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この小説はゼロの使い魔の舞台をモチーフにしたファン小説です。オリジナル主人公が活躍するため、原作とは大きく異なる点もございますのでご了承ください。
第二の人生の始まり
「では、報酬だ」

 彼の目の前に金貨の詰まった袋が置かれた。彼は袋の中に手を突っ込んで、それが全て金貨であるかどうかを確認してから受け取った。

「確かに。では」

 彼はそれだけ言うと、その袋を持って酒場を出た。

 彼の名前はサヴァン。それは通称であり、本名は誰一人として知らない。ただ知られているのは、彼が優秀な暗殺者であるということだけ。
 サヴァンが殺してきた相手は貴族や王族などの大物が多く、その筋からは非常に恐れられていた。サヴァンに睨まれたら、絶対に逃げられないとさえ言われるほどだった。
 但し、サヴァンに対して嘘を吐くのは絶対に厳禁とされていた。嘘を見破られたが最後、サヴァンは嘘を吐いた依頼人を絶対に許さないことでも知られていた。
 サヴァンは酒場を出た後、一人で裏通りを進んでいた。裏通りに立ち込める臭いはゴミと汚物の臭い、表通りを華やかに見せるために汚いものは全て裏通りに捨てられていた。
「いい加減出てきたらどうだ?」

 サヴァンは誰もいない場所に着くと、後ろを振り向かずにそう言った。彼は酒場を出た時から自分の後をつけてきている者の存在に気がついていた。

「さすがはサヴァン、と言ったところだな」

 すると、前方と後方から十人近くの男たちが姿を現した。

「何の用だ?」

「悪いがその金貨を返してもらおうか」

「返せ……か。どうやら、あの依頼人の犬のようだな」

「死んでいくお前には関係ない!」

 その声と共に、男たちは一斉にサヴァンに襲い掛かった。サヴァンは隠し持っていたナイフを先頭を走っていた男の眉間に突き刺し、上に飛び上がった。

「逃がすな! 殺せ!」

「こっちの台詞だ」

 サヴァンは懐に忍ばせていた爆弾を放り投げた。閃光と激しい音を立てて、爆弾は暗殺者を吹っ飛ばした。

「さて、次は裏切り者を……おっと」

 すると、爆発の中からナイフが飛んできた。サヴァンはそれを難なく避けると、その方向を改めて見た。よく見ると、爆発で敵のほとんどが死んでいたが、その中に一人だけ生きている者がいた。もっとも、左半身に大火傷を負っていて無傷というわけにはいかなかったが。

「生き残りがいたか。たいした奴だ」

 だが、サヴァンは決して見逃すような甘い男ではない。彼は相手の姿を見つけると、すぐにそこに向かって駆け出した。

「炎弾!」

 男は魔法で応戦しようとしたが、火傷による激痛でかなり集中が乱れているようだった。その証拠に、放たれた術も本来の威力を保てず、かなり弱々しいものだった。サヴァンはそれらをあっさりとかわして、男の心臓にナイフを突き立てた。

「が…ぁ……!」

 短い断末魔を上げて、男は絶命した。サヴァンはだんだん周りが騒がしくなってきたのを見て、男たちの死体をそのままにしてさっきの酒場を目指した。目的は勿論、裏切った依頼人への報復である。
 暗い路地を走って、サヴァンは酒場にたどり着いた。他の客は飛び込んできたサヴァンに驚いたが、サヴァンはそんな周りの目を気にせず、さっきまで商談を行っていた部屋に一目散に飛び込んだ。

「逃げたか……」

 さすがに敵も去るもの、暗殺者を放っても安心せずに真っ先に逃げたようだ。サヴァンは苦い思いを噛み締めると共に、敵の用心深さに少し感心もしていた。

「仕方ない。姿を消すか」

 サヴァンはさっきの戦闘のせいで大きな騒ぎになってしまったため、依頼人への報復は諦めることにした。もっとも、いつの日にか、という思いだけは持ち続けていたが。
 サヴァンは検問が敷かれる前に町を出た。最早野宿は避けられないが、町にいるリスクを考えれば外にいるほうがずっと捕まる可能性も低いので仕方のないことだった。
 町を出た後はまず森の中に入った。獣がいるので危険性も高いのだが、人目に晒されることもないので逃げ切れる可能性が高い。

