第12話 Part1
アレックス隊長がキレちゃいました。
皆さんも人の嫌がる事を言うと、こうなるかも…。
ご意見・ご感想をお待ちしてます。
…なんでも良いですから励みが欲しいです…。
現在時刻1239時 場所中央海上空2000m 輸送機内
今朝、支給されたばかりの慣れない純白の士官制服の襟元を直す。
…詰め襟だからあんまり意味無いけど。
階級章も曹長から少尉のそれに変わった。
制服と一緒に支給されたサーベルは近くの座席に立て掛けている。
なんで、俺がこんな所に居るかというと。
早い話が勲章授与の為に本土の首都に向かっているためだ。
俺だけじゃなくて、隊長もブライアン大…じゃなかった、少佐もオリビア大尉も一緒にこの機体に乗り込んでいる。
本当なら何時も通りに戦闘機で行きたかったんだけど、今まで無理させてきた愛機のエンジンは交換が必要、と言われて置いて来た。
それも部隊の全機が。
何時もより遅い速度の輸送機に若干の違和感を感じながら機内を見渡す。
俺の右隣に座っているのはブライアン少佐。
手に何か本を持っていてそれを読んでいる。
表紙は戦闘教本になっている。
少佐が読んでいるんだから難しい内容になってるんだろうな…。
そう思いつつ、ちらっと中身を見てみる。
………………。
…まぁ…内容は、あれだ。
男性なら好んで読みそうな内容だった。
「…読むか?」
いきなり言われて吹き出しそうになりながら丁重に遠慮した。
一方、向かいの座席に座っている隊長。
足元にダッフルバックを置いて、腰の剣帯に真っ黒な…倭刀…だったかな?
それを差している。
何時だったか疑問になって隊長に聞いた事がある。
なんで、儀剣やサーベルじゃなくて倭刀なのか、と。
答えは簡潔だった。
なんでも特別に許可してもらったらしい。
一度だけ持たせてもらったけど、重かった。
それを簡単に片手で振り回してるのを見ていると、あらためて隊長は凄いなと感心してしまった。
その隊長は…。
「……………」
…寝てる。
離陸から、しばらくして隊長は寝てしまった。
…時々、隊長は凄いのか、おかしいのか判らなくなる。
しかも頭を横にいる大尉の肩に乗っけて寝てる。
こんな姿を基地の人達に見せたら皆が隊長に襲い掛かってくるかもしれない。
…返り討ちにされるのが関の山だろう…。
一方の大尉は、ちょっとだけ顔が赤くなってる。
頭を乗っけられた時ほどではないけど。
こう言ってはなんだけど。
お似合いの二人だと思う。
そのことで、さっき隣のブライアン少佐とで大尉をからかっていたら真っ赤な顔で否定された。
でも…ねぇ。
説得力に欠けるというか。
本土に着くまで、まだまだ時間がかかるよな。
東側は制空権を掌握してるし、たぶん大丈夫だろう。
…単調なエンジン音を聞いてたら眠気が…。
……少し寝よう……。
現在時刻0657時 場所共和国首都 海軍首都防空隊基地
ふあ〜。
…寝過ぎた…。
まさか半日以上も寝ていたとは…。
しかもオリビアの肩に乗っかって…。
彼女には悪いことしたな。
でも、寝心地は良かった…。
なに考えてんだ俺!?
でも…事実だしな…。
何時までも機内にいるわけにもいかないし、早く降りよう。
ダッフルバックを肩に担いで輸送機のタラップを降りると妙に懐かしい人物がいた。
「…なあマックス?」
「どした?」
「機長に目的地が違うと伝えてくれ」
「…ここは首都じゃないってか?」
「ここは、ニミッツ海軍基地だろ?」
「いんや。ここは首都ダレンだぜ」
「だったらなんで、シュミット中佐がいるんだ!?」
そう。
何故か、ニミッツ海軍基地司令官のベルガー・シュミット中佐がいる。
「皆さん、幽霊を見たような顔しないで下さい。結構、傷つきます」
わざとらしい悲しそうな表情をしながら中佐がそう言った。
「…中佐、何故ここに?」
「皆さんが勲章授与式に召喚されると聞きまして、あの手この手を使って来ちゃいました」
呆気に取られる俺達。
あの手この手って…。
聞かないほうが身の為のような気がする。
「ミッドウェー海軍基地司令のオリビア少将から話は聞いてます。まずは、昇進おめでとうございます。ところで授与式は明日の夕方からなので皆さんは自由に過ごして構いません。式の後は休暇なので楽しんで下さいね」
二言三言話して、シュミット中佐はどこかへ行ってしまった。
「自由行動ね。…どうするよ隊長?」
「そうだな…。宿舎で過ごすのも悪くないが…」
悪くはないんだが、休暇なのに宿舎にいるのは精神衛生上よろしくない。
どうしたもんか…。
「なぁアレックス?」
「なんだ?」
「お前ん家、行っても良いか?」
はい?
