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この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
ウィンドボナ来訪、皇帝との出会い
 ヴァルデスが領内の政治に関わり始めてから様々なことが変わった。あの漁村の一件を皮切りに、衛生管理という観点が領内に芽吹いた。公衆便所やゴミ箱が設置されるようになり、指定された場所以外でのゴミや汚物の廃棄には厳重な処罰が科せられるという法律が出来た。
 実際、ヴァルデスの提案したとおりのことをした結果、原因不明の腹痛や嘔吐の数は激減した。それが成果としてヴァルデスは領民たちにも評価されるようになり、その後に行った農地改革も着々と成果を上げていた。金銭的な問題があったので、一気に全てを行うということは不可能だったが、二十年計画で全てを変えていこうと考えていた。
 おかげで、コーラッド領内は少しずつ豊かになり、領民たちの生活も少しずつだが裕福になっていった。税金の方も少し引き下げても充分に対処できるくらいになったので、領主であるコーエンの評価も上がっていた。

「ここがウィンドボナですか……」

 今日は父と共にゲルマニアの首都であるウィンドボナにやって来ていた。ここに来た理由は、コーエンの公務の報告のためだった。

 ヴァルデスももう十一歳になっていた。武術の腕前は領内では並ぶ者がいなくなっていたし、魔法の腕前もスクウェアにまで上り詰めていた。双方がトライアングルの両親からスクウェアが生まれたので、両親はことのほか喜んだ。
 それからヴァルデスには弟が生まれていた。現在三歳で、さすがにヴァルデスほどの才能はないようだが、それがかえって子供らしいと両親からは愛されていた。ヴァルデスがあまり構ってもらえなくなっていたが、そんなことを気にするような彼ではなかったので自由になる時間が出来てかえって運がいいとさえ感じていた。

「では父上、私はウィンドボナの町を見て回ります」

「気をつけるんだぞ。貴族に手を出す者はいないと思うが、それでも決して治安がいいとは言えないからな」

「わかりました」

「まあ、お前ほどの強さなら問題はないと思うが、スリなどには注意しろ」

「わかりました。では、お気をつけて」

「お前も気をつけるのだぞ」

 コーエンはそう言って城のほうへと消えていった。ヴァルデスはコーエンを見送ると、大通りを色々と見て歩いた。露店やウィンドウショッピングを見て回るだけでもかなり楽しめた。
 コーラッド領にもいくつかの町はあるが、これほど盛況な町はなかった。ただヴァルデスの尽力により、町の清潔さにおいてはコーラッド領のほうが上回っているのを見て少し嬉しくなった。

「申し訳ございません!」

 すると、大きな声で必死に謝っている女の声が聞こえた。声のする方向を見ると、既に人だかりが出来上がっており、ヴァルデスはその人だかりを掻き分けて一番前に出た。

「貴様! 貴族にぶつかるとはどういう了見だ!」

 人だかりの中心にいるのは三人の貴族と平民の母子だった。どうやら、平民の子供が貴族にぶつかったのでそれを母親が必死になってかばい立てをしているといった様子だった。

「本当に申し訳ございません! 母親の私が謝りますので、どうかこの子だけは!」

「ならん! その子供には礼儀というものを教えなければならん!」

 はっきり言って見苦しいという一言以外の何物でもなかった。ヴァルデスは反吐が出るような気持ちでいっぱいだったが、他の貴族に喧嘩を売るような行為は父の名に傷をつけてしまうことにもなりかねないので、とりあえずは自重していた。
 しかし、貴族たちの言い分はどんどんエスカレートして言った。必死で謝り続ける母親の姿がとても可哀想になっていたが、貴族が相手なので誰も何も言えないような状況になっていた。

 平民は貴族に勝てない、それがこのハルケギニアの常識だった。その常識のせいで、貴族が平民を虐げるという行為が日常のように行われるという悪習をも生み出していた。これも始祖信仰による弊害というものだった。

「ええい! その子供をこちらに渡せ!」

「お願いします! 娘だけは! 娘だけはお許しください!」

「離せ! 我らに逆らうつもりか!」

 横暴がエスカレートしていく様に、周りの表情も最悪の状況を想像し始めて暗くなっていった。道行く貴族も、当たり前のことであるがゆえに誰一人として止めようなどとは思いもしていないようだった。