 通常、暗殺者というものはフリーとそうでないものというものに分けられる。サヴァンは前者に属する暗殺者だった。
 前者に属する暗殺者は、組織がバックについていないため、全て自分で処理しなければならないが、後者は違う。
 世の中にはギルドというものがある。商人ギルド、傭兵ギルドなど職種によって様々なものがある。その中には暗殺者ギルドという物騒なものも存在する。これは暗殺を請け負う窓口としての役目があり、請け負った暗殺に対して暗殺者を派遣して、その暗殺を速やかに遂行できるように逃げ場所の確保なども行っている。それによって、確実な暗殺の遂行を約束されているものなのだ。
 前者は完全に信用商売なので、腕が立たないと依頼すら来ない。だからこそ、フリーで活動している暗殺者というのは数が少ないのだ。
 また、前者はギルドに属していないがゆえに仕事を終えた後、消されてしまうことも珍しくないのだ。自分の身を守るのは自分の力だけ、その大前提でのみ生きているのがフリーの暗殺者なのだ。

「しかし、久しぶりにドジを踏んだものだ……」

 焚き火の前で、サヴァンは珍しく愚痴を零していた。依頼人に裏切られることなど今に始まったことではないが、その裏切り者の始末に失敗するなどここ最近ではありえないことだった。

「まあいいか」

 サヴァンはあの依頼人のことは後回しにすることにした。当面はどこまで遠くまで逃げ切れるか、それが一番の課題となっていた。色々な国や地域で仕事を請け負っているため、その悪名は方々に轟いていた。ただ、今回の裏切り者を除いて仕事で手がけた相手は皆死んでいるため、その顔が知られることは今までなかった。
 追っ手の心配があったため、その日は一睡もせずに夜が明けるのを待った。おかげで少々寝不足になったが、こんなことも日常茶飯事だった。

 夜が明けると同時に、サヴァンは行動を開始した。まずは森を出てひたすら街道を北に向かって進んだ。目指す先は国境、そこを抜けて他国へ逃げることが彼の目的だった。
 いくら有名でも、仕事を控えている国ならば目をつけられることもないだろうと考えていた。

「いたぞぉ!!」

 すると、いきなり兵士たちが現れ、サヴァンを追いかけてきた。思ったよりも早い対応にサヴァンも舌を巻いたが、いちいち全員を相手にするのは面倒なので逃げの一手を選んでいた。

「逃がすなぁ!!」

 何処に潜んでいたのか、次から次へと兵士たちが姿を現してサヴァンを追いかけてきた。

(誰だ……この手際のよさは?)

 今まで、色んな連中に追われたが、これほど手際のいい相手は初めてだった。まるで、初めから何処に逃げるかを知っているかのような兵士の配置、見事の一言だった。

「一発かますか……」

 さすがに何の恨みもない兵士を殺しても一銭の金にもならないので、威嚇のために一発かますことにした。

「炎弾!」

 兵士たちから数メートル離れた場所を狙って術を放った。当然、そんな離れた場所に撃っても兵士に当たるはずもなく、術によって舞い上がった砂煙が風に乗って兵士たちの目を眩ませた。
 兵士たちは砂煙によってすっかりサヴァンの姿を見失い、その混乱に乗じてサヴァンはうまくその場を逃げおおせた。

「やれやれ。何とか逃げ切ったか……」

 サヴァンは兵士の姿が見えなくなったところで、やっと一息をつくことが出来た。

「それにしても、何でこんなに手際がいいんだ? 今頃はまだ町中を探していると思ったのに……」

 この手際の良さには感心するしかない、サヴァンは誰だかわからない相手にただ賞賛を贈っていた。
 しかし、ただ捕まってやるつもりもなかった。相手がその気なら徹底的に逃げ切ってみせる、それだけだった。
 それからも兵士による襲撃は時折あった。その度に相手を殺さないように細心の注意を払いながら逃げ回った。ここまでくると最早意地だけがサヴァンを支えていた。

(しかし、いい加減に何とかならぬものかね……)

 サヴァンは意地で逃げ続けていたが、さすがにもううんざりしていた。最初こそ、相手の手腕を褒めたりもしていたが、今となってはただ面倒だと感じるだけだった。

「早いところ、国境を抜けるか……」

 幸い、逃げ続けたおかげで国境までは思ったよりも早くたどり着くことができそうだった。今の調子で行けば今日中に国境を抜けることも出来そうだった。

「げっ……」

 しかし、そんな希望は目の前に広がっている大兵団を見て、ものの見事に打ち砕かれた。現在、国境には物凄い数の兵士が兵団を組んで待ち構えていた。

「どうやって逃げるか……?」

 そう考えている時、兵団の中からひときわ大きな声が聞こえた。

「いいか! 犯罪者を絶対に逃がすようなことがあってはならない! 何が何でも捕まえるぞ!」

(ん……? この声って……)

