『明日お前どうせ暇やろ?オレがしゃーなしで遊びに連れてったるわ』
昨日の夜、オレが和葉に送ったメール。
『ホンマあんたは素直ちゃうなぁ〜。しゃーないから平次のために時間作ったるわ』
メールを送って、すぐに返って来た和葉からの返事。
素直ちゃうんはお前や。
ホンマはヒマなくせに。
…って思ったけど、ここでケンカなったら明日ヒマなるから、約束だけ取り付けてメールを終わらせた。
明日、オレは和葉と付き合って初めて2人で遊びに行く。
そう、初デートや。
やからって、なんか変わるワケやないけど…
オレらに甘い展開を期待する方がおかしいやろ…
でも一応、デートプランは立ててある。
まぁ、和葉のアホにはそんな事言うたらへんけどな。
和葉のことやから、今頃鼻歌でも歌いながら服選びしてんやろな!
「お父ちゃんゴメン!明日一緒に買い物行かれへんくなった!」
「なんでや?明日ヒマや言うてたやんけ」
せっかく平次から、デートのお誘いが来たのに、断る訳にはいかへん。
でも、"明日平次とデートやねん"やなんて、素直に言われへん…
「…平次君とどっか行くんか?」
「え!?なんで!?」
「お前、顔赤なってんぞ?ホンマ分かりやすいなぁ」
お父ちゃんはそう言って、豪快に笑った。
そしてその後、"楽しんで来いよ"って言ってくれた。
「うん‥ありがとうお父ちゃん」
アタシは顔をほんのり赤くして、観念したようにお父ちゃんにそう言った。
明日は平次と付き合って初めてのデート。
デートやからって、なんもないやろうけど…
まぁ、平次はアホやから、ただ遊びに行くってくらいにしか考えてへんのやろうな。
でも、楽しみやなぁ♪
なに着ていこう!
アタシは鼻歌まじりに服選びをした。
デート当日。
オレはバイクに乗って、和葉を迎えに行く。
そんで、和葉んチの前で、バイクのクラクションを鳴らして迎えに来たことを伝える。
ガラッ
和葉んチの戸が開いて、出て来たのは…
「…お…オッチャン…」
「おはよう平次君。朝っぱらからそんな音出したら近所迷惑やろう」
「は、はい…すんません……あの、和葉ちゃん…居てはりますか?」
「和葉やったら、もう来るわ」
「そうですか…」
オッチャンがそう言うた後、すぐに和葉が家から出て来た。
「平次、ごめんなぁ!」
遅いんじゃボケ!
何時間待たすんじゃ!!
いつもならこう言ってしまうオレも、オッチャンの前では恐ろしくて言われへん…
「全然待ってへんで?オレこそ朝早よぉからごめんやで?」
オレはできる限りの笑顔で和葉に喋る。
…ちゃんと笑えてたかは別として…
「ほなお父ちゃん、行ってくるな!」
和葉は楽しそうに言ってから、オレのバイクの後ろにまたがった。
そしてオレにギュッと抱きついた。
その瞬間、オッチャンの眉毛がピクッと動いたのを、オレは見逃さんかった。
「か…和葉ちゃん?ちょっとくっ付きすぎちゃうか?」
「何言うてんよ。しっかり掴まっとけって、いっつも平次が言うてんやんか!」
オッチャンの眉間にシワが寄る…
「…平次君…」
「は…はい?」
「バイクの運転は、気を付けるんやで?」
オッチャンは、オレの肩にポンと手を置いてそう言った。
肩に置かれた手ぇには、力がこもっていた。
「わ…ワカリマシタ…」
「平次早よバイク出して!」
「へいへい。…じゃあ、和葉ちゃん…お借りしますね?」
「おう。気ぃ付けてな…」
こうしてオレは、オッチャンから逃げるようにバイクを発進させた。
こんなくそ寒い日ぃに乗るバイクほど、寒いモンはない。
平次に抱きついてるアタシがそう思うくらいやから、アタシの前で風を切ってる平次はもっと寒いんやろうな…
しゃーないから、アタシの温もりで背中くらいはあっためたるわ♪
ぎゅっ
アタシは、自分の体を更に平次の背中に密着させた。
「和葉、寒いんか?」
赤信号の時、平次が頭をアタシの方に向けて、そう聞いて来た。
「なんで?」
「いや‥やたらくっ付いて来よるから…」
気のせいかなぁ…
平次顔赤い?
