表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

第10話 陥落

少し、急ぎ足で進みましたが、ご理解を。


次ページから本編です。

勲章を貰った理由か?死ななかったからだ。指揮下の隊員も貰った。理由は死んだからだ…。


1929年中央海にて。

とある陸軍分隊隊長へのインタビュー。




1941年9月30日 時刻0850 マウアー諸島本島 野戦飛行場



友軍が上陸してから約一月。

あれから共和国軍は勇戦し、諸島に展開する敵軍を徐々に押し返した。

そして、敵の残存勢力は本島の最西端に位置するマウアー要塞に立て篭もり篭城している。

だが、ここ数日間の要塞に対する攻撃により、友軍は要塞外輪の鉄条網や塹壕を突破または占拠に成功した。

そして残るは敵の本丸のみとなった。


これは大勢の兵士たちの命の代価からの戦果だ。

彼らの犠牲が無駄だったことにならぬよう俺達も彼らに恥じぬ戦いをせねばならない。


そして、今日、司令部から敵要塞への総攻撃の命令が下った。


俺たち航空部隊の任務は対地攻撃と制空権の完全掌握。







「機体の整備と弾薬の補給は完了しました。今、爆弾を搭載していますので少し待って下さい」


「判った。ありがとう」


俺が礼を言った人物は、ジェーン・ガイア兵長。

何故、彼女がここに居るか。

兵長の言葉を借りると−。


『腕前が判らない整備兵に機体を任せられないから』


−だそうだ。


勇ましい事に彼女はこの戦闘の最前線にある野戦飛行場行きを志願したそうだ。


やはりマックスの言う通り男勝りにも程がある。


思わず苦笑してしまうと兵長が訝しむ眼差しで俺を見詰めてくる。


「…大尉、何か?」


「いや。ちょっとした思い出し笑いだ」


そうだ。

彼女がここに来た直後、兵長とウチの四番機がご多分に漏れず漫才を始めた。


あの漫才はなかなかの物で、他の部隊や地上部隊の連中の笑いを誘っていた。


その後も何度か漫才があったが、その度に彼等の周りには人垣で出来る。


今となっては戦場での数少ない娯楽と化してしまっている。

もちろん、俺もその漫才の観客のひとりだ。


「…想像は付きますけど。−搭載が終わった様です。いつでも出撃できます」


「ありがとう」


「御武運を」


そう言って敬礼した彼女に敬礼を返した。


早速、俺は愛機に飛び乗り機体の調子の確認を始める。


計器盤…異常なし。


三舵…異常なし。


燃料…異常なし。


全て異常なし。

出撃準備完了!