 サヴァンはその声に聞き覚えがあった。それを聞いてもう一度、兵団を見た。

「犯罪者を逃がしたらこの国の恥である! 何としてもこの国で捕らえるのだ! 駄目ならば始末してしまえ!」

「あいつ……!」

 サヴァンは声を上げているその男に見覚えがあった。その男こそ、先日彼を裏切った依頼人その人であったからだ。彼は兵団の中心にいるその男を苦々しい思いで見た。

「どうりで手を回すのが早いわけだ……!」

 兵団を指揮しているのが裏切りを働いた張本人なら、犯人を特定したように見せかけるのも簡単だし、どんな行動を取るかどうかの予測さえ簡単なはずである。

「裏切った挙句、まさか兵団までこさえてくるとは……」

 ここまで虚仮にされたことも今までで初めてのことだった。依頼人の中には当然貴族や王族もいたが、ここまで露骨な仕返しをしてくる手合いは初めてだった。

「とはいえ、兵士に手を出したらそれこそただではすまないし……」

 今まで表立った捜索が行われなかったのは、それが暗殺という秘密裏に行われたものだからという理由が前提としてあったからだ。それに暗殺された相手を依頼人が病死なり何なり適当な理由をつけて誤魔化してくれたので、犯罪となっていないものも多々あった。
 しかし、今回に関しては裏通りでの騒ぎという些細なものに過ぎないが、それでも表立って捜索する理由があるのでこれほど大規模な捜索が行われているのだ。そこまで初めから計算に入れていたと考えるだけで、サヴァンの怒りはどんどんそのボルテージを上げていった。

「あいつだけは始末しないと……」

 サヴァンはもう国境を抜けることを後回しにして、ただあの裏切り者を始末することに全力を注ごうと考えていた。ただでさえ、この業界で裏切るなどという行為は死を意味するというのに、ここまであからさまに裏切ることなど誰が予想できようか。

「さてどうしようか……」

 すると、街道を馬車が通っていくのが見えた。馬車の進んでいく先を見ると、あの兵団のど真ん中で止まった。そして、兵団に食料を配っていた。

「補給部隊か……使えるな」

 サヴァンはあの補給部隊を見て報復の手段を考えた。すると、後続の補給用の馬車がどんどん続いてやってきた。
 サヴァンはその一番最後尾にいる馬車を狙って、こっそりと荷台の中に忍び込んだ。

「あったあった」

 荷台の中身はもちろん補給用の食料だった。肉やパンなどがたくさん積まれていた。それを満足そうに見た後、サヴァンは薬の瓶を取り出して載っていた全ての食料にそれを振りまいた。そして、それが終わると逃げられなくなる前にと、急いで荷台から降りて再び状況を窺うことにした。
 変化が起こったのは夜になってからだった。兵団の一部が急に慌しい動きを見せ始め、多くの兵士が持ち場を離れるという事態が起こったのだ。

「よし。今だ」

 サヴァンはそれを見て迷うことなく兵団のいる国境へと突っ込んでいった。運も味方して今日は月も出ていない新月の夜、逃げるには正にうってつけだった。

「て、敵襲! 敵襲!」

 見張りの兵士の声を聞いて、他の兵士たちも一斉に動き出すが既に現場は混乱していて指揮系統は全く機能していなかった。

(こんなに効果があるとは……)

 サヴァンが取った作戦は、兵士たちの食料に毒を混ぜることだった。もちろん、殺してしまっては何にもならないので、激しい腹痛と下痢を引き起こすものを使用していた。それでも、多くの兵士を戦闘不能状態に陥らせるには充分であり、その効果は今目の前で実証されている通りのものだった。

「死にたくなければどけえ!」

 更に弾幕を張るために炎弾を適当にぶっ放し、煙幕を張って逃げやすい状況を演出した。元々、指揮系統が全く機能していない兵士たちは、この煙幕で完全に混乱して同士討ちなどを始めていた。

