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第08話


初陣から約3週間経った今日まで、俺達はほぼ毎日、迎撃に駆り出されている。酷い日なんかは、1日に2回も飛んだ事があった。


これまでに喰った敵機の数は、俺が36機、マックスが34機、オリビアが30機、そしてオズワルドが26機。


この結果は、はっきり言ってありえない。

部隊員全員が“撃墜王”だなんて、なかなかある事では無い。


それに“黒い狼”の部隊章エンブレムも役に立っているみたいで、これを見ただけで逃げて行く敵機もいるほどになってきた。


この島から西に約500km先にあり東西に細長い形をしている“マウアー諸島”そこにある敵飛行場を偵察した偵察機の報告では、我々が連日の迎撃で航空機を多数撃墜しているために眼につく航空機の数が減ってきているとの報告があった。


この情報がミッドウェー島基地だけでなく本土にまで伝えられたため近日中にもマウアー諸島に展開する敵軍基地の攻略作戦が決行されると言う事を耳にした。


この作戦が戦争の分水嶺になる事は間違いない。


成功すれば、中央海西側の島を初めて奪取した事によりこの拠点から敵国本土への進撃ルートが開かれることになる。


だが、もし失敗すれば、友軍は多数の戦力を失い、勢いづいた敵軍がミッドウェー島へ来襲する。

それによって共和国本土への進撃ルートが開かれてしまう。


そして俺には危惧するもうひとつの理由がある。

マウアー諸島の“マウアー”とは、バスティア語で“壁”と言う意味がある。

同島には、その名に恥じないような要塞−マウアー要塞−が島の西側に築かれている。


先程、偵察機からの報告を言ったが、あれは奇跡に近い幸運からの報告だ。

あの島へ偵察へ行った偵察機は10機に2機の確率でしか帰還する事が出来ない。


帰還したパイロット達の証言では、島には大多数の対空砲が設置されていて撃ち上げてくる砲弾の弾幕で空域一面が霞のようになってしまうらしい。


対空砲だけでは無い。

偵察機の航空写真には海岸線に対艦砲が多数配置され島中に塹壕・トーチカが築かれ、そして海岸には上陸用舟艇や戦車の上陸を妨げるための障害物が設置され、海岸から1kmの場所にコンクリート製のバンカーが3個築かれている事が写されていた。そして極めつけは、陸上部隊5個師団約8万の守備兵が同島に駐屯している事だ。


だが、いまさら作戦の中止などは出来ない。

作戦はもう発動しているのだから。


この作戦に参加する新設された第1機動艦隊(空母3・戦艦2・重巡5・軽巡5・駆逐艦8)そして第3艦隊(戦艦4・重巡6・軽巡3・駆逐艦7)は、既にミッドウェー島沖、東1kmの地点に投錨している。

