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この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
休日の過ごし方(前編)
「買い物に?」

 虚無の曜日、それはこのハルケギニアで唯一公式に認められている休日である。もっとも、それは貴族だけの話であって平民には一日たりとも休みなどというものは存在しない。

「そうよ。あんたに剣を買ってあげるの」

 ルイズは才人にそう言った。あの決闘で才人のことは学院中に知れ渡ることとなり、意外にも才人の剣の腕が優れていることに気がついたルイズは彼に護衛の役割もできるようにと考え、トリスタニアまで剣を買いにいくと才人に言ったのだ。

「そのトリスタニアって言うのは遠いのか?」

「ええ。だから、早くから出ないと今日中に戻ってこれないの。早く行くわよ」

「わかったよ」

 ルイズと才人は厩舎に寄って馬を借りてトリスタニアへ向かって走っていった。その様子を窓から見ていた人物がいた。

「あら? サイトとルイズじゃない」

 自慢の赤い髪を弄りながら、キュルケは二人が出かけていくのをしっかりと見届けていた。あの決闘以来、キュルケの情熱の炎は才人に向けられることとなり、彼女に言い寄っていた男たちは一斉に振られていた。

「あーん、せっかくサイトを誘惑しようと思ったのに!」

 キュルケは慌てて身支度を済ませて、厩舎から馬を借りて出かけた。

「このままじゃ二人に追いつけない」

 キュルケはそう言うと、二人の後を追うのは諦めてヴァルデスの屋敷に向かって馬を走らせた。

「何者だ!」

 屋敷の護衛に止められると、キュルケはすぐに馬から下りて名を告げた。

「私はゲルマニア貴族、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。シャルロット様に会いに来たの」

「ツェルプストー辺境伯の……失礼いたしました。では、馬はこちらでお預かりいたします」

「ありがとう」

 キュルケは護衛の人間に馬を預けて屋敷の中に入った。

「いらっしゃいませ。ツェルプストー様」

「シャルロット様はいらっしゃるかしら?」

「ええ。ご案内いたします」

 屋敷の侍従に案内され、キュルケはシャルロットの部屋の前に通された。

「失礼いたします。ツェルプストー様がお越しになられました」

「……通して」

「かしこまりました。では、何かございましたらお呼びください」

「ありがとう」

 侍従は一礼をしてキュルケの前から去っていった。キュルケはドアを開けて部屋の中に入った。

「いらっしゃい」

「……お楽しみ中だったのかしら?」

 キュルケの目の前には着替え中のシャルロットだった。何も着けていない全裸の姿で下着を履こうとしている姿であり、ベッドには眠っているヴァルデスがいた。

「明け方に終わった。ちょっと寝てた」

「そ、そう……」

 キュルケもそういう経験が全くないというわけではなかったが、いざ他人のそういう姿を目の当たりにすると何とも気恥ずかしいものを感じざるを得なかった。

「で、何か用?」

「え? あ、そうそう。シルフィードを貸してほしいのよ」

「シルフィードを? 何故?」

「サイトとルイズが馬に乗ってどっかに行ったのよ。追いかけたいんだけど馬じゃもう追いつけないから、貴女のシルフィードを貸してほしいの」

「……わかった」

「ありがとう! シャルロット!」

 キュルケはシャルロットを抱きしめた。こういうコミュニケーションはキュルケがよくやるので、シャルロットももうこれには慣れていた。

「ちょっと待ってて」

 シャルロットはそう言って、ベッドで寝ているヴァルデスのところに向かって、体を揺すって彼を起こした。

「……何だ?」

「ちょっと出かけてくる」

「一緒に行った方がいいか?」

「大丈夫」

「気をつけろよ」

「うん」

 ヴァルデスとシャルロットは口付けを交わして、彼はそのまま眠りにつき、彼女は早急に着替えを済ませてキュルケと共に部屋を出た。

「シャルロット様、どちらへ?」

「ちょっと出かけてくる」

「では、すぐに護衛を」

「大丈夫。貴方たちは彼を守って」

 シャルロットはそう言って表に出て、彼女の使い魔専用の厩舎に向かった。

「シルフィード」

 そこにはシャルロットが召喚した風竜がいた。シルフィードという名前をつけられ、屋敷中の人間たちから好かれている存在になっていた。

「相変わらず立派ですね。シャルロット様のシルフィードは」

 キュルケも人目がない場所ならば普段どおりの言葉遣いだが、人目につく場所では言葉遣いに注意していた。なにせ、相手はこれから自分たちの上に立つ人物の妻になる人物なのだから。