野戦飛行場から飛び立った俺達は上空で編隊を組んだ。


周辺の空域に眼を遣ると、他の部隊も編隊を組み、一路、マウアー要塞への進路を取っている。



『よぉ、アレックス。さっき兵長とナニ話してたんだ〜?オズワルドの奴が随分とヤキモキしてたぜ』


『大尉!何言ってるんですかッ!!』


あ〜怒鳴るな、オズワルド。

無線から聞こえてきた四番機の声で、危うく鼓膜が破れるところだった。


「…なに、ちょっとした世間話だ。今度のウチの四番機との漫才はいつなのかを聞いただけだマックス」


『あ〜!あの漫才はいつ聞いても爆笑モンだよな隊長殿?』


『…隊長も大尉も酷いです。中尉は俺の味方ですよね!?』


『…ごめんなさいオズワルド君。私もけっこう楽しみにしてる』


『大丈夫だオズワルド。お前にはちゃんと味方がいるぞ』


『……誰ですか……』


『ガスト』


…そう来たか親友。







拗ねてしまった四番機をなでめている内に俺達は作戦空域に到着。


現在高度1500m


東風が少し強いのが気になるが、許容範囲だ。

戦闘機動に支障は無い。



『ブラック・ウルフリーダーへ。こちらウィザードリーダー。こちらも作戦空域に到達、指示を願います』


アンダーソン中尉以下の俺が指揮権を持っている部隊の各隊長が指示を求めてきた。


眼下には機甲師団を先頭に進撃する友軍陸上部隊。


そして俺達から見て、水平距離約5000mには、小高い山を基礎にして、鉄筋コンクリートで築かれた、“壁”の名に恥じない、堅固なマウアー要塞がそびえ立っている。


この総攻撃では、友軍部隊に相当数の被害が出ることが予想されている。

だが、これ以上、攻略に手間取っていると帝国の本国から陸海空の増援が来ることが予想されたために、司令部は今回の総攻撃に踏み切った。



だが、ひとつだけこちらが有利な点がある。


それは要塞の位置する場所だ。

ここは、島の最西端。

つまり、要塞と海岸線が近いのだ。


そのため、艦隊の戦艦や重巡の主砲射程距離に入る。


海しかも長距離から狙われれば、ひとたまりも無い。


これが、我々に有利な点。


逆を言ってしまえば、それしか有利な点は無く、他は不利なんだけど…。



前線では既に、砲煙が上がっている。

とにかく今は与えられた任務を全うすることを考えねば。


「ブラック・ウルフリーダーより指揮下の全部隊へ。作戦は出撃前のブリーフィングの通りだ。ついでに撃墜された時は敵さんの対空砲を道連れに逝ってくれ。そうすれば、しぶとい奴らが生き残る可能性が高くなる。以上だ、各個に戦闘開始。…これが終われば戦勝パーティーだ。全部隊へ、…必ず生還するぞ!」



『了解!』


『そうだ、生き残るぞ!!』


『全機、対空砲火の合間を縫って爆弾を投下しろ!』


『地上部隊に敵を近付けるな!機銃掃射しろ!!』


空域にいる海軍機が一斉に降下し、抱えてきた爆弾を投下する。


空から襲い掛かる友軍機に敵の対空砲や迫撃砲陣地が沈黙し、その間隙を縫って地上部隊が突撃していく。


『にしてもアレックス。お前が冗談でも“道連れにして逝ってくれ”って言われると寒気がするぜ』


「俺も少し言い過ぎたと思ってるぜマックス」


『…さて、俺達も仕事の時間だ。行くか隊長殿?』


「お前が言うと寒気がするな。…ブラック・ウルフ全機へ各個に突撃。特にオズワルド。地面にキスするなよ!」


『了解しました!ってなんで俺だけですか!?あっ、隊長、大尉、それに中尉も待って下さい!!』



知ったこっちゃない。






戦闘開始からしばらく経った。

戦況は一進一退…いや、僅かにこちらが有利だ。


機甲師団は鉄屑が増えたが進撃を繰り返している。


海兵隊などの部隊も敵の塹壕に突入して、白兵戦を繰り広げている。


片や俺たち航空部隊は地上部隊からの要請で敵部隊に攻撃を仕掛けている。


何度もの支援要請で俺は全ての爆弾を使ってしまった。

部隊の連中も同じだ。


あとは、機銃だけだが、…正直に言って撃ちたくない。

スプラッタはごめんだ。


……しっかりしろ俺!!

