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『剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、明日の朝日を拝める気がまったくしない』シリーズ

剣と弓の世界に転生して公爵家三男坊になったんだけど、きれいなお姉さんたち(+α)とお食事会だ!

作者: U字

前半のアラン君パートで、何が起きたか分からない?

大丈夫、アラン君はもっと分かってない! (おい


あと、本短編連作シリーズも三作目ですが、王国でなく帝国側に転生者を入れ、アラン君を非転生の代わりに『歴史補正マシマシ』にした連載作を始めました。

本シリーズ内『剣と弓とちょこっと魔法の世界に転生して男爵家の次期当主になったんだけど、とりあえず生きるために頑張ろう』もよろしくお願いします。




 暇すぎてやることがないでござる。


 たまにこき使われながら公爵家三男坊生活を楽しんでいた俺なんだけど、どこぞの伯爵になれとか言われて田舎の城へと飛ばされた。

 まあ、中央と違って俺が一番偉いからあれこれ気にしなくて良いし、結構楽しいんだけどね。

 最近は、何か王都の方で過激な人たちが王様のそばであれこれ言い出して大変なんだってさ。お蔭で父上や二人の兄上も王都で何かやってて連絡が減って、あれこれ仕事を押し付けられなくなったのだ。


 いやもう、最高だね! 自由万歳! 田舎ライフ万歳! 転生の時に特に会わなかった神様ありがとう!


 そうしてすれ違ったメイドさんのお尻を一撫でしながら日の暮れゆく城内を歩いていたら、入り口の辺りが騒がしい。

 代わり映えしない日常にちょっとした事件か!? と一気に駆け出す。


 で、到着してみれば、何か美人さんたちがたくさんと、剣を抜いたじいや……。


「おいおいおいおいおい! じいや、待って! 暴力は待って!」

「な、坊ちゃま! 放して下され! じいやは、じいやは斬らねばならぬのです!」


「おお、あなたがウェセックス伯か。お初にお目にかかる。本日はあなたとお話ししたく、うかがわせていただいた。突然のこととなったのは、申し訳ない」


 そう言うのは、綺麗な赤髪のお姉さん。

 ひゅーっ、良いおっぱい!


 てか、他の人たちもレベル高いよ!?

 なに、この子たちみんな俺とお話ししに来たの!?


「自己紹介が遅れました。私は帝国の――」

「お話? オッケー! もうすぐ夕食だし、お食事会にしましょう! ささ、中へどうぞ」


 そうして皆さんを案内しようとすれば、急にじいやに腕を掴まれて引っ張っていかれる。


「何、どうしたの、じいや? 今、忙しいんだけど」

「今は帝国情勢を見てバカどもが王都で勝手に騒ぎ出した影響もあります。あまり非公式な客人を招くべきではないかと」

「え? だからでしょ?」


 え、なんで驚くの?

 父上や兄上たちから仕事放り投げられてた頃だったら、そんな時間なかっただろうが。


「確かに、国の一大事だからこそ話くらいは聞くべきか……――分かりました、坊ちゃま。夕食の方の手回しはしておきましょう。急なことですから、あまりったものは出せぬと思いますが」

「じゃあ、よろしく! 俺はメイドさんの方に行かなくちゃ。確か、前の城主さんの愛人たちの残したドレスがたくさんあるって言ってたし、出してもらおう!」


 そうして、準備にかかる。

 女性の準備は時間がかかるし、男の俺の準備が先に終わってしまったので、やることもなくなって会場を覗くことに。


「ねえ、じいや。四人分しか食器がないのはなぜだ?」

「いや、護衛の者たちを同席させるわけにはいきませんからな。こちらからは坊ちゃまとこのじいやが。向こうは姫君と文官の二人で四人ですな」

「はあ!? 護衛の子たちも呼べよ! ふざけんなよ!?」

「……まあ、坊ちゃまなら言い出しかねないとは思っておりました。おっしゃるっとおりにしておきます」

「うむ!」


 ふう、貴重なおっぱいが減ってしまうところだった。危ない危ない。

 やっぱり、最後は自分の目で確認しないとな!


