第12話 Part2
できるだけ、ほのぼのとさせてみました。
銃知識多数。
ご意見ご感想、お待ちしてます。
−俺には国なんか背負えねぇよ。フィーナとアレックス、あと部隊の連中を背負うだけで精一杯だ−
1929年 シンヤ・ササキ少佐
…静か過ぎて、鳥のさえずる声だけが響いている。
街角の花屋で買った白い花を小脇に抱えながら同様に白い墓石が列なっている場所を歩く。
花の名前なんか知らない。
ただ、目に付いて気に入ったから買っただけの事だ。
ここは、国立墓地。
用事をひとつ済ませた俺はついでとばかりにこの場所に来た。
マックス達は実家に着いただろうか?
あいつの事だ、きっと酒やらツマミやらを買って実家に向かってるだろう。
そんな事を考えながら墓地の一角で歩みを止める。
今日は、この墓に用があった。
石に刻まれた年号を見れば、この墓に眠る者が40歳で人生を終えた事が判る。
片脚を地面に付けて花を墓石に捧げる。
そして、買ったばかりの煙草に火を点ける。
…倭国や東洋の国々にはセンコウとやらがあるそうだが、ここにはそんな大層な物は無いからその代わりだ。
ひと息吸い、花の横にそれを置く。
置いた後、もう一本引き抜き口に咥え、火を点ける。
肺一杯に煙を吸い込み、吐き出す。
俺はそのまま胡座をかき墓石と対面する形で座り込む。
墓石にある煙草は徐々にだが、灰になっていく。
今思えば、この人もよく煙草を吸っていたな…。
禁煙する、と言ってたのに結局は成功しなかった。
出来たなら…この人と、一緒に煙草を吸い、酒を飲み、そして空を飛びたかった…。
…そんな事など、10年も前に諦めたのに…。
灰が落ちる音で意識が戻って来た。
ふいに見れば、コートに落ちた灰が付いている。
それを息を吹いて飛ばす。
視線を墓石にやれば、置いた煙草は根元まで灰になっていた。
それと咥えている煙草を最近になって持ち始めた携帯灰皿に入れて、腰を上げる。
軍服の尻に付いた土や草を叩いた後、背筋を伸ばし敬礼した。
返礼が無い敬礼ほど虚しく、悲しいものは無い…。
敬礼から直り、踵を返して墓を後にした。
墓石に刻まれていた名前は“シンヤ・ササキ”。
国防海軍少将にして、俺の父親…だった人物だ。
「…家に帰るよ。またな…」
そう呟き、墓を後にした。
……ちょっと買い過ぎたな。
久しぶりに…。
と言っても、この前、随分と騒いだんだが…。
ジープの後部座席には、酒やらツマミが入った紙袋が満載。
オリビアには、食材を買った方が良い、って言われたけど…まあ、大丈夫だろ。
しかし、何時も思うが…アレックスの実家って遠いな。
「あの少佐、随分と走ってますけど、まだ着かないんですか?」
「何せ、郊外だからな。でも見晴らしは良いぞ?家から少し歩けば、海だし、裏には山あるし」
荷物に埋もれるような形で座っているオズワルドにそう返す。
確かに、絶好のロケーションだった。
良い家だったし、アレックスの嫁さんになる人が羨ましいぜ。
「楽しみですね」
ウキウキした様子で、言うオリビア。
さて、あともう少しだな。
「着いたぜ。ここが、アレックスの実家」
ブライアン副長は、そう言ってジープを路肩に停める。
通って来た道には数軒しか家を見なかった。
しかも、基地からかなり離れている。
そんな場所に隊長の実家は建っていた。
大きさはこの国では平均的。
なんだけど…。
「…見たことが無い造りの家ですね」
「まあ、そうだろうな。アレックスの親父さんが、無理言って造ってもらったらしいぜ」
「…確か、隊長のお父さんって…」
「そ、倭国出身。その国の建築様式が混ざってるらしい」
なるほど…。
全体的には、よく見かける家だけど、細かい所は見たことが無い造りになってる。
なにより、石造りじゃなくて木造なのが印象的。
「それはそうと、なんでオリビアがアレックスの親父さんのこと知ってんだ?」
「以前、隊長に聞きましたから…」
「…すごいな」
なんだか、羨望の眼差しで私を見る副長。
「俺とサミーがそれ教えられたの、知り合って一年くらい経った頃だぜ…。なんつーか、…尊敬する」
そのやり取りの後、副長とオズワルド君にからかわれた。
…顔が熱く感じたのは、きっと気のせい。
「…さてと、オリビアをいじ…からかうのはこのくらいにしてと」
今、いじめると言おうとした!?