「ええい! よこせ!」

 一人の貴族が母親の顔を殴った。

「ママ!」

「平民が我ら貴族に逆らうからこうなるのだ!」

「さあ! 来い!」

「いい加減にしろ!」

 ヴァルデスはそう言って、人だかりの中央に飛び込んだ。ヴァルデスに全員の視線が集中した。

「何だ? 貴様は」

「それだけやればもう充分でしょう。子供を連れて行くほどのことじゃない」

「我らに意見するというのか! 我らはツェルプストー辺境伯とも付き合いがあるのだぞ!」

「だから何だ? ぶつかったことに関しての謝罪はもう充分のはずだ。これ以上はただの嬲り合いだ」

「黙れ! さっきから聞いていれば我らに対しての無礼の数々、断じて許さんぞ!」

「だったら……どうだというんだ?」

 周りの人だかりも一触即発の雰囲気を感じ取って、徐々に距離をとるようになっていった。ヴァルデスは冷静を装っていたが、内心ではかなり怒りで煮え滾っていた。

(こいつら……本当に腐っているな)

 かつて、自分が暗殺してきた貴族や王族たちの姿が彼らと重なった。自分が軽蔑してきた貴族の姿がそこにあった。

「どうやら君も貴族のようだが、少々礼儀を知らぬようだ。我々が……!」

 男が口上を述べていたが、ヴァルデスはそんなものを聞く耳持たず、その男の腹に目いっぱいの力を込めて拳をめり込ませた。男はその一発で白目をむき、口から泡を吐いて気絶した。

「悪いな。礼儀知らずなので先手を打たせてもらったよ」

「貴様ぁ!」

 仲間が倒されたことで残っていた二人も完全に激昂した。二人同時に杖を抜いてヴァルデスに向けたが、既にヴァルデスもそこから動いていて、二人の懐近くにまで詰め込んでいた。
 身長的に男たちの顎には届かないので、肘を腹に叩き込み、残った一人の腹に蹴りを叩き込んだ。二人とも、最初の一人と同じように目を剥いてその場に倒れた。

「馬鹿が。こんな場所で魔法が使えるとでも思ったのか」

 わずか十一歳の子供が完全に貴族を見下しているその姿が平民たちには痛快に映った。それも魔法を一切使わずに叩きのめした姿は、本当に平民の心に訴えかけるものがあった。

「き、貴様……!」

 すると、最初の一人が目を覚まして起き上がってきた。まだダメージは残っているのか、その足や全身が震えていた。

「まだやるつもりか?」

「こ、こんなことをしてただで済むと思うのか?」

「知るか。礼儀を教えるといったのはあんたたちだろ?」

 ヴァルデスはもうこの男のことはほぼ眼中になかった。それどころか、相手をするだけで自分の品格がどんどん貶められているような気さえしていた。

「それとも……まだやるか?」

 ヴァルデスが拳を握ると、男は少しひるんだ。

「そこまでだ」

 すると、いつの間にか人だかりの向こうに馬車が止まっていた。しかし、ヴァルデスはその馬車に刻まれている紋章を見て驚きを隠せなかった。その馬車に刻まれていた紋章はゲルマニア皇室のものだったからだ。

「まさか……」

「この決闘、余が預かろう」

「か、閣下!?」

 ヴァルデスは慌てて膝をついた。勿論、家督も継いでいない一伯爵の息子に過ぎない彼が皇帝に会ったこともあるはずもないが、あの馬車と目の前に立った男の風格と喋り方から想像するのは容易だった。
 ヴァルデスの言葉とその仕草を見て、周りの平民たちも慌てて彼に倣って膝をついた。

「ほう……喧嘩っ早いだけではなく、頭の回転もいいようだな」

 アルブレヒト三世もヴァルデスの聡明な態度に少なからず驚いていた。一度も会ったことのない彼が、謁見の間でもなく、こんな道端で会っただけの男をすぐに皇帝と見抜く目を持っているあたり、なかなかのものだと評価していた。

「恐れ入ります、閣下」

「名前は?」

「ヴァルデス・ウェストリ・コーラッドと申します」

「コーラッドの息子か。なかなか聡明な息子だと噂では聞いていたが、噂どおり、いやそれ以上だな」

「私如きに過度なお褒めのお言葉、恐悦至極に存じます」

「ところで、どうしてさっきの戦いで魔法を使わなかったのだ?」

 話しながらもアルブレヒト三世はヴァルデスを見定めようと、その鋭い視線は全くぶれることがなかった。

「あんなに人が多い場所で魔法は使いにくいと判断しただけでございます。それに魔法は使う瞬間が一番隙だらけになりますので、そこを突く戦い方を選んだだけでございます」

「……なるほど。なかなか合理的な戦い方をするようだな」

「恐れ入ります」

「だが、私の足元で騒ぎを起こした罪は大きい」

(きたか……!)

