幻妖帝国〜グリウスの章・青き黎明の灯火(24/27)PDFで表示縦書き表示RDF


幻妖帝国〜グリウスの章・青き黎明の灯火
作:暁さくや



第六章・王城・決戦 6


 エリオンは、リグを庇いながら、一向に減らない百足達を斬っていた。
 斬っても斬っても再生する百足に、エリオンはひどく疲労していた。肩で大きく息をつき、顔は青ざめ、額からは汗が滴っている。
 リグの百足に噛まれた腕は紫色に変色し、牙の刺さった痕は黒くなっている。
「大丈夫か」
 荒い息の下でエリオンはリグに問うた。
「もう腕の感覚がありません。それにしても、これは」
 そう言って、足もとに来たムカデの妖獣に剣を突き立て、床に縫いとめる。妖獣はグフェッという聞きたくもない声を出して、剣に串刺しにされたまま、無数の足を無秩序に動かした。
 仄暗い空間では、視界にも限界がある。
 その時、王の間から紫翠の閃光が閃いた。
 それはやがて青白い光となっていく。
 足元を見ると、光に照らされた百足だけが黒い塵になって吹き飛ばされていた。
「──そうか、光だ、リグ」
「わかりました」
 エリオンとリグは黒い塵に変貌していく百足達を踏みつけながら、窓に駆け出した。


 一方、応接の間の入口に追い詰められ、足を食われたフェンダーは、メデスの頭に剣を突き立てたまま動けずにいた。
 頭を床に縫いとめられたメデス・巨大なムカデの妖獣は、足をばたつかせながらもがいているが、フェンダーが剣の柄を握ったまま抜かないので、動きようがないらしい。
 細く黒い瞳に、時おり紅い光が閃き、フェンダーをねめつける。
 手を伸ばしてフェンダーを掻きむしろうとしているが、それも届かない。
 と、フェンダーはもたれかかっていた背中の扉が、淡く紫翠に光るのを見た。
 光は徐々に色を濃くし、強くなる。
 比例して、メデスの動きがやんできた。
 驚いて、扉とメデスを見比べていると、妖獣メデスのほうは、やがて動きを止め、色が黒く変色し、霧のように消え立っていくではないか。
「フェンダー閣下!」
 フェンダーは聞き覚えのある声に顔を上げた。
「リグ!」
「今、暗幕を取ります」
 リグは応接の間に隣接している、王妃の間と、王族の居間の暗幕を引きちぎった。暗紫色に変色した腕を抱えながら戻ると、自分の上着を脱ぎ、入口に唯一燃えていた小さな炎で火をつけ、それを暗幕に投げつけた。
 炎は一気に燃え上がり、応接の間を明るくした。
 そこに見たものは、無数の百足の妖獣だった。
 しかし、扉に灯った紫翠の光は衰えず、百足どもは黒い塵に変わり、炎によって焼かれていった。焦げた臭いが、饐えた臭いに混じって漂い始めた。黒煙が、部屋に充満する。
 リグは慌てて窓を開け放った。
「立てますか、閣下」
 リグはフェンダーに肩を貸した。
「お前は大丈夫か? エリオン様は?」
「エリオン様は、シャオン様とウェル様を」
 フェンダーはそれ以上何も言わずに頷くと、リグの肩に掴まったまま、全く言うことを聞かなくなった足を引きずりながら歩いた。


 エリオンもまた、百足を踏み越しながら王の間に戻った。
 そこは焼け焦げた匂いと、うずくまるシャオン、剣を構えたまま激しい風に巻かれるウェル、そして切り刻まれている黒い塊があった。
 黒い塊からはいくつもの触手が伸びているが、激しい風がそれを切り、その度に黒い塵が舞い上がる。
 エリオンは横目でその光景を見ながら、暗幕に手を伸ばした。
 ウェル側にある暗幕は二枚。エリオンのほうにも二枚。
 エリオン側のそれを一気にはがした。
 だが、窓の外は真っ暗で、月明かりもない。
「なんだ!」
 エリオンは愕然とした。
 すぐさま踵を返し、応接の間に駆け込む。
 そこにはリグに肩を借りたフェンダーがいた。応接の間はすでに炎に巻かれている。
 その炎の明かりが王の間にも入ってきた。
 ウェルが炎に気付く。
 その顔に、あの薄い微笑が戻った。
 剣を逆手に持ち替え床に突き立てると、胸の前で手を組む。手の中には、紫翠に輝く石があった。鮮烈な光を発する石に、応接の間から新たに同じ紫翠の光が軌跡を残しながらなだれ込んできた。
 光。
 炎。
 風。
 三つが一つになる。
 エリオンも、リグも、フェンダーも、それを見ることは叶わなかった。
 あまりに激しく、光は閃光し散光した。
 地の底から鳴り響く、体の臓腑を震わせるような不快な音が聞こえた。グリウス城が倒壊するのではないかと思われるほどの、揺れが起こった。
 長く。
 低く。
 静かになった時には、王の間には何もなかった。
 燃え盛っていた炎も消えていた。
 応接の間の扉が荒々しく開かれる。
 警護の衛兵と、身なりのよい男達が入ってきて、口々に何かを叫んでいた。
「エリオン様! フェンダー閣下!」
 聞き覚えのある叫び声で、二人は顔を上げた。
 激しい光の残像が、直ぐには視力を回復させない。
 応接の間は焼け爛れ、焦げた匂いと煙が充満している。
「お前は……」
「ゼギュウスにございます。内政大臣の」
「ああ……」
 エリオンは気のない返答をすると、無能呼ばわりしていた大臣の顔を見上げた。
「父、シェバは急死した。ああ、そう、医師を呼べ。詳しいことは皆の手当てをしてからだ、よいな」
 ゼギュウスは短く返答すると、言われたように手配した。
 王の間に目をやると、そこには黒髪の男が一人血まみれで倒れている。
 奥には、目を見張るような黄金の長い髪の下に人が倒れていた。その前に、大きく煤けた黒い染みが出来ている。
 エリオンは、二人の肩がゆっくりと上下しているのを見て息をついた。












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