「…酷いですよ副長」
「取りあえず、早いとこ中に入るか」
無視ですか?
「でも少佐、鍵が有りませんけど?」
「え〜と、ちょっと待て」
そう言って玄関に続く幾つもの石畳を歩きながら、ひとつの石畳の上で止まる。
「…ここだな」
呟いて、副長が石畳に手を掛けると簡単にそれはひっくり返った。
「おっ、あったあった!」
石畳の下から出て来たのは、鍵。
「…あの少佐、なんでそんな所に置いてあるんですか?」
「…なんでだろ」
苦笑しながら答える副長。
…あんまり深く考えないようにしよう。
「とにかく、さっさと入ろうぜ」
「そうですね。…あれ?」
視界の端に入ったのは、庭に生えている一本の木。
その下には、白石があった。
あれは…お墓?
「…副長、あれ何ですか?」
「ああ、あれはサクラって木らしいぜ」
「サクラ?」
「Cherry blossomだ」
春になると綺麗な花を咲かせるあの木か。
私もあの花は好き。
「…じゃあ、あのお墓は?」
「…アレックスの親父さんとお袋さんの、だ」
そう…だったんだ…。
近付いてみると、お墓には綺麗に名前が彫られていた。
右側には…。
“Fina・Sasaki”
そして左側には…。
“佐々木信也”
なんて…読むんだろう…?
あっ下に、名前が彫られてる。
えっと…。
“Shinya・Sasaki”
「…シンヤ・ササキ」
「どこかで、聞いたことが有るような…」
「オズワルド君も?」
思いだせない…。
「お前らもよく知ってるぞ?」
振り返ると、いつの間にか煙草を吸っている副長が笑っていた。
「知ってる?」
「ああ。お前らも操縦と戦闘の教本は読んだことあるだろ?」
当たり前だ。
飛行機を飛ばし、それで戦うなら誰でも読む。
「兵学校と航空学校で渡される教本の編集者の名前は、クラウス・オリビアそしてシンヤ・ササキだ」
そうだったの!?
お父さんが編集したのは知ってたけど、まさか…。
「隊長のお父さんも関わってたなんて…」
「そうだよな。…でも俺は目次の下に書かれてた台詞に驚いた…というか、感動した」
目次の下?
副長の言葉に疑問を持ったオズワルド君がバックの中から教本を取り出してページをめくり始めた。
「えっと…、これですね」
オズワルド君が持っている教本を覗き込むと確かに項目が書かれている目次の下に、文字が綴られている。
『再び、戦いの空が、英雄を必要とする空が戻らぬ事を切に願う』
-海軍中佐 シンヤ・ササキ-
目次の下には、そう綴られていた。
でも…。
「…叶いませんでしたね」
「…そうだな」
私を含めて三人共、言葉を失い沈黙してしまった。
この人が、どういう気持ちでこの言葉を書き記ししたのかは、私には考えが及ばなかった。
「…あれ?下にもうひとつ…」
オズワルド君の呟きで、私と副長は教本を再び覗き込んだ。
『この本を親友であり上官であった、シンヤ・ササキ海軍少将に捧げる』
-1931年 クラウス・オリビア海軍中佐-
そこには、お父さんの言葉もあった。
「…隊長のお父さんって凄い人だったんですね」
「確かに凄かったらしいぜ?俺も昔、アレックスに親父さんのこと聞いて色々と調べてみたんだ」
オズワルド君の言葉に副長はそう答え、再び口を開く。
「シンヤ・ササキは第一次中央海戦争に第13制空戦闘航空隊の隊長として出征。停戦時の総撃墜数は…確か、115機だったらしい。ちなみにオリビア少将は103機を撃墜してる」
「…本当に凄いですね」
「ああ。つーことは、ウチの部隊にはサラブレッドが二人も居るってことだな」
笑いながら、私を見る副長。
…えっ?
