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第02話


現在時刻0520時


飛行服と飛行眼鏡、そして拳銃等の装備品を身につけ、夜の内にまとめておいた私物や日用品をダッフルバックに詰め込み、肩に担いで宿舎を出て格納庫へ向かう。


この基地で世話になった上官や部下、そして整備兵達には夜の内に別れの挨拶をしておいた。


俺達みたいな軍人には挨拶は特別な意味を持つ。

軍人である以上、危険は覚悟の上でそれぞれが己の任務に就いている。

だから、いつでも己が危険な状態や状況になった場合、自分が後悔しないように挨拶をする。

普段何気なく交わしている『おはよう』や『こんにちは』この言葉が時々、重要な物だと気付くのは何時も、その挨拶をしていた人物が死んだときだ。

だから俺達は挨拶を大切にする。…自分が存在した証を覚えていてもらうために…





格納庫に着いた時、既に整備兵達が俺の搭乗する機体“震風”の整備をしている。


何気なく格納庫を見回していると何人かの整備兵が輸送機の整備をしている。

ここは格納庫なのだから機体を整備するのは当たり前だ。

だが、輸送機に燃料を給油している所をみるとこれから離陸をするようだ。

気になって整備班長に聞こうとしたら背後から声がかかった。


「おはようございます。大尉、整備班の皆さん」


そう言って現れたのは、シュミット少佐である。俺と整備班の兵士達は少佐に対して敬礼を贈る。少佐も両手に持っていた2つの大きめのボストンバックを地面に落として敬礼を返した。

しかし…あのボストンバックは何だ?


「おはようございます少佐。…失礼ですが、そのボストンバックは…?」


「ああ…これですか?私の私物や日用品ですよ。…昨夜、貴方と同様に私にも異動命令が届きましてね…。なんでも本土の基地に異動だそうです…。まぁ…久しぶりに家族と娘の顔が見れるかも知れませんから嬉しいですけど」


この人の家族愛には何時も驚かされる。こんな状況でも家族の事を想えるのは中々出来ない。

いや…こういう状況だからこそだろうか?