なんて言いましたマックス?
「なんで…」
「暇だし、予定も無いし、エトセトラ、エトセトラ」
本気で言ってんのかよ。
「あの…隊長。私も…」
はい?
「あの…俺も…」
なんだと?
「「お邪魔して良いですか?」」
えぇ〜っ!?
俺は現在、ジープのハンドルを握って運転している。
……部下三人を乗せて。
やっぱり俺はくじ運が壊滅的に悪いみたいだな…。
結局、部下に押し切られた俺はほとんどヤケクソで了承してしまった。
溜め息が出てしまう。
…ハァ…
「アレックス、溜め息吐くと幸せが逃げるんだぞ」
「誰のせいだと…」
「…ごめんなさい…隊長。迷惑ですよね」
「いや、そんな事は!?」
慌てて言ってしまった。
助手席のマックスがニヤリと笑っている。
そんな時だ。
空腹を知らせる音が聞こえたのは。
「「「「………」」」」
おい、誰か喋れよ。
「…あ〜、アレックス。悪いんだが、ここら辺でめぼしい店は無ぇか?」
お前かよ!!
ジープを路肩に停めて、一軒のオープンカフェのテーブルに座った俺達。
軍人が珍しいのか奇異な視線が痛い。
「一応、言っておくが割り勘だからな」
「分かってるってアレックス。これ以上、お前に借金増やしたくない」
「借金!?」
少し物騒な単語に驚くオズワルド。
オリビアも驚いた表情をしている。
「心配するな。ポーカーでの賭け金だ」
納得した様に再びメニューに目を落とす二人。
なんだか、マックスは淋しそうだが無視する。
注文が決まった時にマックスが俺の肩を小突き始めた。
「痛えな!何だよ!?」
「あれ」
マックスが指差した方向を見るとエプロンを着た、このカフェの店員とおぼしき女性が三人の男達に絡まれていた。
「物騒なもん持ってるな…」
「ああ…」
三人組の比較的、体格の良い男の尻ポケットが妙な形に膨らんでいる。
「なんだと思うアレックス?」
「たぶん…ナイフ…かな」
形から見てそう判断した。
「よし、アレックス、助けて来い」
「命令かよ!?」
「分かった。助けてあげて下さい」
「…お前は?」
「腹減って、力が出ない」
…呆れた…
「頑張れよ〜」
「ハァ…」
思わず溜め息が出た。
軍人だとバレるのは少々マズいので椅子に掛けてあった黒いコートに袖を通して男達のもとに向かった。
「お詫びに一日、俺達に付き合えよ!」
「絶対イ・ヤ!」
「気の強いとこが、またそそるぜ」
「ちょっと、離しなさいよ!」
「ほぅら、こっち来いよ!」
「イヤァァ!!」
なんと言うか…。
典型的なアホどもだな。
というか…聞き覚えがある女性の声だ。
でも、助ける他ないか…。
女性の手を掴んでるバカの肩を叩くと律儀にこっちを向いた。
「なんだテメェ!」
「事情は知らないが手を離した方が良いと思うぞ?」
出来るだけ穏便に。
「テメェには関係無ェだろう!」
穏便に。
「んンっ?オメェよく見たらYellow monkeyじゃねぇか!?」
…穏便に…。
