第七章・明日への啓示 1
グリウスに朝が来た。
人々は早朝から商売のための用意をし、中央街道は夜明けと共に人の声が飛び交い始める。気の早い芸人達も、客寄せのための場所を誰よりも早く確保し、天幕を張りはじめた。
旅亭トラオにも、いつものように朝が来た。
日が昇るのと同時に、宿泊客の朝食の用意が始まる。
治世十五年の祭り期間も、もうじきに終わる。そうすれば連日満室のこの忙しさからも開放されるだろう。
トレーネは息をついた。
食堂の椅子の一つに座ったまま、とうとう夜を明かした。
使用人達が厨で仕事を始めた。その音を聞いて、トラオの玄関の扉を開けてみる。
日中からのあの暗い雲は、もうどこにもなかった。空は澄み渡って青く、遠く山裾は朝日が燃えて赤い。
「朝、が来た」
トレーネは急いで扉を閉めると、古参の使用人のもとへと駆け出した。
胸がちくちくと痛んだ。
急がなければ。
行かなければ。
その思いだけが、トレーネの胸の中を占拠している。
昨日の暗澹とした雲は、グリウスを通ったシェバ軍が通った時から発生した。
それこそがウェルが言っていた妖獣の力の証に違いない。
だが、今朝は晴れている。雲は消えた。
逸る心を抑えながら、仕事を使用人達に指図すると、トレーネは身一つでトラオを飛び出した。
神殿でトレーネを温かく迎えてくれたのはゲフュールだった。
「神官長様。エリオン様は? 何かご連絡はありましたか」
必死の形相で駆け込んできたトレーネを、ゲフュールは何も言わずに、まずは自分の居室に招き入れた。
「まあ、お掛けなさい」
ゲフュールはトレーネを椅子に座らせると、自ら温かな飲み物を入れて持ってきた。
トレーネはとても座ってなどいられなかった。
エリオンが怪我をしなかったか。本懐を遂げたのか。
そして、シャオン、ウェルがどうなったのか。
父親のようなフェンダーや、リグは。
「ゲフュール様」
ゲフュールは急くトレーネに飲み物を勧めると、自らも口を付けた。
「まだ詳しいことは分からんのだ。私とて、早く知りたいがな。だが、ウェルトス様の聖霊の使いが参って、皆が無事であることは告げていった」
「本当ですか!」
トレーネの瞳が瞬時に涙で潤んだ。
肩を落とし、よかったと呟く少女に、ゲフュールは再び飲み物を勧めた。
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