よくは分からないが…


しかし…少佐も異動とは…


「少佐も異動ですか…。では、あの輸送機は…」


「えぇあの輸送機に乗って本土へ戻ります。離陸は貴方の前ですね。…そろそろ時間なので搭乗しますね。…では貴方もお元気で…また会いましょう」


「はい…少佐もお元気で」


敬礼ではなく握手で別れを済ませて、それぞれ自分が搭乗する機体へと向かう。



俺が“震風”の操縦席に入り計器盤と三舵のチェックをしていると格納庫から少佐の搭乗した輸送機が滑走路へ地上滑走していく。

あの輸送機なら途中、1回の給油だけで本土に着く事ができる。

俺の場合は途中で4回ほど給油をしなくてはならない。

0600時に離陸する予定なので、給油する時間を合わせてニミッツ海軍航空基地に到着するのは、明日の朝0900時頃になるだろう。

こういう時、夜間飛行の経験があると非常に便利…時差あるのを忘れてた。


自分の飛行プランを考えているうちに、輸送機が離陸を開始した。

2発のプロペラが重低な音を響かせて滑走路を離陸滑走していく。

離陸速度になった所で機体が浮き上がり、初夏の陽射しを浴びながら、本土がある空へと消えて行った。


現在時刻0555時


離陸予定時刻の5分前になり俺は“震風”のエンジンを掛け、プロペラを回し始める。

エンジンが暖まった所で、整備兵達に手信号で合図を送る。


 『チョーク払え、退避せよ』


整備兵達は機体の車輪を停めているチョークを払って機体から遠ざかった。


俺はそれを確認した後、ブレーキを緩め、徐々にスロットルを開きゆっくりと地上滑走し滑走路へ向かう。


滑走路の離陸所定位置に着いた所で、スロットルを閉じ、ブレーキを利かせ、機体を停める。

滑走路脇に居る地上要員が『離陸良し』の朱旗を振るまで待機する。


格納庫の方へ眼をやると整備班の面々が手を振ったり、敬礼をして見送りをしているのが見えた。


この1ヶ月の中で1番、世話になった人達に改めて俺は敬礼を贈った。


前方に眼をやり、地上要員の方に注目すると、『離陸良し』の朱旗が振られた。


それを確認して、ブレーキを踏み込みエンジンを大きくふかした。

ブレーキを緩めてスロットルをゆっくりとひらいていく。


機体は離陸滑走に入り、エンジンを全開にする。

機体は徐々に速度を上げながら滑走路を駆け抜ける。

速度計が離陸速度に達した所で、操縦桿を引きつける。その直後、車輪が地上を離れた、機器を操作し車輪を機体に納める。


だんだんと滑走路がオーシャン島の姿が小さくなっていく。

別れを惜しむように、もう一度、島に眼をやったあと、直ぐ前方に向き直り、開けていた風防を閉じる。


現在高度2500m 東に毎時400km/hで巡航中



まずはひとつめの給油する基地を目指して南東へ飛び続ける。









……いい加減、腰が痛くなってきた……それに眠い…


先程、4回目、最後の給油を受け終わり、ニミッツ海軍航空基地への1万kmの航程も終盤に差し掛かっている。


機体の給油中、少しだけだが、各基地で仮眠をとったが、丸1日も操縦しているから、腰が痛い……眠い…


高度1500m 南東へ巡航中


そろそろ陸地が見えて来ても良いはず…………あった


久々に見る大陸、その一点に細長く黒い色をした場所が視界に入った。

あれが、俺が異動する事になったニミッツ海軍航空基地。

ここには滑走路だけで無く軍港もあるし、近くには陸軍、空軍の基地もある。

まさに国防の要とでも言える場所だ。

もし敵が本土上陸をするならここを攻撃し、陥落させなければならない。

逆に、ここを陥落させられたら共和国は袋小路に追い込まれる事になる。

敵・味方にとっても重要な拠点である事は間違いない。



俺は着陸準備についた。 機器を操作し車輪を下ろす。フラップを全開にし、機速を落とし、方向舵で機位を微調整しながら着陸態勢をとる。

速度が着陸速度になり、操縦桿をゆっくりと引きつける。

次の瞬間、軽い衝撃を体に感じ、機体は着陸した。

そのままランディングしながら、滑走路脇にある格納庫へ機体を運んでいく。


格納庫の近くまで来た所でエンジンを完全に切り、ブレーキを利かせる。

機体が停止したのを確認し、風防を後方に滑らせ、座席の後ろに入れてきたダッフルバックを取り出し、担いで、地面に降り立つ。……それにしても…暑い…オーシャン島も暑かったが、この基地は赤道直下だから余計に暑い……


近づいて来た整備兵に敬礼する。


「“第208戦術戦闘航空隊”隊長に着任するために来た、アレックス・ササキ大尉だ。当基地司令官に到着の報告を伝えたい。案内をしてくれないか?」


近づいて来た整備兵も敬礼を返し、返答した


「当基地の整備班班長を務めていますピート・ガイア曹長です。ようこそ大尉、歓迎致します。司令官は執務室におります。私が案内します。ついて来て下さい」


そういって歩きだした整備兵−ガイア曹長−の後をバックを担ぎ直し追い掛けた。



オーシャン島航空司令部よりも立派で大きなニミッツ海軍航空司令部の建物を少し見上げながら曹長の後に続き、建物へ入る。




司令部2階の1室の前に俺は案内された。


「ここが、司令官の執務室です。この時間ならいらっしゃると思いますが…なにぶん…昨日付けで着任されたばかりの司令官なので分かりませんが…」


曹長は控えめに、申し訳なさそうに俺に答えた。


「いや…案内してくれてありがとう曹長。お陰で助かった。…これからも面倒をかけると思うが、よろしくたのむ」


そう言って俺は右手を曹長に差し出した。

曹長は少し面食ってたが、同じように手を差し出して、がっちりと手を握った。


「いえ…こちらこそよろしくお願いします。…私はこれから大尉の機体の整備を始めます。何か御用があれば、いつでもどうぞ」


「ありがとう曹長。是非そうさせて貰うよ」


お互いに、にっこりと笑い合いそのまま別れた。ガイア曹長とは、良い関係が作れそうだ。


身なりを整え……飛行服のままだから、あまり意味は無いけど…


とにかく着任を報告するため執務室の扉をノックする。


「失礼します。アレックス・ササキ大尉、入ります!」


そう言って扉を開けて入室する。


部屋の中には司令官らしき人物が、俺に背中を向けて窓から風景を見ていた。


「時刻0913時 アレックス・ササキ大尉、“第208戦術戦闘航空隊”隊長として着任致しました!」


そう言って、背中を向けている司令官らしき人物に敬礼をする。


「お疲れ様です大尉。オーシャン島からの飛行は大変だったでしょう?」


…どこかで聞いたことのある声だ……

どこでだ?

疑問に思っているとその司令官が振り返り自己紹介をする。


「初めまして…と言うのは可笑しいですね…。当基地司令官を務めていますベルガー・シュミットです」


……俺は夢でも見ているんだろうか……

なんで少佐がこの基地に?

しかもここの基地司令?


「驚いているようですね大尉?」


「…なんで少佐がここの基地司令官なんですか?」


「駄目でしょうか?ああ…あと私は今、中佐です」


シュミット少佐…中佐はやんわりと俺の間違いを訂正した。


「失礼しました中佐。…駄目では無いですが…少し驚いただけです……と言うか…貴方…こうなる事を知ってたんですか?」


いや…この人の事だ、絶対に分かっていたはずだ。


「ええ…知ってましたよ?それにオーシャン島を出発する時に言ったでしょう?『また会いましょう』と」


昨日の朝のやり取りを思い出してみる……確かに言っていた…。

まさかこう言う意味だったとは…


……この司令官殿には敵わない……


頭を抱え込みたくなる衝動を抑えていると、目の前の司令官が声を掛けてきた。


「呆れましたか、大尉?」


シレッ、と、にこやかに問い掛ける司令官にもう何も反論する気になれない…


「とんでもありませんよ…カフェイン中毒の中佐殿…」


せめてもの反撃にこう言ったが、中佐は、お誉め頂き光栄です、と言ってくる。


…今度こそ本当に反論する気が失せた…


「……失礼しました中佐。これからもまたよろしくお願いします」


そう言って、中佐にもう一度、敬礼を捧げる。

中佐は、こちらこそ、と言って、綺麗な敬礼を返した。





シュミット中佐に着任の報告をした後、俺は中佐に勧められて宿舎の俺に当てがわれた部屋に行き、疲れをとる事にした。


…正直に言って…疲れた…


丸1日、機体を操縦していたために、かなり疲れが溜まっている…


ダッフルバックを床に置き、飛行服を脱ぎ、ラフな格好になった所でベットに横になる。

本当ならシャワーでも浴びて、すっきりしてから横になっても良いのだが、そんな気にならないくらい疲れている。


ボーッ、と部屋の天井を見ながら部屋に付いている扇風機が回っている音を聞いていると、だんだんと瞼が重くなり睡魔が襲ってくる。


その睡魔に逆らわずに俺は瞼を閉じた…。





第03話へ続く

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