「おっホントだ!ヒーロー気取りかどうか知らねぇが、Yellow monkeyはお呼びじゃねぇんだよ。帰ってママのおっぱいでも吸ってやがれ!」
………
「ギャハハハ!!」
前言撤回。
意外にも蝉の寿命より短すぎる俺の心の琴線に触れたコイツらに地獄を見せてやる。
「アレックス〜。ほどほどにな〜」
マックスが何か言ってるが、知ったこっちゃねぇ。
「本当に済みませんでした!」
「ごっごめんなさい!」
「もうしませんから許して下さい!!」
呆気なさすぎ。
ものの一分ほどで片が付いちまった。
面白くねぇ。
「…俺の視界から消えろ。…目障りだ」
ほんの少しばかり怒気を込めて言ったら、尻尾巻いて逃げて行った。
しかし、速いな。
「こらっ、アレックス!!」
聞き覚えがあると思ったら…。
「…ベッキー…」
「ベッキー、じゃない!誰が助けてくれって頼んだのよ!!」
ハァ…。
今日は溜め息の多い日だ。
「私はレヴェッカ・タトリンです。ベッキーと呼んで下さい」
「…不承ながら、俺の幼なじみだ」
騒動が収まった後、ベッキーを仲間に紹介する羽目になった。
「久しぶりだなベッキー。元気だった?」
「お久しぶりですブライアンさん」
マックスは以前、家に留まった時にベッキーを紹介した。
ついでにサミーも一緒だったため彼女を知っている。
「しかし、なんで叩きのめさなかったんだベッキー?」
「…お店の名前に傷が付くかと思って…」
マックスの疑問に小さく答える幼なじみ。
確かに護身術は昔、基礎だけだが教えた。
現在では、そこら辺の男には負けないくらい。
ベッキーは、俺のひとつ年下で金色の長髪で顔立ちは調ってはいるんだが…。
男勝りな性格で今も浮いた話がひとつも無い。
そんな女幼なじみを持った俺としては苦労する。
…ついでに、俺の恥ずかしい過去を知ってる点でマックスやサミーよりもタチが悪い。
「アレックス…何か失礼なこと考えて無い?」
「何が?」
「…何でもない」
…笑顔で聞いてくる分、怖い。
「ところで注文良いか?」
ベッキーがメモを用意したのを見て、注文をしていく。
全員が注文した時、俺はひとつ注文するのを忘れていた。
「ベッキー、灰皿頼む」
「…タバコ吸うの?」
心底、嫌そうな顔で確認するベッキー。
マックスに確認したところこいつも吸うらしい。
「…ハァ…」
溜め息を零して店内へ行くベッキー。
「…なんと言うかパワフルな人ですね」
「まぁな」
「でも…可愛い人」
「可愛いかぁ?」
アレが可愛いなら世の中の女性はどうなるんだろう?
「失礼ですよ隊長。幼なじみなのに」
「幼なじみだからだぞオズワルド。昔からあいつは思い付いた事は即実行だから酷いのなんの。中学の時なんか柄の悪い男子に喧嘩売って、負けて泣いて、代わりにそいつを俺がボコボコにしたんだから。他にも−」
続けようとした時、目の前に灰皿が勢い良くテーブルに叩き付けられた。
ベッキーの顔は…。
なんだっけ…。
親父はこういうのを…。
そうだ!