 ヴァルデスもさすがに無傷で済むとは思っていなかったが、アルブレヒト三世が直々に姿を現すなどとは全く予想だにしていなかった。出来る限り、父の名前に傷がつかないようにと考えていたが、今となってはそれさえ怪しいものだった。

「よって本来ならば議会に掛けるところだろうが、皇帝の名を持ってお前にはこの場で罰を与える」

「ははっ……!」

 皇帝直々に下される罰、それがどんなものであるかを想像して回りはまるで水を打ったように静まり返った。

「コーラッド伯爵嫡男ヴァルデスよ。我、帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の名において命ずる。貴様は本日只今より、城中に上がり、執務官補佐及び我の護衛見習いを命ずる」

「あの……恐れながら申し上げてもよろしいでしょうか?」

「よかろう。聞こう」

「執務官補佐と護衛見習いということは……」

「お前ならわかっていると思うだろうが、一番我に近い存在になるということだ。まあ、見習いという立場ではあるがな」

「しかし、家督も継いでいない有象無象の輩に過ぎない私をお傍に置いては、側近の方々が閣下に対していい感情を持たないのではないでしょうか?」

「そこまで言える時点で、お前はそこらの貴族より充分有能であることを証明しているようなものだ。それに、ゲルマニアの伝統は実力主義だ。実力があれば年齢など関係ない。側近もそういう連中であるから気にすることはない」

 アルブレヒト三世は考えを改めようとはしなかった。むしろ、さっきよりも積極的にヴァルデスを自分の手元に引き込もうとさえしていた。

「さて、そういうことだ。勘違いしては困るが、これは名誉ではなくお前に科せられた罰だ。断るなどという選択肢はない、せいぜい私に尽くせ」

「は、ははっ!」

「お前の父には私から直接伝えておこう。思わぬことになっただろうが、お前が引き起こしたことなのだからしっかりとその責任を取れ」

「ははっ! このヴァルデス、閣下に一命を捧げる覚悟でお仕えさせていただきます!」

「よかろう。貴様の覚悟は確かに聞いた。ならば、しっかりと我についてまいれ」

「ははっ!」

 ヴァルデスはアルブレヒト三世の後に続いて歩いていった。そして、城に向かう馬車の殿について共に城に向かった。

 ちなみに、この時の貴族たちは結局咎めなしとなったが、喧嘩した相手がアルプレヒト三世に気に入られたという事実があり、それにまつわるエピソードがゲルマニア中を駆け巡ったため、ツェルプストー辺境伯の耳にも入ることになりお叱りを受けることとなった。それ以来、無闇に平民に手を出すことはしなくなったそうだ。





 城に到着すると、まずはコーエンとの会話の席が設けられた。その席にはアルブレヒト三世も同席していたので、コーエンもさすがに緊張を感じずにはいられなかった。

「そのようなことがあったとは……恐れ多くも、不肖の息子が閣下にご迷惑をおかけいたしまして誠に申し訳ございません」

「そう固くならずともよい。その罰として、お前の息子にはしばらく城中で働いてもらうのだからな」

「ははっ! 是非、こき使ってやってください!」

「うむ。なかなか優秀な男ゆえ、しっかりと鍛えてやろう。もっとも、安全の保障はしないがな」

「かしこまりました! ヴァルデスよ、領内の事は私がしっかりと監督するゆえ、心配せずに仕事に励むのだ」

「はい。父上」

「では、閣下。私はこれで失礼させていただきます」

「大儀であった」

「ははっ」

 コーエンは最後に一礼をして、アルブレヒト三世の執務室を後にした。それから入れ違いになる形で、二人の男が執務室に入ってきた。

「閣下、お召しにより参上仕りました」

「うむ、ご苦労である。お前達二人を呼んだのは他でもない。お前たちでこの男を鍛えてやれ」

「この少年を……ですか?」

 魔法衛士隊の制服に身を包んだ男が訝しげにヴァルデスを見た。さすがに精鋭揃いと言われる魔法衛士隊にこんな少年を入れると言われれば、誰だって同じような反応をするだろう。

「ガンザス。お前が疑問に思うのも納得できることだが、実力の方はわしが保証しよう」

「閣下御自らが少年の保証人ですか……」

「不満か?」

「滅相もございません。ですが、ゲルマニア史上…いや、世界中の王国の歴史においても、王が保証人になるということは前代未聞のことですので」

「たまたま前例がないというだけのことだ。優秀な人材は登用する、それがゲルマニアという国だ」

「かしこまりました。では、その少年は魔法衛士隊で面倒を見ましょう」

「いや、その少年は魔法衛士隊と執務官で面倒を見てほしい」

「両方で……ですか?」

 アルブレヒト三世の言葉に、執務官の長であるオルフは眉をひそめた。

「軍務と執務、どちらにも適正がありそうだからな。二人で協力して少年の教育に努めろ」

「「かしこまりました」」

 こうして、ヴァルデスの王宮生活が始まった。
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