この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
会議は踊る
ジョゼフにより宣言されたヴァルデスとイザベラとシャルロットの婚約はトリステインの重臣たちの間に大きな衝撃を与えていた。会議は翌日に回され、その日の夜に重臣たちが集められ、緊急の会議が開かれた。
「イザベラ姫とシャルロット姫がヴァルデス殿に嫁ぐということは、ハルケギニア一の大国とハルケギニア一の国力を持った国が、血縁という形で同盟を結んだということに他なりませんぞ!」
「それより、あのゲルマニアにイザベラ姫やシャルロット姫が嫁ぐということになれば、あの蛮人の国にも直系の始祖の血が入ることになる! そうなれば、あの蛮人の国がこの伝統あるトリステインと同格ということになる!」
「いや! いくら始祖の血が入ったとしてもそれを認めるわけにはいかない!」
「だが! ハルケギニア一の大国の娘を嫁として迎え入れており、国力でもこのトリステインを大きく上回る国を認めないわけにはいかないですぞ!」
会議の場は開始早々荒れていた。今まで、始祖の血があるという理由で国力が低いトリステインが、国際的な立場として上に立っていたのだが、その優位性を失ってしまうと、一気にゲルマニアの下に甘んじてしまうことになるのだ。
「何故、これほどのことが今まで露見しなかったのだ!?」
「ジョゼフ王の口ぶりですと、ヴァルデス殿本人にすら口外せず、ジョゼフ王とアルブレヒト皇帝との間だけで進められた話のようです。あのヴァルデス殿が目を見開いて驚いていたくらいですもの」
「ですが姫様、それはヴァルデス殿の芝居という可能性があるのではないですか?」
「今となっては芝居であろうとなかろうと関係ありません。既に婚約は結ばれているのですから」
そう、重大なのは既に婚約が成立してしまっているという事実だった。決定していることに対し、これからどんな対策をとっていくかがこの会議での最大の焦点なのだ。
「そうだ! 問題はこのトリステインがゲルマニアの後塵を拝しないようにするにはどうするかが重要なことだ!」
「だが、どのようにするというのだ!」
「恐れながら、イザベラ姫とシャルロット姫が嫁ぐのはまだ皇位を継ぐとは決まっていない皇位継承候補者の一人にしか過ぎないヴァルデス殿です。ならば、こちらは現皇帝であるアルブレヒト三世とアンリエッタ様の婚姻のお話を進めてはいかがでしょう。アルブレヒト三世はアンリエッタ様に関心を持たれているとの話です」
「何を馬鹿な! 貴殿はアンリエッタ様をゲルマニアなどという蛮人の国に人身御供として差し出すつもりか!?」
「しかし! この伝統あるトリステインがゲルマニアの後塵を拝さないためにはこの方法以外に何かありますか! あるのなら是非お教え願いたい!」
(結局、私は政治の道具でしかないのね……)
アンリエッタは会議を見ながら、何処か達観した気持ちを持っていた。どんな結論が出ようとも、彼らにとってアンリエッタという姫は政治の道具としての価値しか見出していないのだ。人間としてのアンリエッタを誰一人として見ていない、彼女は改めて自分には自由が無いことを悟っていた。
(そう言えば、あの方は随分あっさりと婚約を承諾していたわね。初めて聞かされたことなのに)
アンリエッタは、あの場で一番堂々としていたヴァルデスのことを思い出していた。普通、自分の将来が誰かによって勝手に決められてしまったのなら、恨み言の一つが出てきても何の不思議ではない。だが、ヴァルデスはまるで大したことではないかのようにそれを受け入れ、尚且つ堂々と振舞っていた。生まれながらの王族である自分より、ヴァルデスのほうがよっぽど王族らしいと思っていた。
(どうせ叶わぬ想いなら、いっそのことあの方のところに嫁いだ方がいいのかもしれないわね。アルブレヒト殿のところよりはましかもしれませんし)
いっそのこと叶わぬ想いは捨てて、より現実的で一番条件のいいところへ。アンリエッタはウェールズへの想いを諦めなければならないときに来たのかもしれないと考えていた。だが、そんな彼女への救いの言葉がこの男からかけられた。
「発言させていただいてもよろしいかな?」
「何でしょう? ヴァリエール公爵」
「実は我が娘のカトレアがゲルマニア皇帝アルブレヒト三世のご生母であらせられるイリーズ様に病の治療を受けております」
「それがどうされたのですか?」
「イリーズ様は治療の代償にカトレアをヴァルデス殿の側室の一人として差し出すようにとのことを仰っております」
その言葉を聞いて会議の参加者たちはどよめいた。
「成功報酬という形にはなっておりますが、ここに来る少し前まで治療を拝見しておりましたが、これまでかかってきたどのメイジよりも治療に効果が出ているように思いました。恐らく、治療は成功するものと思われます」
「では、カトレア嬢をゲルマニアに嫁がせるということですか」
「ええ。恐らくはそうなるでしょう」
「トリステインで一二を争う大貴族であるヴァリエール公爵が、よりにもよってゲルマニアに娘を嫁がせるなど……!」
会議に参加していたアンリエッタを除く全員が苦い顔をしていた。