 そうして準備したんだけど、最初に喋った赤髪の人が何か必死に訴えてきた。


「あの、伯爵殿? 本当に私の親衛隊員も同席させていただいてよろしいので? 貴族と言っても名ばかりな出の者や、平民の出の者たちです。それが、こんな上質なドレスまで用意していただいて、伯爵殿と同席できる身分ではないのだが?」

「身分? そんなもの、些細な問題だ! さあ、遠慮せずに席に着いて下され!」


 そう、かわいい子たちとお食事できることに比べたら、身分がなんだ! かわいいってことは正義だって、どっかのたぶん偉い人も言ってたぞ! きっとな!

 そして、その後はあわよくば……ぐふふふふ。夢は広がりますなぁ!


 で、お食事会が始まる。


 何でも、赤髪の人はお隣の帝国のお姫様なんだってさ。

 『聖女』とか言われて、結構有名らしい。

 お姫様でかわいいとか、最高ですな!


 ……と、それは良いんだけどな。


「私が何か?」

「いえ、色々と意識するところがありましてね」


 何か向こうのご一行の雰囲気が一瞬おかしくなった気がするんだけど、次の瞬間には消えたから気のせいだな。


 てか、問題は、一人だけ混じってた野郎だよ。

 かわいい子ばかり十一人と一緒に旅してた?

 うん、爆発しろよ。


 でも、この怒りを表に出しはしない。

 あの『敵』を排除するなんて不毛なことをするより、女の子たちに余裕のある素敵な男だと認識される方がよっぽど建設的だからな!


「そ、それでアラン殿。最近どうだ?」


 そうして決意に燃えていると、お姫様がそんな風に話を振ってくる。

 最近かぁ……。


「いやー、うちの王様が王都で軟禁されて大変らしくてさ。最近は暇なんだよねぇー」

「ぼ、ぼっちゃまぁ!?」

「え? 何かマズいことあった?」


 何かじいやが小声で怒鳴るとか器用なことしてるんだけど、どうしたの?

 てか、やっぱり帝国側の人たちの様子がおかしくね?

 こんなド田舎まで伝わってくる大事件とか、話題としてちょうどいいと思ったけど、興味を引けなかったか?


「いやまぁ、帝国側が知ったところでどうこうしている場合ではないでしょうが……はぁ、坊ちゃま。この老体をあまりおどかさないで下され」

「あー、分かった分かった」


 何か話題選択を間違えた感もあるけど、慌てて変えるのもかっこ悪いし、さっさと切り上げるようにしようか。


「いやー、でも王都の騒動のお蔭で仕事が減った上にこんな美人さんたちとお食事会までできて、嬉しいなぁ! 誰かがやってくれたんなら、相応のお礼が必要だよね!」


 例えば、転生の時に特に会わなかった神様とか!


 そのまま適当に話題を変えようと思えば、響く金属音。

 見ると、顔色の悪い一人の女の子がスプーンを落としてしまったようだ。


 チャンス! 気遣いのできる男アピールだ!

 すぐに女の子のそばまで近づいてひざまずく。


「大丈夫ですか、お嬢さん? すぐに替えの食器を持ってこさせましょう。それより、体調が優れないようですが?」

「ひぃっ……!?」


 え? なんか手を伸ばしたらビビられた件。

 触れようとしたのは、ちょっと調子に乗りすぎたかな?

 失敗は誰にでもある。今は素直に謝って、少しでも株が落ちるのを食い止めなきゃ。


「申し訳ありません。怖がらせてしまいましたね。謝罪を――」


「ウェセックス伯。あなたにお願いがある」


 謝ろうとすると、急に立ち上がってそんなことを言うお姫様。

 はて、このタイミングで何ごと?


「私はあなたと争うつもりはない。今は互いの国も騒がしいことだし、一時的にでも争うのはやめないか?」


 争うのをやめる?