また、陸軍・海兵隊合わせて、上陸部隊約10万が輸送艦や輸送機で運ばれ続々と集結している。


これだけの大戦力を投入するのだから、統合参謀本部(陸軍・海軍・空軍の各大将または将官が軍の統括をする部署。軍指揮権は元帥たる大統領に帰属する)の本気が伺える。


だが、敵軍もそれは同じ事だ。

完璧な防備を固めて島を守ろうとするだろう。

それに増援も考えられる。




漠然とそんな事を考えながら今日の迎撃任務を終えた俺は愛機から飛び降り地面に降り立つ。


ミッドウェー島へ空襲を仕掛けようとする敵機の数が徐々に減ってきている。

やはり偵察機の報告の通り機体の数が少なくなってきているんだろう。


敵機の数が少なければ、マウアー諸島上空を敵直掩機が飛ぶ事が無く作戦の成功確率が高くなる。


ただ今回の作戦には俺達の部隊も参加する事になる。

どのような任務に就くかは、まだ知らされていないがそのうち隊長である俺に伝えられるだろう。


…面倒な任務で無い事を祈るだけだ…




雑談を交わしつつ滑走路の脇を歩きながら4人揃って宿舎に戻ろうとすると、所狭しと輸送機が駐機しているのが眼に入る。

空から爆音が聞こえ、見上げると輸送機が着陸態勢に入っているのが見えた。

おそらく、あの中には兵員か物資が満載されているんだろう。


「んっ?…なぁアレックス。あれって MARINEの連中じゃねぇか?」


マックスが指差した方向を見ると輸送機から降りて来る大勢の兵士達。

全員がタイガーストライプの迷彩服を着用し、鉄帽を被っている。

多数の兵士がM1ガーランドを吊り革で肩に提げ、中には、BARやサブマシンガンを提げている兵士も確認できた。

そして迷彩服の二の腕には“MARINE”のワッペンが付けられている。


そのワッペンから連中が海兵隊−MARINE−の部隊だと言う事が分かる。


海兵隊は海軍に所属しているが、それは表面上だけで実際は独自の指揮系統が存在している。

近年中にも海軍の指揮下を離れて、海兵隊を独立した組織として運用する事も検討しているらしい。


話を戻そう。

今回の作戦では陸軍の上陸部隊に先導して島に上陸し、橋頭堡を築くために海兵隊3個師団が召集された。


海兵隊の本領発揮と言うところだ。

本々の主任務がそう言う物なので訓練もそれに合わせた物を実施している。

そんな任務をこなすため付けられたあだ名は“殴り込み部隊”