ヘルメットでよう分からへんけど。
「アタシより平次の方が寒いやろ?やからあっためてあげてんねん♪」
アタシは笑顔でそう言って、平次の背中に顔をくっつけた。
ほんなら平次は、
「そりゃどうも」
って言うて顔を前に向けた。
何なん…
せっかく彼女が可愛い事言うたのに、ちょう愛想悪いんとちゃう!?
…なんやねん、この女は…
ちょいちょい可愛い事言いよる…
照れてる顔を見られたなくて、楽しそうに笑う和葉に適当に返事して前に向き直ったワケやけど…
和葉はご機嫌斜めになってしもたみたいや。
やって、オレの腹に回されとった和葉の腕の力が急に強なって、軽く息苦しくなったから。
お前は何年オレと一緒におんねん!
照れ隠しって事くらい気ぃつけや!
朝に出発してから、何時間経ったんやろか?
お日さんが沈みかけてる。
アタシらは、まだバイクに乗ってる。
お昼食べんのに、どっかのラーメン屋やに立ち寄ったけど、そん時以外、平次はアタシを後ろに乗っけて、ずっとバイクを走らせてる。
絶対、ここ近畿地方ちゃうわ…
もしかして、ただバイク乗りたかっただけなんか!?
ええ加減、おしり痛なってくるわ…
「へーじぃー」
アタシはうなだれるように平次を呼ぶ。
でも、バイクの音がおっきいから、結構声を大にする。
「なんや?」
平次はバイクの運転に集中しながらも、アタシに返事を返してくれる。
「いつまでバイク乗ってるん〜?」
「あとちょっとや!」
…なにが"あとちょっと"や。
何時間か前にも似たような事言うてたやん!
「アタシおしり痛い〜」
「なんや?和葉痔か?」
「ちゃうわボケ!」
平次のボケに、アタシは怒りを込めてつっこんだ。
ほんなら平次は、ケタケタ笑っとった。
「ホンマにあとちょっとやから」
「ホンマ?」
「ホンマや!」
「…分かった…」
アタシはとりあえず、平次がどっかの目的地に向かってるって事が分かったから、おとなしくする事にした。
さっきまでやいやい言うてた和葉が急におとなしなった。
オレはとりあえず、空が暗くなって来てたから、運転に集中する事にした。
平次が"あとちょっと"って言うてから、ちょっと経って、なんか、山道をひたすら走ってる。
なんや日本一周でもするんか?
明日学校やで…
そんな事を考えてたら、バイクが止まった。
もしかして、道に迷ったとか?
アタシ目の前には、平次の背中越しに林が見える。
「和葉降りろ。こっからちょっと歩くで」
歩く?
この林ン中を?
「なんでよ?」
まだ日ぃが沈みきってないっていうのに、林ン中は、真っ暗で…
平次はその林の前にバイクを停めた。
「ええもん見したるから」
そう言いなが、自分のヘルメットとアタシのヘルメットをバイクに引っ掛けた。
「…こんなとこにええもんなんかないって」
アタシはその林の中を歩くのが怖かったから、そう言うたのに、平次は…
「ええから付いて来いや!」
って言うて林の中に入って行く。
「えっ!?ちょっ…」
しかも、アタシを引っ張って。
アタシの手ぇを握って、グイッと引っ張って…
アタシは平次のその行動に、勝手にときめいてるワケで…
平次はきっと‥なんとなく手ぇ掴んだだけやろうけどな。
そんな事を考えてる間に、お日さんは完璧に沈んで、どっかいってもうてた。
和葉を引っ張るという口実で、さりげなく手ぇを握ったけど、やっぱり緊張するわ。
和葉が握り返して来たから余計に…
しかもその手ぇ、めっちゃ冷たかって、ちょっと驚いた。
「平次?」
「なっ、なんや?」
林を抜けたとこで、急に和葉が口を開いたから、ドキッとして、返事がしどろもどろになってもうた。
「ええもんって何なん?」
「ここや!」
オレはそう言うて、前に向かって指を差した。
「…わぁ…!」
少し歩いて、林から抜けたら、そこだけ木が生えてないとこがあるんや。
そこはめっちゃ夜景がキレイやねんけど…
「めっちゃキレイや…平次、わざわざこれ見せるために大阪から?」
…オレが和葉に見せたかったんは、それやなくて…