わっ…私?
「…私ですか?」
「あとアレックスな。二人とも撃墜王の血を受け継いでんだ。正にサラブレッド」
「ですよね。…あっ!」
「どした、オズワルド?」
何か思い付いたような声を出したオズワルド君。
彼は躊躇いがちに、副長に答える。
「あの〜、少佐?仮に。仮にですよ!?」
「良いから早く言えよ」
「…もし、そのサラブレッド同士が一緒になって子供が出来たら…」
……
………
はいっ?
えっ…ええぇっ!??
「…プッ。アッハハハ!!」
腹を抱えて笑い出す副長。
う〜、駄目!
顔が熱い!!
「副長!!」
「悪い、オリビア。でも…クッハハハ!」
笑い過ぎです副長…。
さっきまで、シリアスな雰囲気だったのに…。
「ヒ〜ヒ〜、あ〜腹痛え。とにかく、さっさと家ん中に入ろうぜ」
「あっ待って下さい少佐!」
顔が熱いのを無視しながら家へ入って行く二人を見送る。
「もう…」
家に入って行く二人を見ながら、再び並んでいるお墓に向き直る。
隊長のご両親ってどんな人だったんだろう?
今となっては会うことなんて叶わない。
でも…。
それでも…。
「…会ってみたいな…」
もしかしたら、私達が知らない隊長の一面を教えてくれるかもしれない…。
優しい人達だったら良いな…。
そう想い、手を組んで祈りを捧げる。
どうか、ご子息と私達をお守り下さい。
その瞬間に吹いた、穏やかな風。
その風が、私の頬を撫でる。
まるで、それが答えのような気がした…。
隊長の実家って結構、広いんだな…。
中に入っての第一印象はそんな感じだ。
少佐に付いていくと、たぶん居間だと思う部屋に着いた。
レンガの暖炉にフローリングの床。
部屋の中央にはソファーに挟まれる形で大きめのテーブル。
壁には写真が飾られ、木で作られた棚の上には隊長が持っているのと同じような剣が剣掛けに置かれていた。
そして剣が置かれている棚の上には、…なんて読むか分からないけど…。
“疾如風徐如林侵掠如火不動如山”
そんな言葉が白い紙に黒く流れるような書体で書かれて壁に掛けられていた。
「あの〜少佐。これなんて読むんですか?」
「んっ?ああ、それは俺もよく分からないし、読めないんだが…」
顎に手をかけて、思案している少佐。
「えっと…確か…」
思い出したのか躊躇いがちに口を開く。
「そいつは−」
「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如し」
少佐の言葉が遮られる。
声の発声源である後ろを振り向くと何時の間に着いたのか、家の主である隊長と一緒に大尉がいた。
「アレックスか、速かったな?」
「ああ、途中でバイクを借りて来た」
窓から外を見るとジープの近くに一台の軍用バイクが停まっている。
「そっか。んで、どうゆう意味だ?」
「そうです教えて下さい」
着いて早々に悪いとは思うけど、気になってしょうがない。
「分かった。…これは、分かりやすく言えば、戦の心得だ」
そう言って紙に近付く隊長。
「風のように速く動き、林のように静かに佇み、燃え盛る火のように侵略し、山のように動かない。…戦だけじゃなくて生活にも応用できるが。あと、他に知ってる範囲では“兵は巧遅よりも拙速を尊ぶ”や“兵は機動なり”ってのがある。ちなみに、この場合の兵は戦争の意味だ」
へぇ〜。
そうなんだ。
「隊長は博識ですね」
そう言ったら隊長は照れ臭そうに頭をかいた。
「そんな大層なもんじゃない。親父の受け売りだ」
苦笑いしながら、テーブルに歩み寄る隊長。
そしてその上に何か…小さな木箱を置いた。
「それ、なんですか?」
「修理を頼んでた物」
大尉の問い掛けに短く返した隊長。
その木箱から取り出したのは、一挺の拳銃。
支給されている拳銃と同型だけど、細かいところが違っていた。
「さてと、皆、付いて来てくれ」
歩き出した隊長に付いていく俺達。
居間を出て少し歩くと階段があった。
それを下に降りて行くと地下室に着いた。
…地下室というよりも物置が正しいかもしれない。
「…今度、掃除しないと…」
したほうが良いですよ隊長。
…埃っぽいし。
隊長は壁近くに並べられている大きな3つの本棚に近付き、一番奧のそれに手を掛ける。
…まさかと思うけど…。
…やっぱりね…。
想像どうり、その本棚は動いて壁の中に消えた。
代わりに現れたのは、鉄製の扉。
それを隊長が鍵で開けると、重い音を響かせて扉が開いた。
再び歩き出した隊長に付いていくと、また鉄製の扉。
それをまた鍵で開け、ドアノブに手をかけて。
手をかけて……。
「……あれ?」
開かない…。
「…マックス。手伝え」
「またか?」
「錆ついてやがる」
「そろそろ、買い替えたらどうだ?」
「…考えとく」
二人がかりで押しても開かない扉にいらいらした隊長が無理矢理、足で蹴ると…簡単に開いた。
「…ここも掃除だな」
そうですね。
…さっきの比じゃない。
…すっごく埃っぽい。
しかも着いた場所は真っ暗。
隊長が手探りで電灯のスイッチを押すと、部屋が明るくなって…。
…なんだ、こりゃ!?