 二人はシルフィードの背中に乗って空へと舞い上がった。

「どっちへ行った?」

「あ、ごめん。よくわからないの」

「馬二頭。食べちゃ駄目」

 シルフィードは「きゅい」と一鳴きして、空を飛んでいった。







「へえ、ここがトリスタニアか」

 才人とルイズは一足先にトリスタニアの町に着いて、その大通りを歩いていた。

「ちょっと。感心するのはいいけど、預けた財布をすられないようにしなさいよ」

「大丈夫だって。服の中に入れてあるから」

「馬鹿ね。メイジが魔法でやれば簡単にすられちゃうわよ」

「貴族がすりをやるのか?」

 才人は貴族と呼ばれる連中がすりまがいのことをするとは想像できなかった。そもそも、この短い間でも貴族という生き物はプライドを大事にしているということだけはこの間の一件で痛い程よくわかっていた。

「違うわよ。貴族はメイジだけど、メイジが全て貴族というわけじゃないのよ」

「……どういうことだ?」

「何らかの理由で勘当されたり、家名を剥奪された貴族が平民として生きることもあるのよ。そして、そういった連中のほとんどが良からぬことに手を染めていたりするのよ。だから、メイジが全て貴族というわけではないのよ。わかったら、すられないように注意しなさいよ」

「あ、ああ。わかった」

 ルイズが先導してトリスタニアの町を歩いていった。やがて、大通りから裏通りへと入ったが、才人はその臭いの凄さに思わず鼻を摘んだ。

「な、何だ!? この臭いは!」

「この辺りって汚いからあんまり来たくないのよね」

「そ、そんな程度の問題か?」

 汚物が平気で道端で捨てられている状況を見て、才人は思わず呟いた。

「ビエモンの秘薬屋の傍だから……あ、あったわ!」

 ルイズが指差す方向には剣の絵が描かれた看板がかかっている店があった。

(剣の絵だから武器屋か……まるでゲームみてー)

 才人はそんなことを思っていたが、ルイズはそのまま店の中に入っていったので彼も慌ててその後に続いて店の中に入った。

「いらっしゃいませ、貴族様。うちは貴族様に目をつけられるような阿漕な商売はやっておりませんぜ」

「客よ」

「へえ、驚いた! 貴族様が剣をお使いになるので!?」

「使うのは彼よ」

 ルイズが才人を指差すと店主は納得したように頷いて言葉を続けた。

「なるほど。最近は物騒ですからな、使用人に剣を持たせるのが流行っております」

「そうなの?」

「へえ、土くれのフーケって盗賊が貴族の家から貴重な魔法道具マジック・アイテムを盗んでいくということで、お宝をお持ちの貴族様たちはフーケに怯えているらしいので」

「ふーん」

 学生であるルイズには全く無縁の話なので、店主の話は適当に聞き流しながら店に飾ってある剣を眺めていた。店主もルイズが話に興味を失ったと気づくと、すぐにカウンターの奥から候補の剣を持ってきた。

「そちらの御仁がお使いになるならばこちらのほうがよろしいかと……」

 店主はカウンターの上に細身のレイピアを置いた。

「ギーシュとの戦いに使っていたのはもっと太くて大きかったわね」

「ですが、そちらの御仁の体格ですと、これぐらいの方がおすすめですぜ?」

「もっと太くて大きいのにして」

「へ、へえ……」

 店主はまたカウンターの奥に入って、今度は柄の部分や鞘に宝石などがあしらってある見た目が物凄い豪華な剣を持ってきた。太さもさっきのレイピアよりも太かったのでルイズとしても満足する一品だった。

「いいじゃない。いくら?」

「金貨二千枚です。新金貨なら三千五百でさあ」

「森つきの立派な屋敷が変えるじゃないの」

「この剣はかのゲルマニアのシュペー卿が鍛えた一品ですぜ。これほどの代物はなかなかお目にはかかれませんぜ」

「でも、やっぱり高いわね……」

 店主とルイズが交渉している間、才人は店に飾られている様々な武器を見ていた。これだけの数の武器を見るのは生まれて初めてのことだったので、ちょっと興奮気味にそれらを見ていた。

「やめとけ、やめとけ! そんな鈍らを真剣になって悩むようなら剣を見る目はねえよ! とっとと帰りな!」

「だ、誰よ! そんな無礼なことを言うのは!?」

「こらデル公! お客様に向かってなんて口を利くんだ!」

 ルイズと才人は店内を見回したが、そこにあるのは並んでいる武器ばかりで人の姿は何処にもなかった。

「てやんでえ! 見る目がない奴に見る目が無いといって何が悪い! それと俺っちの名前はデルフブリンガーだ!」

「うるせえ! こちらの貴族様に頼んで溶かしちまうぞ!」

「やれるものならやってもらおうじゃねえか! どうせこちとら退屈ばかりでこの世に未練なんざねえ! 一思いにやってもらおうじゃねえか!」

 ルイズと才人がその声の主を探して店内を見回している間も、店主とその声の主の言い争いは続いていた。才人は樽の中に入った十把一絡げで扱われていた武器の中から、かたかたと何かがなる音が聞こえた。