「アホか!夜景やったら通天閣で見れるやろ!?」
「じゃあ何なんよ!?」
「上見てみい」
「上?」
和葉は意味分からんて言う目をしながら、空を見上げる。
その瞬間、目を見開いて微笑んだ。
「うわぁ…!スゴイ、めっちゃキレー…」
「やろ?」
オレが和葉に見せたかったんは、大阪やったら見られへん、満天の星やった。
この前、テレビ見とって、和葉が、
『一編でええから、こんなキレーな星空、生で見てみたいなぁ』
って呟いたんを覚えとって、バイクであちこち走りまくってやっと見つけた場所やった。
和葉は目をキラキラさせながら星空を見つめてた。
オレも、最初は星を見とったけど、いつの間にか、星空に見とれてる和葉に見とれとった。
アタシは、こんないっぱい星見んのは、生まれて初めてやった…
なんか、おしり痛いのとか、寒いのとか忘れてまう。
でも、アタシの手ぇから伝わってくる平次の温もりだけは、忘れてなかった。
ちょっと首が痛なって、平次の方を向いたら、一瞬目が合って、でも平次はすぐ目を逸らした。
でもすぐに視線がアタシんとこに帰って来た。
「平次ありがとうな!」
アタシは、自然に出て来たとびっきりの笑顔で、平次にお礼を言うた。
ガバッ
「きゃっ」
和葉のその笑顔が、なんや堪らんかって、心がキューンてなって、オレは気付いたら和葉を抱きしめてた。
「へ、平次!?」
和葉はめっちゃ驚いてる様子で、でも嫌がる素振りは見せへんくて、オレも和葉を離す気はなかって…
どないしょう…
めっちゃドキドキするんやけど…
オレは、とにかく必死に脳みそフル回転させて、言い訳を考えとった。
いきなり平次に抱き寄せられて、アタシの顔は、平次の胸元にあった。
バイクに乗って、アタシから平次に(仕方なく)抱きつく事はあっても、面と向かって、しかも平次から抱きしめてくるやなんて、初めてやった。
どないしょう…
アタシ、めっちゃドキドキするんやけど…
「か…和葉…」
「…なに?」
平次の腕の中で自分の名前を呼ばれて、アタシの心臓…破裂寸前や。
「あの、あれや…バイク乗ってる時あっためてくれたやろ?そっ、それのお返しや!」
「うん…ありがとう…」
アタシが素直にそう言うと、平次の腕の力がちょっと強くなった。
やって、お返しでも何でも、嬉しかってんもん。
平次の心臓が、アタシに負けへんくらいバクバク鳴ってたんが…
今度は手ぇやなくて、体全体で平次の温もりを、心に染みるくらいに感じた。
オレは、しばらく和葉を抱きしめとった。
でも、いつまでもそうしてるワケにはいかん。
名残惜しかったけど、和葉を体からゆっくり離した。
「和葉、そろそろ帰らな」
「せやね!明日も学校やもんな!」
心なしか、和葉の顔が寂しそうに見えた。
そりゃあオレも、もうちょい甘い時間を楽しみたかったけど…
「…また、この林ん中通って帰るんやね…」
「いけるって。ほれ」
オレは暗闇にびびってる和葉の手を握る。
「これやったら怖ないやろ?」
「ん〜…ビミョー…」
「ビミョーて何やねん!?」
この女は…ホンマ素直ちゃうなぁ。
‥まぁええわ。
和葉なりの照れ隠しって事で許したろ!
オレと和葉は、手を繋いで元来た道(?)を帰る。
“明日も学校やもんな”
オレの頭ン中で、和葉が言うた言葉が思い出される。
朝っぱらから、1日掛けて来たこの場所。
って事は、帰んのにも、おんなじ位時間が掛かるワケで…
ケータイを見ると、今の時間は…21時‥ちょっと過ぎ…
オマケに圏外。
オレとしたことが、帰りの事を全く考えてなかった。
学校を休むのはええとして、問題は和葉のオトン。
このまま大阪に帰って、オレは今まで通りに生きて行けるんやろうか…
大阪に帰ってからの事を想像したら、オレの顔から、血の気が引いた。
「平次どうしたん?なんか様子おかしいで?」
「和葉…オレ、まだ遺書書いてない…」
「はぁ!?」
おわり
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