敵地のど真ん中に突っ込むからそう名付けられた。


そんな事を思い出すとある男が頭の中に浮かぶ。


「マックス、サミーの奴は元気だと思うか?」


「サミーか…懐かしいな。アイツは確か…海兵隊の新兵訓練所で教官やってなかったか?…元気だと思うがこの状況じゃな…。戦時特令ってのがあるからな…」


「あの済みません…サミーってどなたですか?」


怖ず怖ずとオズワルドが俺達に問い掛けてきたので振り返って説明した。


「サミーってのは、俺やマックスと同期の奴なんだ。本名はサミュエル・ニコラス。サミーは愛称だよ」


「そうそう兵学校時代は3人つるんで訓練成績で張り合ったり、悪さしたよなぁ…」


「…成績張り合ってたのは認めるが、悪さしてたのは、お前らだろ。いつも俺に濡れ衣着せやがって、俺まで営倉にブチ込まれたんだからな!」


そうだ思い出した。


いつだったか、学校寮の裏から煙草の吸い殻やら酒瓶の空瓶が見つかった事件があった。

犯人は、マックスとサミーだったんだが…いつもアイツらとつるんでたのが、災いして俺にまで嫌疑が掛けられてしまい。まる1日の飯抜きで営倉にブチ込まれた。


「過ぎた事なんだから良いじゃねぇか。そんな事、いつまでも気にしてるとハゲるぞ?」


マックスだけでなく、その発言を聞いてオリビアやオズワルドも笑い出した。

少しむくれてしまい背を向けてひとりズンズンと宿舎に進む。


遠くから海兵隊員の、Yes,sir!の掛け声や号令が響き渡っているのを横目に進む。


「オイッ!そこのパイロット止まれ」


そんな声が聞こえたが、俺には関係ないだろうと思って歩みを止めずに進む。


「そこの茶髪のパイロット、お前だ止まれ!」



茶髪のパイロットなんか掃いて捨てるほど軍にいる。俺では無いだろう。


「止まれってば!アレックス・ササキ!  Hey Baby!」


フルネームで呼ばれ、声のした方向を振り向くと、そこには狙撃銃を背中に背負いBARを肩に吊している大柄の黒人の海兵隊員がいた。


「ったく…ヒドイぜ!自分のBrotherの声を忘れてるなんてよ…」


「…えっと…どなた?」


「…えっ…マジで忘れてるの?」


「ジョークだサミー。久しぶりだな。元気そうでなによりだ」


そう言ったら大袈裟に驚いているこの男が、先程まで話題の中心人物だったサミュエル・ニコラス。

階級は…襟章を見るかぎり大尉になったらしい。

いつも陽気で楽しい奴だが、戦闘訓練時はかなり厳しかった事が印象に残っている。


しばらくサミーと話し込んでいると残してきた3人が追い付いて来て、マックスも久しぶりの親友との再会を喜んだ。





「ところでよ、サミー。…お前は新兵訓練所で教官やってたんじゃねぇのか?」


時間と場所は移って、ここは海兵隊がキャンプを張っている海岸の砂浜で、時間は2000時。

沖に停泊している艦隊の艦灯の明かりが夜の海に照らされて幻想的な景色を作っている。


俺達4人はサミーに誘われて海兵隊キャンプで行われている宴会に参加している。

久々にアルコールが解禁されて海兵隊員達もはしゃいでいる中、マックスが急にサミーに問い掛けた。


「確かに教官職に就いていたな。…でも開戦のゴタゴタで戦闘部隊に戻ったんだ」


「なんで、戦闘部隊に戻る事になったんですか?…やっぱり戦時特令ですか?」


怖ず怖ずとオリビアがサミーに質問をした。

そんな彼女の姿に苦笑しながらサミーが質問に答える。


「戦時特令である事に間違いは無い。ただ、開戦時に南方の島々が敵の手に渡っちまって、その島を守備していた海兵隊部隊のいくつかが壊滅状態になったんだ。それで新しい部隊を編成して、教官職に就いている俺を含めて何人かの教官がそれらの隊長に就任したってところだな」


分かり易く説明されてやっと納得がいった。

新聞や耳にする噂でも、南部戦線の戦況は芳しく無いと見聞きしていた。

だが、1ヵ月ほど前に敵に占領されていた南方の島々を全て奪還し、敵軍を撤退させたと言う報せを聞いた。


なんでも、全て同じ師団、厳密には同じ中隊が敵軍撤退に貢献したらしい。


「なぁサミー。噂で聞いたんだが、南部戦線の拠点奪還には同じ中隊が貢献したらしいが、お前知らないか?」


俺は思い切って聞いてみる事にした。

そしたら、予想だにしない答えが返ってきた。


「ああ。それ俺達の部隊」


あまりに、あっさりとした返答に俺達は呆気に取られた。



サミーが率いている中隊は、開戦から1週間で戦闘の激しい南部戦線に投入された。

南部戦線は島々の大半が未開の密林で覆われているために、敵軍だけでなく伝染病が脅威となった。

実際にサミーの部隊でも伝染病を患った隊員がいたが、全員にワクチンを注射して事無きを得たらしい。


もうひとつ、厄介だったのは敵狙撃兵だったとサミーは語った。

密林で敵狙撃兵に狙われたら死を待つのみになってしまう。

そのため慎重に進軍するしかなく、目的地へ到着するまで時間が掛かった。


そして最後の島にある敵軍要塞への攻撃では、味方にも甚大な被害が出た。

この戦いで。南部戦線に投入された約9万の兵士の約2割が戦死し、約5割が重軽傷を負った。

サミー自身も右肩への貫通銃創を負ったが、既に完治したらしい。

だが、部隊では部下17名が戦死し遺体は家族の下に送られ、それぞれが家族の手で墓に納められたり、首都にある国立墓地に埋葬された。


「まったく嫌になる…戦争ってのは…」


グラスに注がれた酒を煽りながらサミーが苦々しげに呟いた。


「まったくだ…隊長なんぞやってたって、ロクな事が無い。実際…俺も開戦直後の戦闘で3人の部下を亡くしてる…」


現在でも俺は夢に見てうなされる。

あの光景は一生忘れられ無いんだろうな…

…いや…忘れてはいけ無いんだよな…


「…なんで戦争なんかやってんだろうな…」


サミーが独り言のように呟いた言葉に答えられる人間は、ここにいない。


沈んでしまった場の雰囲気を盛り上げるようにサミーが手を叩いて、声を張り上げた。


「さてと…辛気臭い話はここまでだ。ヨ〜シ飲むぞ〜!アレックス、マックス、飲み比べだ!!」


「オイオイ…またかよ。まさか、またラムか?」


「当たり前だ。ビールなんぞ飲んだって酔えやしねェ。男ならラムだろ!オイ野郎共!ラムをあるだけ持って来いっ!!」


Yes,sir!の声音が、どこと無く面白そうだったのは気のせいでは無いだろう。


「あんまり飲み過ぎんじゃねぇぞ。酔い潰れたらジェシカに知らせるからな。ついでにパトリックにも」


そう言ってマックスがサミーの奴をからかう。

ジェシカとはサミーの奥さん。

俺達が兵学校を卒業してすぐに災害が発生して、その救助任務にサミーが関わっていた時にアイツが助けたのがジェシカだった。

お互い一目惚れだったために、初対面から3ヵ月で電撃結婚をして同期で所帯持ち第1号となった。

そして現在は2歳になる息子−パトリック−がいる。


サミーの自宅は首都にあるため二人とはあまり会えないが、手紙のやり取りを途切れさせた事が無い。

まるでニミッツ基地司令のシュミット中佐のようだ。


「ここでジェシカを引き合いに出すな!それにパトリックにとってはカッコイイ父親でいたいんだよ!!」


「ハイハイ分かりましたよ。…で何を賭ける?」


何時も思うが、飲み比べで何かを賭ける事に意味はあるんだろうか?