般若みたいな顔だって言ってたな。
ベッキーの表情は正しくそれ。
「灰皿お持ちしました」
「あっありがとう」
一応、礼を言うとベッキーはにっこりと笑って口を開いた。
とてつもなく嫌な予感が…。
「お客様?小学校まで虐められて泣きながら帰ってくる人を慰めて、虐めた人達を代わりに殴ったのは誰でしたかしら?」
………。
貴女です。
レヴェッカさん。
「ご注文の品が出来るまでしばらく掛かりますので、その不味い煙を吸ってお待ち下さい」
「…はい」
これ以上言うのは止めとこう。
どうせ死ぬなら空で死にたい…。
全員の食事が終わりに差し掛かった時、俺は紙幣を何枚かテーブルに置いて立ち上がった。
「隊長?」
「煙草が切れた、ちょっと買ってくる。マックス、二人を連れて先に行っててくれ。鍵はあそこにあるから。ついでに俺の荷物も頼む」
「あいよ」
マックスが了承するのを聞いて俺はオープンカフェを後にした。
道路を横断して路地裏に入りしばらく歩く。
路地裏の一角に古びた扉がある。
それを開けると地下へと続く階段。
降りて行くと金属を削る音とドリル音が聞こえて来た。
階段を降り切るともうひとつの扉がある。
それを開けると目に飛び込んで来るのはあちこちに置かれた銃・銃・銃。
ここは、銃砲店を営み銃技師が経営している店。
俺の馴染みの店だ。
「いらっしゃっ…なんだアレックスか」
工房で作業をしていたゴーグルを掛けている禿頭の老齢の男が声を掛けて来た。
この人も俺が子供の時から知っている。
「しかし久しぶりだなアレックス。生きてたか」
「よぉ、おやっさん。残念ながら、まだ足はあるぞ」
笑いながら手で足を叩いて見せる。
「ハハハ、どうやらそのようだ」
「ところで、頼んでたのは?」
おやっさんは工房に戻って小さな木箱を抱えて持って来た。
木箱を開けると黒い光沢を発し、鈍く光る銃。
M1911A1。
俺の愛銃だ。
一年ほど前に不具合が生じて以来、ここに修理と改良を頼んでいたのだ。
「着弾のバラつきは、インナーバレルが原因だった。そこを交換して、後は注文の通り改良した」
説明を聞きながら愛銃を手に持ち、構える。
…やっぱりこっちの方がしっくり来る。
「まず、ハンマーを通常からリングハンマーに交換。グリップセイフティも排除した。あとこれは実験を兼ねたんだが、銃口部分を延長して試作した消音器を装着出来るように改造した。こいつがそれだ」
そう言いつつ、おやっさんは黒い金属の円筒のような物を手渡してきた。
「言っておくが、そいつは消耗品だ。実験だと20発前後で効果を失う。…まぁ、集弾率を上げるには使えるかも知れんがな」
「…なるほど」
「ほら、構えてねぇで撃ってみろよ」
苦笑しながら、腰の拳銃から弾倉を抜いて、愛銃に装填しスライドを引いた。
そして、10m先にある的に狙いを定めて銃爪を引く。
弾痕は狙った場所にしっかりと出来た。
いままで使っていた代用の同型の拳銃は若干だが、弾が右に流れる癖があった。
これなら、それを気にせずに撃てる。
「どうだ?」
「良い仕事してくれたな、おやっさん。流石は共和国一の銃技師」
「よせやい」
苦笑するおやっさんに俺は紙幣の束を差し出した。
それを受け取った彼は怪訝な表情をした。
「アレックス、多過ぎるぞ?」
「銃の修理と改良、保管料そして、今までのツケだ。取って置いてくれ」
「なんでまた急に」
おかしな事を、とでも言うようにおやっさんが言った。
「…もう会えるかどうか分からないからな。…清算だよ。…じゃあな、おやっさん。元気で」
「待ちな!」
店を出ようとしたら、不意に呼び止められた。
再び店内に視線を向けるとおやっさんは工房の中で何かを探している。
「ほら、こいつも持っていけ」
持って来たのは、さっきの消音器が三本と革製のホルスターに弾丸が入ったケース。
ケースには、何の表記も書かれていない。
「…こいつは?」
「これは、わしが道楽で作った徹甲弾だ。有効射程は通常弾と同じで、1cm程度の鉄板なら簡単にブチ抜ける。口径はお前さんの銃と同じだ。
だが、見分けが付かんから弾頭を赤く塗っておいた。持って行け」
「…サービスか?」
「違うわ!もし使ってみて実用的だったら金を払って貰うからな。だから…必ず、金を払いに戻って来い。…お得意さんがいなくなるのは淋しいんだよ」
参ったな…。
「これじゃあ、簡単に死ねないな」
「当たり前だ馬鹿野郎」
苦笑するしかない。
「それじゃあな。…最近、規制が厳しくなってる。当局の抜き打ち捜査には気を付けろ」
「言われるまでもねぇ。…またのごひいきを」
その言葉を聞きながら愛銃の入った木箱とツケが残っている徹甲弾などを抱えて店を後にした。
第12話Part2に続く
作品中に拳銃用徹甲弾が登場しますが、実際はあまり使われません。
拳銃弾では、十分なエネルギーを得られないからです。
しかし、ブルドーザの排土板くらいなら撃ち抜けるみたいです。
それでも恐ろしい…。