 あ、仲良くしたいのね。


 いいじゃん、いいじゃん。

 平和は大事だよ。しかもこんなかわいい子たちとなら、なおさらだね!


「そうですな、こちらも同意見です」


 少しでもかっこよく見せようと、重々しく、間を空けて同意する。

 ふっ、これで一人か二人は落ちたかな?


「や……やったぁ! 本当か!? 本当だな!?」

「え? アッハイ」


 何かお姫様の反応が思ってたのと違う。

 こっちに駆け寄ってきて、顔をめっちゃ近づけてくれたのは良いんだけど、威圧感が凄すぎて楽しむどころじゃなかったし。

 むしろ、俺の返事を聞いて離れてくれて安心したわ。


 で、食事会はそれから終始明るい雰囲気で大成功。

 一人くらい行けるかと期待してたら、みんなでどっかに行ってしまう始末。

 じいやに聞いても、彼女らも時間がないですからな、とか言ってただけでよく分からん。


 で、翌朝。

 日の出と共に彼女たちが帰るそうだ。


「もう少し居てくれて良かったのに。残念だ」

「こちらも待たせている者たちが居る。ご好意だけ受け取っておこう」


 まあ、それなら仕方ないね。

 俺としては、かわいい子たちと楽しくお食事出来ただけでも十分にもうけたし。


 そうして乗ってきた馬に向かう一行。

 食事を一回しただけだけど、楽しかった。

 だから――


「また来てねー!」


 そう、いつかまた、一緒にお話しできればいいなと思ってその言葉を送る。


 お姫様たちは言われてきょとんとしてたから少し心配したんだけど、杞憂きゆうだったみたいだ。


「きっと、必ず!」


 そうして、俺たちは笑顔で分かれたのだった。






 歴史書『帝国正伝演義』内『エレーナ一世伝』より、『ウェセックスの密約』の章から抜粋



 王国のウェセックス伯領領内を、武装した旅人にしか見えない一団が馬に乗って進んでいく。

 変わったことと言えば、十二名のうち十一人までが少女で、残り一人の男が一番戦えなさそうに見えることだろう。


「姫様、見えましたぞ。ウェセックス城です」

「そうか。そろそろ日が暮れる。急ごう、オットー」

「はっ」


 馬上にある姫様と呼ばれた少女――『聖女』の二つ名で知られる帝国の皇女エレーナは、隣で笑みを浮かべる細身の中年男性に、厳しい表情で答えた。


 次期皇帝の椅子を争って西方以外の全帝国と争うエレーナにとって、オットーという文官に偽装するエレーナ派の諜報部門の責任者と、馬上にある自らの親衛隊の少女たち十人で構成された今回の極秘会談は、自分の将来を決定づける重要なもの――だと『オットー』から聞いていた。

 帝国内での争いの中で、背中から刺されないように秘密協定を結ぶ。地盤となる西方地域が王国との最前線である以上は、エレーナの勝利のために必要不可欠な要素である。


 エレーナに、政治は分からない。

 もっと言えば、正規の教育を受けられなかったから親衛隊の者たちと何とか独学した軍事だってそこまで分からない。

 ただ、誰を信じるべきかを見抜く天性の才と、相手の言葉を理解できるだけの知恵と基本的な教養、人を率いる魅力があった。


 だから、今はオットーと名乗る男が、エレーナの母方の祖父であり西方派閥の長であるマイセン辺境伯に王国の変事を伝え、『獅子王の爪牙』ウェセックス伯アランとの秘密交渉の可能性を示した際に特に反対しなかった。

 反対はしなかったが――


「やはり、我らのやり口は気に入りませんかな、姫様?」

「まあな。反アラン派の貴族をきつけて反乱を誘発させて交渉の余地を作るなど、私の好みではない。お前たちのやり口は正面から戦うことに比べれば些細ささいなことしかできないというのは撤回しても良いが、私は使い捨てるつもりで誰かを利用することを歓迎するほどに誇りを捨ててはいないからな」

