「ルイズ」
「ワルド様にやられた怪我は大丈夫?」
「あ、ああ。別に怪我という怪我をしたわけじゃねえし」
「そう……」
ルイズはそう言うとサイトの隣に立った。
「綺麗ね」
「そうだな」
二人はラ・ロシェールに広がる光景を見てそう言った。家々から漏れてくる光がとても暖かなものに感じられた。
「ねえ、サイト」
「何だよ?」
「今でも怒ってる?」
「怒る?」
「私がサイトの制止を振り切ってアルビオンへ向かうこと」
「ああ……まあ、行くのは今でも反対だけど怒ってないよ」
「そう……ありがとう」
「はぁ?」
今までになく、ルイズが謙虚な態度で才人に謝ってきたので驚きを隠せなかった。
「何かあったのか?」
「……ワルド様に求婚されたわ」
「はっ!? 求婚!?」
「ええ」
「こんな時にか!?」
「任務が終わったら、って言ってたわ」
「お前は……それでいいのか?」
才人の問いかけに対し、ルイズはとてもではないが明るい表情にはならなかった。
「……わからないわ」
「だったら、そんな求婚はこと」
「でも」
才人の言葉をルイズが遮った。
「私とワルド様は家同士で決められた婚約者同士。それが少し早くなるだけよ」
「家同士って……」
「貴族の結婚というものはこういうものよ。家が大きければ大きいほど、家同士のつながりで結婚相手が決まることは珍しくないわ」
「けど……」
「ヴァルデス様だって私のちいねえさまとは政略結婚という形で結ばれたのよ。私のご先祖様だって政略結婚で結ばれた方は多いわ。私だけそれを拒むことをして、これまで守り続けてきた家名に傷をつけることは出来ないわ」
「お前は……それでいいのか?」
先程と同じ言葉で才人はルイズに問いかけた。すると、今度はルイズも才人に問いかけてきた。
「サイトは……どうしたらいいと思う?」
「……今の俺に、お前の将来について語ることはできねえよ」
「……そう」
ルイズはそう言ってまたラ・ロシェールの光景に目を向けた。時折吹き抜ける風が、ルイズの髪をなびかせた。
「……風が……出てきたわね」
「……そうだな」
才人はそう答えることしかできなかった。その時、闇の中で何かが動くのを見た。
「ルイズ!」
才人は慌ててルイズの手を引いてその場を離れた。その次の瞬間、二人が立っていた場所に巨大な何かが振り下ろされ、バルコニーの一部が壊された。
「なっ!?」
ルイズは突然のことに驚いていたが、才人は既にデルフを抜いて構えていた。
「久しぶりだね! 坊やたち!」
そこには巨大なゴーレムがいた。そして、その肩には見たことのある人物がいた。
「フーケ!」
そこには自分たちがかつて捕らえ、王城へ向かう途中に逃げたあのフーケがいた。
「どうしてフーケがここに!?」
「悪いけど、ここで足止めさせてもらうよ!」
フーケはそう言ってゴーレムの腕を再び振り下ろした。才人はルイズの手を引いて、それらの攻撃をかわしていった。
「どうしてお前が!?」
才人がそう言うとフーケは苦々しい表情を見せた。
(こっちだって好きでやっているわけじゃないんだよ!)
そう思ったが、フーケはそれを口に出さずにただ才人たちを見詰めていた。
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