「ええい! 何をやっておる!? あいつを殺すのだ!」

 どうやら、肝心の手合いは毒入りの食べ物を食べなかったらしく、気勢のある声で兵士たちを再び纏めようとしていたが、それはサヴァンに居所を教えているようなものだった。

(借りは返させてもらう)

 居所を確認したサヴァンは、男の姿を確認すると遠くからナイフを放った。

「ううっ!」

 短い悲鳴、それだけでナイフが男に命中したことだけは確実だった。たとえ、ナイフが急所を外していたとしても、その刃には強力な毒が塗ってあるので命を落とすことは間違いない。つまり、ナイフが当たった時点で彼の作戦は成功していると言っていいのだ。

 作戦が成功したとなれば、あとはただ逃げるだけだった。彼はこの混乱に乗じて一気に国境を越えてしまおうと走り続けた。
 しかし、彼の進撃はここまでだった。

「何!?」

 サヴァンは何者も寄せ付けずに進撃し続けていたが、突如目の前に展開された魔法よってその身を囚われてしまった。
 それは今まで見たこともない魔法だった。全身の自由が利かなくなり、その背後にはまるで渦を巻いているかのような黒い空間が広がっていた。

「何だ……この術は?」

 サヴァンもこの術を見るのはこれが初めてだった。そもそも、現存する術でこんな術があるなどという話は一度も聞いたことがなかった。
 彼は魔法についてはかなり勤勉に学んでいた。それは自分の身を守るためであったし、相手の依頼を確実に遂行するための道具であったからだ。その彼でも、今自分が受けている魔法は全く知らないものだった。

「くそっ……!」

 無駄かもしれないとは思いながらもサヴァンは必死で抗った。千に、万に、億に一つの可能性があるのならば、それを遂行する。それがこれまで彼が生きながらえさせてきたからだ。どんな苦境に陥ろうとも一度足りとて、彼は諦めるということをしなかった。暗殺者という穢れた職業を生業としてきたが、それだけは彼が唯一自分に誇れる部分だった。

「あいつか……!」

 彼に向けて手をかざしている一人の魔法使いの姿が見えた。ローブで顔も隠しているため、その姿ははっきりと見えなかったが、他はまだ混乱している状況なのでそいつが術を使っているのは明白だった。

『略奪者よ……』

 すると、サヴァンは頭に直接変な声が聞こえてくるのを感じた。周りを見てみたが、変な真似をしている奴は見当たらなかった。

『お前はこの世を去り、新たなる世にて贖罪を果たせ』

「贖罪?」

『さらばだ。略奪者よ』

「な、何だぁ!?」

 その言葉が途切れたと思うと、サヴァンは黒い空間の中に引きずり込まれていった。
 全力の力を持って最後の抵抗を試みたが、それも敵わず、意識はだんだんと深い闇の底へと引きずりこまれていった。



(ん……ここは、何処だ?)

 サヴァンが目を覚ますと、見たことのない天井があった。

「おお! やったな、エレーネ!」

 すると、見ず知らずの男がやって来た。金髪で口元に髭を生やしており、その身なりはきちんとしたものであり、サヴァンには相手が貴族であることは一目で見抜いていた。

「この子が私の跡取りか!」

(跡取り? 何のことだ?)

 サヴァンは男が何のことを言っているのか理解できなかったが、次の瞬間にはそれよりも驚くことが起こった。

「よーし! 私がお前のパパだ!」

 男はそう言うと、サヴァンを軽々と抱き上げた。サヴァンは体つきはかなり痩せ型だったが、しっかりと鍛え上げられているので体重はそれなりに重いほうだった。それなのに、自分より体を鍛えているとは思えない男が軽々と自分を抱え上げていることに驚きを隠せなかった。

「今日からお前はヴァルデス、ヴァルデス・ウェストリ・コーラッドだ!」

(ヴァ、ヴァルデス? この男はいったい何を……?)

 その時、ふと顔を横に背けた時にサヴァンは見てしまった。

(こ、これが俺か?)

 鏡の映っているのは間違いなく生まれたばかりの赤ん坊だった。そこには暗殺者として名を馳せたサヴァンの姿はなく、純粋無垢な姿をした赤ん坊がそこにいた。

「今日からお前はこのコーラッド家の跡取りだ! 一緒に生きようぞ、我が息子よ!」

 喜びの笑い声を上げる父と名乗る男と、自分の姿を見て愕然としている暗殺者、全く異なる感情を持った二人にこの時、親子としての絆が結ばれた。
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