「誤解なされますな。我々が王国の『友人たち』に世界情勢を少しばかりご説明申し上げたら、勝手に彼ら彼女らが王都を制圧して国王の身柄を押さえてしまっただけのことですよ。謀略なんて大げさなものはございません」


 腰まで伸びる燃えるような赤髪が逆立つような幻覚が親衛隊員たちには見えるほどに不機嫌なエレーナの鋭い目線でにらまれても、当のオットーは気にする様子もない。

 その後、重苦しい雰囲気のままにウェリックス城の城下へと入った。


「で、これからどうするのだ、オットー。事前に手を回せば情報がれてどこかからの介入があるかもしれないと飛び込みで面会を求める訳だが、城の前で名乗ればいいのか?」


 オットーに言われるままにやってきた、そこそこの格の宿の一室で一行は会議を開いていた。

 とは言え、エレーナ以上に政治の分からない親衛隊員が口を挟めるわけもなく、口を開いていたのは実質的に二人だけであるが。


「城と取引のある御用商人に、ウチの諜報部の手の者が居ます。その者を通じて面会を求めましょう」

「ほう? 私では戦場で勝てないと思い、毒殺の準備でもしていたか?」

「滅相もない。どうせ主要人物の食事など、事前に検査されますよ。情報収集や今回のような場合のために、網を張れるところには張れるだけ張っておくのです。今回は、ウェセックス伯のお父上のアルベマール公爵と取引がありましたところからもぐり込ませていただきました」


 当て付けのように投げられた言葉にも平然と答えたオットーに、エレーナはそれ以上何を言うでもなく立ち上がる。


「姫様、どうされました?」

「オットーよ、今から行くぞ。その商人のふりをした貴様の手下のところへ案内せよ」

「今から、ですか?」

「真っ昼間から密談というのも似合わんし、早く国に帰って戦いの準備をせねばならん我々に、『敵地』で遊んでいる時間はない。なに、約束もなく一国の姫が敵国の伯爵の下に押しかけるだけでも十分に無茶で失礼だ。夜に押しかけるくらいはどうってことあるまい」


 獰猛どうもうな笑みを浮かべる赤い獣を前に、誰も異を唱える者は居なかった。

 この姫君は、人に頼ることは知っているも、自分の意思で決断したことはそう簡単にひっくり返さないだろうことは全員が知っていたこと。

 さらに、単純に威に飲まれて反論など考え付きもしなかったからである。


 とにかく、そうと決まればさっそく動き出す。

 御用商人を呼び出し、半分以上が闇に包まれた空の下、城の門を叩くことに。


「という訳で、名前は出せませんが『やんごとないお方』が伯爵さまに緊急で面会を求めているのです。伯爵さまか、守り役のミルナー殿に話だけでも通していただきたい」

「いやまあ、ジェームズ殿がおっしゃるなら、話くらいは通しますが……」


 門番とそんなやり取りがあってしばらく。城から一人の老人が出てきた。


「ジェームズ殿ではないか。至急の要件のようだが、どうされた?」

「ああ、ミルナー殿! このような時間にお目通りいただき――」

「ミルナー殿、直接会うのは初めてだな。帝国の皇女エレーナだ。それとも、『聖女』といった方が通りは良いか?」


 前置きを遮っての自己紹介に、老兵は抜剣でこたえる。

 当然だ。『聖女』と言えば、ウェセックス伯アランの初陣を始め、何度も王国を苦しめた宿敵である。


「まあまあ、落ち着いて下さい、ミルナーさま。あ、私、エレーナ姫にお仕えしております文官のオットー・ゲルペンスと申します。本日は、伯爵さまとお話しさせていただければと思いまして参らせていただきました」