着いた場所は、射撃場とでもいうべき部屋。
別に驚くほどでも無い。
軍やそれに準ずる組織に所属している人間なら家に射撃場があってもおかしくは無い。
…普通の射撃場ならな…
この家の射撃場は軍のそれと見間違うほどに設備が整っている。
何故か、部屋の一角に万力など何か作業をする道具があったのが少し気になった。
「さて、早速始めるか」
俺と大尉が呆然としているといきなり隊長がそう言ってきた。
「えっと始めるって…?」
「忘れたのか?…何時だったか約束したろ。射撃練習に付き合うって」
そう言われて、記憶を辿る。
確かに言ってたような…。
「んじゃ、振り分けはどうする?」
「そうだな…。俺がオズワルドに教えるから、お前はオリビアを」
「逆でも良いんだぜ?」
「…何がだ?」
「やっぱ良い…」
「?」
隊長……。
少しばかり広い射撃場に銃声が響いている。
お手本とばかりにマックスが何発か撃ったが、相変わらず良い腕をしていた。
取りあえずオズワルドには、ひたすら撃って撃って撃ちまくれと言って俺は武器庫から取り出したM1ガーランドを分解掃除している。
ちなみに、武器庫にはこれだけじゃなく世界中の古今東西の銃が納められている。
数は…正直いってわからない。
多過ぎて数えたことが無いからだ。
掃除しながら、脇目にオズワルドを見る。
俺が言った通りに拳銃をひたすら撃っている。
少し見ただけで、何で着弾箇所がバラ付くのかが判ってしまった。
「オズワルド!」
銃声に負けないよう声を張り上げて叫ぶとオズワルドは、少しビクついた表情で振り向いた。
別に怒ってるわけじゃないんだが…。
「ひとつアドバイスだ。お前は発砲時に肘と手首を過剰に曲げて反動を吸収する癖がある。それが原因で着弾がバラ付くんだ。そこを注意してやってみろ」
「分かりました」
あと、これは言い忘れたが、発砲の反動を利用して作動する自動式の銃では衝撃を殺すのはあまり良く無い。
銃に負担が掛かって、作動不良の原因になってしまうからだ。
…かくゆう俺も昔はそうだったんだが…。
「凄い、凄いですよ隊長!こんなにも変わるもんなんですね!!」
標的を見ると中心に弾痕が集まっている。
…才能はあるみたいだな。
あと、嬉しいからって銃を振り回すな。
「お〜いアレックス!」
急にマックスが呼びかけてきた。
「どうした?」
「オリビアに教えてたんだが、いまひとつなんだ」
近付いて発砲している彼女を見る。
構え方は教本通りで射撃姿勢は悪くない。
…ないんだが。
「オリビア、もっと楽な姿勢で撃て」
「えっ?」
「教本通りの姿勢で自分が撃ち難いと意味が無い。もっと肩の力を抜いて、楽な姿勢で撃ってみろ」
言われるがまま、彼女は先程までとは違う姿勢を取る。
そして銃爪を引き、発砲。
さっきと比べれば標的の中心に集弾しているが、やはりいまひとつ。
原因は、…ここまで来るとひとつしか思い付かないが…。
「オリビア、もしかしたら反動がキツいんじゃないか?」
「…はい。お恥ずかしながら」
やっぱりな…。
支給されているM1911A1は.45ACP弾を使用するため大威力を誇る代わりに反動がデカい。
いくら訓練されているとはいえ女性の細腕ではキツいものがある。
「ちょっと待ってろ」
オリビアにそう言って、先程入ったばかりの武器庫に戻る。
めぼしい物は、っと…。
えっと…FN M1935は…9mmパラベラム弾だから互換性には向いて無い…。