「まあ皆さんの言いたいこともわかるが、ここは最後まで話を聞いてください。仮にカトレアがゲルマニアに嫁いだとすれば、トリステインもゲルマニアに繋がりを持つことが出来ます。一方でアンリエッタ様にはアルビオンのウェールズ殿下に嫁いでいただければ、これまで以上にアルビオンと我がトリステインの関係はより強固なものになります。そうなれば、将来のハルケギニアはガリア・ゲルマニア勢力とトリステイン・アルビオン勢力の二分化になるものでしょう。今のように各国ばらばらということはなくなるでしょう」
ヴァリエール公爵の言葉を聞いて、参加していた貴族も押し黙りヴァリエール公爵の言葉にも一理あると考え始めていた。むしろ、彼らからしてみればそのほうが断然いいに決まっているのだ。
「どうでしょう? 今更ゲルマニアにアンリエッタ様を無理やり押し込むような愚策をとるより、将来のハルケギニア全体を考えて行動されたほうがよろしいのではないでしょうか」
「……確かに、同じ始祖の血同士でならばトリステインの伝統を汚すこともない」
「元々アルビオンと我がトリステインは友好的な関係を築いている。それがより強固な関係になるのならいい話ではある」
会議の席はだんだんヴァリエール公爵が出した提案に賛成する動きが増えてきた。現金なものだと思うだろうが、伝統を重んじる国だからこそそれを汚されない道を選びたがるものである。
(本当に身勝手なものね。私を無視して話を進めるなんて……)
アンリエッタはころころと意見を変える貴族たちを見てため息をついた。結局、ヴァリエール公爵が何も言わなければ彼らは自分をゲルマニアに差し出していたに違いない。それがたまたま、ヴァリエール公爵の娘であるカトレアがその役目を負うことになったので、今まで無視していたアルビオンとの同盟強化を提唱し始めたに過ぎない。彼女の都合は結局無視されるしかないのだ。
この会議の様子だけで、アンリエッタがいかにお飾りだけの存在でしかないことははっきりと見て取れた。
(ウェールズ様、貴方への想いを諦める必要は無いのかもしれませんが、私はそれを喜んでいいのかどうかわかりません)
心の中で想い人に問いかけてみたが、そこに返事が返ってくることは無かった。
「まさか、本当にゲルマニアとガリアが手を組むとは思わなかったよ。バリー」
トリステインが重臣たちを集めて会議を開いているのと同時刻、トリステイン王城内のある一室でウェールズとその忠実な僕であるバリーが話しをしていた。ウェールズは根も葉もない噂が現実になってしまったことにほとほと迷惑しているようで、時折小さくため息をついていた。
「はい。正に青天の霹靂でした」
「トリステインの重臣たちが会議をしているようだが、どんな結果が出ると思う?」
「そうですね……恐らくはガリアの後に続いてアンリエッタ様をアルブレヒト三世閣下に嫁がせようと画策しているのではないでしょうか?」
「やはりそう思うか」
「ガリア・ゲルマニアの同盟は、このハルケギニアの勢力図を一気に書き換えてしまう恐れを充分に孕んでいます。我がアルビオンにはその手は使えませんが、トリステインにはアンリエッタ姫殿下がいます。勢力が変わろうともトリステインという国を残すために、その方針を選ぶでしょう。何か別の材料が無い限りは」
(私のアンは……嫁に行ってしまうのか。我が最愛の……従妹は)
奇しくもウェールズもアンリエッタと同じようなことを考えていた。だが、ウェールズはアンリエッタほど自分のことを優先してはいなかった。王族としての認識がアンリエッタよりも高いウェールズはすぐに頭を振って、アンリエッタではなくアルビオンについて考え始めた。
「我がアルビオンはどのような道を選ぶべきだと思う?」
「本国に戻らなければ何とも言えませんが、とるべき道は二つ。ゲルマニアかガリアの属国となってその庇護を受けるか、別の方法を探し、その両国間に負けないように国家としての立場を上げるしかありませんでしょうな」
「庇護を受けるなどという選択肢はないだろうな。とは言え、アルビオンがガリア・ゲルマニア同盟に並ぶ国家にすることなど不可能に近いか。厄介なジレンマを抱えてしまったものだな。予定調和のつもりで来た会議で、まさかこんなことを聞かされるとは夢にも思わなかったよ」
ウェールズはそう言って大きくため息をついた。
「父上の青ざめた顔が目に浮かぶね」
「ジェームズ陛下だけではありますまい。重臣たち全員が同様の表情をしていると思いますよ」
「そうだね。とにかく、早馬を出して本国に知らせよう」
「かしこまりました。では、連れてきた兵を一人、大至急本国に戻します」
バリーはそう言って部屋を出て行った。ウェールズは立ち上がって窓の外からトリスタニアの町を見下ろした。
「六千年続いてきた平穏、いや停滞から抜け出す時が訪れたと言うべきか。始祖の三人の子供とその弟子が作り上げたシステムは限界を迎えたか……」
ウェールズは呟きながら、拳を力強く握っていた。
「ここから先は始祖のご意思ではなく、我々の決定が世界を変えていく。その流れに乗り遅れるようなことがあってはならないのだ……たとえ、愛する者を諦めたとしても」
ウェールズは目を閉じて深呼吸をした。そして、目を開いてはっきりとこう言った。
「僕はアルビオン王国王子、ウェールズ・テューダーなのだから」
静かなる決意、その瞳には決意の炎が燃え上がっていた。
.
小説家になろう 勝手にランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。