「話? 今更、何を話すと言うのだ!? 我が主に国を裏切れと!?」

「いえ、そういうことではなく――」


「どうした? 何事だ、じいや」


 激昂げっこうする老兵をなだめようと飛び出したオットーだが、二人の争いが本格化しようかというところで一人の若者が城から出てきた。


「伯爵さま! どうしてここに!?」

「いやなに、最近やることがなくて暇なのでな。散歩でもしようと思ったら騒がしくて気になって来たんだ。……ふむ、なるほど。そうか、そうか」


 勝手に一人で納得する若者に、誰も反応を返せない。

 当然だ。何を納得しているか分からないのに、どう反応しろというのか。


「皆様方、良ければこれからお食事などいかがでしょう? 大国の皇女である『聖女』様に相応しいものにはならぬかもしれませんが、それは事前の約束のなかったことが原因と、諦めて下され」

「は、伯爵さま!? 敵国の姫と秘密会談など、何を言われるか分かったものではありませんぞ!?」


 驚きを表せただけ、ミルナーはまだマシであった。

 帝国の一行はと言えば、伯爵には名乗りもしてないのにどうして気付かれたのかと混乱して、何も反応できていなかった。


「おや、驚かれることはない。その音に聞こえた腰まで流れる見事な赤髪が一つ。この時期にここにお忍びで来る理由があって私が顔を知らない者は限られているのが一つ。そして、人の上に立つことになれている雰囲気が一つ。――これだけあれば、条件に合う人物は限られる。例えば、現在、次期皇帝の座を巡って争っていて、地盤である帝国西方部と国境を接する王国軍の介入を防ぎたい皇女様とか」


 唖然あぜんとする一行であるが、この地の最高権力者が夕食に招くと言うのだ。話し合うとの一つ目の目的は達成できたことに安心し、招かれるままに城へと入る。


「で、伯爵殿。このドレスはどういうことだ?」


 身支度をするのだとメイドたちに城の奥へと引きずり込まれれば、エレーナもついてきた親衛隊員たちも豪華なドレスに身を包むことに。

 武装を外されようとした瞬間には反射的に抵抗しかけたが、交渉に来て武器を手放さないのも失礼だと思い直し、エレーナが命じて親衛隊員たちにも自発的に外させたのだ。

 そうして、王国側はアランにミルナーが席に着き、帝国側はエレーナやオットーだけでなく、半数は平民生まれで身分的にアランと同席など許されないはずの親衛隊員たちまでが、そのことを説明したのに同じ食卓を囲んで食事が運び込まれていた。


「数年前にウェセックス伯爵家は断絶したそうなんですが、城は軍事拠点として国の直轄になり、ただ管理だけはメイドたちが引き続き行っていたそうで。最後の当主がかなりの女好きで囲っていた女たちの大量の衣装が一部残っていたらしく、もったいないからと手入れだけはしていたのだそうですよ。ああ、オットー殿だけは――」

「いや、そういうことではない。どうして我ら『全員』に着せたのかというところを聞きたい」


 聞かれたアランは、何を聞かれたのか理解できないとばかりにきょとんとし、次の瞬間に何かに納得したかのように大きくうなずいた。


「ああ。だって、美しい女性は、その美しさを生かすために美しく着飾って居て欲しいじゃないですか。そして、エレーナさまはもちろん、護衛の方々も美しい者ばかり。それが何の飾り気もない旅装束でこの場にお招きするなど、どうしてできましょう? そして私は、むさくるしい大貴族よりも、あなた方と共に食事をする方がよっぽど嬉しい。男としてごく普通の感想でしょう? ですから、仲良くしましょう。――そう、仲良く、ね」


 身分制度の否定に繋がりかねない発言にエレーナとオットーが少し反応するも、他に帝国側で反応で来た者は居なかった。守り役のミルナーは、すでに諦めたのか、明後日の方を向いてしまっている。