「何だ?」

 才人はその剣を樽の中から拾い上げた。

「おい! 勝手に俺っちに触れるんじゃねえ!」

「何よこれ、インテリジェンスソード?」

 才人は喋る剣に面白さを感じていたが、ルイズは何だか訝しげな目つきで見ていた。

「へえ、何処の誰が始めたのか知りませんが、剣に知恵を持たせてどうするつもりだったんでしょうかね?」

 店主もうんざりといった表情で、ルイズにそう言った。

「お前もいつまで俺っちを握っているんだ。とっとと……」

 すると、その剣は急に黙ってしまった。

「おでれーた! お前、『使い手』か!」

「使い手?」

「お前、俺を買いな!」

「何か面白いな……ルイズ、これ買ってくれよ」

「えー……もっといいのにしなさいよ? 何かそれ、みすぼらしいし無礼だし」

 才人は乗り気だったが、ルイズはどうもその胡散臭さにあまり乗り気ではなかった。

「いいや。これが気に入った」

 才人が一歩も引かないところを見て、ルイズはため息混じりに店主に訊ねた。

「あれいくら?」

「あれなら金貨百で結構でさあ」

「あら? 随分安いわね」

「こっちにしたら厄介払いみたいなもんでさあ」

「ふーん……まあいいわ。あれをもらうわ」

「毎度、ありがとうございます」

 店主はそう言うと、カウンターの奥からその剣に合う鞘を持ってきてサービスとしてつけてくれた。

「どうしてもうるさいようならば鞘に入れておけばおとなしくなりますんで」

「そう」

「またのご贔屓、よろしくお願いいたします」

 才人は鞘に収めたデルフブリンガーを背中に背負い、二人はその武器屋を後にした。だが、そんな二人の姿をこっそりと見ている二つの影があった。

「何よ、ルイズったら~、サイトに剣なんかプレゼントしちゃって~!」

 キュルケはその様子が面白くなく、シャルロットは特に興味も抱いていなかった。

「行くわよ」

 キュルケはシャルロットの手を引いて、ルイズたちが出て行った武器屋に入っていった。

「これは驚いた! 一日に貴族様がまた御出でになるなんて!」

「さっきここにきた二人組がいたでしょ? どんな剣を買っていったの?」

「へえ、年季の入ったボロ剣でさあ」

「ふーん……ルイズったら随分とケチったものね。ねえ、私も剣がほしいんだけどいい剣はないかしら? あの二人が買っていったものよりいい剣よ」

「へ、へい。こちらなんていかがでしょうか?」

 店主はさっきルイズたちに買われなかったあの豪華な剣を出した。

「あら、いい剣じゃない」

「へい。これはあのゲルマニアの名工シュペー卿の作品でさあ」

「気に入ったわ。おいくらかしら?」

「金貨二千、新金貨なら三千五百でさあ」

「ちょっと……お高いわねぇ」

 キュルケはそう言うとカウンターの上に座り、その豊かな胸元を更に大きく開いて店主を誘惑した。店主もキュルケの術にひっかかり、視線はその胸元に釘付けになっていた。

「で、でしたら千八百……」

「もっと……」

 キュルケはそう言いながら店主ににじり寄り、店主はたじたじになった。

「で、でしたら千五百」

「千」

「せ、千枚!? い、いくらなんでもそりゃあ……」

「お・ね・が・い♡」

 キュルケは更に胸元を大きく広げて、店主の耳元で甘い声で囁いた。胸元は先端が見えそうで見えないぐらいまでに開かれ、あと少しだ、と店主はもうそこから視線を外せないぐらい夢中になっていた。そのせいで冷静な判断力も失われていた。

「わ、わかりました。千枚でけっこうでさ……」

「ありがとう」

 キュルケは半額にまで値引かせることに成功すると、すぐにカウンターから降りて金貨の入った袋をその上に置いて剣を抱えた。

「じゃあ、これはもらっていくわ。ありがとうね」

 交渉成立から店を出るまではあっという間で、店主が余韻に浸っている間に全てが終わっており、やがて夢から覚めたように顔色がどんどん真っ青になって、泣きそうな顔で閉店の看板を出して早めに店を閉めて後悔にむせび泣いたが、そのことを知る者は誰もいなかった。
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