ベレッタ M1934もしかり…。
ワルサーP38も駄目…。
リボルバー系統は、装弾数が少ない…。
なら…これだな。
一挺の拳銃を選んだ俺は武器庫を出て、待っていたオリビアにそれを渡した。
「これは?」
「コルトM1903、通称オートポケットだ。装弾数は8発、使用弾薬は.32ACP弾だ」
「…今までのと似てますけど、ちょっと違いますね」
「ああ、基本的な扱いは同じだが、撃鉄内蔵式だ。それに少し小さいから携行しやすいだろう。さっ撃ってみろ」
標的を指し示すと彼女は狙いを定めて銃爪を引いた。
見た限りでは、反動もそれほど強くはなさそうだ。
標的には中心部分に集中して穴が空いている。
一弾倉、撃ち終わったのを見て声を掛ける。
「どうだ?」
「凄いですね。今までと違います。手に馴染むというか、撃ち易いです」
それは良かった。
「それじゃあ、それあげるよ」
そう言ったら驚くオリビア。
「えっ、良いんですか!?」
「良いの良いの。最初からやるつもりだったからな」
「…ありがとうございます」
「どういたしまして。…ほら弾丸だ。無くなったら言ってくれ」
紙箱に入った2ダースほどの弾丸を渡すと彼女はしっかりと抱えた。
「あの隊長、俺には何かないんですか?」
そんなこと…。
「あるわけ無いだろう」
そう言ってやったら肩を落とすオズワルド。
男なんだから、自分で何とかするんだな。
いまだに肩を落としてるオズワルドを尻目に俺は自分が持って来た愛銃を取り出した。
おやっさんは、鉄板も貫通するって言ってたけど、一応、試してみるか。
紙箱から一発だけ徹甲弾を取り出し、スライドを引き、排莢口から直接、薬室に装填する。
手近な所にあった鉄板、厚さは1cmくらいか?
それを標的の場所に置く。
射撃位置に戻って、構える。
念のため、両手で構えて銃爪を引く。
ガツン、と手に来る反動は、そこそこあるな。
まあ許容範囲ではあるが…。
で、鉄板は…。
「うっわ…」
思わずそんな声が出た。
鉄板には見事に綺麗な穴が穿たれていた。
「アレックス…何を使ったかは知らねぇけど、多用すんなよ?」
「ああ…分かってる」
そう返して愛銃をホルスターに収める。
…人間相手には、使いたくないな…。
使う状況にならないのが最善なんだけど…。
さて、と。
グギュルル〜〜
何の音かな〜?
…なんで皆、俺を見てんだ?
俺には何も聞こえなかったぜ〜?
「アレックス、お前か?」
「違うぜ〜」
「嘘つくな。そして目を反らすんじゃねぇ」
はい、俺の腹の音です。
正直に言います。
腹が減りました。
皆、笑わないでくれないか?
「こりゃ大変だ。隊長殿に戦死されたら、たまったもんじゃねぇ。オリビア、悪いけど何か作ってやってくれ」
「はい、分かりました。ところで、台所は?」
意見無視で話が進んでる。
しかも、マックス!
ちゃっかり案内してんじゃねぇ!!
「隊長って案外−」
「何か言ったかオズワルド少尉?」
「なんでもありません!」
なんて続けようとしたのかは知らないが…。
「よし、お前には特別にマンツーマンのレッスンをやってやろう」
「遠慮いたします!」
そんなこと言うなって、なあオズワルド?
「えっ、ちょっ、隊長!?少佐に大尉、助けて下さいぃぃ!!」
射撃場に響く叫び声。
この後、かわいい部下のために俺はみっちりと練習に付き合ってやった。
第13話に続く