割り切れ。

これは戦争なんだ。



『こちら第1海兵師団第2歩兵中隊!上空の支援機へ。敵の迫撃砲および重機からの攻撃熾烈!支援を求む!座標を伝える−』


第1海兵師団第2歩兵中隊はサミーの部隊か。

通信兵が伝えてくる座標を配布された地図に照らし合わせる。


確認した後、肉眼で目標を視認する。


「この無線を聞いている海軍機へ。まだ爆弾を抱えている奴はいるか?」


機銃では完全破壊は難しいと判断した俺は無線で全部隊に確認をとった。


『こちらウィザードリーダー。まだウチの二機が爆弾を抱えています』


「助かった。地上部隊からの支援要請だ、座標を伝える」


座標をアンダーソン中尉に伝え、ややあって了解の返信。


『ウィザードリーダーより全機へ。これより支援に向かう。リッチは迫撃砲をウィルは重機だ。その他の奴は二人を援護しろ』


『了解しました』


『こちらも同じく』


『隊長も援護して下さいよ』


『作戦が終わったら酒を奢ってやる。…よし、突入しろ!!』



短い交信が終わり、彼らは突入した。

主な任務は対空専門なのに、対地もなかなかだ。


ウィザード隊の二機がそれぞれ爆弾を投下し、陣地が沈黙。

掃除が終わったことを地上部隊に伝えようとしたその時だった。


『グワッ!?畜生やられたっ!!』


『隊長、リッチが被弾したぞ!』


『リッチ大丈夫か!?』


『…クソッ腿の付け根を貫通してる。機体の損傷も激しい。これ以上の飛行は無理だ。脱出…出来ない!?畜生…衝撃で風防が歪んでやがる!外に出られない!!』


『なんてこっ−グッ!?対空砲にやられた!操縦不能!!』


『ウィル脱出しろ!!』


『無理です!−ウッ…ウワァァ−−!!?』


『ウィルゥゥ!!』



その場面を直視できた俺は頭のネジが飛んでたんだろうか…。


ウィザード隊のウィル機はそのまま地面に叩き付けられて爆発炎上。


『…アンダーソン隊長。これより敵の対空砲に突撃します』


『命令だ。辞めろリッチ!』


『…その命令を聞くことは出来ません。…二階級特進の申請をお願いします』


そう言ってリッチ機は今や辛うじて飛んでいる隼風を操り敵の対空砲へ黒煙を引きながら突入していった。


突入した瞬間の対空砲の爆発音とアンダーソン中尉の慟哭の叫びはどちらが大きかっただろう。


『ブラック・ウルフリーダー。こちらウィザードリーダー。…当部隊の二機が墜落。これ以上の戦闘続行不能。後退許可を…』


『…了解した。ウィザード隊、野戦飛行場へ後退。機体の整備を』


『…了解。…後は頼みます…』


ウィザード隊の三機は翼を揃えて進路を飛行場へ向け、飛び去って行った。


あの光景は否応にも、あの時を思い出す。

俺の部下三名が、命を散らした瞬間を。


「…クソッ。……態勢を立て直すぞ。全部隊集合しろ」


彼らの抜けた穴を埋めるため俺は命令を下した。


…震えている声を抑える事は出来なかったが…。





現在時刻1028時 場所マウアー要塞付近の塹壕



味方機が何機か墜ちたのがここからも確認できた。


だが、支援爆撃によって敵の陣地が沈黙し進撃することが出来る。


「行くぞ、中隊突撃!」


そう叫び、突撃する俺の後に遅れながらも追従する部下達。


塹壕を飛び出した瞬間に襲い掛かる銃弾の雨、雨、雨。

たまらずに、近場の塹壕に飛び込んだ。


「Feind!!」


その中に敵兵が二人潜んでいた。


その内のひとりが奇声を上げながら銃剣を装着した小銃で襲い掛かってきた。


反射的に手にしているBARで小銃を払い、その勢いのまま銃床で敵兵の顔面を殴りつける。

銃床が当たった瞬間にお世辞にも良いとは言えない音がした。

いびつに歪んだ顔となった敵兵はそのまま塹壕に叩きつけられたままピクリとも動かなくなった。


俺は残っている敵兵に銃口を向けた。

「動くなッ!!」

「止めてくれ、こっ殺さないで下さい!!」


銃口を向けた敵兵が聞き慣れている言葉を話したことに軽い驚きを覚えながらも狙い定めた銃口を反らさずに問い掛けた。


「貴官は?」


「自分はバルト兵長。第117遊撃隊所属です!」


随分と俺達の言葉が上手いな。


「留学経験があるのか?」


「いえ、独学で学びました。お願いです殺さないで!」


怯えながらも必死に懇願してくる敵兵にもはや戦闘意思はない。

小銃も地面に置きっぱなしだ。


「…俺たち海兵隊は戦闘意思のない敵兵を殺したりはしない。武装解除した後、貴官は捕虜になるが、それでも良いか?」


必死に頷く敵兵。

まだ警戒しながらも塹壕に飛び込んできた部下に拘束を命じた。


それを見届けながら要塞の様子を見ようと塹壕から少し頭を上げると弾丸が飛んできた。


まだ先の塹壕には敵兵が潜んでいるらしい。

参ったな…。


「隊長!」


「どうした二等兵」


「艦隊から無線連絡です!」


無線機を背負っている二等兵から受話器を受け取り耳に当てる。


「こちら第1海兵師団第2歩兵中隊。俺は中隊長のニコラス大尉だ。弾がこっちに飛んでくるので手短に頼む」


『こちらは艦隊旗艦戦艦エンデヴァー。了解した。遮蔽物に身を隠せ』


…手短にと言ったが…短すぎる。


「…あ−。前言撤回する。詳しく頼む」


『艦隊が主砲射程距離に入った。これより砲撃支援を開始するが、撃ち込んで欲しい場所のリクエストは?』


「予定通り、要塞に−と言いたいが、俺達の進撃を邪魔している奴らがいる。そいつらの真上にプレゼントを頼む!」


『リクエスト確かに受け取った。座標を送れ』


ポケットから地図を取り出し、それと目標を照らし合わせて座標を送る。


『…了解。ニコラス大尉、直ちに身を隠せ。これより砲撃を開始する』


「俺達の頭の上に落とさないようにしてくれよ」


そう言って、受話器を二等兵に返した後、声を張り上げた。


「艦隊からの砲撃が来るぞ!ヘルメットを押さえて体を屈めろ!!」


部下達が塹壕の中で屈んだ瞬間に耳をつんざく風切り音。


そして轟音と悲鳴。


着弾した砲弾の爆風で頭上から砂が降ってくる。


畜生!