 一方のアランは、笑顔で一通り帝国側の一行を眺め、そして一点で視線が険しくなる。


「……私の顔に、何か?」

「いや、何も。ただ、色々と思うところがあっただけさ」


 当事者のアランと事情を知らないミルナー以外の食卓に着く全員が、アランの言葉に一瞬体を強張らせる。


 確かに、反アラン派に働きかけて王都で決起させて王国に混乱を巻き起こしたという意味では、今はオットーと名乗る男はかたきのような存在ではある。

 だが、『獅子王の爪牙』と呼ばれる目の前の若者が、それを知るはずがない。

 知るはずがないのに、どうして『思うところ』があるのか。


 そんな疑問をぶつけることは明確に自分たちが裏で糸を引いていたと認めること。

 出来る訳もなく、帝国側の面々は疑問を飲み込んで食事に入ることとなった。


「そ、それでアラン殿。最近どうだ?」


 王国側が口を開かない中、帝国側の最上位者であるエレーナが空気を変えようと口を開く。

 特にするべきか思いつかないからこその言葉だったが、返答としてとんでもないものがやってきた。


「ああ、王都が『反アラン派』とかいう連中に無血制圧されたようでして、混乱のお蔭で仕事が減って楽をさせてもらってますよ。私など父上の派閥の一員に過ぎないのに、過大評価も良いところだ。まあ、その父上や兄上たちも王都で陛下と共に身柄を押さえられてしまったので、近々、私の仕事がどっと増えそうなのが悩みですかな? せっかく中央から離れられて気楽な生活だったのに、残念だ」

「伯爵さま!? 王都の件は交渉段階でまだ騒ぎにはなっていないというのに、内情をそう簡単に話すなど――」

「大丈夫だ、じいや。彼女ら相手なら、問題ない・・・・


 『彼女ら相手なら』?

 つまり、すべて知られているということか?


 そんな不安がエレーナの心のうちに広がっていく。

 いや、王国側の騒動はともかく、次期皇帝のイスを巡る帝国内の大混乱は知れ渡っている。知られたくらいではなにも手出しは出来ないだろう、と判断してもおかしくないはずだ。


 そう自分に言い聞かせ、帝国の皇女は必死に表情をつくろって相対を続ける。


「しかし、面倒な仕事が減ってくれた上に、こんなに美しい方々と食事をする時間ができた。誰かのお蔭だと言うなら、この状況を作ってくれた誰かに相応のお礼・・がしたい気分ですよ」


 ここで、スプーンが床に落ちる音が響き、全員の視線が一点に集まる。

 その注目された親衛隊員は、顔を真っ青にして、自分が注目されているのに気付いているのかも怪しいが。


 エレーナにしても、彼女が先に恐怖に飲まれなければ、エレーナ自身が同じ状態になっていたかもしれない。


 王国の動乱なんて、やった連中は表に出ているんだからわざわざ『誰かのお蔭』なんて言う必要はない。

 これまでの言動も見れば、アランが黒幕を確信しているのだろうことは確実。


 もしかすると、知った上で王都の騒動を黙認し、一気に政敵をほうむるつもりか? こちらの動きは、すべてこの若者のてのひらの上だったのか?


 そんな不安にエレーナの心が揺れる中、アランは立ち上がり、青を通り越して顔色が白くなっている親衛隊員のところへと近づいていった。


「食器については、新しいのを用意させましょう。ところでお嬢さん、顔色が悪いですが、どうされました?」

「ひぃっ……!?」


 ひざまずいて尋ねるアランに、相手の方は自分の体を守るように体を引いている。

 もはや、平静をたもつ余裕すら失っているのだろう。


「もしや、何かこちらに失礼がありましたか? ならば――」


「ウェセックス伯。あなたにお願いがある」


 オットーの顔に一筋の汗が流れるのを見て、エレーナは立ち上がってそう言った。

 元は、起きたばかりでまだ大きな騒ぎになってないはずの王都の事件を持ち出し、こちらの手の長さをチラつかせた上で主導権を握って交渉を進めるはずだった。

 それがどうだ。こっちがするはずのことを、そのまま向こうにされている。


 今更、思い付きの小手先の策が通じるとも思えない。

 交渉を主導するはずだったオットーも、何も動けない。

 だったら、正面から突き抜けるのみ!