「そうだな…アレックスは…もし俺に負けたら、飛行機屋を辞めて海兵隊に編入しろ!」


内心、またかよ…と言う気持ちが一杯だ。

コイツはどこまでが本気なのか長い付き合いだが、いまだによく分かっていない。

…しかしコイツもよく飽きないな…


「隊長!絶対に負けないで下さいね!!」


「そうですよ!俺は隊長以外の士官の指揮なんて真っ平です!!」


良い部下に恵まれて俺は幸せだ…

グラスにラム酒が注がれて俺に渡される。

サミーの、始め、の号令の下に一気に飲み干す。


部下や海兵隊員達の歓声を聞きながら、次々とグラスを干していく。

…結構な量を飲んでるのだが、俺を含めて3人共まったくペースが落ちていない。


それを認識しながらぼんやりと考える。

…もしかして…俺達って…ウワバミ…?




……

………

…………

……頭が痛い……


かなり痛いわけでは無い。煩わしいだけだ。

だが、それが気になって痛みが増幅される。


結局、飲み比べの勝負はドローだった。

もっとも俺を含めて3人共、朝起きた時は顔をしかめていた。


流石に、こんな状態では早朝トレーニングをする気にはなれない。

それはマックスも同じだったが、サミーは243名の部下の前なので休む訳にはいかず、早朝から島を全員で一周していた。


感心して言葉が出ない。

流石は南方戦線の拠点奪還に尽力した海兵隊の猛者中の猛者達だと改めて認識した。


今日、俺達はスクランブル要員に含まれていないので、何か呼び出しが来るまではゆっくり出来る。


宿舎の自室に戻った俺は、二度寝をするためにベットへ横になった。





『各航空隊の隊長は直ちにブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す…』


時刻1826時に外のスピーカーから放送が鳴り響いた。

自室で拳銃のクリーニングをしていた俺はそれを途中で止めて部屋を出る。



俺がブリーフィングルームに着いた時は、既に何人かの各航空隊の隊長が椅子に座っていた。

見知った顔が並ぶ中で、ひとりの隊長が俺に手招きをして隣に座るように促した。

他の見知った顔の中でも特に見知った顔だった。


「遅かったですね。何かあったんですか?」


隣に座った時にそう俺に問い掛けてきたのは、ウィザード隊の隊長であるパトリック・アンダーソン中尉だ。

彼の部隊とは迎撃の際にほぼ毎回、俺の部隊と組んで任務に就いている。


「単に拳銃の整備だ。最近、撃っていないからこの際にちゃんとやっておこうと思って」


「拳銃の整備よりも、下の拳銃の整備はどうですか?そっちも最近使ってないでしょ?」


そんな事を中尉が言ったら周りにいる各隊長達が笑い出した。

中には笑い過ぎて腹を抱えている者もいる。

実は俺も少し笑ってしまった。

冗談まじりに中尉の頭を軽く叩くと彼は大袈裟に痛がるフリをした。

それがさらに周りの笑いを誘う。


結局、笑いの渦はオリビア司令や幹部達が入室するまで部屋に満ちていた。






「マウアー諸島攻略作戦の攻撃日時が正式に決定した。攻撃開始は明後日の時刻0000時。作戦名は“Get Over”」


オリビア司令が統合参謀本部から送られてきた命令書の内容を読み上げていく。


作戦内容は以下の通りだ。


第1機動艦隊及び第3艦隊及び輸送艦隊は明日1400時にマウアー諸島に向けて出撃し第1機動艦隊は諸島沖約100km地点まで航行し、到着後、戦艦及び重巡は以後、第3艦隊の指揮下に入れ。