砂が口に入った!!


「…全員無事か!?」


「大丈夫だ!」


「こっちもです!」


部下達に負傷者はいない。

そのことに胸を撫で下ろした。


「オイッ二等兵。艦隊に繋げ!」


「了解しました!」


ずれたヘルメットを直しながら二等兵が受話器を差し出し、無線の周波数を合わせる。


「こちらニコラス大尉。なかなかのプレゼントだった。引き続き要塞への砲撃を。集中砲火だ」


『了解した。これより艦隊全ての主砲照準をマウアー要塞本体へ集中。効力射を開始する』


通信が切られ、耳に当てていた受話器を二等兵に返した。


「隊長、艦隊からはなんと?」


どこと無く不安げな表情の二等兵…名前は…そういや聞いてなかったな…。


「チェックメイトのお知らせだ」


「チェックメイト?」


「この作戦。俺達の勝ちだ」


不敵に笑いながら塹壕の壁に寄り掛かり、胸元から取り出した煙草に火を点ける。


「…まだ作戦中ですよ隊長」


苦笑するな。

それに堅いこと言うなよ。


「良いんだよ。…師団長には言うなよ」


「判りました」


「ついでに、名前」


ポカンとする二等兵。


「だから貴様の名前だ。何時までも二等兵じゃ締まりが無ぇ」


「申し遅れ…随分と遅れちゃいましたけど。自分はラリー。ラリー・アラビンスであります」


「なかなか良い名前だ」


「ありがとうございます!」


ニヤケてんじゃ無ぇよ。

軽く小突いてやった。


その瞬間に轟音と共に崩落の音が聞こえる。

艦隊からの砲撃は止む事が無い。

引っ切り無しだ。


次々と砲弾が着弾し崩れていく要塞。

それを見届けながら自分の残弾を確認。


これ以上、サボッていたら親友二人に何を言われるか判らないからな。


立ち上がり俺は再び部下達に檄を飛ばす。


「さぁ!第1海兵師団第2歩兵中隊。見せ場だぞ!」


俺に集まる部下達の視線。


「これより突撃しつつ残敵掃討にかかる。良いか!俺達が最初にあの要塞の旗を取り替えるぞ!!貴様等、度胸は十分か!?」


塹壕の中に、戦場に響く“Yes,sir”の怒号。


「さぁ…行くぞ。野郎共!!」


塹壕から飛び出した俺達を出迎えたのは敵の火線。


あちこちで発生する敵のマズルフラッシュに向けて手にしているBARを撃ちまくる。


「野郎共ッ!生き残るぞ!!」




現在時刻1039時 場所マウアー要塞付近の半地下壕


要塞に次々と敵の砲弾が着弾している。


崩れ落ちた大きなコンクリートの破片が塹壕を駆けていた兵士を無惨に押し潰す。


俺は塹壕から塹壕へ−特に進撃してくる敵軍を見渡せる−移動しながらスコープを覗き込み敵兵を狙撃している。


20人までは数えたが、その後は数えるのを辞めた。


…キリが無い。


敵は物量にものを言わせて攻撃してくる。

一番厄介なのは、見かけ倒しでは無く、よく訓練されている事だ。


7.92mm弾の残りは、クリップひとつ。

つまり、あと5発。


再びスコープを覗き込み敵兵の頭部を照準レティクルに収める。


モーゼルKar98kの銃爪を引くとすっかり馴染んだ肩を激しく蹴る反動。


弾丸は敵兵に命中し、名も知らぬ男は頭から脳襄を飛び散らせ地面に倒れる。


遊底を操作し新たな弾丸を薬室に送り込む。


再び愛銃を肩付けし、銃爪を絞った瞬間に目の前で何かが爆発した。


衝撃で俺は壁に叩き付けられた。

軽い脳震盪で立ち上がる事が出来ない。


今のは恐らく、敵戦車からの砲撃だな。


うめき声を上げながら立ち上がった俺が気付いたのは、戦闘服に付着している赤黒いシミ。


これも見慣れた、人間の血液。


慌てて自分の身体を探るが、何処にも負傷は無い。


だが、視線を向けた先にあったものを見て納得がいった。


これは、俺のすぐ隣で小銃を撃っていた名前も知らぬ友軍兵士のものだった。


兵士は砲弾の破片が直撃したのだろう。