 後から思い返せば半分はヤケクソだったそんな思考の結果、エレーナは動いたのだ。


「過程がどうあれ、私たちは共にそれぞれの国内に問題を抱えている。どうだろう、今は互いに争っている場合ではないし、一時争いをやめようではないか」


 同盟ではない。単に、互いの問題が片付くまで中立でいようとの提案。

 それに対し、アランはひざまずいたままエレーナを見、薄く笑みを浮かべるだけで、何も言葉を発さない。


 アランの属するアルベマール公爵派は、王国内でも帝国国境地帯を掌握している。

 父であるアルベマール公爵、さらに二人の兄も王都で身柄を押さえられている現状、公爵の三男で、派閥内どころか王国でも有数の名将であるアランが派閥の実権を引き継ぐのは当然。

 その時、王国内の問題解決を遅らせてでも王都に振り向ける軍事力の一部を使って帝国の争いに介入するか、国内掌握に全力を向けるか。

 次のアランの言葉で、エレーナの命運が大きく左右されるのである。


 いつまでも答えないアランにエレーナがれて来たころ、アランは立ち上がって口を開いた。


「ああ、そうですね。確かに、争っている場合ではないと、私も思います」


 その言葉を理解し、自分の目的が達成されたのだと気付いたエレーナは、一拍の間を置いて狂喜した。

 恥も外聞も知らないとばかりのあるじの喜びように、親衛隊の面々もようやっと落ち着くことが出来た。何はともあれ何とかなったのだと、一番わかりやすく実感できたからだ。


 オットーも、自分のことごとく上を行かれた悔しさはありつつ、自分の主君の未来が閉ざされなかったことに素直に喜んでいた。そうしつつも、アランの守り役であるミルナーの方を確認し、決定に異議を唱えるつもりがないようであることを確認しつつではあるが。


 一晩掛けて実務担当者と調整を行い、エレーナ一行は一睡もしないままに日の出と共に旅立つこととなった。


「お疲れでしょうに。もう一泊していただいてもよろしいのですよ?」

「伯爵殿の好意はありがたいが、一刻も早く帰らねばならん。待っている者たちが居るからな」


 本気で引き止める気はなかったのだろう。そう言われたアランが、それ以上引き止めるために何かをいうことはなかった。

 そして、ただ一言だけをエレーナの背に投げかける。


「また、いらして下さい」


 皇位継承問題が決着するまで、エレーナにそんな余裕はない。

 つまり、エレーナに、危機を乗り越えてみせろ、と言っているということ。


「きっと、必ず!」


 そんなエレーナの言葉にエレーナとアランは笑みを交わし、帝国の一行は祖国へ向けて馬を進めるのだった。





いつもの『おまけ』について、

アラン君が女の子になったり、一人で万軍を斬り捨てたり、聖女エレーナさんがビームをぶっ放したりする国から来た留学生が、第一作目のおまけに出てきたカナリス女史の小規模ゼミに参加してアラン君たちの時代の資料を読み解くものを考えていました。

ただし、明後日から車の免許の集中講習が始まるので勘弁してください!

(なお、8月下旬か9月くらいにこっそり投稿する可能性がワンチャン?)


代わりに、前書きにもある本シリーズの連載作、『剣と弓とちょこっと魔法の世界に転生して男爵家の次期当主になったんだけど、とりあえず生きるために頑張ろう』があるんで、それで許して下さい!

何でも(ry

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― 新着の感想 ―
[一言] >歴史書『帝国正伝演義』 「演義」って「歴史小説」のことです。歴史書じゃありません。
[一言] 誤字脱字? >>「では、さっそく今夜の歴史探訪を開始しましょう。今夜取り上げるのは、『ガリエテ平原の戦い』。当時はアルベマール公爵の三男に過ぎなかった『獅子王の爪牙』後の初代ウェセックス伯爵…
[一言] こっちも連載にして欲しいです(・ω・)ノ
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