第3艦隊は輸送艦隊を護衛しつつ諸島本島沖約20km地点へ航行し、上陸部隊の上陸に合わせ艦砲射撃を行い、以後は臨機応変に戦術を変更し対応せよ。

なお、攻撃開始時刻までは各艦隊とも無線封鎖を行い行動せよ。


陸軍第1空挺旅団は、明日2240時にミッドウェー島より出撃。作戦開始時刻0000時に諸島本島へ降下し敵軍対空砲の破壊、及び敵軍前衛と後衛の補給線を分断し、海岸に向け進撃し敵軍前衛部隊を殲滅せよ。


作戦参加の全航空隊は明後日時刻0500時に出撃。上陸部隊の上陸に先立ち海岸線に設置されている対艦砲の破壊、及び敵航空基地へ攻撃を仕掛け制空権の確保に務めよ。また上陸部隊からの航空支援要請には、可能な限り対処されたし。


海兵隊3個師団は明後日時刻0600時に上陸開始し、以下の通りに海岸へ上陸し作戦遂行に務めよ。


第1海兵師団は中央海岸(以後はBビーチと呼称)に上陸し橋頭堡を築き、Bビーチの完全掌握に務め、掌握の後は敵バンカーへ進撃、これを爆薬もしくは座標を伝えての精密艦砲射撃にて破壊せよ。