人間にあるべきはずの頭が無く千切れた首からは血が水道栓を捻ったように溢れ出ている。


感傷に浸る間も無かった。


「…済まないな」


小声で詫び、彼の弾薬帯を外し、弾嚢から弾丸を取り出す。


都合、50発を自分の弾嚢へ納めた。


その時だった。

まだ機能している拡声器から声が聞こえた。


『通達する。現時刻を以って本要塞は放棄する。繰り返す、本要塞は放棄する。残存部隊は直ちに後方へ退却。輸送艦と潜水艦に乗船し本土へ向かう。なお、船団は現在より30分しか待機しない。直ちに向かえ』


聞こえた機械的な声に俺は従った。


近くに居る兵士も前方の塹壕で防戦している部隊も退却を始めている。

それに乗じて敵の総攻撃も。

命あっての物種だ。


要塞の地下へと繋がる階段を見つけ出し、船が待機しているドックへと向かった。



現在時刻1048時 場所マウアー要塞上空



なんとか態勢を立て直した俺たち航空部隊は地上支援を再開した。


だが−。


『なあアレックス。敵の様子が変じゃないか?』


「ああ。確かにおかしい…」


そう、あれほど激しかった対空砲火が夕立のように止んだ。


敵兵は逃げ出しているみたいに一目散に要塞へと退却している。


まさかと思うが…。


…要塞を放棄したのか?

戦略的重要拠点を?


『隊長!一体どうしたんでしょうか?』


「…判らない」


本当に判らない。


さっきから地上を注視していて判ることは逃げ出している敵兵と応戦している敵兵そして投降している敵兵がいることだ。


そうこうしている内に応戦中の敵部隊を突破し、友軍部隊が要塞内部へ突入するのが視界に入った。

それとほぼ同時に艦隊からの発砲炎が止む。



いったいどれほど時間が経っただろうか。


『隊長!要塞の上部を観て下さい!!』


オリビアの驚愕している声を無線から聞いて俺はその場所を注視する。


それは、旗が取り替えている兵士達だった。


彼等の手によって、それまで翻っていた帝国の国旗がエスティリアの国旗へと替えられる瞬間、無線から聞こえたのは幾多の歓声。


『勝った…勝ったぞ!!』


『やったぜ!作戦完了だ!!』


『これで戦局は変わるぞ!!』


無線が壊れるんじゃないかと思う程の歓声の嵐。


『作戦司令部より全部隊へ。敵マウアー要塞は陥落した。繰り返すマウアー要塞は陥落。作戦終了だ』


さらに高まる歓声。


陥落の報告を聞いた俺は溜め息を吐き出し、緊張を解いた。


ふと視線を横に向けるとマックスがガッツポーズをとっていた。

俺もそれに応えた後、少し悪戯心が生じて手信号を送った。

それにマックスも承諾したのを確認。


二機揃って増速し上昇。

程よい高度に達し、マックスに目配せする。


同時に機体を捻らせて推力降下しつつ操縦桿を引き寄せ、宙返り。

それを三回繰り返した。


地上や空中からも無線を通して歓声が聞こえた。


短い展示飛行が終わった後、無線が繋がってきた。


『こちら第1海兵師団第2歩兵中隊。素晴らしい飛行をどうも』


「お褒めの言葉ありがとうBrother」


間違いなくサミーの声だ。

自慢の視力で地上を観るとさっきまで俺が注視していた要塞の上部にいる兵士達の内に大柄の兵士が手を振っている。


それに翼を振って応えた。


挨拶が終わり俺は再び無線を開く。


「ブラック・リーダーより全海軍機へ。作戦終了だ。これより帰還する。…帰ったらパーティーだ」


さらに膨れ上がる歓声。


それに苦笑いしながら俺達は東へと転進した。




今日、すなわち1941年9月30日、マウアー諸島は陥落。


戦局は共和国側有利に傾いた。


このまま戦争が終結に向かって欲しい…。


いや、そう願いたい。




第11話に続く




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