第3海兵師団は右海岸(以後はAビーチと呼称)に上陸し橋頭堡を築き、Aビーチの完全掌握に務め、…以下同文


第4海兵師団は左海岸(以後はCビーチと呼称)に上陸し橋頭堡を築き、Cビーチの完全掌握に務め、…以下同文



陸軍各部隊は橋頭堡構築後、以下の通りに行動し作戦遂行に務めよ。


第1機甲師団は、橋頭堡構築後、Bビーチに上陸し戦車・装甲車を先頭に敵軍バンカーを攻撃せよ。

バンカー陥落後は本島を西進。空挺師団と敵部隊を挟撃し、これを殲滅せよ。


第2機甲師団は、橋頭堡構築後、Aビーチに上陸し…以下同文


第4機甲師団は、橋頭堡構築後、Cビーチに上陸し…以下同文


第1砲兵大隊は、全バンカー陥落後、バンカー跡地に野砲陣地を構築し機甲師団の援護に務めよ。


第4設営大隊は、全バンカー陥落後、各ビーチにベースキャンプを構築せよ。


第3補給大隊及び第5補給大隊は、揚陸艦から物資、車輌の揚陸作業に務めよ。


第6師団は、Bビーチに上陸後、機甲師団に追従し敵残党部隊の殲滅に務めよ。




各部隊の健闘を心より祈る。











司令から今回の作戦の全容を聞かされて俺は唖然とした。


−無茶にも程がある−


空挺旅団が降下し、敵軍の補給路と撤退路を遮断するのは理解できる。

闇夜に紛れて敵の対空砲を潰すのも理解できる。


だが、これでは空挺の連中が壊滅する可能性がある。

降下後、味方が上陸開始するまで約6時間も猶予があり、その間に敵軍の総攻撃に合ったら…


もし部隊が壊滅すれば、敵の補給路が生きていたら、この作戦そのものが失敗する可能性が高くなる。


だが、俺には作戦に対する拒否権も訂正権も持っていない。


俺に出来る事は、与えられた任務を全うする事だけだ。


司令が解散の命令を出し、部屋にいた各隊長達は席を立った。

俺もこの作戦内容を部隊内に伝えるために席を立とうとしたら、それよりも早く隣に座っていたアンダーソン中尉が話し掛けてきた。

どうやら彼も俺と同じく作戦に疑問があるらしい。


「…大尉、どう思いますか今回の作戦?」


「…空挺の事か?」


中尉は無言のまま真剣な表情で頷いた。


「どう考えても無謀過ぎます。爆撃もしないで、いきなり敵地侵入だなんて…。参謀本部は何を考えているんだ…!」


「…中尉。俺も同じ思いだ。…だが、俺達には作戦への苦言申し立ては出来ない。…俺達に出来る事は、与えられた任務を全うする事だけだ」


「…分かっています。ですが、やり切れません…」


彼は何匹もの苦虫を噛み潰した表情になった。


俺は掛けるべき言葉が見付からずに、彼の肩を数回叩いてブリーフィングルームを後にした。ブリーフィングルームを出た俺は食堂に向かった。

着いた時には部隊の連中が既に食事を取っていた。


俺の姿に気付いたマックスが手招きして俺を呼んでいる。


「アレックス、隊長達が召集されてなんかあったのか?」


マックスに問い掛けられて、俺は簡単に作戦の開始日時や俺達の任務内容だけを伝えた。


「…つまり私達の任務は対艦砲群の破壊と制空権の確保…と言う事ですね」


「その通りだオリビア。あとひとつだけ言い忘れてたいたが、地上部隊からの航空支援要請には出来るだけ対処してやるように、だそうだ」


全員が作戦の任務を理解してくれたようで、特に質問も無かったために解散をした。


飯を食うのも億劫だったし食欲も無かった。

バーに行って酒でも飲りながら何か摘んで夕食の代わりにしようと思い、そこに向かおうとしたら、マックスも行くらしく一緒に向かった。






「ヨォ!遅かったな二人共」


いつも腰掛けるカウンター席に座ろうとしたら、声を掛けられ、そちらに視線を送るとサミーがカウンター席で飲んでいた。


「しかし、良い所だなここは。水臭ェじゃねぇか二人共。こんな穴場を教え無ェなんて」


なんでここに?、と言葉が出そうになったが、この場所でそんな言葉は不粋だ。

苦笑いしながらサミーの隣に俺達は座った。


サミーは、いつもの如くラムを頼んでいた。

俺達もラムをストレートで頼む。


「…海兵隊にも作戦の詳細は伝わったか?」


俺がサミーにそう問い掛けると、ややあって彼は、…あぁ…、と短く答えた。


「確か…お前の部隊は…」


マックスが恐る恐るという感じでサミーに問い掛けた。


「俺の部隊は、第1海兵師団第2歩兵中隊、持ち場は中央…B海岸…オマケに先陣だ。…予想では、最も敵の抵抗が激しい場所らしい」


サミーは事務的にそう呟く。

その声音には感情がこもっていないように俺には感じられた。


サミーの返答に俺達はただ、…そうか…、と返すしかなかった。


上陸開始時には、艦隊からの艦砲射撃によって目視できる銃座や砲座そして海岸に設置されている障害物を破壊する予定だが、“完璧”とは言えない。

多かれ少なかれ、上陸部隊には被害が出る。

下手をすれば、ひとつの部隊が壊滅する可能性すらある。


「…なに…心配しなくても俺達は俺達の仕事をキチンとこなすだけだ」


サミーは祝勝に笑ってグラスを煽った。

俺達も倣ってグラスを傾ける。


「…もし航空支援が必要なら何時でも要請してくれ。超特急で向かってやる」


俺の台詞を聞いたサミーは先程以上に笑いながら、任せたぞ!、と言ってきた。


その後、サミーが俺達のグラスにラム酒を並々と注ぎ、自身のグラスにも注いだ。

そして、誰が合図をするでも無く俺達は一気にグラスの中身を喉の奥に流し込み、空になったグラスをカウンターに豪快な音を響かせて置いた。


これが、俺達3人が重要な事をする前にする儀式のような物だ。

これは兵学校の卒業試験の模擬戦前夜から行っている。

結束を固めるために。


ちなみに、この儀式はサミーの独身最後の夜にもやっている。

…あの時は、なんの結束を固めるためにやったのかは、よく分から無かったが…




儀式と言う名の飲み会を終えた俺達はそれぞれ自分の部屋やキャンプに帰って行った。


部屋に戻った俺はベットに転がり左手に巻いてある腕時計を見る。


腕時計の針は2302時を示していた。


攻撃開始時刻は明後日の0000時。

残り時間は24時間58分。


明日の昼間はゆっくりと身体を休ませ、夕方から出撃準備を始める。


俺達の出撃は明後日の早朝だ。

それまではゆっくりと出来る。


朧げにそんな事を考えながら重くなってきた瞼をゆっくりと閉じて眠った。



     “Get Over作戦”

マウアー諸島への上陸攻撃開始まで、あと24時間57分。



第09話 Part1に続く

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